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知られている説明

例えば何か失敗話を打ち明けた時。

目の間で笑い転げられるのも中々にツライが、電話口で爆笑されしかも息も絶え絶えになられても、こちらとしては様子が掴めないし何よりも電話している意味がないと、今日初めて気づいた。
それぐらい、とにかく猛烈に笑われた。

「んで、あんたは紙を渡して逃げちゃったわけ!?!?」
「……それしか選択肢ないじゃんか。」
「いやー、もう無理!笑いすぎて腹筋割れる!!!」
「じゃあ他にどんな対処があったっていう訳!?」
「いや、普通はね。メモ落とさないから、そこで。本当にあんた持ってる、うん。」
「まぁ……持ってるどころか、落としたからね、私。」

大慌てで図書館を去る際にペンケースを忘れてしまったので、わざわざ友人は電話で知らせてくれたわけだが……

この爆笑っぷり、絶対何かあるって感づいてたんだろうなぁ。

元々同じ高校であることは知っていたが、夏休みの間あまりにしょっちゅう会うため親しくなった。
始めの頃は夏休みに図書館に来るような大人しいタイプなのかと思っていたが、話してみると「ザ・賢そう&清楚」な見た目をぐるりとひっくり返すようなサバサバしたタイプであった。
どうやら感づいていた風で探りを入れるのも兼ねた電話であったようだが、あの場で聞いてこない辺りがさすがである。

「で、メールはきたの?」
「いちおう……」
「そう、良かったじゃない!今日の所はこの辺にしておくから、また続き教えてね。」
「ううう。上手くいった場合しか言わないからね!」
「わかったから、大丈夫だって(笑)じゃあ、また学校でね。」
「大丈夫ってそんな無責任な!もう!またねー。」

確かにちゃんとメールは来た、ありがたいことに。
向こうは同じ市内の私立の男子校らしく、コンビニ前で話していた通り夏休み限定でこちらの図書館まで足を伸ばしていたそうだ。
私の失態と慌てっぷりにはびっくりしたらしいが、それにも引かずにメールをくれたのだから、脈の有り無しは置いておいてもとりあえず礼儀正しいようではある。

とりあえず②のカードは不正解ではなかったのかな。

携帯に新しい電話帳登録をしながら、ちょっとだけ、自己申告制でちょっとだけ、顔がニヤけてしまうのは頑張ったご褒美だと言い訳をする私がいた。

同じ頃、電話でだいぶ電池の減ってしまった携帯を充電器に繋ぎながら「こっちはあんたが居た席をチラチラ見ながら携帯とメモ握ってる男の子がメール送るまでをしっかり見てたっての。世話が焼けるんだから。」とつぶやかれていたなんて知る由も無い。


○○物には福

目の端にヒラリと小さな紙が落ちるのが見えた。

「あ、なんか落とした。」

思わず小さく呟くとすかさず二人からツッコミが入る。

「よし、今だ!行け!」
「これを逃したらお前にチャンスは無い!」
「……だよな。」

恐らくゴミ箱へ向かっている女の子の後ろ姿に声を掛ける。

「メモ落としましたよ。」

振り返った女の子は俺の持っているメモを見た瞬間、ものすごい慌てた顔をして次にものすごい困った顔をして、そして今は悩んだ顔をしていた。

あー……もしかして余計なことしちゃったのかな?

そう聞くと、女の子は意を決したように口を開き、なんとこのメモは俺に渡すものだったと言い始めた。
今度はこちらが困惑する番だったが、女の子はそれを重々承知なようで突然であることを謝り、よかったらもらってくれと言い残して図書館へ逃げ帰ってしまった。
置いてぼり感を感じながら、結局もらう形になったメモを開くと名前とアドレスが書かれていた。

「……こんなラッキーなことってあるんだな。」

待っている二人は興味津々というより好奇心のこぼれそうな目線でこちらを見ている。

励ましてもらったからには言わなきゃダメだよな。

「で、どうだった!?」
「何話したんだよ、なんか謝られてたけど。しかもなんか逃げちゃったけど。」
「……落としたメモ、俺に渡すやつだったって言われた。」

突然二人同時に両側から肩に手を回される。

「って、お前らなんだよ。」
「「お・め・で・とー!」」

そしてちゃんとメールしろだの、お前は運がいいだの、やんややんやと弄られた。

「よし、まぁ今日のところはこれくらいにして置くから、ちゃんと経過報告よろしくな!多分あの子は図書館からダッシュで逃げた頃だろうから、俺らも戻るか。」
「……なんでお前が知ってるんだよ?」
「だってあのまま図書館に居座って、戻ってきた俺らと鉢合わせたら恥ずかしいってとこだろ?普通。」
「さすがチャラ男は違うな、分かり具合が!(笑)」
「勉強になります!(笑)」



始めはノリでちょっと遠い図書館へ行ってようくらいの話だった。
夏休みらしく学生が机を占拠して宿題をこなしている中で、宿題ではなく本を積み上げて読書に耽っている子がいた。

夏休み入ったばっかだし、現実逃避中なのかな?

しかしその子は積み上げた本をひたすら読破していき、結局閉館時間までずっと本を読み続けていた。

なるほど、本好きなだけか。

だが、それから3日間その子は同じ本を周りに積んで、同じ本を読んでいた。

ものすごく読むの遅い……?

本を積み上げているため壁になって何を読んでいるのかいまいち見えないが、どうも昨日と同じ背表紙に見える。
ちょっと気になって、横の席が空いているのをいいことに、一体どんなペースで読んでいるのかとこっそり横目で見てみた。

……寝てる!?

本を開いたまま、それは器用にその子はスースーと寝息を立てていた。
なぜ一体家で寝ないでわざわざ図書館で寝ているのか疑問だったが、思いがけない幸せそうな寝顔にこっそり見るはずがしっかりと見つめてしまった。

さすがに寝ていたのは偶然らしく、またその子の読んでいるシリーズは背表紙が全く同じ装丁らしく1週間後あたりになると本の壁は無くなり完読したらしいことがわかった。

しかし寝顔を見てしまって以来なんだか気になってしまいその子が席を立つ度に目で追っているのを、友人二人が見逃すはずは無かった。

「耳をすませばか、やるな、お前も。」
「いや、読書カードに名前残してないからな、俺。」
「図書館戦争シリーズでもいいかもな。」
「いや、図書隊とかいないからな、現実には。」

二人には色々と言われたが、夏休みの間、結局目で追うだけで話しかけることはなかった。
しかし夏休み最後の日、業を煮やした二人によって、女の子がコンビニへと向かった際に追いかけるようにコンビニへと連行された。

「これで話しかけなかったら男がすたる。というか、俺がモヤモヤするから、いけ。」
「そういうことな。俺、バニラアイスー!」
「俺も!」
「……って、もう無いじゃん!俺もバニラが良かったのにー。」
「夏休み中俺らをモヤモヤさせた罰だ。抹茶で妥協しろ。」



3人で再び図書館へと戻りながら、夏休みの間のことを反芻する。
どんなメールを送ろうか、せっかくだからこちらが追っかけていたことは伏せておこうか、と幸せな思案にくれる。

拾い物には福がある、なんてね。



奥付



明日には間に合わない


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著者 : 大河内 葵
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