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冊子版『天使の言い分(A5│114P│600円)』の冒頭サンプルです。

自家通販承っております。


■あらすじ■

 彼女にはフラれました、内定いまだに貰えません。  

 やさぐれた気持ちで煙草を買いに行ったら、ゴミ捨て場でセーラー服姿の美少女を拾いました。 

 少女曰く「わたし、天使なの」

 寺内洋平22歳(童貞)、夏の一幕。

 

 Web版 http://kizahashi6.web.fc2.com/angel.html

 表紙 二瓶きお様 http://kio-blog.seesaa.net/

 

■収録■

 天使の言い分 P3~62 (web版を加筆修正)

 諸種四景【一基の話、佳代の話、多恵子の話、上野の話】 P63~80    

 ワールズエンド P81~106 (書き下ろし)  

 Extra **** ****** P108~110 (〃)   

 付録ペーパー

 

■詳細■

 階亭 Information http://kizahashi6.web.fc2.com/off.html


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最終更新日 : 2013-12-23 00:57:49

天使の言い分

 

 何ていうか、これフラグじゃね? と思うわけで。

 おれの部屋、隣には彼女、ふいに訪れた沈黙。

 ここまで揃えば、脱童貞フラグじゃね? って思うわけで。

 おれは逸る気持ちを必死で抑え、隣に座る佳代(かよ)をちらりと窺った。

佳代はベッドに背をもたせかけ、膝を抱えてもじもじとしている。何だか何かを言い出そうとしているように見えた。

 うん、多分『洋平(ようへい)くん、あたし、洋平くんなら良いよ』とかそういう感じのアレを言いたいんじゃないかとおれは思うわけで。

 しかしそんなセリフ、女の子に言わせちゃ男が廃る。童貞なりにも男の沽券ってのはあるもんだ。

 よし、言うぞ。いや、言わんでも良いか。ここは行動あるのみ。

 

 寺内(てらうち)洋平二十二歳、男になります!

 

と、勢い込んで佳代の肩に腕を回そうとしたら、ふいに佳代は真剣な顔をしておれを見た。

「……洋平くん」

「何?」

「……あの、ね」

 佳代は言いにくそうに視線を逸らす。

 うむ、皆まで言うな。分かってるさ。大丈夫、あれやこれやの準備は万端です。

「あたし……」

 佳代はきゅっと唇を噛んだ。上目におれを窺っては、言いにくそうに口元をもごもごさせるのが愛らしい。

 グロスで光る唇をちろりと舐めてから、佳代は何かを決心したようにおれを見上げた。まるで睨むように、強い瞳で見てくる。

 

 ん?

 睨むように?

 

「ごめん。やっぱりあたし、洋平くんは友達って感じなんだ」

 

 ……はい?

 

「何か、男の子って、あんまし思えないし……。付き合って半年経つのに、全然手ぇ出してくんないし……」

 

 ……あれ? 何これどういう事?

 

「……あたしって、そんなに魅力ないのかな……」

 

 いやいやいやいや。

 

 魅力なら充分ですよ? めっちゃ可愛いと思いますよ? いやマジで。お世辞とかじゃなくて。

 まず黒髪でストレートでセミロングってのが良いと思う。いや、パーマの茶っぱ女子も見た目的には好きだけど、髪触った時の痛みっぷりがちょっと残念っていうか。

 ああ、うん、ごめん。女子の髪なんてまともに触った事無いです。何せ童貞なもんで。おれが就活前にゃパーマで染めてたから痛みっぷりを知ってるだけです。今は就活せにゃならんからパーマ部分切って黒染めしてるけど、やっぱ染めた黒髪ってのはぱっさぱさで、天然もんの黒髪のさらっさらっぷりには勝てません。黒髪万歳。

 あと服装も派手すぎず、カジュアルすぎずってのが良いと思う。何てえの? 女子の服装の用語とか良く知らねえけど、綺麗めカジュアルっての? うん、多分そんな感じ。

 あと化粧もめっちゃ化粧してます! って感じじゃないのが良いと思う。薄化粧ってわけじゃないんだろうけど、ナチュラル? 的なさ。

 うん、ほんと、マジ可愛いと思うよ。マジ魅力的。ばっちしおれの好み。

 とか思いつつも、突然のことにおれはボーゼンとしちゃって声も出せません。

 佳代は一つ溜息をつくと、立ち上がって背を向けた。

「ごめんね、バイバイ」

 いや、ちょ、ま、……ええ!?

 手を伸ばすも佳代はするりと逃げ、足早に出口へと向かった。素早くパンプスを履くと、おれを振り返ろうともせずに部屋を出て行く。

バタン、とドアの閉まる音が虚しく響いた。安アパートの階段を駆け降りる音がする。それもすぐに聞こえなくなって、部屋にはしんと静けさが満ちた。クーラーが頑張ってくれてる音が、やけに大きく聞こえた。

 おれは伸ばしてた手をゆっくり下ろして、佳代が出て行ったドアをぼんやりと眺めた。

あれ? おれ、フられた?

 うん、フられたよね、これね。完璧にフられたね、これ。

 …………。

 ……あ、どうしよう、何かむかついてきた。

 いやいやお前さ、手ぇ出してくんないしとか言うけど、さっさと手ぇ出したら出したで怒るんだろ? あたしのカラダが目的だったの? とか言うわけだろ?

 だからおれはまあ、我慢してたわけですよ。お前がおれの部屋来るたんび、めっちゃ我慢してたんだって。

 え、良いの? 今やっちゃって良いの? と思いつつ頭ん中はエロい妄想であれやこれやしつつ、何食わぬ顔してフツーの話題振ったりしてさ。

 んでたまに沈黙タイムが来た時には手とか握ったりしてさ、おれなりにオッケー? ってなサイン出してたんだけど?

 そしたらお前逃げたじゃん。ごめんトイレ、とかもう帰る、とか言ってさ。

 んでお前が帰ったあとおれは何か恥ずかしくなって、じたばたしてたんですよ? あーあ、やっちゃったなーやっべーとか思って、じたばた転げてたわけだよ。

 で、次の機会にゃ出る勇気も出なくて、たんにお喋りばっかだよ。仕方ないじゃん? またかわされちゃったら、流石におれも凹むべ?

 そのくせ、何、何なの。おれのこと男に見れない? 手ぇ出してくんない?

 何だそれ。意味分かんねえ。

 つか何、男の子ってあんまし思えないの意味が分かりません。

 お前から告白してきたんじゃん? なのに男に見れない?

 何だそれ、お前はレズかってんだ。ほんとマジ意味分かんねえ。

「あー……」

 頭抱えてがしがしと髪を乱す。ワックスが手のひらについて、何か余計にいらいらした。

 ベッドに上がって、うつ伏せになる。枕に顔を押し付ければ、情けないやらむかつくやらで泣き出しそうになった。

 枕もとの携帯に手を伸ばす。もにもにとボタンをいじって、発信履歴からある番号を呼び出した。

 数回の呼び出し音の後、相手が電話に出る。もしもし、の声に被せるようにして(いや、意図的にやったわけじゃないけど)おれは用件を告げた。

「フられた。慰めて」

 それだけ言って、即切り。枕に顔埋めて、しょんぼりモードに切り替える。

 今が夜で良かった。もし昼間だったなら、蝉のうるささで苛立ちも二倍三倍だったろうから。
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最終更新日 : 2012-10-01 22:32:09

諸種四景

■一基の話 ―March―■

 女難。

 そうだ、俺はいわゆる女難の相というやつなのかもしれない。

 小学六年生の冬の話だ。

 当時よく遊んでいたクラスの女子から俺は告白をされた。彼女は少し大人しめの子で、ピアノが上手だったのを覚えている。

 実はずっと前から一基くんの事が好きだったの。私を彼女にして下さい。

 そう言って赤い顔で俯いたその子は可愛いと思ったけれど、それ以上に、少し離れたところから俺たちを見守っている彼女の友人達の、あの、ギラギラした眼差しが怖かった。

 

■佳代の話 ―September―■

 髪の毛を極力痛めないように乾かしながら、あたしはテレビをつける。見たい番組があるわけでもないけど、無音なのが何となく寂しいから、とりあえず。

 黒髪って楽そうで良いよねって、女の子にたまに言われる。染めるお金浮くでしょ? って、馬鹿にしたみたいに。安くすむんじゃない? って。

 そんなわけないでしょ、馬鹿にしてるの? とは、口には出さず、そうだね、ってあたしは笑って適当に流す。いちいち相手するのも面倒だし。

 

■多恵子の話 ―October―■

 やすりできれいに磨いた爪に、私はふうっと息を吹きかけた。ちょうどお風呂から上がってきたお兄ちゃんが、髪を拭きながら私の隣に座る。

多恵子も女になったな

セクハラやめてよ

すまん

 お兄ちゃんの事だから、別にセクハラのつもりで言ってるんじゃないと思うけど。多分。それに私だって本気でセクハラされたとか思ってないし。形式上の、兄妹喧嘩みたいな感じ。というか、喧嘩ですらないけど。

 

■上野の話 ―November―■ 

 オレは昔っから、自分の名前があんまし好きじゃない。って事を、母ちゃんにも父ちゃんにも言った事はないけど。だって、一生懸命考えてくれたんだろうし。それでもやっぱし、好きじゃない。

 というか、好きじゃないっていうか似合わなくて照れるというか。うん、そうだな。好きじゃないわけじゃないけど、照れ臭い。そう言った方が正しい。

 オレの名前の由来を聞いても、父ちゃんは格好良いだろ? って朗らかに笑って下さる。母ちゃんはハイカラでしょ? なんて言う。

 うん、確かにハイカラだよ……。ハイカラって響きが、何かもう、色々とアレな感じで、すごくハイカラだ……。


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最終更新日 : 2012-10-01 23:20:50

ワールズエンド

 

 もう何度読んだか分からない義母さんからのメールを、また読み返す。

 受信の日付は一週間前。

 だけどおれは、今もまだ返事をできないでいる。

 

 

 

 パチンと音を立てて、おれは携帯を閉じた。手元のビールを喉に流し込んで、ひとつ溜息をつく。

よーへーさーん! 辛いの平気っすか?

 急に背中から圧し掛かられて、思わず変な声が漏れた。おれは恨みがましい目で、背中にびったりくっついている上野を睨む。

お前な……、急に来んなよ

はい、あーん

あ?

 促がされるままに口を開けば、何か肉っぽいものを突っ込まれた。

うまいっしょー?

 や、うまいっつーか、……おまっ、ちょ、何だこの辛さ! 辛い通りこして痛いんだけど! 痛い痛い痛い、つか熱い!

ふっへへ、はいどーぞお口直しにー

 涙目になって水を探すおれの手に、憎たらしいふにゃふにゃの酔っ払い笑顔で、上野はジョッキを押し付けた。そしたら今までおれ達なんてそっちのけで騒いでいた連中がイッキコールとかかましてくるもんだから、ちょっとした殺意の波動も生まれるってもんだ。

 やんやと囃す連中を煽りつつ、おれは立ち上がって生中を流し込む。一気に飲みきってジョッキを掲げてみせれば、拍手が起こった。きゃー抱いてー男前ー、とかって腰にまとわりついてくる上野を引っぺがして、目が合った新入り君に次のコールを回してやる。

 あー、口ん中まだ痛え。やたら唾出てくるし何これ、何この新感覚。喉に沁みるっつーか、腹まで熱いっつーか辛いっつーか。

 うう、腹ちゃぽんちゃぽんで苦しい。イッキさせんならもっと量少ないの持ってこいっての、ばーか。

 恨み言の一つや二つぶつけてやろうと思って、上野の姿を探す。上野は、ごろんと仰向けになって、平和な顔で寝息を立て始めていた。お前なぁ……。

 いや、酔っ払いなんてこんなもんだし、おれだって酔っ払った時はこいつに結構迷惑かけてるけど。こないだも迷惑かけた。ごめん。半分以上覚えてないけど。うん、ごめん。おれの携帯で、着暦から一基に電話させたところあたりまでは覚えてる。ごめん。

 おれはそのへんにあった、もう誰のものか分からないグラスに残っていた氷を口の中に放り込んだ。あー、痛いのちょっとはマシかな。

ほとんど尻餅つくみたいにして座り込む。動くのだるい。おれも眠い。お開きまで寝よっかな。

 って思ってたら、

「あ、上野くん寝ちゃってるー」

「マジ? 剥いちゃえ剥いちゃえ!」

 きゃっきゃとはしゃぎながら、女の子二人が上野のベルトを外し始めた。……寝る案は却下。

 おれたちは絶賛、ちょっと早めの忘年会真っ最中だ。メンバーはバイト先の居酒屋面子。大通りからちょっと外れた、個人経営の居酒屋で大宴会中。

大人数で飲む時はいつもこの店だ。座敷なのも、飲み放題の酒の種類が多いのも良い。って言っても男どもは大概ビールだけだけど。場が砕けてきたら何だかんだでイッキのテンションになってくるから、強いのは飲めない。

 まあ、コール回されんのは嫌いじゃないけどさ。いかにも飲み会ってテンションは楽しいよ。そんで調子こいて次の日、もう飲みませんってトイレで心底思う破目になんだけどね。

 女の子二人に剥かれてパンツ一丁プラス靴下姿にされた上野はほっといて、……写メ撮られてるけどほっといて、おれはそのへんの瓶ビールとグラスを持って、隅っこで静かに飲んでる店長の所へ向かった。

「どーも、お疲れ様です」

 一応多分使われてないっぽい綺麗な方のグラスを店長に渡す。ちょっとだけ残ってた瓶ビールを注いで、おれも自分のグラスに注いでもらった。

「お疲れさん。避難か?」

「あー……、まあ、そんなとこ、です。いただきます」

 乾杯して、ちょっとぬるくなってるビールを飲み干す。さすが店長は大人だ。無茶な量を注いだりしない。

 夏以降、おれはこっちのバイトの量を減らしてもらった。今までは関わってなかった、久保酒店の経営のあたりとかを勉強するためだ。

仕事が決まったと伝えたら、店長は、そうか良かったなって言ってくれた。ほんの少しだけ残念そうな店長が嬉しいって思ってしまって、自分勝手な自分自身に腹が立った。

 で、リーダーも外してもらった。もうそんなにいっぱい入れんしさ。でも四月以降も、週一とか二とかで、忙しい時間帯に手伝わせてもらう予定だ。一基ともそのへんの話は相談済みだ。

 やっぱり金は、できるだけ稼いでおきたい。や、久保酒店の給料が安いとかって話じゃなくて。

 今まで父さんに払ってもらってた学費とかを返したいんだ。できる限り早く。奨学金ももちろん返済しつつ。

 デキャンタを傾ける店長をおれはぼんやりと眺める。……って、あ、手酌させてすみません。

「注ぎますよ」

「良いよ、休んでろ」

「あー…………、じゃあ」

 お言葉に甘えて。

 だんだん喋るのもしんどくなってきた。壁にもたれかかって、足を投げ出す。

「……ワイン、好きなんですか」

「まあな。詳しくはないけど」

 店長はワイングラスをくるりと回した。

「味。変わるって、言いますね」

 おれもワインに詳しいってわけじゃないけど、確かそんな話は聞いた事がある。デキャンタージュして空気に触れさせたらどうのこうのっていう。

「ま、正直言って雰囲気だけなんだけどな。味が変わってるとか匂いがどうとか、そういうのはあんまり分からない」

「はは、良いんじゃないですか。キザっぽくなくて逆に格好良いですよ」

 店長がワイン飲んでるってだけで格好良いし。サマになってるっつーか。

 言いながら、おれは壁に背中をくっつけたまんまずるずると滑る。というか落ちる? 後頭部だけ壁にくっつけた状態で、ずるんと滑り落ちた。

「大丈夫か? つらいなら寝てろよ」

「んー……、ありがとうございます」

 そんなに、今すぐ吐きそうなほどに酔ってるわけじゃないけど、結構ぐるぐるはしてる。さっきのイッキがきいたかな。いつもはもっと平気なんだけど。体調で酔い方ってだいぶ変わるって言うし。

……体調なあ。体調は、別に全然平気なんだけど。

 悩みの種的なもんは、確かにある。それの所為かね。分からんけど。

 義母さんからのメールの内容を反芻しながら、おれは目を閉じた。店長の側なら剥かれずにすむだろ、多分。
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最終更新日 : 2012-10-01 22:48:43

この本の内容は以上です。


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