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屈辱の日々

屈辱の日々

伝説のホストクラブ”愛”に行き、圧倒された俺とシゲキ。


「どう?収穫はあった?」


花ごころに戻ってきた俺たち3人。
俺はまだ、先ほどの光景が目に焼き付いていた。

煌びやかな店内、大勢のホスト、口の悪い先輩、そして愛田社長…
花ごころには無い物ばかりだった。


「想像以上でした。あんなに規模が違うなんて」


「そうね、確かに愛は凄いホストクラブだわ。
愛田社長の圧倒的な力で、
開店から今までずっと日本一をキープしているからね」

「でもね…」


トモミさんは続ける。


「私は花ごころの方が好きよ。」


「…どうしてですか?
向こうの方が規模も大きくて、それに売れているのに」


「その理由は…きっとそのうちわかるわ」


そう言って、トモミさんは笑顔を見せた。



それから数日経ち、いつものように二人で皿洗いをしながら、シゲキと話していた。


「なぁシゲちゃん、この前トモミさんが言った事覚えてるか?
ホストの顔を作れって事」


「あぁ、もちろん覚えてますよ」


「あれからずっと考えてんだけどよ、中々決まらないんだよな」


「俺、何となくだけど決まりましたよ、ホストの顔」


「本当か?どうすんの?」


「出来るかわかりませんけど…俺は、クールな感じで行こうと思います」


「なるほど、確かにシゲちゃんそう言うの似合いそうだもんな」


「雄一さん、悩んでるんですか?」


「うーん、そうなんだよな」


…この間の一件から、ずっと考えてはいた。


ヤンキーの過去を活かして、ユウキみたいにイケイケで攻めるか?

キョウヘイちゃんみたいに、盛り上げ役として引っ張っていくか?

アツヒコ君みたいに、貶して上げる作戦で行くか?


しかし、どれもイメージがつかない。


…俺は、どういうホストになればいいんだろう?


そう自問自答しながら、数日が過ぎて行った。




相変わらず、泊まる所と言ったら、花ごころの人の家か友人宅。

一度店を出たら、食う物も満足に食えない日々が続いていた。


ずっと人の家をローテーションするわけにもいかず、
泊まる家が無い時は、近くのサウナに泊まっていた。


フィンランドと言う名前のそのサウナは、店からほど近い事もあり、
その後ちゃんと泊まる場所が出来てからも、しばらく愛用する事になる。


24時間空いているサウナ。


終電を逃した人や、俺の様な宿の無い人間が安上がりで利用できる事もあり、
脱衣所は混沌としていた。


酔いつぶれて寝るサラリーマン、

浮浪者とおぼしき草臥れた老人、

わけあり顔の少年、

俺らのような水商売の人々…


その光景はさながら…華やかな歌舞伎町の、ドロドロとした内臓のような、
町の汚れた中身を連想させた。


サウナから漏れる、むっとした熱気の脱衣所で、一夜を明かす人達。

俺も、よくそこのベンチに寝転がって夜を明かした。



雑踏から漏れる、男たちの話声に耳を澄ますと…

どの店のキャバ嬢がどうだったとか、

いい儲け話だとか、

犯罪絡みのヤバい話などが聞こえてくる。


…本当にここは、欲望の町だな。

その片隅で、まどろみながらそんな声に耳を澄ますのが、実は少し好きだった。


今の俺の居場所はここなんだ。俺の町なんだ。

そんな事を良く考えていた。



フィンランドと言えば、洒落にならないエピソードも結構ある。

その中の一つに、同性愛者からのセクハラがあった。


知っている人も多いと思うが、歌舞伎町1丁目はホストクラブやキャバクラのメッカだが、
新宿2丁目といえば、世界最大級のゲイ・タウンとして有名だ。


当然、サウナなんかは、所謂発展場として使われる事も多かった。

今はどうだか知らないが、フィンランドも当時多くの同性愛者が利用していていた。


同性愛者の中には、ノンケと言われるノーマルな一般人に手を出す人もいて、
顔のいいホストなどは、よくその餌食になっていた。


そんなフィンランドを、花ごころのメンバー ユウキが利用した時の話。


いつものように夜を明かそうとユウキが脱衣所のベンチに横たわって寝ていた。

しばらく寝て、ふと目が覚めると、いつの間にか何やら顔についている。


頬を手で拭ってそれを見る。

白くて粘着質で、異臭を放つそれは、なんと他人の精液だった。


あろうことか、寝ているユウキにぶっかけた奴がいるのだ。

気付かれなかったから良かった(?)ものの、
もしユウキに見つかっていたら、そいつはタダじゃすまなかっただろう。

なんせ花ごころの特攻隊長だからな。



そして、俺もその頃似たような体験をした。

同じように横たわって寝ていて、ふと目を覚ますと、目の前にオヤジが立っていた。

立って、こちらの方を向いて……いきりたつ自分のモノを、懸命に扱いていたのだ。


俺が目が覚めた事に気づいたオヤジは急いで逃げた為捕まえられなかったが、
その事に恐怖と怒りを覚えた。


ホストでも上手く行っていないのに、そんな事もあって気が滅入ってしまった。



さらに、店でヘルプについても、客からはなじられる日々。


「こっちは、サラリーマンと話しに来たんじゃないんだよ!」


「あんたの話面白くないから、他の人呼んで!」


「ホストなら客を楽しませるのが仕事でしょ?
そんなんで楽しませられると思ってんの!?」


そんな事を、毎晩言われた。



当時、未成年でも当たり前にホストで働いていた時代。

実際、俺の23歳と言う年齢は、新人と呼ぶには歳をとり過ぎていた。


屈辱と、自分の矮小さに、苛立っていた日々。


打倒、愛 という大それた目標を掲げた自分と、現実のかい離に、
俺は打ちのめされそうになっていた。