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彼女は、様々な男の誘惑の中から、賢明な相手を選び出すであろうし、選択に過ちが起ころうとは思われなかった。だから、彼女なら都会でも十分にやって行ける、とぼくは確信していたのだ。彼女はむしろ、都会に向いている、とさえ言うことができるだろう。そしてもし彼女を成功に導くことがあるとするなら、それは、男なら一度は惹きつけずにはおかない彼女のその美貌なのだ。彼女の美しさは、全く申し分がなかったし、ぼくだって、かつて何度か、彼女はぼくの妹ではなく、恋人であったなら、と思ったことがあるほどなのだ。彼女の雰囲気の中には、そんな、男を虜にせずにはおかないような悪魔的なものが、ひそんでいるようにさえ思われる。リサに武器があるとするなら、まさにそれなのだ、とぼくは思った。それが、常時、男を惹きつけるのに役に立つだろうし、彼女を成功にも導くだろう。しかし、同じものが、彼女を破滅に導くかも知れないのだ。彼女の賢明さから見れば、それはほとんどあり得ないように思われたが、しかし、わずかな可能性として残されるような気がした。だが、二、三の危機はあるにしても、おおむね、順風満帆で、彼女は生活をして行くに違いない。そのことを思うと、ぼくは少し羨ましい気さえして来た。ぼくにはあんなに冷たかった同じ都会が、美しい彼女には優しさの微笑みを投げかけるとは。しかし、ぼくの為にではなく、彼女のために、それはいいことなのだ。――ぼくは、彼女の、毎日の、生き生きした生活ぶりのことを想像した。彼女のあのアパートで毎朝目覚め、同宿の女友だちポーラと軽い朝食を済ました後、ショルダーバックを肩に下げて、生き生きと、勤め先を目ざして、部屋を出て行くだろう。歩道でも、地下鉄の中でも、肩をいからせ、さっそうと風を切って歩く彼女の姿は、充実そのものなのだ。通勤途上で、後ろから、誰か知り合いの男から声を掛けられでもすれば、彼女は喜んで振り向くことだろう。彼女のその笑顔には幸せが満ちあふれ、男は、彼女と並んで歩くだけで、その幸せが伝わってくるだろう。周りの光景も、パン屋や衣料品店、そばをかすめて走って行く車も、早朝の交通整理のおまわりさんも、他の歩行者たちも、街路樹も、みんな、幸せに包まれたものとして、その男の目に映ってくることだろう。なぜならそこに、幸せの原因である、美しいリサがいるからだ…

 ――ぼくは、そのような、美しいリサと話すことのできる男のことを、羨ましいと思った。ぼくは、ぼくとは異なった世界の中で生きて行く彼女のことを思うと、寂しい気持になるのを禁じ得なかった。彼女は「都会向き」であり、そしてぼくは、自分でもよく承知していることだが、「田舎向き」なのだ。この溝は、どのようにしても、埋まることはない。

 ぼくはなおも、彼女の、張りのある、充実した生活のことを、想像した。さっそうと街を歩く彼女。職場での、なごやかで、時には冗談も飛びかう、楽しい会話。そして、きびしいが、大いに心を燃えさせてくれる取材に、職場を飛び出して行くことだろう。あるデザイナーに、最近の流行をインタビューし、カメラに写し、再び職場に戻ってからレポートに書き、そして編集委員に提出して、雑誌の編集作業に、彼女自身も加わる。それが彼女の仕事なのだ。


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仕事は、夜遅くまで食い込み、議論を重ねることもあるし、早く引けたときには、女友だちや、職場の同僚たちと、レストランへ食事に出かけることもあるだろう。仕事の関係で、同僚の紹介で、全く見知らぬ人と、出会うこともあるだろう。それが、都会に埋没した彼女の生活なのだ。そんな中へ、都会のはぐれ者であるぼくが入って行く余地など、どこにあるだろう? ――それでも彼女は、電話をすれば、必ず、電話の受け口に出、きちんとぼくに応対してくれるのだった。ぼくは、そんな心優しいりサに、感謝すべきなのだろうか?

 そういう、意味あいが飛びかい、忙しさが常に追いたてている生活とは、正反対の世界にぼくはいた。振り返って自分のこのホテルの部屋を見れば、静寂そのもので満たされていた。まるで時計が止まったみたいに、忙しさなど、どこにも見られなかった。――しかし、そこにはっきりと読み取れるのは、寂しさと、そして、悲しさと、だった…


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