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客引きのヤス

客引きのヤス

俺は睨みを聞かせてそう言い放った。

しかし客引きも夜の仕事、こういうケースの対応には慣れているのだろう。


「んだ、テメーは!」


鼻息のかかりそうな位置まで顔を近づけた客引きが突っかかってくる。


「テメーん所の従業員にツレがやられたんだよ、さっさと責任者出せや」


「ツレだぁ?知らねーよンなもん!帰れボケ!」


「知らねーんじゃねーんだよ、こっちはやられて意識戻ってねーんだよ!」


ユウキが入ってくる。


「知らねーよ!」


なるべくここでは争いたくなかったので穏便に行くつもりだったが、
事はそう上手く運ばないようだ。


何より、ポリスがやられたと言う怒りを抑えるにも限界があった。

…ギュッと拳に力が入る。


「なぁ…出してくんねーかな……」


「知らねーっつてんだろボケ!!」
そう言って客引きが、俺に向かってツバを吐いた。


―ピチャッ


客引きの唾液が、トモミさんから買ってもらったスーツの胸元に付く。
その瞬間、俺の中で何かが弾け、拳を振りかぶる。


「さっさと帰ッッ………」


ドカッ!と言う鈍い音と共に、客引きが言葉途中に吹っ飛ぶ。


……殴ったのは俺じゃない。

俺が殴ろうとした瞬間、客引きの脇腹に一発、蹴りが入ったのだ。

アツヒコ君だ。


客引きはズザザっと地面を転がり、店の看板に頭をぶつける。

きゃあ、という女の声が周囲から聞こえた。


「テ…テメェ…!」


客引きがアツヒコ君を睨む。
アツヒコ君は、手と首をプラプラさせながら喧嘩の準備をしていた。

ヒュウ!とユウキが喜ぶ。


すると、騒ぎを聞きつけたのか、店内から黒服が2人出てくる。


「ヤス、何の騒ぎだ。」


一人が客引きに向かって話しかける。


「こいつら、昨日のガキのツレらしいっすよ…」


ヤスと呼ばれた客引きは、あっさりポリスの件を認めた。


「てめぇ!やっぱり知ってんじゃねーか!!」


ユウキが憤る。今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

俺はユウキを手で制し、黒服達に言う。


「その事で話があんだよ」


黒服たちは、お互い顔を見合わせて一回頷くと、


「来い」


そう言って、店内に入って行った。

俺らもそれに続き、店内に入る。