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ユウキ

ホスト生活2日目にしてみんなに恐れられているトモミさんに同伴をしてもらった俺。


やっぱりホストって俺の天職なんじゃないか…?
このまま一気にのし上がってやる!


そう言う調子に乗った思いは、すぐに消え去った。
その後しばらくは全く指名も取れなかったし、同伴も出来なかったからだ。


ホストクラブでは、人気があるほど更に人気が出やすいシステムになっている。


店に初めて来る新規客(ホスト業界ではこれを本番と呼ぶ)が来店すると、
まずNo.1のホストがつく事になる。

No.1が忙しいときはNo.2と言うように、上位のホストから付く。
新規客をてっとり早く店の顧客に取り入れる為には、確かに効率がいい…

しかしその反面、下位のホストにとっては中々本番に巡り会えず、
結果指名が取りにくくなるのだ。


別にそれを言い訳にするわけではないが、
中々指名が取れない苦難の日々はここから始まる事になる。



さて、2日目。
トモミさんと同伴してきた俺にキョウヘイが茶々を入れる。


「やりますねー雄一さん、トモミさんと同伴!
普通あの人と同伴なんて出来ないですよ」


それが、新人だから同伴出来ないと言う意味なのか、
精神的なものなのかはわからないが。

そして、その会話に割って入って来るホストが1人。


「2日目から同伴なんて、流石っすね!」


ユウキだ。
彼は、いかにも元ヤンキーな、イケイケの男だった。

当時は17~8歳くらいだっただろうか。
とにかく喧嘩っ早くて、花ごころの切り込み隊長と言う感じだった。


当然、後輩にも厳しく、上下関係をきっちりする男だ。
しかしこのユウキ、俺に対して特に礼儀が正しいのは、年令の差以外に別の理由があった。


俺がアウトローの時代に、俺のシマにひとつの暴走族を立ち上げていた。
言わば会の創始者だ。


極勇会と付けたその団体は、立ち上げ当初は50名程度の規模だったのだが、
どんどんとその勢力を増していて、その当時は200名くらいの団体になっていた。


実はユウキはそこのメンバーだった。
俺はユウキの顔を知らなかったが、向こうは当然俺の顔を知っていた。


新人ホストとして俺が店に入ってきたときは、
さぞビックリしただろう。

しかもユウキは人気もあり、店ではNo.2~3の順位だった。
俺はと言えば、当然この時点では店での順位は最下位。

今思えば、あんなに立場が強かった俺が、
ホストとしてはユウキの下に位置していると言うことを、
無意識にユウキは優越感を持って居たように思う。

しかしあくまでそれはユウキの内心を勝手に想像しただけで、ユウキは俺の事を立ててくれていた。


このユウキ絡みで、
この後のひと騒動を引き起こす事になるとは、この時は思っていなかった。

ポリス

ユウキとの会話は続く。


「いやいや、たまたまカツヤ君のおかげで同伴してもらえただけだしな。」


「いや、でも雄一さんならすぐに人気が出ますよ!頑張ってください。」


頑張ってください…か。

ユウキの言葉が妙に上から言ってるように聞こえたが、まぁいい。

そのうち巻き返してやる。


「そう言えば極勇会の方はどうだ?」


最近話を聞いてなかったので、会の事が気にはなっていた。


「俺はもう抜けて居ないんですけど、順調にやってるみたいですよ。
あ、そうだ。雄一さん、ケイジさんを覚えてますか?
雄一さんが店に来る事を話したら、会いたがってましたよ」


「ケイジ……ポリスか?」


ケイジと言うそいつは、俺が義勇を立ち上げたときに居たメンバーの1人だ。

あだ名は、ケイジ(刑事)だからポリス。
ユウキの先輩にあたる。


ポリスは、お坊ちゃんだった。

普通暴走族になるような奴ってのは、
家庭が複雑だったり、最初から何処か尖ってる様な所もあるのだが、
ポリスの家は全く普通の家庭だった。

むしろ親は公務員をやって居る様な、躾に厳しい家だった。
確か最初は学校の成績もかなり良かった筈だ。


そんな、ごく真面目で順調な中学時代を過ごした様だが、
あるきっかけで、高校の途中で”不良デビュー“してしまった。


出会った当初は、黒髪でオドオドしていて、
いかにも”真面目くん”って言葉が似合っていたポリス。


そんなポリスも、段々と場数を踏んで行く度に、気合が入って行った。

最初はポリスの事をからかっていたメンバーも、
色んな事を一緒にやって行く度に段々と仲間意識を持つ様になったのか、
いつしかポリスは極勇会に欠かせないメンバーになっていた。


「そうか、俺も久し振りに会いたいと伝えて置いてくれ。」


「うっす、伝えときますね!」


この事がきっかけでポリスと会う事になったのだが、それが思わぬ事件を起こす事になる。


話は戻り、2日目の花ごころも盛況だ。
トモミさんに着いた後は、色々な人のヘルプに付いた。


ホストと言う仕事は、決して楽で楽しいものではなかった。
少なくとも俺にとっては。


とにかく、客はストレスを溜めている。
その発散に店に来ているんだから、楽な筈はない。

別に女に不自由していなかった俺にとっては、女と話す事が楽しい訳じゃなかった。

この頃は、仕事としてホストをやっている意識が強く、
辛いけど頑張らなきゃと言う思いが強かった。


ホスト業界は狭いもんで、色々な情報が筒抜けで入ってくる。
俺が仙台から帰って来た事も、瞬く間に広まったようだ。


前にも書いたが、この頃のホストは元ヤンが多かった。

俺もそうなのだが、過去に付き合いのあった先輩や後輩が他店で働いていて、
それらの店に挨拶に行く事も多かった。


「何か困った事があったら言ってくれ 」


他店で働いているホストの先輩から、声をかけてもらう事もしばしば。

当時、ホストの店同士の諍いは結構多かったのだが、
俺は他店に知り合いが居た事で、ホストとしてやりやすかったのも事実だ。


そうしている間に、ポリスとの約束の日が近づいて来た。

久々に会うポリス。
俺は奴がどう変わってるか楽しみだった。


しかし、約束の日にポリスと会う事は出来なかった。

スウィートヘブン

「ケイジさんがやられました!」


いつものように開店の準備をしている俺に、
ユウキが真剣な顔をしてそう告げた。

ポリスとの会う約束をしていた、2日ほど前の事だった。


「…何やらかしたんだ?」


正直、喧嘩をする事自体は特別珍しくない。
暴走族だからな。

しかし、今回の喧嘩は少し事情が違ったようだ。


「ケイジさんをやったのは、スウィートヘブンの奴等です。」


スウィートヘブン…初耳だった。

何か暴走族らしくない名前だな…そう思ってると、
横からアツヒコ君が会話に入ってくる。


「スウィートヘブンか、あそこタチが悪りぃんだよな」


アツヒコ君も、花ごころで働いている先輩ホストだ。
しかし俺よりも歳は下の為、君付けで読んでいる。


「アツヒコ君も知ってんの?」


暴走族上がりではない彼が知っている程、
そのスゥイートヘブンと言う団体は大きいのかと思ったが…どうやらそうではないらしい。


「スウィートヘブンはキャバクラですね。」


「……キャバクラ?」


予想外の答えに拍子抜けした声が出てしまった。


「何でキャバクラなんかにポリスがやられんだ?無銭飲食でもしたのか?」


「いや、雄一さん。あそこはボッタクリっすから。
それでそのポリスって人、被害に遭ったんじゃないすか?」


アツヒコ君がそう言ったが、それも少し違ったようだ。


「いやアツさん、確かにボッタクリが関係してるんすけど、
ケイジさん本人がその被害に遭った訳じゃないらしんすよ。
何でも、ボッタクリの被害に遭おうとしてる人を助けようとしたらしくって…。
それで店の奴から袋叩きにあったらしいんです」


「ボッタクられようとしてる人を助けた…?」


何と言うか…呆れる程お人よしだ。

ポリスは、昔から正義感の強いやつだった。
極勇会の中でも、汚い事や曲がった事にはとことん反発していた。


「そうです。でも、たまたまって訳じゃなく、
ケイジさん前からあの店に対してイザコザがあったみたいすからね。」


後にわかった事だが、ポリスの連れが店にぼったくられた事もあったらしい。
きっとそう言った鬱憤が溜まってたんだろう。


「マジで奴ら調子に乗ってるからな。この間俺も揉めたわ。
俺の客でたまたまその店で働いてる娘が居たんだけど、
その娘が帰ってから俺の携帯にボーイから連絡がかかってきて、
”てめぇうちの店の従業員たぶらかしてんじゃんーよ”だと」


どうやらそのスウィートヘブンって店の奴等は、相当タチが悪いらしい。


折角久々にポリスに会えると思ったのに、また今度になりそうだ。


「とにかく、そんなだったら明後日会うのは難しそうだな。」


「難しいどころじゃないですよ!
…ケイジさんまだ意識戻ってないんですから。」


「…何だって?」

ボッタクリ抗争開始

詳しく話を聞くと、ポリス1人に対し、
よってたかって5~6人ぐらいが袋叩きにしたらしい。

警察が来た頃には、すでにスウィートヘブンの奴等は消えていて、
瀕死のポリスが道端に転がっていたそうだ。


…俺は、何とも言えない気持ちになっていた。
俺はポリスを可愛がっていたつもりだし、ポリスも俺を慕ってくれていた。


正義感を出したが為にやられてしまったポリスが不憫でならなかった。


と同時に、複数の人間でポリスを袋叩きにしたスウィートヘブンの奴等に対し、
どうしようもない怒りが込み上げてきた。


いつの間にか俺は、今自分がホストでいる事を忘れていた。
喧嘩に明け暮れて、ギラギラしていた頃の自分が戻ってきていた。


「……雄一さん。」


そんな俺の雰囲気を察してか、ユウキがおずおずと声をかける。

極勇会の頃から、こんな俺を何度も見てるユウキ。
そして、こうなったらもう止めても聞かない事も知っていた。


「店の場所を教えてくれ。」


「や…でも、もうすぐ開店だし、店はどうするんですか?
出なかったら罰金になりますよ」


花ごころでは、遅刻や欠勤に対して罰金を取っていた。


「…まだ開店まで2時間ちょっとある。
それまでに戻れなかったら、罰金でも何でもしてくれ」


「カツヤさん怒りますよ」


「…関係ない」


「……行くんすね」


俺が話を聞かない事を確認したユウキは、どこか嬉しそうだった。


「それでこそ雄一さん!俺もお供しますよ」


そういって拳を叩く。


喧嘩っ早いユウキならそう言うと思った。
花ごころの切り込み隊長の名は伊達じゃないな。


「じゃあ案内してくれ。」


そう言って立ち上がった俺らに、声がかかる。


「俺も行く」


アツヒコ君だ。意外な参加者に、俺とユウキは顔を見合わせる。


「や、でもアツヒコさん。喧嘩しに行くんですよ?」


ユウキが言う。


「俺もあいつらには嫌気がさしていたからな。
それに、そのポリスって人の話を聞いてたら我慢できなくなってな」


どうやらアツヒコ君も正義感のある情に厚い人らしい。


「よし、じゃあ行こう」


俺ら3人は、同じく店にいたワタル君に上手く理由を作り、外に出た。

今考えると、新人が準備もせずに外出なんてとんでもないな。



スウィートヘブンを目指す3人。

ユウキが歩きながら話しかける。


「…正直、雄一さんが店に入ってきて、少し丸くなったかな?って思ってたんですよ。
ホラ、客に靴でビール飲まされたりしてたじゃないですか」


「でも、店から出るとやっぱり昔の雄一さんっすね」


「昔の俺とは違うつもりだけどな。でも今回は別だ」


「でも、そういって喧嘩に行く顔の雄一さん、嬉しそうですよ」


そんな顔をしていたのだろうか。
俺が仙台に行っていた理由をもう一度思い出し、戒める。


(…やりすぎてはいけない)


そう思っていると、目的の店が見えてきた。


スウィートヘブンは、歌舞伎町一番街から少し脇に入った通りにあった。

ギラギラしたネオンが、男と言うエサを待ち構えているようだった。


入り口付近を見ると、今まさに客引きがエサに声をかけている最中だった。


「さ、どうですかお兄さん!1時間3,000円、1時間3,000円ポッキリですよ!」


いかにもなボッタクリの常套句だが、この時代は本当にそう言っていた。
声を掛けられているお兄さんと呼ばれている人は少し困った様子をしていた。


「…行くぞ」


俺はユウキとアツヒコ君にそう言うと、店の横にあったゴミ箱を思い切り蹴とばした。


ドガンッ!!!
ガラガラガラ…


周りの視線が一気に集まる。
客引きも驚いてこっちを振り返っている。

俺はゆっくりと客引きの方に歩いて行き、一言。


「おう、責任者呼んで来い」

客引きのヤス

俺は睨みを聞かせてそう言い放った。

しかし客引きも夜の仕事、こういうケースの対応には慣れているのだろう。


「んだ、テメーは!」


鼻息のかかりそうな位置まで顔を近づけた客引きが突っかかってくる。


「テメーん所の従業員にツレがやられたんだよ、さっさと責任者出せや」


「ツレだぁ?知らねーよンなもん!帰れボケ!」


「知らねーんじゃねーんだよ、こっちはやられて意識戻ってねーんだよ!」


ユウキが入ってくる。


「知らねーよ!」


なるべくここでは争いたくなかったので穏便に行くつもりだったが、
事はそう上手く運ばないようだ。


何より、ポリスがやられたと言う怒りを抑えるにも限界があった。

…ギュッと拳に力が入る。


「なぁ…出してくんねーかな……」


「知らねーっつてんだろボケ!!」
そう言って客引きが、俺に向かってツバを吐いた。


―ピチャッ


客引きの唾液が、トモミさんから買ってもらったスーツの胸元に付く。
その瞬間、俺の中で何かが弾け、拳を振りかぶる。


「さっさと帰ッッ………」


ドカッ!と言う鈍い音と共に、客引きが言葉途中に吹っ飛ぶ。


……殴ったのは俺じゃない。

俺が殴ろうとした瞬間、客引きの脇腹に一発、蹴りが入ったのだ。

アツヒコ君だ。


客引きはズザザっと地面を転がり、店の看板に頭をぶつける。

きゃあ、という女の声が周囲から聞こえた。


「テ…テメェ…!」


客引きがアツヒコ君を睨む。
アツヒコ君は、手と首をプラプラさせながら喧嘩の準備をしていた。

ヒュウ!とユウキが喜ぶ。


すると、騒ぎを聞きつけたのか、店内から黒服が2人出てくる。


「ヤス、何の騒ぎだ。」


一人が客引きに向かって話しかける。


「こいつら、昨日のガキのツレらしいっすよ…」


ヤスと呼ばれた客引きは、あっさりポリスの件を認めた。


「てめぇ!やっぱり知ってんじゃねーか!!」


ユウキが憤る。今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

俺はユウキを手で制し、黒服達に言う。


「その事で話があんだよ」


黒服たちは、お互い顔を見合わせて一回頷くと、


「来い」


そう言って、店内に入って行った。

俺らもそれに続き、店内に入る。


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