目次
1章 現代に巣くう忍たち
1 東大生、藤林悠輔
2 警視庁幹部、相馬泰
3 侵入者
2章 休日の忍たち
1 そして、平凡な一日が始まる
2 女子大生、進藤早紀
3 渋谷の通り魔
3章 足跡を残した忍たち
1 事件現場
2 警察官、上月静夜
3 容疑者、田上明央
4章 取調室の忍たち
1 テレビ記者、叶陽一郎
2 激突-伊賀と甲賀
3 静夜の罠
4 追跡者たち
5章 オモテの忍たち
1 お笑い芸人、風間英太
2 メイド、仁科ともえ
3 JAあおもり職員、応野邦彦
6章 ウラの忍たち
1 風魔の英太
2 戸隠のともえ
3 応変の邦彦
7章 アキバの忍たち
1 ともえと悠輔
2 帰り道
8章 学園祭の忍たち
1 東都大学若葉祭
2 舞台袖
3 トーキョーハンター
4 同業者
5 最強
9章 嵐の前の忍たち
1 ともえと早紀
2 ツイてるともえ
3 ツイてない悠輔
4 邪魔者
5 嵐が来る
10章 相見える忍たち
1 知らなくていい真実
2 悪い夢
3 百地悠輔という男
4 集いし5つの流派
5 赤い瞳の一族
6 ともえの提案
7 激突する赤と青
8 別れなさい
11章 動き出す忍たち
1 六本木のオフィス
2 戸隠の女王
3 忍者王
4 アキバのアイドル劇場
5 同盟
12章 恋煩いの忍たち
1 恋人は忍者
2 最後のデート
3 守ってみせる
13章 集結する忍たち
1 警視庁のメッセンジャー
2 集結した忍たち
3 悠輔の企み

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1 事件現場

「今日の午後二時ごろファッションビル『シャイニーズ渋谷店』でまたしても通り魔事件が発生しました。午後のショッピングを楽しんでいた若い女性たちでにぎわっていた店内は大混乱。犯人は女性4人男性2人を切りつけ、うち2人は重傷を負って近くの病院に運ばれました」

 

 悠輔たちが去ってまもなくしてあのファッションビルは黄色の規制線がぐるぐると張られていた。

 

 いつも人でごった返している場所であるが、今日だけはさすがに様子が違う

 

 たくさんのテレビカメラ、記者やレポーターなどのマスコミ関係者に制服を着た警察官、そして何十にも重なった若い野次馬たちがその店をぐるりと取り囲んでいた。

 

「しかし、この店にある救世主がいたと言うのです。目撃者によると犯人はある青年によって取り押さえられたという話です。彼はその後騒ぎのそばから姿を消してしまい行方がわかりませんが、彼がいなければこの事件はもっと大惨事になっていたことでしょう──」

 

 能天気にカメラに向かってピースサインをする馬鹿な野次馬たちを抑えながら年配の女性リポーターは淡々と原稿を読んでいる。

 

 その横を一人の男が規制線に向かってのそのそと近づいていった。

 

 ぼさぼさの黒髪にいかにも眠たそうな瞳、服装は制服の警官であるがどことなく着崩していてどこかだらしない印象を与えた。

 

 そんな彼を見て、近くにいたかっちりと制服を着た警察官は声を掛けざるを得なかった。

 

「ちょっと、君。どこの署の者だ?」

 

「俺? 渋谷署だけど?」

 

 彼はぼりぼりと頭をかきながら一言言った。

 

「じゃあ所轄のところのか……それよりも、君。何だねそのだらしない服装は!」

 

「これが普通ですけど?」

 

「そうじゃなくて……一応ここは事件現場で一般市民やマスコミがたくさん見ているんだ。そういうところくらいいつもより気合入れて──」

 

「どうでもいいけど、早く入れてくれませんか? 俺、仕事あるんで」

 

「仕事──」

 

 その言葉に警察官は彼を訝しげに見つめた。

 

 いくら自分が警察官だと名乗っても彼の年や背格好を考えて中で捜査する立場の人間じゃない。

 

 そんな彼を入れるべきなのか、否か──

 

「聞いてるのか?」

 

 彼は特段にゆっくりと警察官に語りかけた。

 

 いつの間にか眠たそうだった彼の瞳は奥で不思議な青白い光を放ち始めていた。

 

「俺はこの中に入らなければならないんだ。後で後悔したくなければそこをどいてもらいたい」

 

 彼のその言葉を聞いて警察官は不思議な感覚に襲われた。

 

 自分より年若く階級も明らかに低そうな男であるのに、彼の身体からは強い威圧感が見る見ると吹きだしている。

 

 それに彼の眠そうであり鋭そうでもある不思議な瞳を見つめると、自然と彼の言ったことこそ正しいと思えてくるのだ。

 

 頭の中がその不思議な感覚でぼんやりともやに覆われていった次の瞬間、警察官の身体は無意識のうちに動き出し彼に道を譲っていたのだ。

 

「どうぞ……」

 

 その言葉もまったくの無意識のうちのもの。

 

 次の瞬間、警察官はふと我に返りその言葉を訂正しようとしたがもう時は遅し。彼は悠々と現場のファッションビル内へと入っていった。

 

 一体、何なんだ……あいつ。

 

 頭を覆っていたもやを振り払うかのように頭を振るう彼の横でテレビ局のレポーターは原稿の結を読み始めていた。

 

「──なお、容疑者の男は心肺停止の状態で病院に運ばれ治療中です」


2 警察官、上月静夜

 ファッションビルの中は水を打ったようにがらんと静まっている。

 

 いつもなら女性客でごった返す午後のひと時、人っ子いない館内は寂しげに照明が落とされている。

 

 館内にいるのは刑事や鑑識などの警察関係者に、それを心配そうに眺める店の従業員くらい。

 

 そう、このファッションビルは突如として事件現場へと転落した。

 

 午後のひと時急に現れた通り魔の男にそれを制止させた男──二人がこの場所に残した衝撃はあまりにも大きすぎた。

 

「しかしまあ……」

 

 スーツを着込んだ若い刑事海原は思わず感嘆の声を上げた。

 

「何でまたこんな場所で通り魔とはねえ……若い女の子にそんなにうらみでもあったのかな?」

 

「さあな、それは犯人に聞いて見なきゃわからんだろ」

 

 フロアに点々と置かれた鑑識札をしゃがみこんで見ていた彼の上司である中堅っぽい刑事細川は不機嫌そうな声で一言言った。

 

「でも、犯人の田上明央は今生死をさまよっているとかいう話じゃないですか」

 

「そうだ……」

 

「大体わけがわかりませんよ。何が起きたか知らないけど通り魔のほうが心肺停止状態って──どういうことですか」

 

「つまり……あれだよ」

 

 そういうと細川は困った表情を浮かべその場に立ち上がった

 

「目撃者の話では犯人を取り押さえた青年がいたというじゃないか……そのときの格闘で犯人側がそうなったとしか……」

 

「まさか細川さん、それを信じるわけじゃないでしょうね? 刃物で武装した相手をねじ伏せるなんて警察でもなかなか出来ませんよ」

 

「まあ、そうなんだが……」

 

「まったく信じられませんよ。ただの大学生風の青年が犯人を取り押さえた反動で犯人が心肺停止なんて──本当ならその青年、とんでもない相手ですよ。このまま野放しにしてたら通り魔より危ないかも」

 

──最近の若い奴は好き勝手なことばかり言うなあ……

 

隣で不満をたらたらと言う後輩海原の話を話半分聞いていた細川は少しむっとした表情を浮かべそう思った。

 

だが、彼の言い分もわかる。

 

こんなことありえない。武装した通り魔を素手で普通の青年が取り押さえるなんて──相当な訓練がないとそんなこと一般市民には無理だ。

 

それどころかその青年との格闘で通り魔の犯人は心配停止に陥っているなんて──海原の言うとおり確かにそれはとても恐ろしい話かもしれない。

 

だが、一番事情を知っているはずのその青年は騒ぎに乗じてこのビルから消えるように去ったという。

 

犯人の意識も戻らず、彼も行方不明──こんな状況でどう捜査をすればいいというのだ?

 

「あ……」

 

 海原はふとフロアの別の場所に目を移した瞬間、急に怪訝そうに顔色を変えた。

 

「──どうした?」

 

「何で? 何で上月がここにいるんだよ」

 

「上月──?」

 

 彼の言葉を聞いて細川はふと顔を上げると、その目の前にはいかにも場違いと言われんばかりのだらしなさそうな警察官がじろじろと現場を見つめていた。

 

「まさかあいつが?」

 

「そう。上月静夜、俺の同期なんですけど、コイツがまたやる気がなくてだらしない男でね……今は多分うちの署で資料係してると思うんですけど」

 

「資料係!? 何でそんな奴が現場にいるんだ!」

 

「そんなこと俺に聞かないでください。大体現場に上月がいるなんて……明日多分雪ですよ」

 

「お前、そうは言ってもあいつの同期なんだろう。それくらい聞いて来いよ」

 

「そうは言いますが……」

 

 細川のその命令に海原は一瞬嫌そうな表情を浮かべたが、先輩の無言のプレッシャーに負けしぶしぶと彼のほうに近づく。

 

 同期の海原でさえいつも資料室でぼけーっとしている姿しか頭に浮かばない上月静夜だが、今日の雰囲気はどことなくいつもと違う。

 

 それは普段現場になんか出ないからそう見えるだけだろうけど、今日の上月は真剣を通り越してどこか近寄りがたいくらい雰囲気を出しているように思えた。

 

「……よう。上月」

 

 海原はそんな静夜の横に行き、彼の右肩をぽんと軽くたたいた。

 

 その瞬間、上月静夜は強く反応し鬼気迫る表情でそれを強く振り払ったのだ。

 

「何をする!」

 

 上月は海原にたたかれた右肩を持ちながら彼をきっとにらみつけた。

 

 その様子はどこか右肩をかばっているような風にも写った。

 

「何もしてねえよ! 何勘違いしてるんだ!」

 

 その様子に海原はむっとした様子で反論したが、それを無視するかのように上月はまた現場をじろじろ眺めだした。

 

「って──聞いてるのかよ!」

 

 その一言に上月は淡々と一言言った。

 

「邪魔だから向こう行ってくれないか?」

 

──それは俺たちの言う台詞だっつーの! 

 

あまりにもつれない上月の態度にそう言いたかったが、なぜか今日はその一言が出なかった。

 

 今日の上月静夜は自分の知ってる顔とは少し違う。

 

あのやる気がなくてとぼけている彼が何をかぎつけたかは知らないけど怖いほど真剣になっているのだ。

 

「なあ……」

 

 海原はそんな上月の横にしゃがみこむと下手に一言聞いた。

 

「一体何の風の吹き回しだ?」

 

「何が?」

 

「だって、お前現場の人間じゃないだろ。なのに今日に限って……」

 

「個人的に興味を持っただけだよ」

 

 そういうと上月は海原を避けるように立ち上がった。

 

「興味って……この犯人か?」

 

「いいや、違うね」

 

上月はそういうとにやっと不気味な笑顔を浮かべた

 

「通り魔を意図も簡単に心配停止させてしまった彼に──ね」

 

「……はあ?」

 

 その言葉に海原は思わず頭をひねった。

 

 上月が何に興味を持ったかは知らないが、いつもはやる気がない警察官で有名な彼がこれほどまで燃えている姿はとても奇妙に思えた。

 

「でもさあ、その男を捕まえてどうしようっていうの? もし容疑者がこれで死んじゃっても状況からして彼はどう考えても正当防衛だし、犯人逮捕に協力してくれたんだから警察は彼を表彰するしかできないだろう……」

 

「表彰か……それも面白いね」

 

 そう言うと上月は海原のほうを向いて一言聞いた。

 

「容疑者が心停止してから何分立つかな?」

 

「そうだな……かれこれ事件が起き三〇分程度経つからなあ。もう容疑者はあの世かも知れんな」

 

「そうかな。案外息を吹き返してるかもしれないよ」

 

「へ?」

 

 ──どういうこと? そう聞きかけたその時だった

 

 静まり返ったフロアに携帯の着メロが響き渡った。

 

 上月は表情一つ変えずに携帯電話を取り出すと恐ろしく冷静な口ぶりで淡々と電話に淡々と答え始めた。

 

 何を話しているかわからないが、ただ海原には電話の応対をしている彼は近寄りがたい殺気に似た何かを出しているように思えてならなかった

 

 やがて上月にかかってきた電話はすぐに切れた。

 

彼はひとつ息を吐くとチラッと横の海原を見て言った

 

「容疑者、息を吹き返したらしい」

 

「え? それホントなのか──?」

 

 でも待てよ──上月の情報で少しだけ希望が持てたが、次の瞬間海原に大きな疑問がわいた。

 

 容疑者が息を吹き返した情報が何故真っ先に彼に来るのだろう。

 

 やる気のない警察官である彼にそれを知る権限などない──はずなのに。

 

 それを問いただそうと海原が上月に向かって口を出そうとしたその時だった。

 

「それじゃ……俺、用事思い出したから」

 

「ちょっと待てよ。一体何の用事なんだ」

 

「あんたには関係ない話だ」

 

 上月はそう一言言い放つと足早にフロアを去って言った。

 

 一体あいつは何様なんだ──出世をあきらめたはずの同期の男を呆然と見送りながら海原はむっとした表情でそう思った。

 

 ただひとつだけ言い切れること。今日の上月静夜がいつものやる気のない男とは違う顔をしていたということだけ。

 

 それ以外はまるで何もわからなかった。

3 容疑者、田上明央

 この事件の一報を聞いたときから上月静夜は不思議な胸騒ぎを覚えていた。

 

 これが渋谷のファッションビルを襲った単なる通り魔事件だけだったのであれば、わざわざ現場に向かうことなどなかった

 

 普通の事件など無能な刑事たちに事件を任せておけばそれでいいのだ。

 

 渋谷署の資料係の自分が出る幕などないことは静夜にも重々わかっていた。

 

──だけど、今回はただの通り魔事件とはまったくの別次元の大事件が静夜の胸を響かせた。

 

それは通り魔がある若者によっていとも簡単に取り押さえられたという非常事態であった。

 

初めてそれを知ったとき、静夜はほかの誰よりも早くその青年がどんな顔を持つ人間なのかわかってしまったのだ。

 

 それを教えてくれたのは、彼が通り魔を心停止にまで追いやった技だった

 

死の拳──人の神経が集中している肩甲骨あたりを強く殴打することで敵を一瞬にして気絶させるという忍者独特の技。

 

ただ加減が強いと一撃食らわせただけで心停止しかねない文字通りの死の拳──

 

 彼も手加減すればよかったものの素人である通り魔ごときに加減を怠ったせいでこの俺に忍者であるというシグナルを出してしまったのだから──本当に馬鹿な奴だ。

 

 だが、そのおかげで彼を捜す手間が省けた。

 

ここまで来たら警察も彼の居所を捜すことに腰を上げなくてはならないだろう。そうすれば自然と自分を彼の元へ連れて行ってくれる。

 

 それにこれほどまでの使い手だ。もしかしたら自分の捜し求めている相手かもしれない。

 

そう、おととい刃を交えたあの若き伊賀の頭目に行き着くかもしれない。

 

それを思うと静夜は高揚感を抑えることができなかった。

 

滅多に行かない現場にも足を運び、ついには犯人の田上明央が入院している病院にまで来てしまった。

 

すべては誰よりも早く通り魔を抑えたあの男に出会うため。

 

そして、いち早くその相手と刃を交わらせるため──

 

静夜は誰にとがめられることなく、病院の奥へとゆっくりと歩いていく。

 

本来ならば入院している容疑者がいる病棟など自分みたいな平警察官が入れるような場所ではない。

 

だけど、彼はここに入るため少しだけ裏の人脈を使っていた。

 

普段は冴えない男を演じて隠し続けている本当の顔、それを知るものはほんのごく僅かな警察幹部の協力者だけである。

 

そしてそんな彼らの力を使って静夜は面会謝絶の田上明央の病室に入り込んだ。

 

すべては田上から件の男の情報を聞き出すため。その男を探し出すため──

 

それは警察のためでもなんでもない。すべては甲賀のためだった。

 

静夜は面会謝絶と書かれた病室のドアをゆっくり開けると、部屋の奥で寝ている田上明央をじろりと見た。

 

息を吹き返したとはいえ彼は酸素吸入器を口に付け完璧なるこん睡状態だ。

 

だが、静夜はそれを気にするそぶりもなく淡々と田上のそばに近づいた。

 

そして、何を思ったか静夜はこん睡状態で絶対安静の田上の胸をすばやく一突きした。

 

その瞬間、田上はカッと目を見開いた。

 

そしてそんな彼の耳元に口を近づけある言葉を吹き込み始めたのだ。

 

「おはよう。田上くん。君はある男によって深く眠らされていたのだよ。でも俺が君の深い眠りを覚ませてあげる。だから、俺に真実を話して欲しいんだ。君を眠らせた男のことを俺に話してほしいんだ」

 

 その言葉を聞いて田上はぎょろりとした目でゆっくりと静夜のほうを向いた。

 

 それを見て静夜はにやりと不適な笑みを浮かべた。

 

「俺の手が君の胸から離れれば君は永い眠りから目覚める。そうしたら真実をすべて俺に話すんだ。これは命令だ」

 

 そういうと静夜は田上に突き立てた手をゆっくりと離した次の瞬間、田上はごほごほと咳き込み始めた。

 

そして、誰に言われることなく彼は勢いよく酸素吸入器を口からはずした。

 

 荒く息をしながら意識が完璧に戻った田上はゆっくりと静夜の顔を見上げた。

 

 彼は冷たい視線で田上を見下ろしながら、先ほどの暗示を促し始めていた。

 

「あ、あいつに……こ、殺される!」

 

 田上は悲壮な声を絞り上げて一言そう叫び冷たい瞳で見下ろす静夜にすがりついた。

 

「な……何なんだ、あの男は──まるで機械のように、俺に襲い掛かってきやがった。俺は……あいつが怖い。あの赤い瞳が……怖い!」

 

「赤い瞳──?」

 

 その一言に静夜の表情が変わった。

 

 自然と高揚する胸騒ぎを抑えながら彼はゆっくりとした口調でさらに彼の真意を問うた。

 

「君を襲った彼はどんな風貌の男だったのかい? 何でもいいから覚えてることを言ってごらん」

 

 そう言うと静夜は彼の目の前に手をはらって見せた。

 

 すると先ほどの緊張し怯えきった田上の顔がふっと糸が切れたように無表情になった。

 

 そして淡々とした口調でまるで機械のように語りだした

 

「あの男の風貌は……背格好は175センチほど、髪の毛は短く渋い感じの茶髪、赤く鋭い瞳の上にはインテリ風な眼鏡をしてたけど、あれは完璧なイミテーションであるのは間違いない。それに──」

 

「それに?」

 

「ここに……」

 

 そう言うと田上は右頬にかるく触れて言葉を続けた

 

「ここに大きな絆創膏をしてあった」

 

「右に……大きな絆創膏?」

 

 その言葉に静夜の細い目を大きく見開いた。

 

 右頬の傷──それに静夜は大きな心当たりがあったのだ。

 

 すべては3日前、あのホテルで激突してしまった我が甲賀と因縁の宿敵伊賀──

 

 あの時出会った若い伊賀の頭目と刃を交えたその瞬間、静夜は彼にその場所に傷を負わせたことをしっかりと覚えていた。

 

 なるほど、そういうことか──

 

 疼くような鈍い痛みと同時に心のそこからこみ上げてくる熱い思いを感じながら静夜はぎゅっと右肩を手で押さえた。

 

 あの時、彼の頬を傷つけたのと同時に受けた彼の一撃──まるで彼の動きに連動するようにそれが急に痛み出したのだ。

 

だが、その痛みは彼にとってとても心地のいいものであった。

 

なにせ、まさかもう一度刃を合わせたいと思っていた相手がこんな形で自分に形跡を残してくれたのだから──

 

それを思うと静夜はうれしくてたまらなかったのだ。

 

「──ありがとう」

 

 静夜は一言そういうとまた田上の目の前で手をゆっくりとかざした。

 

 するとまるで深い眠りに落ちるかのように田上はぐったりと意識を失っていく。

 

 彼が再び目覚めるとき、自分にあったことはすべて忘れてしまっている──静夜はそういう暗示を田上にかけていた。

 

 すうすうと気持ちよさそうにベッドで眠る田上を確認すると、静夜は音もなく彼の病室を去っていった。

 

 しんと静まり返った誰もいない病棟の廊下──静夜は平然とした顔で携帯電話を取り出し通話し始めた。

 

「もしもし……俺だ」

 

 前に進みながら電話をする彼の瞳は普段見せるダメ警察官のものではない。鋭い光と殺気じみた何かを秘めた誰しもが恐れおののく甲賀忍者の頭目の青白い瞳へと変貌していた

 

「伊賀の者のことは大体頭に入っているだろうけど、少し詳しく調べてもらいたい人物がいる。奴らを率いている人物の中に特段に若い忍者がいるはず。年は二十歳前後といったところだろうか──身なりからして都内の大学に通っているらしいから、彼の身辺を徹底的に洗いなおして欲しいんだ、それに──」

 

 そういうと静夜は歩んでいた足をぴたっと止めた。

 

 そして口元にうっすらと笑みを浮かべて一言付け加えた。

 

「彼の居場所がわかったらすべて俺に報告しろ。それをどうするかって? 後は俺に任せろ。今回の件で彼を罠にかけるのはそう難しくない話だ──」


1 テレビ記者、叶陽一郎

 本棚に並べられた分厚い哲学書や心理学の参考書を悠輔はごっそり取り出し乱暴にダンボール箱の中に詰め込んだ。

 

 大学生の一人暮らしだから荷物なんて大したことないと思っていたけど、いざ引越しとなるとそれ相応に荷物はいろんなところから出てくる。

 

 それをまとめるだけで貴重な時間が奪われていると思うと悠輔はなんとも憂鬱な気分になった。

 

「しっかし、家元がこんな時期に引越しを決めるとはなあ……」

 

 どこからか出てきた模型飛行機を飛ばしながら叶陽一郎は一言つぶやいた。

 

「理由はなんだ? やっぱり例の通り魔事件か?」

 

「それ以外に何があるって言うんだ」

 

 悠輔はその問いに連れない態度で答えた。

 

「でも、そんな夜逃げみたいに逃げることはないんじゃないの? 第一お前が犯人じゃないんだしさ」

 

「君は認識が甘すぎる。だからこそ住所を変える必要があるんだ」

 

「ほう……まるで警察に住所がばれるのを恐れているようだな」

 

 陽一郎のその言葉に悠輔は否定はしなかった。

 

 ダンボールに本を詰め込み終わってガムテープで封をしながら悠輔はため息混じりに答え始めた。

 

「あんなことをしでかしてしまったんだ。警察は僕を事件の参考人として捜しているに違いない。それよりも恐れているのは──その警察内部に他流派の人間が混ざっている可能性があるからだ」

 

「ほう……それはありえない話じゃないな」

 

「この前のホテルで甲賀に襲われた件だって結局は警察がらみだ。奴らが今回の件を使って僕を──伊賀を追い詰めることのできるまたとないチャンスなんだからさ」

 

「なるほどな」

 

 それを聞きながら陽一郎は戻ってきた模型飛行機をキャッチしながら言葉を続けた

 

「でもさあ、もし悠輔の予想が本当だとしたら──いまさら引っ越したって無理だと思うなあ。だって向こうも俺たちと同じ忍者だぜ?」

 

「それくらいわかってる。僕はただ時間を稼ぎたいだけだ」

 

 悠輔は明らかに不機嫌そうに答えた。

 

「住所さえ変えてしまえば向こうだってまた調査のやり直しだろ。それだけの時間さえあれば伊賀の力を使って事件をもみ消すことだってできる」

 

「ほほう……自分の不始末のために俺たちを総動員するわけだ」

 

「……その言い方は悪意を感じるな」

 

 そういうと悠輔は本が詰まったダンボールを後ろにまわすと、陽一郎のほうをじっと睨んだ。

 

「そういう日の丸テレビの記者さんはこんなところで油を売ってていいの? あんまりサボりすぎるとクビになるよ」

 

「あっれー? 俺一応取材に着たんだけどなあ。渋谷の通り魔を取り押さえた英雄にさ……」

 

 冗談をこぼす陽一郎を見て悠輔は深いため息を付いた。

 

 叶陽一郎はこう見えても表の顔はテレビ局の報道記者をやっているのだから驚きだ。

 

 しかし、彼の働きによって伊賀の意のままにマスコミ操作ができるという利点もあるのだ。

 

「何度も言うけど、例の通り魔事件はちゃんと僕の存在はもみ消してくれるよね」

 

「まあ、うちの会社は何とか報道操作はできると思うけど──すべてのマスコミが俺たちの意のままに動いてくれるわけじゃない」

 

「──だろうね」

 

 そういうと悠輔は苦々しい顔をした。

 

「警察と同じようにマスコミにも他流が混じってる可能性があるもんね。一概にすべて握りつぶせるようなうまい話じゃないか」

 

「そういうことだ」

 

 陽一郎はにやっと笑いながら煙草に火をつけた。

 

「でも本当のところあの事件の英雄が目の前にいるんだったら特ダネとして社にもって帰りたいところだ。そうしたら俺も少しは出世するかもしれないし……」

 

「そんなことしたら、殺すよ」

 

 笑顔を浮かべながらそういう悠輔の顔を見て陽一郎は苦笑した。

 

「やらねえよ。俺、出世より命のほうが大事だし──」

 

 その時だった。

 

 雑然と散らかった悠輔の部屋にけたたましくインターホンが鳴り響く

 

 悠輔はそれにはっとして対応しようかと立ち上がったが、それよりも先に陽一郎がそれに対応しようと扉を開けてしまっていた。

 

「はいはい、何の御用ですか……」

 

「あ……」

 

 彼の目の前にいたのは一人の女子学生──悠輔の恋人である進藤早紀だった。

 

 だが、早紀にとって叶陽一郎という人物と出くわすのはこれがはじめてであった。

 

 180センチ強ある偉丈夫にくわえ無精髭に加え煙草──早紀にとっては彼の存在はとても威圧的にしか思えなかった。

 

「あの……悠輔います?」

 

「悠輔……?」

 

その言葉を聞いてさすがに鈍い陽一郎でも真実に容易に気づくことができた

 

 早紀の顔を見るなりにやりとどこかいやらしそうな笑みを浮かべ彼女を見つめた。

 

「そっかー。君が悠輔を骨抜きにしちゃってる例の彼女ってわけねぇ」

 

「馬鹿! 余計なこと言うな」 

 

 その言葉を聞いて悠輔はお尻に火が付いたように陽一郎に食って掛かった。

 

 いつもなら殺気じみた鋭い視線であるはずの彼の瞳は今日に限ってどこか迫力がなかった。

 

「ほら、彼女を目の前にするとそうやってムキになるんだからあー」

 

「──うるさい!」

 

 そういうと悠輔はキッと牙を見せて唸り忍者のみ通じる心の会話『心読』で陽一郎を警告した

 

(早紀の前余計なこと言うな。本気で殺すよ)

 

(おーおー、家元は恐ろしいことを言うな。それ声に出して言ってみたら?)

 

(とにかく君は何の関係もないんだから消えてくれない? あんまり僕を怒らせると──どうなるかわかるよね?)

 

(脅しか……やっぱりそれも早紀ちゃんに聞こえる声で──)

 

 その一言に悠輔は陽一郎の胸を軽く小突いた。さっさと部屋の奥に消えろと言わんばかりの視線とともに。

 

 それを見て陽一郎は「しゃあないな」と苦笑を浮か段ボールがちらかる部屋の奥へ消えていった。

 

 悠輔は彼を気にして早紀と一緒に部屋の外へ出ると、ばたんとドアを閉めた。

 

「ねえ、悠輔……」

 

「ん?」

 

「さっきの人……だれ?」

 

 やっぱりその質問からか──悠輔はそれを聞いて天を仰いだ。

 

「んー。あれ僕の従兄なんだ。一応テレビ局に勤めてるみたいだけど……」

 

 陽一郎が従兄であるというのは本当の話。悠輔の父と陽一郎の母はきょうだい関係だ。

 

だが、何も知らない早紀にはそれ以上の秘密を喋ることは到底無理だった

 

 陽一郎が伊賀忍者の幹部であることも、悠輔にとって右腕的存在であることも絶対に口外してはならないことだった。

 

「へえ……テレビ局の人なんだ。見かけによらないね」

 

 だが何も知らない早紀はテレビ局員という単語だけに強く反応していた。

 

「──でしょ?」

 

 悠輔はそんな彼女に乗っかるように言葉を進めた。

 

「僕も本当に謎だなって思ってたんだ。あんな不良がよくテレビ局に入社できたなって」

 

「でも、すごいじゃん。マスコミ関係の親戚がいるなんて──やっぱり悠輔って本当に育ちのいい家系なんだね」

 

「育ちのいい?」

 

「だって前、言ってだじゃない。お父さんは地元三重の県議会議員だって言ってたじゃん」

 

「あ……」

 

 先のその言葉を聞いて、悠輔はいまさらながら口を押さえた。

 

 付き合って間もないころだろうか──家族構成を聞かれたときうっかり喋ってしまったのかもしれない。

 

「本当に悠輔ってすごいよ。親は県議員だし親戚にテレビ局員はいるし──そんでもって本人は天下の東大生だよ。なんか……手の届かない存在みたいだわ」

 

「言いすぎ……」

 

 そういうと悠輔は恨めしい目で早紀をチラッと見た。

 

「で、ここに来た用件は何? そんな世間話しにきたわけじゃないんでしょ」

 

「──もう! どうしてあなたはそう無愛想なのかなあ」

 

 そんな悠輔の態度が不服なのか早紀は少しむくれながら言った。

 

「悠輔、こんな時期に本気で引っ越す気なの?」

 

「そうだけど?」

 

「そうだけどじゃないわよ。引っ越す理由がさっぱりわからない!」

 

「理由ねえ……」

 

 その言葉に悠輔は困ったように頭をかいた

 

 本当の理由など言えるはずがない。他流派の忍者にかぎまわれたくないから引っ越すなんて──早紀に通用する言葉じゃない。

 

「あんまり理由っていう理由なんてないんだけど──しいて言えば、この部屋……出るんだよ」

 

「出る?」

 

「そう……コレがね」

 

 そういうと悠輔は幽霊のまねをしながら早紀に迫っていった

 

 それを見て早紀は身体をびくっとさせて驚いた。

 

「きゃ! それ……本当」

 

「ああ、本当さ。だってここら辺──昔、墓地だったらしいしさ」

 

 悠輔はわざとおどろおどろしく早紀に方って見せた。

 

彼女はこの手の話が苦手なのだろうか──急に顔面蒼白になり緊張した面持ちになった。

 

「まあ……それなら仕方ないのかもしれないけど」

 

「そう、幽霊と一緒になんか寝てられないもんね」

 

「うん……」

 

 早紀は言葉少なに一言そういうとぴたっと黙り込んだ。

 

 そんな彼女を見て悠輔はふっと優しい笑みを浮かべ彼女の頬を軽く触った。

 

「大丈夫。新しい引越し先は君にちゃんとおしえるから……」

 

「本当?」

 

「今度は霊が出ないアパートだと思うから君も寄ればいいよ。まあ、どうなるかは先の話だけど」

 

 くさい台詞だ──悠輔は自分が言った矢先カッと頬を紅潮させた。

 

 だが、悲しいことにこうでも言わないと納得しないのが進藤早紀という女性なのだ。

 

「──ありがと」

 

 くさいくらい甘い言葉に早紀はにっこりと笑って見せた

 

 とりあえず今日も自分の本心は偽れたようである。

 

「せっかく来てもらったんだけど、今日があいにく搬出日なんだ」

 

「うん……」

 

「大してかまってあげられないけどごめんね」

 

「ううん、いいの!」

 

 そういうと早紀は気丈に笑って見せた。

 

「私は疑問が解決したからそれでいいの。それに従兄さんにずーっと手伝わせっぱなしもまずいんじゃない」

 

「ああ……」

 

 あいつは別にいいんだ。僕のほうが上の立場なんだし──

 

 悠輔はそういいたかったがその言葉を噛み砕きながらにっこりと作り笑いを浮かべた

 

「んじゃ、私──今日は帰るわ」

 

「本当にごめんね」

 

「ううん、気にしないで。引越し先、ちゃんと教えてね」

 

 早紀はそう微笑むと学生用アパートの細い廊下を歩き始めた。

 

 そんな彼女の後姿を見送りながら悠輔は深いため息をひとつ付いた

 

 ──いつまでこんな嘘ばかりつかなくちゃならないのだろう

 

 そう思うと悠輔の心の中に何か重いものが垂れ込んだ。

 

 正体を隠すための嘘は悪い嘘じゃない。

 

今までそう思っていたけど、何故今になってこんな罪悪感を覚えなければならないのだろう。昔は、こんなはずじゃなかったのに──

 

「大丈夫。新しい引越し先は君にちゃんとおしえるから──」

 

 悠輔の耳元で低い声で響き渡った声に彼はびくっとそちらを振り返った。

 

 そこには意地悪そうな笑顔を受けた陽一郎がニヤニヤと笑顔を浮かべて立っていた。

 

「──馬鹿! 冗談が過ぎるぞ!」

 

 悠輔はそんな陽一郎にムッとした様子で散らかった部屋に再び入った。

 

「でも、まさか家元の口からこんな甘い台詞が出るとはなあ」

 

「他の門下の者に言ったら殺すよ」

 

「俺が言わなくても直に噂になるんじゃない?」

 

「───」

 

 その一言に悠輔は反論が出来なかった。

 

 悔しそうに唇をかみながら悠輔は黙々と荷物をダンボールの中につめた。

 

しばらく雑然と散らかった二人の部屋の中に沈黙が垂れ込んだ。

 

悠輔も陽一郎もお互いにそれ以上しゃべろうとはしなかった。まるで暗黙の了解でそれ以上しゃべらないようにしているかのように。

 

やっと荷物が一通り片付いて悠輔がふうとため息をついたその時、またしてもインターホンがけたたましくなった。

 

「待って、今度は僕が出る!」

 

 また、来客に応対しようと立ち上がった陽一郎を制止するように悠輔は叫ぶと、大またで散らかる荷物をまたぎながらドアに近づいた。

 

 まさかまた早紀が訪れることはないとは思うけど、やはり陽一郎に対応させるのは不安だ。

 

 だがドアを開いた瞬間、悠輔が予想だにしなかった人物が立っていたのだ

 

「あのう……」

 

 そこに経っている人物を見て悠輔は愕然とした。

 

 その男の服装は濃紺の警察官の制服だったのだ。

 

「──なにか?」

 

 悠輔は引きつった顔を隠さずに一言聞いた。

 

「藤林──悠輔さんのお宅はこちらでいいんですよね」

 

「………」

 

その言葉に悠輔は硬い表情のまま黙って頷いた。

 

それを見て警察官はにやっと笑顔を浮かべた。

 

「よかったー! この情報で間違ってなくて。信頼できる者からの情報じゃなかったから不安だったんですよね」

 

「あの……ご用件は?」

 

 悠輔は一言そう聞くと、警察官は悪気のない笑顔を浮かべた

 

「この前、渋谷の方で起こった通り魔事件であなたが参考人になっているんです。とりあえず署のほうまでご同行願えませんかね?」


2 激突-伊賀と甲賀

 何故こんなに早く僕の居場所を突き止めたんだ──?

 

 悠輔はその事実に愕然とするばかりだった。

 

 日本の警察がそれほど優秀ではないことはその世界にいる悠輔にとって知り尽くした話だ。

 

それなのにこんな短期間で自分の居場所を突き止めるなんて──今の警察でそれほどまでに迅速に動けるものなのだろうか?

 

そんな疑問を持ちながら悠輔はしぶしぶ渋谷署に向かう羽目になった。

 

もちろんこみ上げてくるのはどこにも吐き出せない怒りばかり。

 

それが自分に向かっているのか警察に向かっているのかはわからないけど、ただただ怒りだけがこみ上げてくる

 

それは渋谷署の取調室に通された瞬間、ついに爆発した。

 

「ちょっと! いい加減にしてください!」

 

 悠輔は刑事が取調室のドアを閉めたらすぐに噛み付いた。

 

「何で取調室になんか案内するんですか! これじゃあ僕がまるで犯人みたいじゃないか!」

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。藤林さん」

 

 海原と名乗った若い刑事はお冠状態の悠輔をおろおろしながらなだめた。

 

「別にあなたを犯人扱いしてるわけではありませんよ。現に犯人は無事あなたの力添えで逮捕できたのですから」

 

「──逮捕?」

 

 その言葉に悠輔は眉をひそめた。

 

「ええ、最初心配停止状態で見つかった容疑者の田上明央は無事回復して昨日逮捕できました。ご協力、本当にありがとうございます」

 

「え──」

 

 犯人、死んでなかったんだ──それを知って悠輔は安堵のため息を付いた。

 

 あまりにも唐突な事件であったため手加減をすっかり忘れてしまったことが気がかりだったためその朗報は少し悠輔の心を和らげた。

 

「──で、今日は何で僕を呼んだのですか?」

 

 悠輔はゆっくりとパイプ椅子に座りながら、刑事の海原をじろりとにらみつけた。

 

 それを見て海原は一瞬顔を硬直させた。悠輔の瞳には言いようのない威圧感がこめられていた。

 

「ええ……」

 

 海原はそんな悠輔から目をそらすように、書類に目を通した

 

「まあ、参考に話を聞こうかなと──あ、怒らないでくださいよ。本当に参考程度なんで気を張らないでくださいね。その後で──通り魔の容疑者を捕縛した藤林さんを我が署で感謝状を送ることになりまして──」

 

「何? 表彰だって──?」

 

 その言葉を聞いて悠輔は顔に色を浮かべた。

 

「そんなこと聞いてない!」

 

「まあまあ、そんな事言わないでくださいよ。今日は新聞やテレビ局も来るらしいですよー。なんせ渋谷のど真ん中でおきた通り魔を解決した張本人なんですから」

 

 海原の話を聞くたびに悠輔の顔は一気に青ざめていった。

 

 警察で表彰? テレビ局からの取材──? 普通の一般庶民なら跳んで喜ぶようなシチュエーションなのかもしれないが悠輔にとっては絶望的な話だった。

 

 それは最悪のシナリオだった。

 

自分の存在がこんな形で公になるなんて──それは忍者として最も犯してはいけない禁忌であった。

 

「あの、やめてもらえませんか?」

 

「え?」

 

 自信なくつぶやいた悠輔に海原は意外そうな顔を浮かべた。

 

「表彰とか──本当にやめて欲しいんです。僕、シャイなんで……」

 

「ええ、でもこんなチャンスなかなかありませんよ? ヒーローになれるんですから」

 

 ──ヒーローになんかなりたくないから断ってるんだ。

 

 悠輔はそう言いたそうに海原をきっと睨み付けた。

 

「それよりも、藤林さん──あなた、天下の東都大学の学生さんなんですねえ」

 

「はあ……」

 

「すごいじゃないですか。その若さだと現役合格ですか?」

 

「はあ、一応──」

 

「ほほー。ということは頭脳も天才的なんだ」

 

 東都大生ということをえらく感心する海原を見て、悠輔は居心地の悪さを感じた。

 

 褒められていることは素直に喜べばいいのだろうけど、今の悠輔にはまったくそういう気にならなかった。

 

「まあ、とりあえず……事件のことを詳しく聞かせていただけませんか?」

 

「僕が? でも犯人は逮捕されたんでしょ?」

 

「そうなんですが……とりあえず参考ですから──」

 

 海原がそう言いかけたその時だった。

 

 ぴったりとしまっていた取調室の扉がいきなり重々しく開かれた。

 

 その人物の登場に悠輔も刑事の海原も驚いた様子で後ろを振り向いた。

 

そこに立っていたのは着崩した制服を着た眠そうでだらしないある警察官。

 

「ちょ……上月!」

 

 彼の姿を見た瞬間、刑事の海原は憤慨した様子で強い口調で責めた。

 

「ノックもなしに取調室に入ってくるなんて何事だ! 大体、お前みたいな奴がここには入れないはずだぞ!」

 

 刑事の海原が怒るのも仕方がない。

 

 急にペエペエの制服警官が挨拶もなしに取調室に入ってくるなんて本当ならありえないはず。

 

 だが、上月と呼ばれた制服警官は表情の欠けた顔で海原をずっと見つめていた。

 

「なんだあ~!? 黙ってないで用件でも言ったらどうだ? それとも用事も何もないのにここにきたのか!?

 

 そんな彼にいらついて海原は彼の目の前に立つと威圧的ににらみつけた。

 

 だがそんな刑事よりも無表情でじっと一点を見つめる制服警官のほうが悠輔にはずっと威圧的に見えたのだった。

 

 その時だった。だらしなさそうな制服警官が一言言い放ったのは──

 

「お前は出て行け」

 

 その一言に海原は間が抜けたように「へ?」と息を呑んだ。

 

 だがすぐにその暴言に爆発したのか彼の胸倉をぎゅっとつかんで壁にたたきつけた。

 

「ふざけるな!お前そんな口たたける立場か──」

 

「お前は邪魔なんだ。さっさと取調室から出て行け。これは命令だ──」

 

「命令──!」

 

 そう言われた瞬間、海原の表情が一気に固まった。

 

 それを傍らから見ていた悠輔は思わずはっと息を呑んだ。

 

 その変化は素人目ではなかなかわからないが悠輔はばっちり見抜いていた。

 

この上月と呼ばれた制服警察官が仲間に向かって催眠術に似た暗示をかけ始めていることを。

 

「お前にはこの男の真実を知るには少々役不足。それならその役を俺に代われ。彼だってそれを切に望んでいる。何も知らない庶民のお前には──この男を丸裸になんかになんかできない」

 

「俺だと──無理なのか?」

 

 その言葉を聞いて海原は何かに取り付かれたようにぼそぼそとつぶやき続ける

 

 それに畳み掛けるかのように制服警官はさらに言葉の綾をつなげた。

 

「さあ、この部屋から出て行け。お前はここでは必要のない人間なんだ。さあ、早くそのドアを開けて出て行くんだ。それがお前のためだ。さあ、早くしろ!」

 

「出て行く──!」

 

 海原がそう言ったその瞬間、制服警官は海原の前でぱちんと指を鳴らした。

 

 次の瞬間、まるで抜けていた魂が戻ってきたかのように海原はしゃきっと背筋を伸ばした。

 

 そして何事もなかったかのように、制服警官と悠輔を残したまま取調室から足早に出て行ってしまった。

 

 その様子を見送ることなく制服警官は不気味な笑顔を浮かべ続ける

 

 そして、次の標的である悠輔を舐めるような青白い瞳で見た。

 

 悠輔はその瞳を見てはっとした。その青い光には強い因縁があったのだ。

 

「まさか、君は──」

 

 悠輔はそう言いながら警戒感で全身が総毛立つのを覚えた。

 

 まさかこんな場所でつい先日刃を交えた相手と出くわしてしまうなんて思いもよらないことであった

 

「やっと気づいたようだな」

 

 その男は呆然とする悠輔を見てにやりと笑った。

 

「藤林──否、百地(ももち)悠輔君」

 

 その名前で呼ばれたことに悠輔は強い衝撃を覚えた。

 

「何故、その名前を──」

 

「とぼけないで欲しいな。俺たちの世界では有名な話じゃないか」

 

 そう言うとその男は悠輔に対するように椅子に座った。

 

「昔、聞いたことはあった。伊賀の大頭目であった百地家はその存在を完全に隠すために別の(なまえ)を名乗りだした。それが伊賀ではポピュラーな名前の藤林という姓だった──それまでは半信半疑の話だと思っていたけど、お前を調べてみるとそれが嘘じゃなかったってことに俺は驚いたよ」

 

 男のその話を聞いて悠輔は悔しさで唇をぎゅっと噛んだ。

 

 自分の正体がここまでも公になってしまったのも悔しいが、それをやってのけたのがあの時の爪男だと思うと強い敗北感を覚え悔しくてたまらなかった。

 

「君こそ、本名を名乗れ──」

 

 悠輔はゆっくりと顔を上げ目の前の男をにらみつけた

 

 その眼鏡の奥の瞳は自然と真紅に染まっていた。

 

「そうだな、俺の方も名乗らなきゃフェアじゃないか──」 

 

 そう言うと男はひとつ息を吐いて彼を見た。

 

「俺は甲賀流第18代頭首、上月静夜(こうづきしずや)。姑息なお前の家とは違って俺は表の世界でもちゃんと本名を名乗って生活している」

 

 何が姑息だ──

 

 悠輔は静夜のその一言に青筋を立てそうになったがぐっと唇を噛んで我慢した。

 

「やれやれ、君は本当に口が悪いね」

 

悠輔は一言そうため息を付いた。

 

「君は本名を隠しているって思っているらしいけど、君も一応警察官だろ。僕の戸籍の姓が『藤林』だってことは知ってるはずだけど?」

 

「お前の本当の姓は戸籍をいじってまで隠さなければならないのかい」

 

「甲賀の情報伝達能力っていうのはその程度のものなのか?」

 

 そういうと悠輔は蔑んだ笑みを浮かべた。それを見て静夜の顔から初めて余裕の色がなくなった。

 

「君は『百地』って姓を勘違いして覚えているようだからおしえてあげるよ。僕たち伊賀忍者は『百地』と名乗るものには絶対服従しなければならない。なぜならその姓は伊賀忍術のすべてを極めたものにしか与えられない。そしてそ『百地』の名をもらった以上その者はその名を封印しなければならない──どうしてかわかるかい? まあ、甲賀の君にこれ以上は語るわけにはいかないけど」

 

「ほう……それは面白い話だ」

 

 そういうと静夜は机に頬杖を付いて悠輔を青白い瞳でじっと見つめた

 

「つまり『百地』という名前はお前を伊賀忍術の奥義継承者だと教えてくれているわけだな」

 

「君も人のことがいえるのかい? 僕たちは流派は違えど同じ立場の人間。君だって僕と同じように甲賀の奥義を学んだはずだと思うけど?」

 

 そういう悠輔の瞳も燃えるような赤い視線で静夜を睨んだ

 

「ふん、面白いことを言うな。伊賀の若き家元は」

 

 静夜はその言葉を聞いてにやっと笑顔を浮かべた

 

「いいだろう。俺がお前をここに招待した目的をここで特別に教えてやろう」

 

「へえ、やっぱり君の差し金だったんだね」

 

 そう言うと悠輔は納得したかのようなため息をついた。

 

 どおりで警察にしてはやけに手回しが早すぎるとは思ったがやはり裏で甲賀が動いていた──というわけか。

 

「単刀直入に言うよ。お前ら、俺たちと組む気はあるか?」

 

「はぁ?」

 

 その言葉に悠輔は呆気にとられた。

 

だが静夜は全く動じもせずに淡々と言葉を紡いでいった。

 

「よく考えてごらんよ。伊賀の家元さんよ……俺達甲賀とお前ら伊賀が今手を組んだら日本を征服できるかもしれんぞ」

 

「まあ、それは否定しないけどね……」

 

「それにだな、もはや俺たちの争いは不毛なんじゃないかな?」

 

 そう言うと静夜は長い足を組みなおした。

 

「甲賀と伊賀──一体何百年覇権争いをしている? その間どんどん歴史は変わっていって今は傍目からみれば平和な時代。一体何のために俺たちは争うのだ?」

 

「それは……」

 

 その問いかけに悠輔は困った表情を浮かべた。

 

「僕でもよくわからないな。君たちとの因縁が濃すぎて仲直りも不可能だったりして」

 

「ふん……つまり、まだ俺たちと戦うつもり──ってわけか?」

 

 その一言に悠輔はむっとした表情を浮かべて反論した。

 

「喧嘩を吹っ掛けてくるのはいつもそっちでしょ? それなのに今日は停戦か? 悪い冗談すぎて明日は雪じゃないのか?」

 

「それが冗談じゃないんだな。家元さんよ」

 

 そう言うと静夜はにやっと笑った。

 

「こんな長きに渡っていがみ合っていた俺たちだけど、もはやそれは古い──俺はそう思う。だからどうだろう? この際甲賀と伊賀で停戦同盟してもおかしくはないだろうか? 今更、うん百年前の遺恨を理由として争う必要なんてない」

 

「───」

 

 その一言に悠輔は訝しげな表情を浮かべた。

 

 確かに静夜の言い分を一理ある。

 

この現代の世に果たして自分たち忍者は必要あるのか、そして争う必要はあるのか。それは現代の忍者にとっていつも頭をもたげる永遠のテーマだった。

 

だけど──何故今更になって静夜は何を言うのだろう。

 

元はといえばお互いに目の敵にしている存在である伊賀と甲賀。それなのにこんな場所で停戦同盟を持ちかけるとは

 

──この男のことだ何か大きな裏があるに違いない。悠輔はそう思えてならなかったのだ。

 

「どうした?」

 

 黙りこんだ悠輔を静夜は舐めるような視線でじろじろと見つめながら言った。

 

「そう悪い話じゃないと俺は思うが、お前は何を迷っているんだ」

 

「別に……迷ってるわけじゃない」

 

 そういうと悠輔は深いため息を付いていった。

 

「君は一体何を企んでる?」

 

「何がって……」

 

「いい加減本当の理由を言ってごらんよ。君が簡単に落とせるほど僕は馬鹿じゃない」

 

 その一言を聞いて、静夜の表情が一気に硬直する。

 

 その瞬間彼の身体から切り裂くような殺気が放たれた。

 

「やれやれ、まったく俺の暗示にかからないな。伊賀の家元は」

 

「残念だったね。僕は君がいつも操ってる相手とは精神構造がちがうんだよ」

 

 でも一瞬だけだが静夜の暗示にかかりそうにはなった──しかし、悠輔はあえてそれは伝えようとはしなかった。

 

この男、おそらく調子に乗せると厄介だ。とくに今みたいな口での対戦だと時々負けてしまいそうになるのは確かだ。

 

「じゃあ、僕も単刀直入に聞くよ……甲賀の頭目であろう君がなぜ警察組織に入り込んでいる? しかもその様子じゃ出世もあきらめてるみたいだし……」

 

 そう言うと悠輔は静夜の格好を舐めるような目つきで見まわした。 

 

 だらしなく来た制服にぼさぼさの頭──おそらく左遷部署にいるのだろうなと容易に想像できた。

 

「警察での出世なんてとうの昔に諦めた。それでもいるのはほかならぬ甲賀のため──さ」

 

「ほう……じゃあそこにいるってことは甲賀にとって得だと?」

 

「ああ、得だね。なにせ警察と信頼的関係が結べられるからな」

 

「ふーん」

 

 そう言うと悠輔はじっと真紅の瞳で静夜を睨みつめた。

 

「つまり先週のホテルでの出来事は先客の甲賀より警察が伊賀に色目を使ったもんだからから怒ってやってきたんだね」

 

「まあ……そういところだ」

 

「それはよかった。君のあの時の怒り心頭の様子はおそらく僕を殺したあとあそこで怖かってた相馬刑事もろとも殺すつもりだったんだね。でも僕が予想以上に強かったもんだから対応に苦慮した──と」

 

「……」

 

 その一言に静夜は押し黙ったまま悠輔を青白い瞳でじろりと睨んだ。

 

 どうやら悠輔の言ったことは図星であったらしい。

 

「しかし残念だけど、君たちが思っているほど警察は意のままには操れないよ。そうしてもらったら僕たちが困るからね」

 

 そう言うと悠輔の瞳からギラリと赤い光が発せられた。

 

 しかし、静夜は一歩も怯まなかった。逆に面白いと言わんばかりの笑みを浮かべて

 

「ほう……つまり俺たちの領域を侵す──ということか?」

 

「これ以上君たち甲賀の好き勝手にはさせられない。それが僕の答えさ」

 

 その一言に静夜は狂ったかのように笑い転げた。

 

 そして挑戦的な視線で悠輔を見ると静夜は一言言った。

 

「面白い! 結局伊賀は修羅の道を行くと言うわけだな」

 

「ふん。僕たちが君たちと同じ土俵に上がった時点で停戦なんて考えてなかったくせに……」

 

「しかし残念だ。甲賀と伊賀が組めば本当に日本が簡単に支配できると思ったのに」

 

 その言葉に悠輔は冷淡な視線で静谷を見ると笑った。

 

「僕は君みたいにそんな大それた野望なんてないから」

 

「ほう……」

 

「僕の主義は売られた喧嘩は3倍にして相手に返すってこと。それ以外のことは何も考えてないよ」

 

 悠輔は無邪気にそう笑ったがその視線は鋭く赤い光を発し続けた。

 

 僕はいつでも相手になってやるよ──そう言いたげな視線に静夜の興味は強くそそられた。

 

「やれやれ、伊賀の家元さんは好戦的だな」

 

 そう言うと静夜は蔑んだような笑みをうかべ悠輔を見た。

 

「しかし、その余裕はいつまで続くだろうな。これからのお前の予定を見ると忍者として笑っていられる状況ではない」

 

「ああ……」

 

 静夜にそう言われ悠輔は一気に顔を曇らせた。

 

 そして不快感いっぱいの表情を浮かべ彼を睨みつけた。

 

「もしかして今日の感謝状授与も君たちの差し金?」

 

「いや。これは自然の流れってやつかな──」

 

「まあ……そうだろうね」

 

警察で表彰されるなど悠輔にとって不服であった。だが、ここで断るなどもうできないこともわかっていた。

 

──まあ、いいや。どうせ後で情報を握りつぶせば公になどならない。

 

僕たちにはそれができる力があるんだから……

 

「えらい余裕だな」

 

 悠輔の落ち着き払った態度に静夜は感心したように言った。

 

「もしかしてお前……こんな表彰式伊賀の力を使って闇に葬ろうとでも思っているのか?」

 

「まさか……僕たちはそんなに万能じゃないし」

 

「でもおかしいよなあ……」

 

 そう言うと静夜は悠輔の顔をじろじろと見つめた。

 

「この前の渋谷の通り魔事件でお前のこと報道したマスコミって少なすぎだと思うんだよなぁ……」

 

 その言葉に悠輔は訝しげに眉をひそめた

 

「──どういう意味だ?」

 

「おや、まだとぼけるつもりか?」

 

 静夜はそういうとにやっと笑った。

 

「お前らの流派が情報操作が得意だってことは有名な話。それを使ってどうにかことを小さくしようとしたらしいが、今回ばかりはそうはいかないぞ」

 

「何──?」

 

「マスコミに内通しているのは伊賀だけじゃないってことだよ。百地君」

 

 静夜の口からそれを聞いて悠輔は思わず顔色をガラッと変えた。

 

 形勢逆転。それを見て静夜は誇らしげな表情を浮かべた。

 

「まあ、気にするな。ニュースを見てお前の正体に気づく奴なんてそう多くはないさ。そう思えば問題ないだろう」

 

 その一言に悠輔は初めて悔しさを顔に出しに歯ぎしりした。

 

 そうか。コイツそれが目的だったんだ──

 

 静夜にとって今日悠輔を警察に呼び出したのは、彼を取り調べるためでも表彰するためでもない。彼の正体を如実に公に晒すのが目的だったのだ。

 

「覚えてろ……」

 

 悠輔はまるで腹の底から出た呪いのような言葉で一言言った。

 

「僕は君の思うどおりにはならない! そして君を──甲賀を絶対に忍者界のトップにはさせない! それが僕の──『百地悠輔』としての意地だ」

 

 そう言った悠輔の眼鏡の奥の表情は完璧に赤い瞳の伊賀の若き頭目にして秘伝の名を継いだ『百地悠輔』の顔になっていた。

 

 それを見て、上月静夜は初めて嬉しそうな笑みを口元に浮かべた。まるで最高の好敵手を見つけたかのように



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