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冊子版『鵺が来たりて(A5・34頁・300円)』の冒頭サンプルです。

自家通販承っております。

 

■収録■

 鵺が来たりて P3~13 (web版を加筆修正)   

 闇の跫音 P15~25 (書き下ろし)  

 常夜の産声 P27~29 (〃)   

 付録ペーパー

 

 天ツ国、第捌拾弐区。

 そこは黒に覆われた常夜の区だ。  

 わめく鐘の音が常夜の主の襲来を触れて回り、そして今宵も夜攘い衆は夜を踊る。  

 明けぬ夜と、鵺との狂宴の物語。

 

Web版 http://kizahashi6.web.fc2.com/tannpenn/nue.html

表紙 小宮様 http://escape.digiweb.jp/

準備号付録ペーパー http://kizahashi6.web.fc2.com/tannpenn/tsurumatsu.html

 

■詳細■
 階亭 Information http://kizahashi6.web.fc2.com/off.html


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最終更新日 : 2013-12-23 00:55:05

鵺が来たりて

 まったく貴様らは!

 声に合わせて机を叩く監士殿を見やりつつ、俺は欠伸を噛み殺した。

「これで、常夜が訪れて六千跳んで九日だ! 栄えある天ツ軍の一員として恥だとは思わんのか!」

 憤慨する監士殿の顔は赤い。何度も何度も机をバンバン叩くもんだから、それに合わせて頬の肉が揺れて、少しだけ愉快だ。ハゲ頭からは、今にも湯気が噴き出しそうだった。

(沸騰豚)

 思わず笑い出しそうになるのを、俺は歯を食いしばって必死で堪える。

「まーまーまーまー、落ち着いてくださいよ監士殿ぉ」

 俺たち平隊員の前に立つ隊長が、気の抜けた声でへらりと言った。

「今日こそは。ね?」

 小首を傾げて、隊長は片目を瞑った。多分。四十路を過ぎたヒゲのおっさんに片目ばちこんされて媚を売られて、喜ぶ男が果たしているんだろうか。

 案の定、太った監士殿は頬をぶるぶるさせて、気色悪そうに眉を顰めた。

「そ、その言葉に嘘は無いな!?」

「善処致します」

 隊長の隣に並んだ副長が言った。

「確約はできません。しかし、力の限りを尽くしましょう」

 淡々と堂々と言う副長の声は、隊長よりも四つ五つ若いはずなのに、隊長とは比べ物にならないくらい凄みがあった。

「……ふんっ。まったく、まったく貴様らは!」

 監士殿は仕方なしといった顔で、ぷいとそっぽを向いた。

 とりあえず、監士殿は俺たちの何もかもがお気に召さないらしい。まあ、監士殿がここに来る時はいつもぶるぶる怒っているから、俺たちも別に気にしちゃいない。

 暗い部屋には、蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れている。窓の外に広がる闇は、いつも通りに果てしない。

 兵営内の第一会議室だ。俺たちは普段「豚さん部屋」と呼んでいる。由来は、監士殿がお越しになる際に、いつもここにお通しさせて頂くからだ。

 豚さんはまだぷりぷりと怒りながら、太い指先で机を叩いている。コツコツ響く音が耳障りだった。

「おい、本当に現れるんだろうな!?」

 監士殿は、側に控えた懐手の術士殿のずるずるとした袖を引いた。

 覆面の術士殿は、こくりと深く頷く。

「監士殿ぉ、術士殿を疑っちゃダメですよう。術士殿の占の通りに、いっつもヤツはちゃんと現れてるでしょー? ね、術士殿?」

 隊長のばちこんにも動じず、術士殿は覆面を揺らしてこっくりと頷いた。

「ならばさっさと仕留めんか! 呆れて物も言えんわ! まったく、まったく! 悪びれもせず!! 少しは恥じる素振りを見せたらどうだ! それでも貴様らは栄えある天ツ軍の一員か! はやくこの第捌拾弐区を天ツ上にお返ししたいとは思わんのか!」


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最終更新日 : 2012-09-10 23:44:03

闇の跫音

 生ぬるく淀んだ春の風が頬を撫でる。ひらりと舞った桜の花びらが、ちょうど籤丸の眼前を掠め地面に落ちた。

 本日は折り良く晴れ間であるが、昨日から続く春雨に地面は浸され、泥濘と化した地面は瞬く間に薄紅の花弁を土色に染めた。

 狭い小路には、びちゃびちゃと泥を跳ね上げ駆ける足音が響き渡る。あっちだ、逃がすな。荒々しい怒号がそれを追う。

「そっちへ行ったぞ! 追え!」

 隊長の声に従い、籤丸は三叉路を曲がった。この先は行き止まりのはずだった。

 案の定、追い詰められた賊は壁と籤丸に挟まれ、まごまごとあちらこちらに視線を彷徨わせている。

「大人しく投降してくれたら、手荒な真似はしないよー?」

 籤丸は猫なで声で小首を傾げ、片目を瞑ってみせた。しかし賊は全く聞いた素振りではない。ひたすらに退路を探し、冷や汗を垂れ流すばかりである。

 賊は盗んだ糒の袋を片手に抱え、もう片手には鉈を提げている。籤丸が一歩踏み出すと、来るなと吼えて、提げた鉈をこちらに向けた。

「だからさあ、大人しくしといてくれたら、痛い事はしないって。どっちにしろ逃げ場は無いんだから、俺の言う事聞いといた方がお得だと思うけどにゃー?」

 籤丸は支給品の軍刀から手を離し、両手を顔の高さに挙げて見せた。敵意が無い事を示してやれば、きっと賊も大人しくしてくれるだろうと、ほんの少しばかりの期待を抱いたのだ。

 だが思っていた通りに、期待は裏切られた。口角から泡を散らし、鉈を振り回しながら賊はこちらにやって来る。

 仕方なしに、籤丸は軍刀に手をかけた。

 抜こうとした、丁度その時だ。

 銃声と共に、賊は籤丸の目の前でもんどりを打って倒れた。手から離れた鉈が、濡れた音と共に地面に跳ねる。

「何をのろのろとしているのです」

 籤丸が振り返ると、そこにはよく見知った姿があった。天ツ軍服の白を嫌味なほどに着こなした、細身の青年だ。

「あー……、すみませんねえ。陵伽院の御曹司殿」

「下手な嫌味はやめた方が良いのでは? 下級民の己がみじめになるだけでしょうに」

 そう言って、陵伽院貞之は銃を仕舞った。眼鏡を指先でツイと押し上げる仕草が、腹の立つほど様になっている。

 硝煙の香を纏いつかせた彼は、籤丸の五つ年下で二十一歳であるはずだ。彼は己の方が年下であるからと、慇懃な口調は崩さない。しかしそれが、却って嫌味な響きを持って籤丸の鼓膜を揺らす。

「……左様でございますねえ、上級民の貞之サン」

 言われた通りに下手な嫌味をやめてやるのも癪で、籤丸は貞之が上級民だと言われる事を嫌っていると知りながら、嫌味をぶつけてやった。背中に貞之の舌打ちを浴びせられるのを半ば愉しく感じながら、倒れた賊のもとへと向かう。


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最終更新日 : 2012-09-10 23:46:14

この本の内容は以上です。


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