閉じる


ことばの海

 ことばの海なら浮き輪はいらない。大きく息を吸って飛び込んだ。鰯の大群が泳いでいる。弱い魚という字面とは裏腹に陽の光をぎらぎらと跳ね返すそのダンスはとても力強いものだった。急に影が差す。散り散りになる鰯の群れ。その真ん中を特大フォントの鯨が悠々と通り過ぎていった。

ネズミ

 中の人などいない。ネズミは言う。君は着ぐるみだろう? 違う。ネズミは断固として譲らない。おそらく野生化する前に飼われていた娯楽施設で洗脳されたのだろう。あなたはネズミです。中の人などいません。そんな風に。そして着ぐるみを脱ぐことも忘れてしまった。可哀想なネズミ。

ねこの雨

 空からねこが降ってきた。にゃんぱらりにゃんぱらりと身を翻して着地するねこ達に見とれていると一匹が失敗してどーんと背中から落ちた。慌ててかけ寄る。でぶねこだ。ぴくぴくと痙攣している。だ、大丈夫? よろめきながら起き上がったその子は、にゃあと鳴いてうちの子になった。

レンタル彼氏

 レンタル彼氏を借りてきた。2泊3日で5万円。今週ずっと働きづめだった自分へのご褒美だと思えば決して高くはない。だが楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。返したくないな。僕だって帰りたくないさ。レンタル彼氏は悲しげな目で言う。嘘つき。延滞料金が目当てなんでしょ?

紙魚

 読みかけの文庫本を開くと紙魚が泳いでいた。気持ちよさそうにすいすいと行間をすり抜けてはルビを食べてゆく。べつにルビなど無くとも困ることはない。そのまま放っておいた。紙魚はくるりと反転してこちらを向く。口からぷくぷくと泡ならぬルビを吐き出した。コノホンツマラナイ。 

読者登録

laybackさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について