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ホストとしての顔

ホストとしての顔

朱里の一件で、
俺がまだまだホストとして未熟である事をはっきりと突きつけられた。


未だに一件の指名もなく、これから自分がどう言うホストになるべきか、
自問自答していた。


「…どうしたの?何か悩みでもあるの?」

トモミさんだ。


ここは花ごころの店内。


常連のトモミさんが来店してカツヤ君を指名し、
俺と、同期のシゲキがヘルプに付いていた席で、そう指摘された。


「え!あ、いや…すみません。」


接客中は余計な事を考えないようにしていたつもりだが、
トモミさんにはバレバレだったようだ。


客にそんな心配をされる事自体、ホスト失格だ。



「テメー、客の前で浮かない顔してんじゃねぇよ。」


カツヤ君にその場で注意される。


「まぁまぁ、人間だれでもそんな時はあるわよ。
…で、どうしたの?」


「実は、ここに入って2ヶ月くらい経つんですけど、
…俺まだ一件も指名が取れてなくて」


「…あ、それ僕もです」


シゲキが続く。


俺ら新人二人は、勤めてから今まで全く客からの指名がつかず、
よく二人でどうすればいいのか話していた。


ヘルプに入る時以外は、専ら掃除か皿洗いだ。

誰よりも早く店に来て掃除、そして雑用とヘルプをこなし、
一番最後まで店にいる。


そんな生活が続き、
自分は本当にこの店に必要なのかという罪悪感さえ芽生えて来そうだった。



「うーん。君たちだったら何とかなると思うけどね。
その内売れっ子になるわよ。それまで我慢してればいいんじゃない?」


「そう言ってもらえるの嬉しいんですけど、
何か全然売れる気しないんですよね…」


「お前らなぁ、たかが数か月で泣き言言ってんじゃねーよ。
入ってすぐのお前らがいきなり売れたら、俺らの立場がねーじゃんかよ。」


「そりゃまぁ、そうですけど。」


それでも俺は、早く売れたかった。

早く売れて顔を売って、この店のトップに…そして歌舞伎町のトップになりたかった。


「そうねぇ、じゃあお姉さんから一つアドバイス。
君ら二人とも、まだ自然体なのよ」


「自然体、ですか…?」



「そう、ホストは自然体じゃなくて、”ホストの顔”を作らなきゃ駄目よ」

「いい?君らが勤務中もそれ以外でも同じ顔をしていたら、
客はどう感じると思う?
わざわざ高いお金を払って、普通の男を見に来ている事になるのよ。」

「”店の中でしか見せない顔”を作って、プレミア感を出さなきゃ。
客があなた達の特別な顔を見たいと思えば、自然と指名は付くと思うわ。」


ホストの顔…今まで考えた事は無かった。
接客中も、素の自分をそのまま客にぶつけていた。


「それはあるな。例えば…あそこにいる、アツヒコを見ろ。」


カツヤ君がそう言って、アツヒコ君いるテーブルをアゴで指す。



そこには、とても接客とは思えない、客を罵るアツヒコ君がいた。


「よう、お前今日もブスだな!」

「知らねーよバーカ!」

「そんなに食うからデブになんだよ!」


客が怒って帰ってもおかしくないくらいの言葉だが、
むしろ言われた方は、内心は喜んでいるみたいだった。


「…あいつはああいう接客なんだよ。まぁ相手を選んじゃいるけどな。」


「でもあれって、お客さん怒らないんすか?」


「勿論、キレるような相手には言わんだろ。
アイツの戦法は、貶して上げる作戦だからな。」


「貶して、上げる…」


「要するに、客から”こいつは基本的に口の悪い嫌な奴だ”って思わせる。
もちろん本当に嫌な奴だったら客が不快に思うだけだから、
その辺はテクニックだろうけどな。」


「そして、口の悪い中に、ごくたまに”優しさ”を取り入れる。
すると、普段が優しい奴が同じことするよりも、
何倍もアツヒコが良い奴に見えちまうって訳だ。」


「ははぁ、なるほど…確かにアツヒコ君、
普段はあんなに口悪くないっすもんね。」


「Sの素質はあるだろうけどな。要するにあのスタイルが、
アツヒコの性格に合っていたって事だ。」


自分の性格に合った、ホストの顔を作る。
…俺は、どんな顔になればいいんだろうか。


「もう一人、例を出すわ。この店のNo.1はキョウヘイでしょ?」


「はい、そうです。」


「彼のエンターテイナーぶりは、本当に凄いわ。
店のどの席にいても、彼の盛り上げが耳について、
その存在感を無視できない。」

「きっと生まれながらに、人を引きつける才能を持ってるのね。
もちろん顔もいいけど。」


キョウヘイちゃんは、とにかくテンションを高く、
客を楽しませようとするタイプだ。


今では懐かしい、
ジュリアナ東京であったカラオケ大会で優勝した事もあるくらい歌も上手く、
ジャニーズJrに所属していたくらい顔もいい。
その頃玩具のCMにも出ていた。


そして、No.1だけど驕っている所が無く、自分が率先して盛り上げ役に徹している。
…朱里も、そういう所が気に入ったんだろう。



「わかるか?No.1があれだけやってんだ。
お前らみたいなペーペーが敵う訳ないだろ。」


キョウヘイちゃんと自分の差については、ついこの前思い知ったばっかりだ。


「…俺、もっと勉強します。」


「そうそう、いい心がけよ。
さっきも言ったけど、雄一くんとシゲキくんは見込みがあるわ。
ドンドン勉強して、売れっ子になってね。」


「はい、この店の先輩を参考にして頑張ります。
…でも、もっと色んなホストの人を見れたらいいんですけどね。」


俺がそう言うと、トモミさんは何かひらめいたようだった。


「良いわねそれ、行きましょう!」



「え、行くって何処に?」



「クラブ愛!」


!!

クラブ愛…現在の愛本店。

誰もが知っている、伝説のホストクラブだ。

ちなみに、2012年の今現在日本に存在するホストクラブで一番の老舗でもある。

1971年に実業家、愛田武が立ち上げた”クラブ愛”は、
瞬く間に新宿を席巻し、ホストクラブ=愛 のイメージを確固たるものとしていた。


当時でもクラブ愛の名は物凄く、
俺ら新人ホストにとっては雲の上の店だった。


「愛に行くんですか…?」


「そう、行った事無いでしょ?」


「そりゃ無いですけど…」


「じゃ、行こう!」


そうして、トモミさんに連れられて、
半ば強引に俺とシゲキは伝説のホストクラブに行くことになった。