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息が切れて

とうとう水が一滴もなくなってしまった。西穂山荘まで後2時間、息苦しくなった。西穂と独標間も小さなピークのアップダウンが続く。疲れた足を一歩づつ前へ前へと進めるのに山ちゃんとの距離が開きだした。遅くて申し訳ないな、そう思っても息苦しさが増して体に酸素が入っていかない。3000m上空では良くあることだ、酸素が薄い上に心肺能力が低い私の体に酸素が回っていかない。今回は水不足からきているのはわかっていた。皆が水を飲み干した後で私だけが我がままを言っても仕方が無い。とうとう足が前に進まなくなった。ちょうど西穂山頂と独標の間付近だろうか。前を行く山ちゃんが気がついて戻ってきてくれた。私のザックを自分の大きなザックの上に乗せて固定すると、私と夫を残して先に山荘へ下ることになった。私には少し休んでからゆっくり下るように言い残して。山ちゃんはあっという間に見えなくなってしまった。残された私も最後の力を振り絞って下り始めた。ようやく西穂独標までやってくると後は本当に下るのみ、山荘は目前だ。

なんとか頑張って丸山へ下ってきた。標高が低くなったせいか幾分酸素が濃くなった気がした。それでもまだ息苦しくなんとか早く山荘へたどり着いて水が欲しい。気を紛らすように後ろの夫と話をしながら下りていると、向こうから山ちゃんが水をいっぱい入れたペットボトルを両手にやって来てくれた。このときばかりは山ちゃんが神様に見えた。一本は私に、もう一本は夫に渡してくれた。私が飲み干した一本のペットボトルを逆さにして、たった一滴の水を口に垂らす彼を見て、きっと自分が水を飲むことはさておいて、私たちの為に水を持って登り返してくれたのだろう。私って何てバカなんだろう、そんなことも気がつかなかった。

無事に山荘に着いた。食事は喉を通らなかったけれど、奥穂から西穂へ縦走達成した嬉しさが沸き上がってくる。なんとも言えない喜びを胸に、翌日は上高地へ下って、2日前に眺めた穂高の稜線を再び見上げて見た。前日に歩いた稜線は以前と変わらずそこにあったけれど、それまで経験したことのない誇らしさを持って対面すると気高い峰はよりいっそう輝きを増し、またいつか挑戦しよう、そう思わずにはいられない。

この本の内容は以上です。


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