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決着

決着

やられた仲間の為、スウィートヘブンに向かう俺ら七人のホスト。

店の前には、客引きのヤスは居なかった。
どこか離れた所で客引きをしているのかも知れない。


カツヤ君が先頭に立って、扉を開けると、
店内には2、3組客くらいの客が席に着いて酒を飲んでいるようだった。


「いらっしゃいませ」


さっきは見かけなかった黒服が声をかけてくる。

普通に見たら、俺ら七人、団体の客のように見えたのだろう。

しかし、カツヤ君はそれを無視し、
通り過ぎて店内に入る。

そして、店内中に響き渡る大きな声で叫んだ。


『みなさーーん!この店はボッタクリですよ~!!
今すぐ出た方がいいですよーーー!』


店内の視線が一気にこっちに集まる。
と同時に、店内の各所にいた黒服が一斉に寄ってきた。


俺はその中に、さっきの黒服を見つけた。

俺らに土下座をさせようとしていた、あの黒服だ。


「よぉ」


そいつに話しかけるやいなや、すかさずパンチを叩きこむ。


ガッ!!


その俺の行動が引き金となり、一気に乱闘状態になった。

罵声と、怒声と、悲鳴と、物音が響き渡る店内。



前の誰かを殴ったと思ったら、後ろから誰かに殴られる。

どこからか物が飛んでくる。もちろん誰が投げたかわからない。

背中に誰かぶつかって来たので振り向くと、
アツヒコ君に殴られて吹っ飛ばされたヤスだった。

ヤスはいつの間にか店内に戻り、乱闘に参加していたようだ。

カツヤ君は、テーブルにあった灰皿を武器にしていた。

ユウキは、いかにも楽しそうに喧嘩していた。


こちらよりも人数が多いスウィートヘブンの連中を相手に、
ホスト七人は大暴れしていた。



…20分程暴れた頃だろうか、俺はある事に気づいた。


(グレースーツの奴がいねーな…)


店内は混乱していた。

しかし、何度探してもグレースーツの男は見つからない。


…奴は店内に出て来ていない。

俺は乱闘を抜け出し、店のバックヤードへ向かった。


バックヤードのドアを開けると、
数人の避難していた女の子達と一緒に、
防犯カメラのモニターを見ていたグレースーツが居た。


まさか来るとは思っていなかったんだろう。
突然の俺の襲来に、明らかに動揺している。


俺はズカズカと向かって行く。


「ま…まて…」


バキッ!


乱闘によって興奮状態にあった俺は、何も言わずにグレースーツを殴る。

そして胸倉を掴み、顔を寄せる。


「よぉ、帰ってきてやったぜ…!」


そう言って、もう一発。

グレースーツの男は、先ほどの威勢はまるで無かった。
逃げるように、俺の敵意を避けている。


「わ、わかったから、よせ…」


抵抗をしないグレースーツに拍子抜けした俺は、掴んでいた胸倉を話す。
ヤツは乱れたスーツの胸元を整えながら、


「…何をすればいい」


…結局、こいつの威勢は口だけだった。
俺はその場で、ポリスへの謝罪と治療費の負担を約束させて、店内に戻っていった。



店内では、乱闘は既に収まりつつあった。
スウィートヘブンの連中は、ほとんどが座っているか、倒れていた。

…花ごころの人達はと言うと、全員が立っていた。


(何なんだよ、この人達……)


「おう雄一、終わったか。」


カツヤ君がそう尋ね、俺はコクリと頷いた。


「おうテメーら!ボッタクリなんてチンケな商売してんじゃねーぞぉ!!
こっちは命かけてホストやってんだよ!
文句があんならいつでも”花ごころ”に来いや!!」


最後に、カツヤ君がそう啖呵を切って、店を後にした。



「あー、スッとしましたね!」


ユウキが帰り道にそう言う。


「思ったより早く終わったけど…
どっちにしろ今日は営業出来ねーな」


笑いながらワタル君が言った。

皆の顔を見ると、傷やアザがチラホラ。
…しかし、どれもとても喧嘩した後の顔じゃなかった。


「みんな、殴られなかったんすか?」


俺がそう聞く。


「殴られたに決まってるよ。でも、顔は死守しなきゃな。
商売道具だし。顔を守ったからボディを重点的に殴られたよ。」


「ホストとアイドルは顔が命っすからね!」


ワタル君とキョウヘイちゃんが答える。


二人は当時ジャニーズJrにも所属していたから、顔には特に気を使ったのだろう。


俺はと言うと…顔を守ると言う意識は無かった。
興奮して、目の前の相手を倒す事だけを考えていた。


…これがプロ意識って奴か。


「でもカツヤ君、最後あんな啖呵を切って、
奴らが店に復讐しにきたらどうするんですか?」


「あ?その時はまた追い返せばいいだろ。
あのな雄一、自分を名乗れないようなセコイ生き方してたら、
この歌舞伎町ではのし上がっていけねーぞ」


その言葉が妙に心に残った。


結局、その後スウィートヘブンの連中が店に仕返しに来ることは無かった。
やつらも、叩けば埃が出る。警察沙汰にもしなかったようだ。


ポリスは、あの事件から2、3日して意識を取り戻し、順調に回復していった。

スウィートヘブンから医療費や示談金などを受け取って欲しいと申し出があったらしく、
驚いていた。


「雄一さん、俺が寝ている間に何かあったんですかね?」


見舞いにきた俺に、ポリスが尋ねる。


「さあな。…ま、有難くもらっとけ。」


俺らの乱闘の事をポリスは知らなかったようなので、
俺はそうとぼけて病室を後にした。


(…まぁ、結局後でユウキの口からこの事件はポリスに伝わる事になるんだが。)


そういえば、事件の後で、花ごころに新しい顧客が増えた。
あの時、スウィートヘブンで働いていた女の子たちだ。


曰く、俺らが乗り込んできて暴れたあの事件を見て、ファンになったそうだ。

彼女たちも、店の方針に対して反感を持っていたらしく、来るたびに愚痴を聞かされた。


「カツヤ君、格好よかったよ~!」


「指名はキョウヘイでお願いしまーす」


「ドンペリ1本、入りましたー!」


花ごころには、賑やかな声がいつまでも続いていた。