目次
1章 現代に巣くう忍たち
1 東大生、藤林悠輔
2 警視庁幹部、相馬泰
3 侵入者
2章 休日の忍たち
1 そして、平凡な一日が始まる
2 女子大生、進藤早紀
3 渋谷の通り魔
3章 足跡を残した忍たち
1 事件現場
2 警察官、上月静夜
3 容疑者、田上明央
4章 取調室の忍たち
1 テレビ記者、叶陽一郎
2 激突-伊賀と甲賀
3 静夜の罠
4 追跡者たち
5章 オモテの忍たち
1 お笑い芸人、風間英太
2 メイド、仁科ともえ
3 JAあおもり職員、応野邦彦
6章 ウラの忍たち
1 風魔の英太
2 戸隠のともえ
3 応変の邦彦
7章 アキバの忍たち
1 ともえと悠輔
2 帰り道
8章 学園祭の忍たち
1 東都大学若葉祭
2 舞台袖
3 トーキョーハンター
4 同業者
5 最強
9章 嵐の前の忍たち
1 ともえと早紀
2 ツイてるともえ
3 ツイてない悠輔
4 邪魔者
5 嵐が来る
10章 相見える忍たち
1 知らなくていい真実
2 悪い夢
3 百地悠輔という男
4 集いし5つの流派
5 赤い瞳の一族
6 ともえの提案
7 激突する赤と青
8 別れなさい
11章 動き出す忍たち
1 六本木のオフィス
2 戸隠の女王
3 忍者王
4 アキバのアイドル劇場
5 同盟
12章 恋煩いの忍たち
1 恋人は忍者
2 最後のデート
3 守ってみせる
13章 集結する忍たち
1 警視庁のメッセンジャー
2 集結した忍たち
3 悠輔の企み

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3 悠輔の企み

 藤林悠輔は一体何を考えている?何を企んでいる──?


 この話が舞い込んできた次の瞬間から今までずっとその理由を考えてきたが、今日に至っても全く目的が見えない


 それに対しここにいる4人全員が不安に思い憤っている。


25階のラウンジからスイートルーム専用の豪奢なエレベーターに4人全員で乗り込む


全く──何という絵面であろう。日本忍者界の若手トップ4がエレベーターの狭い箱の中で同乗するとは──笑いたくても笑えない光景だ


ただそのエレベーターの中で誰一人として言葉は発しないし心読も使わない


 不気味な沈黙のみがこの豪華で小さな箱の中を支配する


 だいたい皆思っていることは同じ。会話しても無駄なのは目に見えている。


チーンとレトロな音を上げてエレベーターは目的地の最上階へと到達する


『ハリーアットホテル東京』の最上階は基本的スイートルーム1部屋しかない作りになっている。


 豪奢で短い廊下を歩くと突き当たりに重々しいオーク材の扉が門を構える。


 静夜は受け取ったカードキーをリーダーに読み取らせる


 ピピッと読み込み音がした後、カチャっと施錠が解除した音が小さく響く


 オーク材の重たい扉を静夜は開くとそこから初夏の爽やかな風がびゅうっと一陣吹き付ける


 スイートルームのテラスの大きなガラス窓は開いていて、シルクのカーテンはゆらゆらと妖しく揺れていた。


そしてその豪華で広い部屋の奥──ノイズ混じる沢山のディスプレイを背にして彼は座って待っていた。


「ようこそ──皆さん」


 照明が落とされて薄暗いスイートルームにノイズのディスプレイの白い光と藤林悠輔の眼鏡越しの真紅の瞳が光る。


 まさか19歳の若輩とは思えぬ静かな気迫が彼を覆い尽くしているが、相手は日本で5本の指にはいるであろう忍者たちだ。そんな威圧に負けるはずはなかった。


「おいおいおいおい。一体てめえは何考えてやがる!」


 先に啖呵を切ったのは風魔の英太だった。


「高級ホテルに呼び出しておいてラウンジでのんびりさせた後スイートルームへ──てめえの格好つけの手駒にされるのは心外だぜ!」


「そうかな? 別に格好つけた訳じゃないんだけどな」


「その態度がいけ好かん! ここが高級ホテルじゃなかったらてめえをしばき倒したいわ!」


 英太は言いたいことを思いっきり言ったが、悠輔の表情は変わらない。


 それを見かねた静夜は部屋の壁にもたれかかりながら悠輔を青白い瞳で睨み付けた


「俺も訳を聞きたいな……お前どうしてこんな回りくどい方法を使った?」


「回りくどい?」


「俺たちに真っ先に用があるならさっさとここに呼べばいいだろ。なのに何故わざわざラウンジで俺たちを待たせた?」


 静夜のその問いに悠輔は口元にニヤッと笑みを浮かべた。


「じゃあ、ここで種明かしでもしようか?」


 そう言うと悠輔は指をパチンと鳴らす。


 次の瞬間、ノイズ混じりのディスプレイはある白黒の映像を流し出した


 それを見て一同は思わず息を呑んだ。


 そこに映し出されたのは『ハリーアットホテル東京』のエントランスに彼ら、エレベータの防犯カメラに映った彼ら、そしてラウンジの席に座り会話する一人一人の映像の彼ら──


「何これ!」


 それを見てともえは全身を総毛立たすように叫んだ。


「悠輔……あんたあたし達のことずっとこのモニターで監視してたって事?」


「まあ、そう言うことになるかな」


 そう言うと悠輔は椅子を回転させキーボードを使ってモニターを操作した。


「エントランスとエレベーターはホテルの監視カメラを使わせてもらったけど、ラウンジはちょっと違ってね──隠しカメラと盗聴器をそれぞれの席に仕掛けさせてもらった」


「何──ッ!」


 邦彦は驚愕の表情で細い目を見開いた。


 そして悠輔はキーボードを叩きながらさらに映像と音声を出して見せた


 それはラウンジで4人会話していたことが完璧に筒抜けだった


「最初、これは流石に気づかれると思ったんだけど──意外にばれなくてよかったよ」


「ほう、まるで俺たちが無能だと言いたげだな……」


 静夜はそう言うと青く暗く光る瞳で悠輔を睨み付けた


「いい加減本当の種明かししたらどうだ?家元。どうしてこんな名高い高級ホテルで盗撮や盗聴がまかり通るのか──」


「まだ気づかないの?」


 そう言うと悠輔はパソコンチェアを回転させ4人を真紅に光る瞳で見据えた。


「今日のこの『ハリーアットホテル東京』は僕たち伊賀藤林流が借り切ってる」


「はあ?」


 その一言に英太は苛ついた声で返した。


「どういう意味だよ。お前らでこんな高級ホテルを借り切るだと?冗談は休み休みにしろよ!」


「君、今日このホテルで誰と会った?」


「え──?」


 その問いに英太は一瞬言葉に詰まったが、すぐに不機嫌そうな顔で言葉を続けた


「まずコンシェルジュの姉ちゃんに会って、エレベーター昇ってラウンジのホールスタッフにあって──」


「それ全部僕の配下」


 悠輔はそういうとニッコリ笑った。


 だが彼以外の4人はその笑顔に空恐ろしい物を感じ絶句した


「貸し切ると言ってもエントランスの一部とラウンジくらい。その場所に伊賀藤林流の門下の者を配置しておいた。つまりこれがどういう意味か──わかるよね」


「僕たちはお前につぶさに監視されていた──そう言いたいんだな」


 邦彦はそう言うと細い目を見開いて悠輔を睨み付る


 それに対して悠輔は手を前に組んで4人を見るだけだった


「なるほどな」


 その中でも静夜は特に冷静な態度を突き通した。


「この前このホテルに俺が侵入したとき──えらい綺麗に揉み消したと思ったらそう言うからくりがあったんだな」


「そういうことさ」


 悠輔はそう言うとパソコンチェアーから立ち上がる大きなガラス窓の方に歩んでく


 そして眼下の東京の摩天楼を見下ろすと言葉を続けた。


「まあ余り詳しくは言えないけど、ここのホテルは伊賀藤林流の息がかかった連中が仕切ってる。だからこのホテルで起きることは大体うまくまとめられる」


 そう言うと悠輔は踵を返しまた瞳を赤く光らせた。


「でも君たちがうまく口を割ってくれてよかったと思うよ。それだけでも大きな収穫だった」


「ふざけるな! てめえはただ盗み聞きしてただけじゃねえか」


 英太はまるで悠輔に突っかかるかのように問い詰めてきた


「それが目的だとしたら俺はおめえを許せねえ! そんなことするの忍者じゃない!」


「そうかな……僕は汚いことでも何でもやるのが忍者だと教えられてきた」


「うるさい! お前のスタイルと俺のスタイルじゃ大分違うってことだろ!」


 その瞬間、英太は棒を手に取った。


 それはみるみる長く伸びそして悠輔にそれをかざした


「もう我慢できねえ! 藤林悠輔! 俺は今この場でお前を倒す──!!


 英太はそう言うと変化棒を振り回しながら悠輔めがけて猛スピードで突っ込む。


 それを見て悠輔は手を宙でゆっくりと泳がせ静かに印を結ぶ。


 スピードに絶対的な自信のある英太は悠輔めがけて棒を振りかざす──だが次の瞬間だった


「──ッ!!


 英太の身体は再び悠輔の目の前で止められる


 今回も九字縛りトラップか──否、違う。それよりももっと強力な結界だ。


「残念だったね。風間英太」


 悠輔は目の前で止まった英太の顔を意地悪そうにのぞき込むとニッコリ笑った。


「今日の僕は君と喧嘩しに来た訳じゃないんだ。だから大人しくしててくれるかな?」


 そう言うと悠輔は胸の前で確実に印を結ぶ。そして手を英太の前にかざした次の瞬間だった


 一瞬激しい光が走った次の瞬間、英太の身体はいとも簡単に吹き飛ばされた


 思いっきり壁に叩きつけられる英太の身体


 それを見ていたともえは苦々しい表情を浮かべて呟いた


「止縛結界──ある一定の範囲内に入ると動きを止める上級結界。つまり、悠輔。あんたの近くには寄れない──そういうことね」


「さすが戸隠の姫。得意分野の術には詳しいね」


 悠輔はそう言うとゆっくりと4人を睨み付けた


 すると悠輔の足元から青白い結界の光が露わになった


「さっきも言っただろう。今日の僕は喧嘩しに来たわけじゃないって」


「じゃあ何なんだよ! 俺たちを散々監視しといて──一体なんの目的なんだよ!」


 悠輔の術に敗れた英太は身体を起こすとキッと悠輔を睨みつけそう叫んだ


 それに対し悠輔は初めて視線を床に落とし、憂いに似た表情で語り出した


「僕たちは不幸だ」


「は──!?


 その一言にそこにいる一同すべてが驚きの表情を浮かべた。


 だが周囲の驚きを余所に悠輔は伏し目がちに言葉を続けた


「考えてみてごらんよ。何で僕たちはこの現代で忍者として生きている? こんな平和で争い事などないこの世界で──」


「それは──」


「僕は時々忍者にはもう存在意義がないのかとも考えることがある。じゃあなぜ僕らは戦う? 自らの流派を守るため? それとも──」


「は? 笑わせるな。心でもないことを言うな」


 そう言ったのは壁にもたれかかり悠輔を青白い瞳で睨み付ける静夜だった


「お前さっき俺たちの会話を盗み聞きしただろう? それで答えは大体出てるじゃないか」


「各の目的で僕たちは争い続ける。どちらかが淘汰されるまでずっと──」


「俺はお前がそれを望んでいると思った。なんせあの男の息子だからな」


 その一言に悠輔は赤く光る瞳を上げる


 その表情はまるで何かが欠落したように機械的だった。


「君たちがそれを望むのであれば僕は容赦はしないよ」


 その瞬間、悠輔の瞳は真紅に光からおぞましい殺気の矢が4人に向かって放たれる。


 それは一瞬怯みそうになるくらいだったが4人も負けじと悠輔を睨んだ


「みんな……これを最後にしよう──」


 悠輔はそう言うと赤い瞳を光らせながら4人の元へと近付いてくる


 それに対し4人は揃って身構えるように緊張を見せた


「これで400年以上続いた忍者の歴史を終わらせる──そんな覚悟で僕は戦う。だれが笑うかなど恨みっこなしだ」


「結局、伊賀の家元は修羅の道に走る──か」


 邦彦は呆れた表情を浮かべそう言った


「つまり、大々的な抗争に発展してもいい──そう言うことか?」


「君達がそう望むのなら──滅ぼし滅ぼされるまで戦うまでだ」


 そう言うと悠輔はふと4人の姿が映るディスプレイに目を移した


「そう言えば……さっきラウンジで僕の兄のこと話題にしてたね」


 その一言に4人は一斉に沈黙する。


 だが悠輔はそれも織り込み済みかのように言葉を続ける。


「確かに僕の兄、藤林亮輔は10年前に死んでいる──はずだ。もし生きているのなら真っ先に僕たちの元に情報が来るはずだから」


「ほう……お前もまるで兄貴が生きていると言わんばかりの口ぶりだな」


 静夜のその一言に悠輔は一瞬ムッとした表情をしたがすぐにいつもの冷静を被ったような眼差しに変化する。


「当たり前だ。兄さんは伊賀の抜け忍という事実は変える事は出来ない。生きてるか死んでるかは別としてその消息だけは知りたい」


 悠輔のその言葉に邦彦は知らず知らずに右肩の古傷を触っていた。


 やっぱりあの時の伊賀の抜け忍は伊賀忍者を統べる藤林家の人間に間違いない。


 でも何故、彼を救護した自分が彼に襲われなければならなかったのだろう?


 それは考えても考えつかない想像だった──


「──ともかく。僕は君たちの意志を確認するためこの場を用意した」


「意志──ねえ」


 その一言を呟いたのはともえだった


「こんなまどろっこしい真似しなくてもそんなこと確認するのなんて簡単じゃない」


「ははっ! 確かにその通りだね」


 そう言うと悠輔は呆れたように笑った。


「だけど君たちももう気づいているよね? 僕たち伊賀藤林流がどれだけ力を持っているかってこと──」


 悠輔のその一言に4人は一斉に黙り込む


 まるでそれを楽しむかのように悠輔はさらに言葉を続けた


「今日君たちを集めたのは他でもない──君たちを威圧するためだ」


「威圧ぅー?」


 その一言に食いつくかのように英太は悠輔を睨み付けた


「偉そうに……そんな伊賀は偉いって見せつけたいだけだろ」


「まあ平たく言えばそうだね」


 そう言うと悠輔はくくっと笑った。


「さて、こんな僕らを敵に回して君たちはどうする? 大人しく淘汰されるか、それとも──」


「ふん……馬鹿馬鹿しい」


 悠輔のその言葉を遮ったのは静夜のその言葉だった


「そんなこと最初から決まってる。俺はお前の奥義を破る──それだけが目的だ」


 静夜はそう言うと青白く瞳を光らせる


「俺も、お前を倒して最強にならなきゃ虫の治まりどころがない」


 英太は不機嫌そうな表情を浮かべ悠輔を睨む


「あたし? そりゃ、悠輔のこと好きだから一緒になりたいけど──だってあんたそう言う気ないんでしょ……だったら、あんたを殺してでも一緒になりたい」


 ともえは暗く陰湿に光る瞳で悠輔を見る。


「僕は──この力をこんな馬鹿げた抗争に使いたくはないが、お前の一族に強い因縁があるようでな……結局はお前と相見えることになりそうだな」


 邦彦は細い瞳で鋭く悠輔を睨み付ける


 そんな4人を見て悠輔は深いため息をついた。


だが、その表情はどこかこの状況を楽しんでいるように映るくらい明るかった


「やれやれ……大体予想ついてたけどみんな退くことを知らないんだね」


 そう言うと悠輔は眼鏡の奥の真紅の瞳をぎらりと光らせ4人を睨み付けた


「もう話し合いはやめた。みんなそれぞれの目的で生き残りをかければいい。それが悪い結果を招いてもだれも恨まないこと──それだけが決まりだ」


 その瞬間また大きく開いた窓ガラスからびゅうっと乾いた強い風が吹き込む。


 そんな風に茶髪をなびかせながら悠輔は一言言った。


「今度逢うときはお互い敵同士だ」


この本の内容は以上です。


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