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君のためにメリークリスマス

 洋介君は、すっかりおねむ。

 今夜中サンタクロースを待ってるんじゃなかったの、君は。

 君はすやすや寝息をたてている。

 洋介君は天使の様な寝顔で、とても可愛い。 私の大好きな人の子供だからなおさらかも。

 私、サンタクロース。ずばりプレゼンター。

 今――、赤い服を着てプレゼントの入った白くて大きな袋をかかえて、ふす間越しに洋介君の寝入った童顔をうっとり見てる。

 サンタクロースと言えば姿をかくすが、私の場合、プレゼントがプレゼントなだけに……。

 信頼出来る情報によると、お子様は、午前三時半頃必ずや用を足すらしい。

 ――午前三時二十九分なり。

 君は夢うつつの中寝言を言う。

 「いっとくぅうっ」

 君は目を覚ます。大きくあくびしながら尻から立ち上がって、寝むそうに目をこすりトイレへ向かう。

 早めに行ったクリスマス会で園児達は、それぞれ欲しい物を色紙に書いてツリーに飾った。

 洋介君のおねだりは、〈お母さん〉だった。

 私、洋介君のお父さんに電話したの。答えは、「そうかぁー。それじゃあ……。洋介がいいと言ったらな」

 それから一大プロジェクトが始動した。

 お父さんの第一印象は、哀愁を漂わせてるんだけど、基本的に楽しそうな人だなって感じ。それからは、洋介君のお出迎えで挨拶するようになって、アドレス交換して、メールしたり、デートする関係に……。

 洋介君が「うーし。快便。快便」と腹を叩きながらトイレから出てくる。

 気配では、おしょんだけだった君は、お父さんの真似なのね。

 洋介君は、待ち伏せたひげメガネをつけた私を見て驚く。

 「サンタさん?」

 「そうだよぉー。オモチャのプレゼントたぁーくさんもってきたぞお」

 「えっ? お母さんはぁ……?」

 洋介君は、しゅん、と沈黙する。

 「洋介君はどうしてお母さんが欲しいのかな?」

 君は、口を一文字に結んでかたくなに黙り込む――。

 長い沈黙は私に答えを幾つか推測させた。

君がいつも切なそうな顔をする時――。

 私はひげメガネを取った。

 「?」と驚いた君。


 「実はね。先生、保母さんは引退して洋介君のお母さんになりたいの。――もちろん、

すっごい可愛くてすっごい美味しいお弁当つくったげるし、誰よりも先にお迎えにいくわ。運動会にはビデオカメラ持って誰にも負けない位の大声で黄色い声援おくるからね。父兄参観の日はみんなのお母さんみたいにバッチリメイクして豹柄のバック持っていくから頑張りましょ。公園デビューは、今までのコネ使ってお母さんどうしの井戸端会議で取り入っちゃうから心配なしよ。休みの日は、レミちゃんやメグちゃん誘ってサンドイッチ持ってハイキングも善いわよね。ライバルのヒロシ君に内緒でいっかなぁ~~?」

 少しづつ君の顔がほころびるのが判ったよ。

 「――こんなお母さんどうかしら?」

 「うん! うん。うん! いいよ‼」洋介君は激しくコクコクうなずくと、嬉しそうに手足をバタつかせる。

 君は、再び寝入る前に不安顔で「もう死んだりしないお母さんでいてね」と言う。

 「大丈夫」強い声で言って長男のオデコに優しくキスをした。――ところで、君々、目をとじて口をとがらせないの……。

 「メリークリスマス洋介」

 おませさんの唇を人差し指で軽く押してやった。

この本の内容は以上です。


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