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テーマは「SNSと電子書籍」

 電子書籍元年と呼ばれていた年に「電子書籍を出してみたよ」をitunesで見つけて読んだの僕が古田さんを知った始めです。そこから早2年。自分も電子書籍を作ってみたいという気持ちがありながらも、ずるずると今まで作らずに来てしまいました。ところが、古田さんは、そのあいだに何冊も電子書籍を出版し、さらに電子雑誌まで作っていたのです。
 運よく古田さんも僕に興味を持って頂いていたようで、ツイッター上で「機会があれば会いたい」と話していたのですが、今回の課題がまさに機会だ思い、会うことにしました。

 電子雑誌「トルタル」の宣伝を主にSNSで行っているとのことなので、テーマを「SNSと電子書籍」と考えて、質問していきました。インタビューをまとめると以下の言葉に集約できます。

①電子書籍で作るプチ出版エコシステム
②本作りのイベント化
③壁を壊すSNSと電子書籍




電子雑誌で作る出版プチエコシステム

 僕がいちばん古田さんに聞きたかったのは「なぜ電子雑誌「トルタル」を作ろうと思ったのか?」ということでした。既にライターとして10年間以上やってきたのになぜ「今」「電子書籍」なのか。それを聞いたところ、古田さんはこう言いました。「誰かから受注してやる仕事ではなくて自分で自由に作ってみたい。電子書籍なら手弁当でできるからやってしまえと思った。」
 なるほど。確かに電子書籍ならばコストはそんなにかかりません。印刷代がかからないのですから。今までは自費出版と言えば少なくとも印刷のために何十万円何百万円とかかるもので、しかも在庫が余ったときには目も当てられません。ところが、電子書籍であれば印刷代も在庫も無いのです。
 では、なぜ「今」なのか。電子書籍は、実は何年も前からあるものです。作るだけなら今までも作れたはずなのです。すると、「SNSが無ければ作ろうとは思わなかった」と言いました。「SNSが無ければ仲間をこんなに集められないし広告宣伝も難しくなっていただろう」と。納得です。作った以上は売りたいと思うのが人情です。今までは自分で出版しても宣伝の方法はほとんどありませんでした。それが今ではツイッターでいくらでも呟けます。仲間が増えてもフェイスブックならいつでもどこでも連絡が取れます。もちろん仲間も宣伝してくれます。そうやって古田さんが思う「面白い人」や古田さんの知人の思う「面白い人」とつながっていったら以下のような小さい出版エコシステムのようなものができていたと言うのです。名付けて「出版プチエコシステム」。デザイナーがいて写真家がいてライターがいて、流通はSNSがあります。もちろん古田さんは編集長です。電子書籍とSNSが出会ったことで、小さくてもエコシステムと呼べるものができるだなんてこれは大発見です。



本作りのイベント化

 出版プチエコシステムの中で、2号目までトルタルを作ったそうなのですが、そこで面白いことが起こったそうです。トルタルを作るときは「①フェイスブックのグループで完成を報告②ドロップボックスやスカイドライブを使ってファイルを共有③グーグルドライブで古田さんが原稿を推敲する」という流れでやっています。グーグルドライブで推敲するときはリアルタイムで推敲の様子が分かるのですがこれを見たグループのメンバーが面白がってくれたというのです。
 初稿(一番初めに提出した第1稿のこと。ここから誤字脱字や表現を変えたり、場合によってはリライトしたりする)に対して意見や感想、ダメ出しをメンバー同士で行い、推敲は古田さんがグーグルドライブで公開しながら行う。グループのメンバーであれば全てを見ることができるわけです。まるで本を作るお祭りみたいですね(トークショーの書き起こしをライブで公開した時も同じように面白がってくれたそうです。「書き起こしの最中に何をやっているかを初めて知った」という感想を貰ったとも)。
 僕はこれを「本のイベント化」と名付けました。編集部の中にデザイナーや写真家、ライターが入って一緒にワイワイガヤガヤやっているイメージです。
 面白かったのが、古田さんはこの状況を見て「もっとやろう」と考えていることです。マンガ家が執筆途中の動画を生中継したり、デザイナーが作品を書いている様を中継したりしていることを編集でもしてみたいと。ライターになろうとしている人に向かって実際に何をやっているのかを見せたいと。例えば、「第一編集段階や第二編集段階などといった場面で原稿を公開して、参加者の意見を反映させながら最終稿にしていく」といったやり方を考えているそうです(前例があるようですが僕も古田さんもど忘れてしまいました(苦笑))。
 この「本のイベント化」という方向。電子書籍が普及するほど可能性があると思います。誰でもが簡単に出版できる時代。出版が珍しくなくなった状況では「いかにして読んでもらうか」ということが今まで以上に問題になってくると思います。例え、面白い作品でも読んでもらえなくては何の意味もない。ではどうしたら良いのでしょうか。簡単です。面白い作品で面白いことをすればよいのです。そして、それに参加してもらうのです。もちろん出版するコンテンツや執筆者自体がつまらなければいけませんが、製作に自分が参加したコンテンツを悪いと思う人は少ないと思います。自分で買うのはもちろん他の人にも宣伝してくれるかもしれません。山のようにあるコンテンツの中できらりと光るための一つの方法として本作りをイベント化することは大きいと思うのです。





壁を壊すSNSと電子書籍

 先にも書きましたが、「古田さんはSNSがなければトルタルをやろうとは思わなかった」と言っていました。これはいったいどういうことなのでしょうか。聞いてみると答は、なるほど納得その通りでした。古田さんによるとSNSは色々な壁を取っ払うものなのだそうです。ツイッターで会話しているときに年齢を気にする人がいるでしょうか? 業界や職種を気にする人がいるでしょうか? 中にはプロフィールを公開している人もいますし一概には言えませんが、そもそも本名すら明かしていない人が多いツイッターでは年齢や業界、職種なんてものは関係なく呟くことが面白いかどうかだけでフォローします。そうやって面白いなと思った人のブログを読んだり、場合によっては著作を読んだりして、もし良ければ連絡を取り合って直接話を聞くこともできます。二人がお互いに気に入ればトルタルのメンバーに招待することだってできるのです。
 実際、古田さんが僕に興味を持って頂けたのもツイッターからブログを知って下さったからだそうですし、そのあと、2年もの間、特に親しい訳でもないのに繋がりが切れなかったのもツイッターでお互いをフォローしているからです。古田さんはこんなことを言っていました。「SNSや電子書籍は業界の壁を緩くするものだと思う。自分の様に本の世界(=出版業界)の人間が業界システムの外に出たいと思ってSNSを使って電子書籍をやることもあれば、wakkyhrさんのように本の世界の外から中に入ろうと思って活動することもSNSや電子書籍を作ることもできる。」僕もツイッターと電子書籍が無ければ古田さんとこうして会って話すことはなかったでしょう。業界や年齢などの壁を壊すということは、今まで会わなかったはずの人が会えるようになるということかもしれません。
 古田さんはトルタルのメンバーに入れるかどうかを決める際に、よく他の人の意見を参考に擦るそうです。曰く「だって、何が面白いか分からないじゃん。」つまり、自分が面白いと思うことを他人が面白いと思うかは分からないし、自分がどうでもよいと思っていることを他人が面白いと思うことだってある。でも、どこかしらで線を引かないといけないということです。そのため、自分の仲間が面白いと勧めてくれた人には出来るだけ会うようにしているそうです。雑誌の間口をどこまで広げるかというのは、作るのが簡単だからこそ電子雑誌では難しいことなのかもしれません。
 ここで問題になるのが、距離です。面白い人が東京にいるとは限りません。東北や九州、海外に住んでいるということもあり得るのです。フェイスブックはこの問題を解消します。つまり、トルタルのグループを作ってそこでやり取りすればメンバーがどこにいようが関係ないのです。メンバーの中には大分県在住の人やニューヨーク在住の人までいるのですが、フェイスブックはツイッターと違って流れていきませんから、時間を気にせずやり取りができます。どこにいようが関係なく原稿のやり取りができるのです。
 こうやってSNSの力を借りていろんな業界・職種・年齢・場所の人たちが集まって、電子雑誌トルタルは成り立っています。


まとめ「未来予測ではなく柔軟性を最大化して動く」

 そんなこんなで、インタビューは合計で1時間半。その後も飲みに行っちゃったりなんかしたりして楽しく有意義な夜を過ごしたのでありますが、全体を通して印象的だったのが「とにかく面白がっている」ということです。
 「ライターとして受注で10年間食べてきたけど何か自分で自由に作りたくなった。」「SNSがあればどこにいても誰とでも交流できる。」「執筆や編集の作業をもっとオープンにしてみたい。」「電子書籍にはもっと可能性がある。」
 どれも古田さんの言葉ですが、ライターとしての10年間のキャリアを踏まえた上でさらに新しいことをやろうとしているその表情はとても楽しそうで羨ましいものがありました。
 そんな古田さんにこれからどんなことをしていきたいのかを聞いてみました。
 すると、目を輝かしながらアイデアが山のように出てきました。電子書籍をあえてブラウン管などアナログな機械に表示させてみたり、なぜか対面じゃないと買えないようにしてみたり、編集をライブで公開してみたり、フリードメインの青空文庫を勝手に編集して公開したり。僕もいくつかアイデアを出してみましたが、どれをとっても「やってみたら良いじゃない」と古田さんは飄々と言ってのけます。確かにそうです。初期投資の少ない電子書籍ならやる気さえあればいつだって出来ることばかりなのです。
 そんな古田さんだからでしょうか。インタビューの最中に「今はもうあまり未来予測に興味が無くなっていて、柔軟性を最大にして動いていきたい」という言葉がありました。せっかく自分と仲間たちで好き勝手作れるようになったのです。しかも、まだまだやっていないことやってみたいことはたくさんある。未来予測なんてしている暇なんてないのです。
 最後に、電子雑誌トルタルのリンクを貼っておきます。無料ですので読んでみて下さい。僕も次号から参加する予定ですので、ぜひ!

2012年4月創刊号
2012年7月号




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