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プロローグ

はじめに―「球音」に捧げる

 

鹿児島実について

この記事が全てですか?

 

 2011年夏の鹿児島実VS薩摩中央の一戦を詳しく掘り下げてみたいと思うようになったのは、私が運営するネットスポーツ新聞「スポーツかごんまNEWS」(http://www.spokago.com)に書き込まれたコメントがきっかけだった。

 第93回全国高校野球選手権鹿児島大会第16日の7月22日、県立鴨池球場であった準決勝第1試合で優勝候補の大本命だった鹿実を、ノーシードから勝ち上がった薩摩中央が破った。十数年、鹿児島の高校野球を取材しているが、間違いなく3本指に入る「番狂わせ」の一戦だ。試合後、私はまず薩摩中央のベンチがあった三塁側のスタンド裏に行き、神村泰幸監督や宮脇諒主将、エース崎山貴斗、捕手・富満祐太らにインタビューした。この日の取材のエネルギーのほとんどはこの時間帯に費やされたといっていい。世紀の番狂わせを演じた当事者たちのコメントは生き生きして活気があった。

 

持っているもの、出し切る

街一丸で勝利を後押し

薩摩中央

 エース崎山貴斗の渾身の1球に鹿実・杉山のバットが空を切ると、三塁側の応援席から大歓声が沸いた。薩摩町からやってきた県立高校がV候補筆頭の鹿実から金星を勝ち取った。「選手、指導者、応援が三位一体となってつかんだ勝利。子供たちが持っている力を出し切ってくれました」。統合前の宮之城から数えて23年チームを指揮する神村泰幸監督は、言葉に力を込めた。

 最大の立役者はエース崎山だ。準々決勝の伊集院戦で納得いく投球ができなかった崎山は、準決勝までの4日間を最大限に生かしてコンディションを最高に持ってきた。「相手は全員が4番のようなもの。気持ちで引かない投球をする」ことを捕手・富満祐太と話し合った。

 強力打線を封じたカギは縦の変化球。これまで使わなかったフォークを見せ球にして、得意のスライダーで打ち取る。(※注、この時の取材ではフォークの話をしていたが、のちに本人に確認したところ、この時フォークは重要なところでは使っていなかった)このパターンが見事にはまって、鹿実の打者に自分のスイングをさせなかった。圧巻は六回二死三塁で野田を迎えた場面。ファールで粘られたが「崎山の直球なら打ち取れると思った」(富満)強気の直球で空振り三振に取ったことが、その裏の逆転劇の導火線になった。

 打者が心掛けたのは「チャレンジヤーの気持ち」と「野田君は確かにすごい投手だけど、振る勇気、自分から打っていく勇気を持っていく」(宮脇諒主将)ことだった。ヒットは単打のみ6本だが、うち5本を六、七回に集中し、ワンチャンスをものにして大会屈指の好左腕・野田を攻略した。

 薩摩町は「野球熱」のある街だ。宮之城中出身の崎山は、鹿実をはじめとする強豪から誘いがあったのを断って地元の仲間と甲子園を目指す道を選んだ。自分の選択が正しかったかどうかが試された一戦は、尻上がりに調子を上げていき「楽しいマウンドでした」と振り返る。「街の人たちがいつも野球部を応援してくれる。スタンドの応援が本当に力になりました」と宮脇主将は感謝する。「相手はどこでも力はうちより上。チャレンジャー精神でぶつかっていくだけです」と気持ちを高めていた。

   (11年7月22日「スポーツかごんまNEWS」)

 薩摩中央の勝利を、私はこのように表現した。

 

 一通り取材を終えた後で、敗れた鹿実の取材もしたが、宮下正一監督と、豊住康太主将にインタビューしただけだった。

 

「野球の怖さ」思い知る

鹿実

 鹿実の春夏連続甲子園の夢は薩摩中央の気迫に阻まれた。「相手の3年生、特に崎山君の気持ちがうちを上回っていました。野球の怖さを知りました」と宮下正一監督は潔く言い切った。

 決して相手を見くびっていたわけでも、受け身になったつもりもない。野田の調子は悪くなかったし、打線も先制点は取った。強いて挙げれば「2点目を先に取らせてあげられなかったわたしの責任」と指揮官は言う。

 八回に意地のソロアーチを放った豊住康太主将は「少し気負ったところがあったのかもしれない。その気負いを見抜いて考えた投球をした崎山君が一枚上でした」と振り返り「薩摩中央にはぜひ甲子園に行って欲しい」とエールを送っていた。

(11年7月22日「スポーツかごんまNEWS」)

 

 この日、鹿実について書いた原稿である。冒頭のコメントはこの記事についてつけられたものだった。

 

この夏の鹿実の準決勝での敗戦、衝撃でした…

上手く言葉にできませんが、とにかく、しばらく信じられませんでした。確かに九州大会などを制したからといって県大会も確実に制する事ができるわけではないでしょう。それでも相手チームが上回っていたとか研究されたとかでは片付けられない何かがあるのではないかと思いました。

何より今、子供たちはどういう思いでいるのだろうと。

私がそれを知ったところでどうにかなるわけでもないのですが、私自身、応援しながらも疑問に思ったりする事がなかったわけではないですが、政さんなら何か捉えてらっしゃるのではないかと思いコメントさせて頂きました。(抜粋)

 

 続いて寄せられたコメントである。試合から10日ほど経っていた。九州大会秋春連覇、明治神宮大会準優勝、センバツ甲子園ベスト8…この年代の鹿児島、そして九州でも他の追随を許さない実績を残した鹿実がなぜ敗れたのか? この1年の県大会での実績はほとんどない、地方の県立高校・薩摩中央がなぜ勝つことができたのか?…表面的なことしか「捉えて」なかった私は、湧き上がる「なぜ」を突き詰めてみたい気持ちになった。

 

この文章を読んでから、私もあの試合を鹿実の視点からもっと詳しく取材して書いてみたいと思うようになりました。もう少ししたら鹿実や薩摩中央の選手や監督さんに話を聞いて、あの「世紀の番狂わせ」が何だったのかを再現してみたいと思います。

 

 そんな返信を書いた。

 

ぜひ、鹿実のあの日を政さん目線で捉えたもの読みたいです。というよりも本音は、

強い強い全国制覇と言われ続け言い続けた彼らが、あの敗戦でどれだけの思いをしたのでしょう。

私は試合を見れていません。本当にただ勝った相手チームが強かったというだけなのかもしれません。インターネットで見たエースは悔いはないと言いきっていました。それが本音でなかったとしても、それでいいのかなと。

うまく言えませんが

救って欲しいんですね、政さんに。政さんの書く力で。

 

 ハンドルネーム「球音」氏のコメントがこれから始まる物語を書く原動力になった。鹿実や薩摩中央の監督、選手だけでなく、ライバル校やメディア関係者にも「鹿実VS薩摩中央」の試合について赤裸々な本音を語ってもらった。

拙著「地域スポーツに夢を乗せて」では「90年代鹿児島県高校野球史」を取り上げたが、今回の取材を通して00年以降、特に神村学園が登場して以降の県高校野球史をまとめてみたいと思うようになった。世紀の「番狂わせ」に関わった当事者たちの物語から、鹿児島の高校野球に携わる人たちの生き生きとした鼓動と情熱を感じ取っていただければ幸いである。

政純一郎


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