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決意

決意



勤めていた会社が倒産した。

俺、北條雄一が23歳の時だった。



色々なことがあり、地元に居られなくなっていた俺は、
地元である埼玉から宮城の仙台に越していて、そこで働いていた。



職業は、”運転手”。


偶然にも、俺の親父と同じ職業だった。


親父の話はまたいずれ書こうと思うが、
俺はこの偶然にどこか得体のしれない、ある種の嫌悪感の様なものも感じていた。



運転が無い時は、輸入品の家具などを売る営業の仕事をしていた。

俺は、”自分を売る”と言う信念のもとで必死に営業を続け、
持ち前の根性を活かして成績を伸ばし、会社の中では一目置かれていた。


会社の会長に気に入られていたってのもあるが、
俺の顧客が数千万円の家具を買ったり、会社の売上には随分貢献もしていたと思う。


しかし、その会社があっけなく倒産。



「津田会長…これから、どうなるんですか?」


津田会長は、長身でやせ形の人だった。

しかし時折見せる鋭い眼光に、俺はこの人の底の深さを感じていた。




俺の心情を察してか、不安な表情を浮かべる俺に、津田会長はなだめるように言う。

「いや、お前は心配しなくても大丈夫。俺が面倒を見てやるから」



会長は俺の家の事情を知っていた。

当時、俺の家には後輩たちが10人ほど住んでいた。


俺と同じように、地元に居られなくなった奴らだ。

1人を受け入れると、次から次にやってきやがって、その人数になっていた。


でも俺は、俺を慕うそいつらが大好きだった。
家族のように思っていた。


そいつらはそれぞれ日雇いの仕事などをしてはいたが、
そいつらを食わして行かなきゃならないと、俺はどこかで責任感を感じていた。


心配しなくても良いと言う会長の言葉に、最初の頃は甘えていた。


(会長、有難うございます。助かります)



しかし、ある日人づてで、
会長が事業に失敗して何百億の損失を出してしまっていた事を知ってしまった。

自分の生活にも困る状況なのに、俺の面倒を見ていてくれたのだ。



直ぐにでも会長の元に行き、謝りたかった。

しかし、会長は俺にその事を知ってほしく無かったんだろう。
だから俺も、知らない事を通したまま、別に仕事を見つけなければならないと思った。



そんな矢先、今考えると天啓のような、運命の電話が鳴る事になる。


電話の先にいるのは、俺が埼玉でお世話になっていた、
アウトロー時代の先輩、カツヤ君だ。


「おう雄一、最近大変らしいな」


カツヤ君は、厳しい人だったが、俺の事は良く気にかけてくれていた。

この時も、どこかから会社倒産の話を聞いて、俺に電話をくれたのだろう。


「そうっすね…こんな状況で、新しく何か仕事しなきゃって感じです」



「そうか……」


俺が現状を一通り話すと、カツヤ君がいきなり切りだした。


「雄一、お前歌舞伎町でホストやってみねぇか?」


カツヤ君が、歌舞伎町でホストクラブを経営していたのは知っていた。

しかし、当時俺にはホストと言う職業に対し、どこか蔑んだ見方をしていた。


「ホスト…ですか?」


「俺の店、今人を探してんだ。
結構繁盛してて、忙しいんだよ。
お前なら適職だと思うんだが、どうだ?」


「いや、カツヤ君、話は有難いけど俺にはホストはちょっと…」


「お前、半端なくモテてたろ。
そんだけ女の扱いが出来る奴が、ホストに偏見持ってるとは言わせねーぞ」


確かに、女にはガキの頃からモテていた。

昔は不良=モテると言う時代。


小学校4年にして、バレンタインのチョコを40個くらい貰っていた。

その後もずっとそんな感じで過ごしていて、
実はこの当時も仙台に5人の彼女が居た。



「ホストって、軟派でチャラチャラしてると思ってないか?
そりゃそんな奴もいるけど、まともな奴も多いんだぜ。
お前の暴走族時代の知り合いも多いし、
みんな頂上を獲るためにギラギラして必死でのし上がろうとしている。
喧嘩だってしょっちゅうだ。」

そして、こう言った。

「お前、ホストを馬鹿に出来るほど立派な生活してるのか?」


俺は言葉に詰まった。

確かに仕事はしていたが、俺は昔と変わらず、女、酒、暴力の日々を送っていた。


しかも、今はその仕事すらない。

…そう考えた時、俺はホストと言う職業をを否定できなかった。


「…ホストってのはなぁ、男を買ってもらう職業なんだよ」


その瞬間、俺の中で何かが繋がった気がした。


ホストは、男を買ってもらう。
女性にお金を払ってもらうけど、それは人の価値を買ってもらうようなもんだ。

魅力のない人間には金を払う価値が無い。
それが、ホストというシビアな世界だ。


俺は産まれてからずっと今まで、
男を売るために生きてきた。

自分を認めてもらうため、自分を買ってもらう為、
自分と言う男を周りに誇示してきた。


そうか、ホストも変わらないんだ。


そう考えた時、俺の考えは決まった。


「…やります」


俺はホストの世界を、面白そうだと感じていた。

こうしてホストの世界に足を踏み入れる事になる。




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