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女の争い

女の争い

"皆から頼られるホストになる"


結果として、この信念が後にホスト協会の会長にまで繋がる事になるのだが、
それはまだ後の話。



この時点ではパッとしない、
新人…と言うには少し歳をくっている、只の売れないホストだ。




「雄一さん、何か良い事あったんすか?」


花ごころの店内でユウキが話しかけてきた。


「いや、別に良い事って 訳じゃないけどな」


何となく、これから俺がどうすればいいか、道筋が分かった。
その事が表情に出てたんだろう。



「あ、そういえば雄一さん。
前、地元に会ったブラックローズってレディース覚えてますか?」


「あー、あったな。そんなレディース。
確か極勇会とも結構交流あったよな?」


ブラックローズ…
以前、俺が暴走族の総長をやってた頃にも、
極勇会を立ち上げた時にも交流があったレディースだ。


「そうです。その子ら、今池袋でキャバ嬢やってんですけど、
雄一さんの話したら是非店に来てほしいって。
今度行きましょうよ」


この頃、ホストにヤンキー上りが多かったように、
キャバクラにもヤンキー上りの子が沢山いた。


今 でこそ普通の女の子も当たり前に水商売をやっているが、
その当時は、ヤンキーであった事がのイケていたと言う価値観の時代。


目立つ子や派手な子は、みんなヤンキーになりたがり、
その流れで水商売にもなっていた。


「そうか、じゃあ近々行ってみるか」


「はい、行きましょう!」


(金、厳しいのにな……)


内心そんな事を考えていると、声がかかる。


「雄一さん、ヘルプつけますか?」


カズキさんだ。


カズキさんは、花ごころの”店長”だ。


オーナーにカツヤ君とワタル君が居て、
その下に店長のカズキさんが居た。

俺より年下だった為、お互い”さん付け”で呼び合っている。


俺が花ごころに入った日もカズキさんは居たが、
スウィートヘブンの事件の時はたまたま休みで、事件にかかわる事は無かった。


「俺も行きたかったな…」


事件を知ったカズキさんは、笑いながらそう言っていた。



「あ、はい。大丈夫です!」


カズキさんの指名客は、ユカという子だった。



ユカは、当時タレントをしていた。

ミニスカートでポリスの格好をして、テレビにも良くでていた。
(ちなみに、名前は変えてあるからユカで調べてもでないぜ )


このユカ……実はあの蘭丸と、
カズキ さんを巡って花ごころで壮絶なライバル関係にあった。


蘭丸は、俺に初日にハイヒールでビールを飲ませたほどの強者で、
そんな蘭丸とライバルであるユカも相当なのかと思うかもしれないが、
ユカは本当に性格の良い子で、俺は良く癒されていた。


芸能界で頑張って行くためには相当な苦労が必要なようで、
ある時は、一週間味噌汁だけで過ごしているなんて話も聞いた。

そんな苦労話がよく似合うほど、健気な子だった。


しかし、ユカはそんなもストレスを俺たちホストにぶつける事も無く、
カズキさん以外にも優しく接してくれていた。


そんなユカの席にヘルプでついて、
減ったグラスに酒を注いだ り、
煙草に火を付けたり、
テーブルの上を片付けたり、
絶え間なく色々補佐をする俺。


メインでカズキさんがユカと話している時、
俺は基本的に話に割って入る事は無い。


ひたすら、指名ホストの補佐をするのがヘルプの役目だ。
いわば雑用とも言える。


しかし、ユカはそんな俺にも笑顔で話しかけてきてくれた。


(……全く、蘭丸とは正反対だな)



そう思ってると、突然、ユカの顔が一瞬険しくなった。


店の入り口を、凝視している。

……?

ユカの視線を追って見ると、俺にとっても好ましくない存在がそこにいた。



蘭丸が来店して来たのだ。




カズキさんを見ると、


あちゃー!


そんな顔をしていた。

ユカと蘭丸の争いは、花ごころの皆が知っていた。



実をいうと、俺のホスト初日、
蘭丸のお目当てのホストが接客中だったから俺が蘭丸の席に付いたのだが、
そのお目当てのホストはカズキさんで、
その時もカズキさんはユカの接客をしていたのだ。

だから、あそこまで機嫌が悪かったのかもしれない。


つまり、今はその時と同じ状況だ。


ユカに目を戻すと…流石芸能人、
既に何事も無かったかのように、カズキさんに笑顔で話しかけている。



”こっち”はとりあえず大丈夫か…

とは言え、見ての通りカズキさんは接客中だ。


誰かが、カズキさんの”繋ぎ”をしなくちゃいけない。


……一体、誰が…。


その時、俺の背後から声がかかった。



「雄一」



……… 俺はその瞬間、全てを悟った。そして覚悟を決めた。

俺は再び、蘭丸の席に付く事になった。