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伝説のホストクラブ 愛

伝説のホストクラブ 愛

男がホストクラブに行くだなんて…と言う話をたまに聞くが、
実は結構ある話だ。


男に興味があって行く人も中にはいるけど、
大抵の男性客は、キャバクラの客でキャバ嬢と一緒に来店するパターンや、
ホストが自分のお客さんと一緒に行くパターンだ。




ペーペーの新人ホスト二人。俺とシゲキ。

そして、花ごころの皆から恐れられている、
あのトモミさんと行く伝説のホストクラブ、”クラブ愛”。



…俺とシゲキは、完全に委縮してしていた。


「なぁ、シゲちゃん。変な事になっちまったな」


「そうですね…もう流れに身を任せます」



愛に到着し、地下に続く階段を降りる三人。

扉をくぐると、そこに待ち受けていたのは、目を疑うような煌びやかな光景だった。



赤、青、緑、黄色…

部屋の隅々にまで敷き詰められた電球に、度肝を抜かれる。
眼がくらむようなキラキラした店内は客で溢れ、物凄い活気を見せていた。


まさにバブルを象徴するような、豪華で絢爛な店内。
(ちなみに愛本店は今もこの内装のままだ)


花ごころも活気は凄いが、何せ規模が違う。
せいぜい8卓くらいの花ごころに対し、ゆうに3~40卓はあるだろうか。


勤めているホストの数も半端じゃなく、
花ごころしか知らない俺たちはまさに、”井の中の蛙”状態だった。



「まるで夢の世界だな…」


ディズニーランドでは、ゲストに施設を没頭してもらうために様々な工夫が施されているらしい。
来園中は現実を忘れて、ミッキーたちとの夢の世界を満喫してもらう為だ。


それと同じように、ここは現実を忘れホストとの会話を最大限に楽しめるような、
そんな夢の空間が広がっていた。


「いらっしゃいませ。ご指名は?」


「無いわ」


トモミさんと俺ら二人は、奥の席に通される。


「色んなホストがいるでしょ?良く見ときなさい」


そう言って笑みを浮かべる。



「何て言うか…凄いっすね。」


「いつもこうなんですか?」


俺とシゲキは落ち着きなく周りを見回す。

しばらくして、愛のホストが席にやってきた。


よし…折角連れてきてもらったんだ。
ライバル店だけど、ここのホスト達から色々盗んでやる。

そう息巻いていた所、突然席に着いたホストに話しかけられる。


「雄一!?」


「………先輩!?」



席についたホストは、俺の暴走族時代の先輩だった。


「先輩、ホストやってたんですか!?」


「おう!久しぶりだな。お前が歌舞伎町に帰ってきたってのは聞いてたけど、
まさかこんな所で会うとはな。」


俺が暴走族でヤンチャしていた頃、2~3コ上にその先輩はいた。

あまり絡みは無く、数回話した程度の先輩ではあったが、
急に知り合いに会って、委縮していた気持ちが少し和らいだ。


「あら、知り合いだったの?」


「はい、昔の先輩です。偶然ですね」


「噂で聞いたけど、お前も今ホストやってんだって?何処の店でやってんの?」


「あ、はい。花ごころでやってます。」


「ははっ、あんな所でやってんのかよ」



…あんな所。
あきらかに下に見られている。



「……や、でもみんな凄い人達ですよ。店も活気があるし」


「活気ってお前…この店みてもそんな事言えんのかよ。
どうせ小さい店内で、チマチマやってんだろ」


鼻で笑いながらそう言って、たばこに火をつける先輩。


この人にとっては喧嘩を売っているつもりはないんだろうが、
テーブルの空気は明らかに変わっていた。


シゲキを見ると、先輩をジッと睨んでいる。



「で、何しに来たのお前?もしかして偵察?」


「………」


「お前、そんなんだから売れねぇんだよ。
何なら俺がその店行ってやろうか?No.1になるかも知れんぞ」


「私が連れてきたの。この子たちにこの店を見せたくて」



先輩にそう言った後、
トモミさんは、俺とシゲキの眼を見た。


(…駄目よ、我慢なさい。)


トモミさんの眼はそう言っていた。

それからすぐ、先輩は指名が入ったようだった。



「じゃあ、またな」


そう言って、指名された席に向かう。


「何かすいません…あの人ああなんですよ」


先輩が席を立った後、後に残ったホストがフォローした。



「よく我慢したわね。気にしない事よ」


トモミさんもそう言ってなだめる。


俺とシゲキは釈然としないまま、グラスを口に運んでいた。


愛に居るのはあんな人ばかりじゃない。
それはもちろん、わかっている。


だがこのことが切っ掛けで、俺のホストとしての目標がまたひとつ出来た。


打倒、愛。


いつか愛を超えてやる。
そう思った。



しばらく飲んでいると、ある一角がザワザワと騒がしくなった。


「雄一君見て、愛田社長よ」



愛田社長…
愛田観光の社長で、愛本店を作った張本人だ。


名前しか聞いた事のない、歌舞伎町の超有名人。


トモミさんに言われて振り返った俺のすぐ脇を、その愛田社長が通り抜けて行く。


これが、愛田武……
俺は、そのオーラに気圧されてしまった。



圧倒的なカリスマ性。その風格は、見る人の目を釘付けにさせた。

歌舞伎町のホストにとって、神様のような人。


俺は、その姿を目で追うだけで精一杯だった。



…打倒、愛。
それは、この人に勝たなきゃいけないという事だ。



先ほど立てた自分の目標が、一気に大きくなって、
手の届かない所に行ってしまいそうだった。