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     目   次

     まえがき

 

第1章 ベルリンの壁崩壊以降の世界動向

     グローバル経済 /深刻化する環境問題

 

第2章 現在の宗教たる経済成長

     経済学に宿る経済成長信仰 /外部不経済 /経済成長論の下絵 

 

第3章 エネルギー資源の使いすぎ

     一次エネルギーの消費量と埋蔵量 /エネルギー消費による経済成長 

     二酸化炭素排出と森林面積の減少

 

第4章 エントロピー論による地球環境の永続性

     IPCC報告書の疑問 /地球に熱力学の法則を適用 

     エントロピー論によるエネルギー消費の限界 

 

第5章 エントロピー公害

     持続的成長または持続的発展 /エントロピー論からの原発公害 /究極の熱公害

     削減すべきエネルギー量

 

第6章 機械文明の思考的特徴

     文明論思考から機械文明を俯瞰

 

第7章 経済成長信仰からの脱却

     人間中心主義に代わる思想 /新たな社会変革 /質素な生活

 

     あとがき

 

     参考文献

 


まえがき

 気象庁が猛暑日を制定したように、近年の夏の暑さは異常です。猛暑日は、気象庁が2007年4月1日に予報用語の改正を行い、日最高気温が35度以上の日のことを 「猛暑日」 と制定しました。昔は、ひと夏に35度以上の日は数えるほどしかありませんが、近年は猛暑日が連日続くのです。やはり、感の鈍い筆者も異常気象の頻発と重ね合わせるとただ事ではないと思えます。なお、2007年2月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第4次報告書を発表し、地球温暖化は人間によるものとほぼ断定しています。猛暑日が連日続くのは、地球温暖化の現象と言えます。地球温暖化の主原因は、二酸化炭素をあまりにも多量に排出した結果であり、人間が化石燃料を湯水のごとく使用しているためです。化石燃料は、英国のワットが1756年に蒸気機関を発明した以降、本格的に使用しました。現在は、石炭と石油と天然ガスを湯水のごとく使用しています。化石燃料と科学技術の結合が強力な兵器に直結するので、各国は富国強兵に目覚め、片や、便利な生活を成立たせています。

 2008年のリーマン・ショックが、米国の金融資本主義の心臓部を直撃しました。米国は、バブル崩壊後の日本の失敗を教訓として、大胆な財政拡張・金融緩和の処置をしましたが、応急処置でありその効果は実体経済に及ばず、2012年6月現在、米国はもとより米国への輸出で好況を呈していたEU(ヨーロッパ連合)、東アジア、南米の経済成長が低下し、グローバル不況へと進行しています。西欧はギリシャ危機からスペイン危機へ、次にイタリア危機が危ぶまれ次々と経済危機が連鎖し、EU組織の維持に疑問符が付きました。米国は市場原理主義の経済が行き詰まり、階級社会のうえにウォール街の大規模なデモの発生から格差社会の国としても世界中に喧伝されました。中国は、バブルが遂に崩壊し始め、社会が不安定化し始めました。北アフリカ、中東などは、各地で政変や紛争が起き始めました。我が国は、東日本大震災に襲われるなか、前例踏襲の官僚に篭絡された政治は混迷の度合いを深めています。グローバル不況を判定するリトマス指標は、ドル・ユーロ等に対する円の価値です。2012年9月28日現在、1ドル=78.60円、1ユーロ=101.74円の円高です。

 世界を動乱に突き動かしている世界経済危機を作り出したグローバル経済は、金融のグローバル化により米国の住宅バブル崩壊の影響がEU,東アジア、南米、日本へと伝播し、次々と国家債務危機へと進展しています。 この世界経済危機は単なる不況ではなく、時代は大きな歴史的転換期にあるとの認識が広がっています。加えて、我が国では2011年3月の東日本大震災による福島第1原子力発電所の大事故が重なり、脱原発の潮流と相まって、筆者も大きな歴史的転換期にあるとの認識です。更に、筆者はグローバル不況が経済現象にとどまらず、政治や社会あるいは文化そして思想などにまで影響が及んでおり、文明の転換期との認識です。つまり、文明の転換期とは、西洋において勃興しその後、全地球に広まった機械文明の転換期でもあるのです。

 機械文明は、膨大なエネルギーの使用の基に成立っていますが、人類は、 「石炭・石油という禁断の実」 を食べたゆえに原子力発電所から出る核廃棄物、グローバルな気候変動、環境ホルモン汚染、植動物の種の絶滅等といった人類を脅かす環境問題に苦悩しています。これらの問題を拡大させたのは、資本主義を発展させた機械文明の世俗的原理にあり、経済成長がその誘因です。古くは、1972年のローマ・クラブの報告書 『成長の限界』 が経済成長に警鐘を鳴らしましたが、経済成長中は問題点よりも受け取った果実の方が大きいと、多くの人たちが感じたため忘却しました。しかし、先進国は経済成長ができなくなり、世俗原理による際限なき経済競争の結果がグローバル経済となり、人類を脅かす環境問題は深刻化しました。

 エネルギーの使いすぎが地球温暖化の真の原因であり、際限なき経済競争を是とする世俗原理で構成された社会は、なかなか方向転換ができません。また、エネルギーを使えば、熱力学が定義したエントロピーが増加します。地球温暖化とエントロピー増大は、共に熱力学の帰結であり、どちらも経済成長に限界があるとします。本論では、地球を熱機関とみなしたエントロピー論を踏まえ、既にエネルギーは使いすぎを指摘した上で、人類を脅かす環境問題の対処を模索しました。機械文明の経済成長信仰と逆行するゆえ、各人の覚悟を問います。


第1章 ベルリンの壁崩壊以降の世界動向

 グローバル経済

 1989年のベルリンの壁崩壊により、共産主義が退潮し、1991年のソ連邦崩壊で資本主義が地球上を席巻しました。冷戦時代における米国では、1980年代のレーガン政権下の政策であるレーガノミックスにより、国防費の増大や減税などにより双子の赤字と称される財政赤字と貿易赤字が累積されていきました。更に、ITバブルの崩壊や9.11テロを契機として、ブッシュ大統領が減税政策をとったことから、双子の赤字が膨らんでしまいました。共産主義が退潮したのは、資本主義との軍拡競争と経済成長競争に敗れたためですが、資本主義側にも大きな落とし穴が待ち構えていました。経済学者の中には、双子の赤字を警告すですが、資本主義側にも大きな落とし穴が待ち構えていました。経済学者の中には、双子の赤字を警告する人もいましたが、理路整然と結末までを説明できませんでした。

 

 2006年の米国の国際収支は、輸入が1兆481億ドル、輸出が5,319億ドルであり、貿易赤字は5,162億ドルです。この赤字は、金融制度の自由化による資本移動で穴埋めしており、ひとえに米国民が政府主導の下、住宅を始めとする消費バブルを謳歌したことを意味しています。しかし、消費バブルは2007年のサブプライム・ローン破綻ではじけ、2008年のリーマン・ショックが、米国の金融資本主義の心臓部を直撃しました。米国の過剰消費はなくなり、新興国が消費を補えるわけもなくグローバル不況へと進行しました。この結果、西欧はギリシャ危機からスペイン危機へ、次にイタリア危機が危ぶまれ、経済危機国がEUから脱退するのではとの観測からEU連合の維持に疑問符が付きました。米国は市場原理主義の経済が行き詰まり、階級社会のうえにウォール街の大規模なデモの発生から格差社会の国としても世界中に喧伝されました。よって、住宅バブルの崩壊と同時にアメリカン・ドリームも崩壊したと言えます。

 2009年の対GDP輸出比率24.5%と高い中国は、米国及びEUへの輸出にブレーキがかかり、バブルが遂に崩壊し始め、社会が不安定化し始めました。北アフリカ、中東などは、各地で政変や紛争が起き始めました。我が国は、東日本大震災に襲われるなか、前例踏襲の官僚に篭絡された政治は混迷の度合いを深めています。金融のグローバル化により米国の住宅バブル崩壊の影響がEU,東アジア、南米、日本へと伝播し、各国の国家債務危機が動乱へと突き動かしています。

 従来は、先進国に工場を作りそこから当該国及び周辺国に販売していました。しかし、グローバル経済になると、人件費の安い新興国に工場を作りそこから先進国に販売します。図1を別の見方をすれば、日本,東アジア,米国,EUと南米のそれぞれの輸出入額の合計は、2兆3,177億ドルとなります。この輸出入は経済活動の結果であり、そのために膨大なエネルギーが消費されていることを忘れてはなりません。

 

 深刻化する環境問題

 平川克美著 「移行期的混乱」 によれば、1956年から1973年までが経済成長率平均9.1%の高度経済成長期、1974年から1990年までが経済成長率平均3.8%の相対安定期、1991年から2008年までが経済成長率平均1.1%の停滞期です。その間の1968年に国内総生産は世界第2位になり、2010年に中国に抜かれ第3位になりました。高度経済成長の初期から相対安定期までの戦後の半世紀は、経済成長の果実に比例して、公害の原点と言われる水俣病から2011年の福島第1原発の大事故まで、実に多くの公害が各地で発生しました。原発公害をモデルに公害について考察します。

 機械は人間が自然科学の法則を組み合わせ発明し、人間が組み立てた無生物です。自然科学の法則は理性により発見しますが、法則は善悪と無関係の事実の理法です。その法則を人間が、同じ理性で組み合わせて商品を発明しますが、発明品は手放しで喜べず明暗が表裏一体になっています。この度の福島第1原発事故は、発明品である原子力発電所の発電という光明面と放射性物質飛散という暗黒面を如実に曝け出しました。この暗黒面は、1966年に日本原子力発電(株)東海発電所が、我が国最初の商業用として営業運転開始後、46年後に炸裂しました。この間、原子力発電所の発電という光明面と放射性物質飛散という暗黒面の46年と言う時間差により、光明面のみを勝手に切り離した条件で社会を作ってきました。その結果、福島第1原発事故に直面しても、電気エネルギーは従来通り使いたいが、放射性物質は御免こうむるという都合よい考えをします。

 現在はグローバル経済ですから、人件費の安価な国が工場を誘致して急速に製造業立国を目出しますから、日本の高度成長期の公害が世界中で発生しています。これらの公害は、技術的には解決可能です。後は、公害を解消する対策を実行するかです。しかし、グローバル経済になり公害が変質しました。各地域の公害は解決されるも、代わりに地球規模の公害を生み出してしまったのです。たとえば、原子力発電所から出る核廃棄物、グローバルな気候変動、環境ホルモン汚染、植動物の種の絶滅等といった人類を脅かす環境問題に進展しました。

 米国の女性化学者、レイチェル・カーソンの 『沈黙の春』 (1962年)は、さまざまな化学物質や放射性物質のおびただしい乱用や農業への商業的応用が、やがて私たちが生きる自然環境全体の底なしの荒廃から死滅への道を用意するであろうという強い警鐘を鳴らしました。福島第1原発の大事故により、原発を中心とする広範囲に人が住めなくなりました。まさしく、我が国は不幸にも 『沈黙の春』 を実現させてしまいま した。深刻化する環境問題を冷静に考えると、我々は、石炭・石油等無生物資源を消費し続け、子孫の時代のことなど少しも考えずに、この社会の集団の不平等の利だけを計り、無生物資源がなくなってくれば、その時代の集団が考えるだろうという態度です。言うなれば、科学技術が生み出す便益を享受したいがため、世界各国でエネルギーを大量に使用しています。

 資源エネルギー庁のエネルギー白書2010年版によると、世界のエネルギー消費は年2.6%の割合で伸びており、1965年は石油に換算して39億トンだったものが、2008年には113億トンに増えています。先進国の省エネ技術が発達しても、発展途上国の、特に中国とインドのエネルギー消費量は、経済成長により加速しており、地球全体で見るとエネルギー消費は増えています。人類のエネルギーの使いすぎが、地球環境の維持に影響を与えていると考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


第2章 現在の宗教たる経済成長

 経済学に宿る経済成長信仰

 日本は、1985年頃から1989年の年末まで、株と土地のバブルでしたが、1637年頃蘭ではオスマン帝国から輸入したチューリップ球根によるチューリップ・バブルが発生し、一方、1720年頃英国では南海会社の株が短期間に高騰する南海バブルが発生しました。蘭は大商船団を世界中に送り込み、航海術と商業によって富んでいきました。そして、今の資本主義の原型は、ほとんど当時の蘭で出来上がりました。ゆえに、バブルが発生したといえます。一方、英国はNTTの株の事件に似た、貿易会社が国債を自社株で引き受ける権利を手に入れて 「南海計画」 というカラクリを使って儲け始めたためバブルが発生しました。このような、蘭と英国の経済的繁栄と偉大さと軍事的成功が、人類に初めて広大なる商業の重要さを教えたようで、経済学という新しい学問の誕生を促しました。

 19世紀英国では、産業革命による経済的な力が西洋の歴史を通じて初めて、代々世襲されてきた土地に根をもたない階級によって担われることになりました。1832年の選挙法改正よって、都市における中産階級の権利と連帯は決定的に拡大し、それに伴って資本をもとにした経済活動は圧倒的に活発になりました。この英国の資本主義の勃興と経済発展の 「原因と結果」 を研究したのが、アダム・スミスの 『国富論』(1776年) です。経済的繁栄は、1851年の第1回ロンドン万国博覧会が象徴的に現しています。以降、経済的繁栄が訪れた国が万国博覧会を開催します。当時の万博では参加国のいずれもがそれぞれの国の最先端の発明品を展示して参観客に披露しましたので、発明と科学技術の面が最重要視されていました。科学技術の結晶であるまばゆい発明品により、人々は社会の繁栄と物質的豊かさが永続に続くと考えていました。我が国は、高度成長華やかりし頃の1970年に大阪万博が開催されました。経済学は、このような経済成長が永続する経済の仕組みを解き明かそうとします。

 近代科学は、自然をあくまでも法則に支配された価値中立的で機械的な世界であると規定します。そして、人間による技術的な活用の材料を提供する対象と見做します。同様に経済学は、社会をあくまで商品交換法則に支配された価値中立的で機械的な世界であると規定します。つまり、自然法則は因果関係が必然であるように、経済現象も因果関係が必然の関係にあるとするのです。アダム・スミスの流れを汲んだ経済学者のリカードは、労働価値説により商品相互の交換価値の相違は、その製品の製作と分配にかかわった労働量の相対関係に厳密に依存する原理を打ち立てました。いずれの経済学も、自由主義的な社会態度を身上としており、経済の成長には自由競争が必須条件としています。自由競争による悪弊は、アダム・スミスは 「見えない手」 に導かれる市場の自動調和、リカードは自由貿易による定常状態への落ち着きで実現するという主観的条件で防げるとしました。自由主義的な発想は、昨今まで受け継がれており、市場原理主義と看板を替えた経済論が生きを吹き返しました。そして、新自由主義と市場原理主義が合わさったイデオロギーがグローバル経済を推進しています。

 財務省は1000兆円にも及ぶ借金を積み上げ、政治家をたきつけて消費増税を目論んでいます。参議院の公述人の経済学者は、デフレ時に増税するのは経済法則に反し、経済成長を図り税収を上げるのが経済法則に則った対処であると説明しています。その通りなのですが、エネルギーの無制限使用を前提にした経済学の帰結です。経済成長信仰は、経済学にとどまらず西欧文明(機械文明)の宗教になっています。

 

 外部不経済

 産業革命以降の産業発展と経済成長の追及から公害が多発し、地域問題から地球規模へと環境問題が深刻化しました。化石燃料なる商品は、市場で取引されています。市場原理主義者は、 「市場にゆだねておけば、万事につき、最適解が導かれる」 と主張しますが、化石燃料なる商品は、市場の自動調節力により効率的な人間社会状況を作り出しますが、二酸化炭素の望ましい排出量には及びません。また、標準的な自由貿易の理論は、モノを交換すると効率がよくなるとか、消費者の効用がよくなると説明すると共に、グローバル経済を促進しています。しかし、全産業及び日々の生活にエネルギーは必須で、加えて、貿易に伴う人とモノの移動つまり輸送には船、飛行機、トラック等が必須でありいずれも二酸化炭素の排出を促進します。以上から、従来の経済学は市場が自然環境と独立している前提条件で経済理論を構築していますが、現実は経済学の市場と自然環境が関係しています。

 二酸化炭素による大気汚染は産業革命以降から生じており、誰もがかかわっています。大気汚染は、誰も経済活動の対価を支払わずに影響を与えており、経済学では技術的外部性として、経済学の対象外にします。つまり、経済学は経済主体の意思決定(行為・経済活動)に伴う二酸化炭素の排出問題を科学技術の領域とし、経済学の対象外とします。ゆえに、経済学は経済成長の考えと親和性があり、経済主体の意思決定の負の側面は学問の対象外にします。その外部不経済の象徴が福島第1原発事故であり、経済学の対象外ゆえ、東京電力の損害費用とか被害者の補償費用のみが取り立たされるのです。

 昨今、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が地球温暖化問題の原因と目される二酸化炭素の削減を討議していますが、 「IPCC第4次評価報告書第1作業部会報告書政策決定者向け要約」 では、温暖化が人間によるものとほほ断定しています。そして、

 

(1)気候システムの温暖化には疑う余地はない。このことは、大気や海洋の世界平均気温の上昇、雪氷の広範囲にわたる融解、世界平均海面水位の上昇が観測されていることから明白である。

(2)20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの観測された増加によってもたらされた可能性が非常に高い。

 

 と論じています。2007年以前は、地球温暖化に懐疑的学者もいましたが、2007年2月のIPCCの第4次報告書が発行されて以降、二酸化炭素を主原因とする地球温暖化を支持する学者が大勢です。しかし、経済界の主流は温暖化効果ガスの排出削減に従えば経済成長を阻害するとの主張です。

 なお、外部不経済を取り込んだ経済学を構築する学者は少数であり、大多数の学者はアダム・スミス以来の経済学から脱却できません。アダム・スミスのころは経済活動による自然環境への関与は無視できたかもしれませんが、グローバル経済となり自然環境への関与抜きで経済学を構築するのは正論とは言えません。

 

 経済成長論の下絵

 産業革命以降、近代社会は経済成長を是としてきました。経済成長を是とする確なる理由は、内山節著 「文明の災禍」 から引用します。

 

 現在文明、というよりその基盤になっている近代社会の原理は、人間の欲望を無限に解き放つことによって成立した。それまでの社会がもっていた欲望に対する倫理的態度は解消され、欲望こそが社会を発展させるという言葉が、公然と語られるようになっていった。人々は欲望のおもむくままに経済活動をおこない、ためらうことなく自分の利益を追求するようになっていった。

 (途中省略)

 だがさまざまな問題をもちながらも、この人間たちの欲望を解き放った社会が今日までつづいてきたのは、欲望の肥大化による経済発展が、全体としては社会を豊かにしていくという諒解が存在していたからである。実際経済発展をとげた先進国の社会では、人々が飢えに苦しむことはなくなったし、そればかりか以前とは較べものにならないほどに多くのものを所有し、子どもたちを進学させ、ときに旅行を楽しむようにさえなっていった。問題点よりも受け取った果実の方が大きいと、多くの人たちが感じる時代が展開していったのである。

 この二十年くらいの間に明らかになってきたのは、こうした構図の崩壊だった。経済を発展させるために、日本では終身雇用制が崩れ、若者のほぼ半数が非正規雇用のかたちで働かなくなっていった。ためらいのない利益の追求はマネーゲームの場と化した市場を生み出し、それが真面目な生産活動を追いつめていくようにさえなっていった。

 

 今はグローバル経済と称して経済成長を叫んでいますが、先進国においては産業革命以降の、社会原理が通用しなくなりました。私たちは、新自由主義と市場原理主義の際限なき欲望の追求による経済論に毒され、自ら中流階級を崩壊させ社会の退廃と劣化を招き、加えて、地球規模の公害を生み出しました。その結果、先進国がつくりだした豊かさから振り落とされた人々を、大量に生み出しています。新興国は日本の高度経済成長期に相当しており、問題点よりも受け取る果実の方が大きいと感じています。でも早晩、新興国も先進国と同様の問題に直面します。その時、地球規模の公害はより悪化するでしょう。


第3章 エネルギー資源の使いすぎ

 一次エネルギーの消費量と埋蔵量

 先進国及び新興国は経済活動にいそしんでいますが、経済活動に欠かせないエネルギーが世界中でどのくらい消費されているのでしょうか。資源エネルギー庁のエネルギー白書2010年版によると、世界のエネルギー消費は年2.6%の割合で伸びており、1965年は石油に換算して39億トンだったものが、2008年には113億トンに増えています。113億トンのエネルギーの消費具合を言い表せば、人工衛星からの夜影写真が地球のネオンサインと形容できます。これら消費されるエネルギーは、石油、石炭、天然ガス、バイオマス、原子力、再生可能エネルギーの一次エネルギーで賄われています。人類は、 「石炭・石油という禁断の実」 を食べたゆえに科学技術の活用で経済成長を果たしたが、原子力発電所から出る核廃棄物、グローバルな気候変動、環境ホルモン汚染、植動物の種の絶滅等といった人類を脅かす環境問題に苦悩しているのです。

 一次エネルギーの埋蔵量は、小椋正己著 『日本機械学会誌 2010.11』 から引用します。世界の原油確認埋蔵量は2009年末時点で1兆3,331億バレル(オイルサンドを除く)であり、これを原油生産量で除した可採年数(可採埋蔵量/年産量)は45.7年です。しかし、近年の石油資源の発見・確認は深海、北極海、南極等の採掘条件の悪いところにあり、採掘に巨額の投資を必要とすることからいずれ石油の高騰は避けられないと思われます。石炭の可採埋蔵量は8,260億トンで、可採年数が119年(BP統計2010年版)と石油等のエネルギーより長く、石油、天然ガスに比べ地域的な偏りが少なく、世界に広く賦存しています。しかし、二酸化炭素の排出に難点があり、二酸化炭素の排出が少ない一次エネルギーに移行していくと思われます。世界の天然ガスの確認埋蔵量は、2009年末で約187兆m3で、天然ガスの可採年数は2009年末時点で63年です。シェールガス革命により、天然ガスは長期にわたり価格が安定する可能性があります。バイオマスについては、世界全体では、2008年時点で一次エネルギー総供給の9.7%と大きな割合を占めています。特にブラジルのサトウキビエタロールは、量的にも質的にも優秀なバイオ燃料ですが、将来の人口増を考慮すると生産能力に限界があると言わざるをえません。従って、バイオ燃料は基本的に各国・地域ごとに利用される地産地消の燃料と見做せます。1971年から2008年にかけて伸び率が最も大きかったのは原子力(年平均9.0%)です。しかしながら、2008年時点のシェアは5.8%と一次エネルギー消費全体に占める比率は大きくありません。福島第1原発事故により、原子力発電の伸びは急激に低下すると思われます。

 

 

 

 エネルギー消費による経済成長

 上に述べたエネルギー消費状況にあって、各国は経済成長競争を続けています。経済成長の伸びは、国民総生産(GDP)で計量できます。資源エネルギー庁のエネルギー白書とIMFが2011年4月に発表した”World Economic Outlook April 2011”から、エネルギー消費と経済成長率とGDPの関係を表1に示します。

 

 

 

        (注1) 経済成長率及びGDPの2010年と2011年は予測

        (注2) 単位100万toeは100万トン石油換算

        (注3) 先進国のエネルギーは北米と欧州の合計

        (注4) 新興国のエネルギーはアジア大洋州の国

        (注5) 空白箇所はデータ調査できず

 

 

 表1から、エネルギー消費と経済成長率とGDPに相関ありが読み取れます。2008年9月にリーマン・ショックがあり、2009年は世界経済の経済成長率がマイナスになっています。しかし、新興国はリーマン・ショックを跳ね返しプラスの経済成長です。特に、人口が世界1位の中国と人口が世界2位のインドの経済成長は、かつての日本の高度経済成長を髣髴させます。

 ここで、エネルギーと資源消費の象徴である自動車について考察します。自動車は、鉱物資源に恵まれ豊富に石油が湧いた米国で発達した関係で、エネルギーと資源をふんだんに使います。2009年の中国の自動車販売台数は、米国を抜き1364万台に達しました。中国市場がどの程度のスピードで成長して行くかは、環境や資源・エネルギー制約などとの問題と関係あり予測は難しいです。2008年末の中国の自動車台数は、約5000万台で人口100人当たりの普及台数は4台ですが、日本並みの人口100人当たりの普及台数が60台になると仮定すれば、比例関係で計算すると2065年に7億5000万台になります。従って、世界の名だたる自動車会社は中国に工場を建設したのです。中国以外にインド・東南アジアが経済成長を続けており、自動車が普及すると思われます。しかし、このままでは石油エネルギーと資源の多消費を招き、二酸化炭素の排出他の人類を脅かす環境問題がより深刻になると思われます。もちろん、ハイブリット車、電気自動車などの普及はありますが、経済成長が続く限り大勢に変化ありません。更に、爆発する人口増加が環境問題を一層複雑にします。ちなみに、2011年に世界人口が70億人を突破しました。

 

 二酸化炭素排出と森林面積の減少

 化石燃料を使えば便利な生活ができるので、わかっちゃいるけど電気を使い、自動車を使い二酸化炭素を排出させています。二酸化炭素は地球温暖化の主原因になっていますが、2009年の国別の人口と二酸化炭素排出量を表2に示します。順位は、二酸化炭素排出量が多い国から降順に並べています。

 

   (注1) 人口の統計データは、世界人口白書(2009年)

   (注2) 二酸化炭素排出量と排出割合は、EDMC/エネルギー経済統計要覧(2012年版)

   (注3) 単位百万toeは、100万トン石油換算

   (注4) 排出割合の合計は、小数点第二位の四捨五入の関係で100.1%

 

 

 一人当たりの二酸化炭素排出量を比べると、オーストラリア、アメリカ、カナダの順で突出しており、ロシアと韓国が続いています。日本はドイツとほぼ同じ水準です。中国とインドは 一人当たりの二酸化炭素排出量は少ないですが、排出の絶対量が多く経済成長により今後の増大が予想できます。

 原子力発電所から出る核廃棄物、グローバルな気候変動、環境ホルモン汚染、植動物の種の絶滅等といった人類を脅かす環境問題に、森林の減少が大きく影響しています。人間が適度に関与する森林の生態系は生物多様性に富、二酸化炭素の吸収と酸素の放出を担っています。また、川の上流の水源域の森林は洪水緩和、渇水緩和、水質浄化、土砂流出防止など間接的にエネルギー消費を抑えています。加えて、漁師は森と川と海は一体的な世界と考えており、よい森とよい川が漁場としても豊かな海をつくっていことを知っています。ゆえに、漁師は山に広葉樹を植林し、海岸を松林にし豊かな漁場を維持しています。

 しかるに、世界中の森林面積は2000年から2005年の間に、年間およそ730万ヘクタールの速さで減少したと推定されています。これは、北海道よりやや狭いくらいの面積に相当します。森林が農地に変わることがあり、このような場合は単純にCO2吸収量が減るとは言えません。それよりも、土むき出しの道路になったり、コンクリート道路になったり、工場に置き換わる場合はCO2吸収量が確実に減ります。たとえば、住宅木材、紙をつくるため森林を切り倒します。この場合、土むき出しの道路を使い樹木を伐採し、搬出、運送しますが、チェンーソーや森林機械、トラックに化石燃料を使います。パルプの原料となりうる元の森には植林から20年かかるとされています。

 と言うことで、人類は経済成長に一次エネルギーを消費し二酸化炭素を排出し、一次エネルギーを使い森林を減少させるという両方の行為を続けており、地球規模の環境問題を深刻化させています。



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