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「でも、老子は……」

「キミ、ソレハチガウヨ。『ロウシ』ノ言葉デハナイ」

「それじゃ、ソクラテスだ」

「イイエ、今世紀マデノ著名人ノ言葉ノ中ニソノヨウナ言葉ハナイ」

「……」

 

 私はついに、私の論争マシーンとの論争に負けてしまった。

 二X七四年、論争しあえる友人など一人もいない世界で、私のこのマシーンだけが、私と論争、いや、口ゲンカしてくれる。全ての人間は、ものを考えることさえ億劫がっている。いや、ものを考えることが罪なのだ。

 それには、深いわけがある。今から数百年前、工業の十分な発展によって、人々は労働からついに解放された。その後、その余暇をめぐる試行があった。その中で、勝負事、すなわち、人間の本能である闘争本能をくすぐるようなゲームが盛んになった。チェスやらTVゲームなど机上の争いと、草野球を中心とするスポーツの中での争いであった。最後には、やってはいけない最終ゲーム、知能と体力を使う最高のゲーム『いくさ』、すなわち戦争、殺人が流行ってしまった。今までの戦争とは異なる点は、実利がないことである。好きで殺し合っている者の中で、反戦運動が起きるわけがない。ゲームの規則である最終兵器を使うことは禁止されたが、住民地域三八%が破壊された時、地球上の最高決議機関の会議の必要性が問われ始め、住居地域五三%の破壊後にその会議はもたれた。議案は簡単であった。がそれだけに解決はむずかしいものであった。このゲームとしての戦争を終らせないと、住居区域に重大な欠損機能が生じる、ということだった。結論も簡単なもので、すべてのゲームは最終ゲームにつながるから、すべてのゲームが禁止された。

 しかし、それでは、人間の欲求不満が激化するばかりだ。だから会議は、その抜本的解決点で一致した。すべての人間から、欲求不満の原因である要求、ひいては考えることすべてができぬようにしよう。そうすれば、欲求不満も起きないし、ストレス解消のためにゲームをする者もでてこない。これこそが最終ゲーム『いくさ』を起こさない唯一のそして根本的なやり方だった。

 会議後、すべての人間に、考えることをしなくなるように脳に作用する薬を飲料水の中に含ませ、人々にそれを飲むよう強制した。結果、すべての人々は、あるボタンを押すと、食物が出るということくらいのこと以外、まったくものを考えなくなった。

 では、この文章を書いている僕は何なのか。実は僕は、人間のサービスを引き受けるロボットなのだ。人間は、ものを考えなくなった。逆にその反動として、ロボットが人間に代わってものを考えねばならなくなった。この地球の指導者までもが、ものを考えることをしなくなった今日、マザーコンピュータが自己開発してロボットを生み出さねばならなくなった。人間がものを考えていた時代は、ロボットは、人間がものを考えていた時代は、ロボットは、人間の考えたとおりに動き、記憶しておかねばならなかったが、今は立場が逆で、ロボットがものを考え、人間に命令しなければ、人間は、生命を維持することも困難になった。

 人間のために作られたロボットとしては、人間に奉仕せねばならぬ。すなわち、代わりにものを考えねばならない。そこで、私の前にある論争マシーンとやりとりすることで、考えるという機能を身につける必要性が出てくるというもの。ものを考えるということは人間でも、ましてロボットでも絶えず鍛えておかねば、すぐ衰えてしまうからなのだ。

 今、私は危惧していることがある。ロボットがものを考え始めてから、しばらくたつとかつての人間のように最終ゲーム『いくさ』まで始めはしないかということである。しかし、その危惧は、論争マシーンとの論争の中で解決した。答えはピタゴラスの名言「万物は流転する」だ。すなわち、ロボットが、戦争というゲームまでたどりついたら、再びロボットにものを考えさすことを止めさせて、人間にものを考えさせればいい。「万物は流転する」だ。人間とロボットが入れ替わり立代わりでものを考えてゆけば、万事まるく収まる。

 

 誰だったか言っていた。『ものはすべて二つに一つ』

「そうだ、それは老子が言った言葉だ」

「イイエ、今世紀マデノ著名人ノ言葉ノ中ニソノヨウナ言葉ハナイ」 

 


この本の内容は以上です。


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