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初給与

初給与

スウィートヘブンの一件は、歌舞伎町界隈でちょっとした話題になった。

と言っても、眠らない町、歌舞伎町。

そんな事件は瞬く間に次の話題にかき消され、
皆新たな話題に華を咲かせる。


花ごころも、事件後にはスウィートヘブンの女の子たちが飲みに来てくれて、
盛況を見せた。


……が、それは一部の話。

No.1のキョウヘイちゃんや、オーナーのカツヤ君などは景気が良かったようだが、
俺はと言うと、相変わらずの指名がつかない日々が続いていた。

結局、カツヤ君に美味しい所持っていかれたようだ。


「二日目にトモミさんと同伴してから、もう二週間以上は経っているな…」


ひとりごとの様に指折り数える。


仙台から歌舞伎町まで、スーツ一着でやってきてから早二週間。
当然、泊まる部屋の事など何も考えずにやって来ている。

得意のポジティブ思考とハングリー精神で、何とかなると思っていた俺。


カツヤ君や、古い知り合いの家などを転々としていた日々だったが、
スウィートヘブンの件があってからは、
妙にアツヒコ君と仲良くなって、良く泊めてもらっていた。


と言っても、アツヒコ君も当時そんなに売れていた訳じゃない。
ボロアパートに帰って、二人でカップラーメンを半分ずつ食べたりなんて事もあった。


ある時は、電気代が払えずに夏場に電気を止められてしまって、
クーラーの効かないどうしようもない暑さの中、
部屋の真ん中に氷の塊を置いて二人で寝た事もあった。

ホストの就寝時間は昼だから、耐えがたい熱さなんだ。


後は、ジュンさんの家や、カツヤ君の客の家に泊まらせてもらってもいた。

余談だが、カツヤ君の客は女性二人で住んでて、
そこに泊まらせてもらった事もあるんだが(勿論、枕的な事は何もない)、
同居している女の人の当時付き合ってた人が、
歌手?プロデューサー?ヒットメーカー?の超有名な○○○で、
一緒の家で寝泊まりした事もあった。
まぁ当時はその人も売れていなかった時代で、月収8万円とか言ってたな。



とにかく、ホストの私生活は、夜の華やかな顔に比べて酷い事が多い。
特に、売れていないホストや新人なんかは、苦学生の様な生活を強いられる。


…そろそろ指名、欲しいんだけどな…。


そう考えていた頃、花ごころに新人が入る。
新人と言っても、俺と二週間くらいしか違わない為、二人とも新人。同期みたいなもんだ。


名前は、シゲキ。

歳は俺より2、3歳下だったが、同期という事もあり、シゲキとは以降長い付き合いをしていく事になる。


「シゲキです。よろしくお願いします。」


クールで甘い顔立ちのシゲキ。
眼鏡をかけていて、インテリに見える。


…やばいな、頑張らないと抜かれちまう。
俺はひそかにシゲキをライバル視し、負けないようにと心に誓った。


しかし、ホスト業界はそんなに甘いものでもなく、
シゲキも俺も、相変わらず一人も指名が付かない日々が続いた。


やる事と言えば、掃除に皿洗いに、他人のヘルプ。
たまに来る本番(新規客)は、上位ランクのホストに取られてしまう。


シゲキ共々、極貧の生活を続ける俺。
たまにヘルプに付いた時に食べれる店の料理が唯一のごちそうだった。


花ごころに入って一か月近く経ち、俺は初めての給料を心待ちにしていた。

指名はもらえないが、時間給はあるし、ヘルプにもついていた。
フル出勤をしていた俺は、そこそこ給料が入るんだろうと期待をしていた。


そして、ホストとして初めての給料日。
これで少しは生活が楽になるかな、とそう思って受け取った給料袋。

その中身は、3万円とちょっとだった。