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帝王切開の麻酔 各論

前置胎盤 previa placenta

内子宮口に胎盤が付着しているものを前置胎盤 previa placenta,内子宮口から2cm以内に付着しているものを低位胎盤 low lying placentaという.

一般的な子宮切開は子宮下節横切開である.
子宮頸部は血流が豊富な上,子宮体部に比べて収縮しにくいため,出血量が多くなる.
また,帝王切開の回数が増えるほど癒着胎盤の危険性が増加する.
ただし,帝王切開の既往のない前置胎盤でも,5%(20人に1人)で胎盤が癒着している可能性があることを忘れてはいけない.
それゆえ,前置胎盤の帝王切開では,大量出血を念頭に入れて管理する必要がある.


全身麻酔導入薬

チオペンタール  4-5 mg/kg
チアミラール  4-5 mg/kg
プロポフォール  2-2.8 mg/kg
ケタミン  1-1.5 mg/kg
ミダゾラム  0.2-0.3 mg/kg

Thiopental / Thiamylal
 推奨投与量 4-5 mg/kg
 UV/UM 1.08,UA/UV 0.87 (I-D interval 8-22分)
 母体投与後,速やかに胎盤を通過し胎児へ移行するが,下記の理由により新生児への影響は少ない.
  ①臍帯静脈から速やかに胎児肝へ取り込まれる.
  ②胎児脳が水分を多く含むため脳内濃度が上昇しない.
  ③母胎組織への再分布による急速な濃度低下.
  ④絨毛間隙での不均一な分布.
  ⑤胎児循環でのシャントを介した希釈.
 ただし高用量(8 mg/kg以上)では新生児に悪影響を及ぼす.

Propofol
 推奨投与量 2-2.8 mg/kg
 UV/MV 0.7
 母体から胎児への移行はチオバルビツレートに比べて少ないが,多くの研究はプロポフォールによる導入を推奨していない.
  ①プロポフォール 2.8 mg/kg vs チオペンタール 5 mg/kg
   →プロポフォール群で,有意にAPGARスコアと神経行動学的検査が低値を示した.
  ②プロポフォール 2.4 mg/kg vs チオペンタール 5 mg/kg
   →脳波上,プロポフォール群では50%に浅麻酔を認めた.
  ③プロポフォールはチオバルビツレートと比べて有意に低血圧の頻度が多い.
 産科麻酔領域において,現状ではプロポフォールはチオバルビツレートより利点が多いとは言えない.

Ketamine
 推奨投与量 1-1.5 mg/kg
 UV/MV 0.38 (0.7 mg/kg, 1分後)
 母体低血圧や喘息悪化時の全身麻酔導入に適している.
 しかし循環血液量減少が著明な場合,心筋抑制を生じるので注意が必要.
 用量依存性に子宮緊張を高める(1.5 mg/kg)が,正期産で単回投与であれば問題はない.
 高用量(2 mg/kg以上)ではAPGARスコア低値,新生児の呼吸抑制や筋緊張亢進を認める.
 せん妄や幻覚を来しやすいので,ベンゾジアゼピンを併用する.
 1-1.5 mg/kgでは術中覚醒の可能性がある.
 低用量ケタミン(0.5-0.7 mg/kg)と,低用量チオバルビツレートやプロポフォールの併用が有効かもしれない.

Midazolam
 推奨投与量 0.2-0.3 mg/kg
 UV/MV 0.66
 α-hydroxymidazolam (UV/MV 0.28)に速やかに代謝される.
 循環動態への影響は少ないが,チオバルビツレートと比べて神経行動学的検査が低値を示し,筋緊張低下や低体温を来すため,他の選択薬が使用できない場合のみの使用が薦められる.
 

筋弛緩薬

多くの筋弛緩薬はイオン化率が高く,脂溶性も低いため,胎盤通過性が低い.

Suxamethonium (Succinylcholine)
 推奨投与量:1-1.5 mg/kg
 作用発現時間:45秒
 ほとんど胎盤を通過しないが,2-3 mg/kgでは臍帯血から検出され,10 mg/kgでは新生児の筋緊張を有意に低下させる.
 スキサメトニウムは偽性コリンエステラーゼによって迅速に分解される.
 妊娠中は偽性コリンエステラーゼの血中濃度が低下するが,一方で分布容積が増大するため,非妊娠時と比較して,作用時間の延長は認めない.
 メトクロプラミドは偽性コリンエステラーゼを抑制するため,スキサメトニウムの作用時間を延長させる可能性がある.

 スキサメトニウム投与前の非脱分極性筋弛緩薬によるprecurarizationは行わない.
 ①妊婦はスキサメトニウムで筋攣縮を起こしにくく,筋肉痛は著しくない.
 ②スキサメトニウムは胃内圧を上昇させるが,同時に食道下部括約筋の圧を上昇させるため,誤嚥のリスクを高めない.

Rocuronium
 推奨投与量:0.6-1.2 mg/kg
 UV/MV比:0.19
 作用発現時間:0.6 mg/kgで80秒,1.2 mg/kgで55秒
 0.6 mg/kgでは,APGARスコア,酸塩基平衡,新生児の呼吸,神経学的行動異常を認めない.
 Abouleish E, et al. BJA14;73:336-41
Vecuronium
 推奨投与量:0.1 mg/kg
 UV/MV比:0.2
 作用発現時間:140秒
 0.01 mg/kgのプライミング後に0.1 mg/kgの場合と,0.2 mg/kgの場合では作用発現時間に差はない(177秒 vs 175秒).

Sugammadex
 推奨投与量:2-16 mg/kg(非妊婦のデータ)
 UV/MV比:不明
 胎盤通過性は低いが,動物実験では乳汁移行を認める.
 Rocuronium 0.5-0.66 mg/kgで挿管後,抜管時にSugammadex 2-4 mg/kgを投与し,TOF 0がTOF > 0.9まで戻るのに50-100秒かかる.
Puhringer FK, et al. BJA Advance Access published August 24 2010
 現在,挿管困難で緊急拮抗(16 mg/kg)投与した報告はない.