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ピンチ

ピンチ

店は営業をしていたが、開店したばかりのようで客はまだ1人も居なかった。


チラホラと店の女の子たちが居て、こちらの様子を伺っている。
店の中からもさっきの騒ぎが聞こえたのだろう。


黒服たちが奥の席の前で立ち止まり、一人が奥へと消えて行った。

少しして、奥からグレーのスーツを着た男が、黒服と一緒に戻ってきた。


グレースーツの男は俺らを一瞥して、席に腰を下ろす。
続いて黒服の一人も腰を下ろす。


二人が座って、俺ら三人と黒服の一人が立つ構図だ。

グレースーツの男が煙草に火をつけて一息吸い込む。


「……で?」


軽蔑をするような目で俺らを見てそう言った。



「お前が責任者か?」


「ちょっと違うが…似たようなもんだ。」


俺はなるべく感情を押し殺して、冷静に努めて言った。


「昨日、俺らの仲間のケイジってもんがアンタん所の従業員にやられた。
そいつは今病院で意識が戻っていない」


意識が戻っていない、と言った所でグレースーツの男に少し反応があった気がした。


「フン……………で?」


「で?じゃねーんだよテメ…」


「証拠は?」


憤るユウキの声を遮ってグレースーツは言った。


「…証拠はあるのか?」


もう一度煙草を吸いこむグレースーツ。


「お仲間、意識が無いそうだな。そりゃ、ご愁傷様。
けど、意識の無い奴がどうして俺らがやったって言えるんだ?」


確かに…
ユウキはどうやってスウィートヘブンの連中の仕業と分かったんだろう。


「それは、ケイジさんが助けようとした奴から…聞いたんだよ!
お前らがカモにしようとしたやつから!」


その時、ユウキの言葉に間があった。


(助けようとした奴から…聞いたんだよ!)


グレースーツはその一瞬の間を見逃さなかった。


「お前が直接聞いたのか?
その”助けようとした奴”とやらから」


「……いや、直接じゃねぇ…。直接じゃねーけど、
俺の仲間が直接そいつから聞いたらしいんだよ!だから店のこの人達と来たんじゃねーか!」


どうやら、ポリスが助けようとした奴…つまり目撃者で、警察への通報者は、
事件の概要を極勇会の別のメンバーに伝え、そのメンバーからユウキが聞いたらしい。


「らしい?また曖昧な理由で動くんだな。
つまりお前は、直接本人からもその目撃者からも聞いていない。
又聞き程度の信憑性の低い情報で、ここまでしでかしたのか?
聞き違いだったらどうする?嘘の情報だったら?」


「るっせーんだよ!!」


ユウキが叫ぶが、グレースーツの舌戦に引き込まれそうになっていた。
この男、言葉尻を捉えるのが上手い…。


このまま奴のペースに巻きこまれてはいけない。
俺は一歩前に踏み出し言った。


「どーでもいいんだよンな事は。
仲間がやられたのは事実で、俺はコイツが言った事を信じてるからな。
それに、入り口の客引きは認めたぜ」


「ふん…しかし間違いだったらどうす…」


「御託はいいんだよ!!!」


突然の俺の大声に、今度はグレースーツが遮られる。


「…俺たちゃ喧嘩しに来たんだよ」


ピン…と空気が張り詰める。
臨戦態勢に入る俺。


今にもグレースーツに飛び掛かろうとしたその時、
グレースーツの右手が動いた。


人差し指を、アツヒコ君の前で止める。


「お前…花ごころのホストだな?
……以前、うちの従業員をたぶらかしてくれたそうだな。」


「…………」


…アツヒコ君とスウィートヘブンの間には確執があった。

確かに顔を知られていても
おかしくはない。

そしてユウキの方を見てさらに続ける。


「お前。……さっき、”だから店のこの人達と来た…”と言ったな。
”店のこの人達”…か。」



「お前たち三人とも花ごころの従業員か。」


……マズい。

確かに、喧嘩に来たのはあくまでポリスの件だ。

しかし、花ごころのホストが三人で殴り込みに来たとなれば、
花ごころ対スウィートヘブンの、店同士の抗争になってしまう。


それは、カツヤ君やワタル君、
そして他の従業員まで巻きこんで迷惑をかけてしまう事を意味していた。

…考えが浅はかだった。
俺は、感情に任せて短絡的に行動したことを悔やんだ。


「ホスト風情が偉そうにしてんじゃねーよ!!!」


今度はグレースーツが声を張る。

ガンッ!とテーブルを蹴ると、店の女の子たちからキャっと悲鳴が上がる。


「言っとくがなぁ、お前らカメラに撮られてんだよ。防犯カメラ。
手を出してみろ、お前らの店は終わりだぞ?」


グレースーツがそういうと、黒服の二人もニヤニヤと笑みを浮かべる。



しばらく俺らは黙って立っているしか出来なかった。

……悔しい。
ポリスはこんなやつらに、成す術もなくやられたのか。


「…おう、何突っ立ってんだよ。分かったらさっさと帰れ。」


出口の方をアゴで指して、グレースーツがそう促す。


どうする?一旦出直すか?
しかし、出直した所でもう顔は割れている。


(…一旦ユウキ達を店に返し、俺一人で戻って来よう)

そうすれば、店など関係なくやれる。

出よう、とユウキ達に告げようとしたとき、黒服の一人が言う。


「そのまま帰れると思うなよ。
……おい、お前ら土下座しろよ。
…アケミちゃん、事務所からカメラ持ってきて。」


店内の女の子の一人にそう指示する黒服。

俺らの土下座の姿を、写真に撮るつもりのようだ。


「雄一さん…もういいッスよね?
…やっちゃいましょうよ…関係ねーすよ」


ユウキだ。
見ると、目が座っている。

完全にキレている時のユウキだ。


やばいな…こうなったユウキを止めるのは一苦労だ。
とは言え俺も、自分を抑える事が出来るかわからなかった。

アケミちゃんと呼ばれる子がカメラを持ってきて黒服に渡す。


「おう、そこに並べ、そんで土下座しろ。」


黒服がニヤ付きながらそう言う。
ユウキはもう今にも殴りかかろうとしていた。


俺ら三人と奴ら三人。

その均衡を破ったのは、大きな衝撃音だった。



ガシャァァァァン!!!!



一瞬、何が起こったかわからなかった。


そして次の瞬間、俺とユウキの間に居るアツヒコ君が、
前のめりに倒れて行った。



砕け散るビンの破片と、液体。



後ろを振り返ると、客引きのヤスが割れた瓶ビールの先端を持って立っていた。

アツヒコ君が、後ろからビール瓶で殴られたのだ。