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夢見女館

  夢見女館

 ―― 新宿御苑の桜の樹の下に、夢見女館はあるのよ ……。
  定年退職した課長が私に教えてくれたマル秘スポットの名前は『夢見女館』といった。客層を女性オンリーと定めたその古い煉瓦造りの店は、仕事に疲れた私の体を優しく癒してくれた。私は夢見女館で初めて、女性だけしかいない空間の快楽というものを知った。
  夢見女館で出会った知人は、「泊り込みのパーティに参加してこそ、真の夢見女館の会員である」と、私に何度も自慢していた。しかし彼女の口から、パーティの内容について聞くことは出来なかった。招待され、参加した者だけがパーティの全貌を知る事が出来るらしいのだ。
  夢見女館に通うようになって数年経ったある日、私は夢見女館の泊り込みパーティのゲストとして呼ばれた。会費は十五万(年齢の半分、というのが目安らしい)と少々高かったが、噂高い泊り込みパーティに呼ばれた事に誇りを感じた私は、どうにかお金を工面した。
「ようこそおいで下さいました。芙蓉様」
「サチさん。パーティに呼んでくださって、光栄です」
  新宿御苑の門をくぐると、夢見女館の女主人・サチと、百三十センチメートル程の体に赤紫色の燕尾服を纏ったバーテンダーが出迎えてくれた。
「今日は場所がいつもと少々違いますので、光が案内いたします」
  バーテンダーは光という名前らしかった。私は密かに憧れていたバーテンダーと並んで歩くことに興奮を覚えた。しかしこういう時に限って、私はあがってしまうのだ。気のきいた言葉がなかなか出てこない自分を、私は恨めしく思った。
  私は光に案内されながら、新宿御苑の奥の方へと進んで行った。門を入って十分程歩くと、桜並木の道があり、それをさらに進むと、桜の樹に囲まれた白い洋館が建っていた。古い煉瓦造りの小じんまりとした夢見女館に比べ、数倍大きな建物だった。
「へぇ、こんな建物が御苑にあったのねぇ」
「ええ、奥の方にあるのであまり気付かれない方が多いようです」
  入口には、金色のプレートが嵌め込まれており、『夢見女館』と彫られていた。夢見女館という建物は幾つもあるのだろう、と私は思った。煉瓦造りの建物も、私にとっては立派な『館』であったが、この白い洋館は、まさに『館』という言葉に相応しい建物であった。光の後に続いて、建物に入ると、真紅の絨毯が私達を迎えてくれた。高すぎる天井を見上げながら、私は大きな溜め息を吐いた。日本人には慣れない造りの建物だった。
  私達は入ってすぐの大広間を通り抜け、奥の、高い扉の方へ向かった。大広間には家具などが何も置いていなかったので、パーティ会場というよりは、博物館を思い起こさせた。いや、博物館でさえ、もっとなにか調度品が置いてあることだろう。
  扉は若草色のロングドレスを着た少女達が開けてくれた。

  女嫌いの床

「あっ」
  私は声を張り上げた。長く広い廊下には、何十人、いや何百人だろうか。裸の婦人達が俯せになって横たわっていた。それは床一面を埋め尽くしており、足の踏み場もない程だった。長い髪が絡まりあって、肉体というよりは、なにか芸術作品を思い起こすような、「モノ」としての女がそこにいた。
「こう並んでいますと、何か …… オブジェのようですね」
「そう、オブジェです。芙蓉様、足元にお気を付けて下さいませ」
  光は女性の胴体の上に乗って、私に手を差し伸べた。光の足元の女性はヒィー、と高い声で悲鳴を上げた。私は声に驚いて光の足元を見詰めた。女性の顔は能面によって隠されていた。
  私は光の手を支えにして人床の上に乗った。私の革靴の下で、女性が声を上げた。
「気になさることはありませんよ、芙蓉様。この床は『女嫌いの床』と申しまして、女性嫌悪がある女や、女性同性愛者を蔑視する女、または男性に媚び諂う女達を集めています」
  私は光のこの言葉を聞くと、ほっとして一歩進んだ。人床が高い音をたてながら軋んだ。
「では女性に服従するよう、再教育しているんですね」
「その通りです。さすが芙蓉様、飲み込みが早い。女性差別をする女は保守的で、差別主義者が多いのも事実です。権利というのは相互的なものですから、差別する者は差別されても仕方がないのです。そんな女達ですから、私達夢見女館では床として活用しているわけです」
「素晴らしいシステムですね。それにこの、踏むと音をたてるというのも、とても心地良いですわ」
「お褒め頂いて恐縮です」
  多少のでこぼこはあるものの、人床で出来た廊下は決して歩き辛いものではなかった。足を滑らせるように歩いていると、女嫌いの女達の髪が、私の靴に海草のように絡まってしまうので、足をやや上に持ちあげながら歩かねばならなかった。雪を踏みしめるように、床を踏みしめながら歩くと軋み音はさらに大きく部屋に轟いた。人間の慣れというのは恐ろしいもので、部屋に入った当初は人に見えていたモノが、次第に正しく「床」のように思えてくるのだった。
  「女嫌いの床」は一旦途切れ、再び私達は大きな扉の前に立った。若草色のロングドレスを着た少女達が、扉を開けてくれた。私は夢見女館に働く女性で、このように明るい色の服を着た者達は見た事がなかった。夢見女館で働いている素晴らしい女性達の新人研修の館なのだろうか、それともこの館専従の者達なのだろうか、と私は考えた。
「芙蓉ちゃん、今回から貴女も参加するのね」
  扉の向こうから、大きな声が響いてきた。このような高く、腹に響くソプラノ声を出せる女はそういるものじゃない、と思いながら、私は夢見女館で知り合った知人・スミレの姿を探した。部屋を見渡した私の目に飛び込んで来たのは、物語で読んだような …… 異様に思える空間だった。そう、私は自分の目で見る今まで、このような空間を自分が異様に感じるだなど、思ってもいなかったのだ。

  白人椅子

  古い建築様式で建てられた館の天井は高く、中に入ると落着かない程だった。
  背徳的ともいえる行為(なんて古い言葉!しかし私は大広間で繰り広げられている行為をこう感じたのだ。…… そんな風に感じる自分が恥ずかしい)を人々が行なうこの部屋の造りも、同じような設計をされていた。長方形の部屋の天井には、二つの大きなシャンデリアが吊るされていて、幾つもに乱反射した輝きが、部屋の隅々まで明るく照らしていた。
  淑女達はその明かりの下、スーツやワンピースなどの正装(一九九〇年代の女性の正装はこれだと私は思う)を身に纏い、楽しそうに談話していた。ただ、その椅子や机などの全ての家具類を、下着と能面を付けた人が演じていた。人床を通り過ぎてきた私だが、人が家具を演じるこの光景には衝撃を覚えた。だが意外にも大広間には、人床の廊下と違い、明るさや和やかさがあった。
「よく来たわねぇ、芙蓉ちゃん、さぁさ、こちらへいらっしゃいよ」
  スミレは二人の女の上に乗り、揺られながら私の方へ来た。スミレを運ぶ白人女性達の体躯は、二百キログラム近いスミレの体が小さく見える程、大きなものであった。白人女性達の肩に金具の取っ手が取り付けてあり、その四角い取っ手を持つことによってバランスが取れるようになっていた。私はデパートの屋上にある遊技場の、電動式で歩き回るパンダの乗り物を思い出した。スミレは女達の上に横乗りになって、優雅に揺られていた。
「人間椅子は座り心地が抜群なのよね。芙蓉ちゃんの椅子はどれがいいかしら?」
  スミレは私にではなく、横に立つ光に語り掛けた。「椅子」とは、この椅子の演技に没頭する人達の事なのだろうか。光とスミレに連れられて隣の小部屋に行くと、色々な人種の、能面を付けた男性達が、サイズ順に正座していた。女性は奥の方に少しだけいたが、能面を付けているものの、下を向いて蹲った男性の背や、胡座をかく男性の足の上に座って、談笑していた。同じ能面を付けた女性であっても、女嫌いの床に並ぶ女性達とは、待遇の違いがあるようだ。
「芙蓉様にはこのくらいが丁度良いのではないでしょうか」
  光が二人の白人系の男達の頭をポンっと叩くと、男達はすっくと立ち上がった。金髪に包まれた能面は、私には見慣れない光景だった。
「椅子になりなさい」
  男達は光に命じられるままに、跪き、犬のような格好をした。
「芙蓉様、座ってみて下さい」
  光に言われるまま、男達の上に横乗りに座ってみた。人の体にこんなふうに触れるのなんて体育の時間以来だわ、と私は思った。しかし体育の時間に行なわれる「人間飛び箱」は、膝を手で支えて俯くもので、今、彼等が行なっている行動とは全く違った。どちらかというと子供の遊戯(親が馬になって子供を背に乗せる)に似ているが、私はその遊びをしてもらった記憶が無かった。
「丁度良い高さみたいですね。じゃあこれにしましょう」
  光は満足そうに言った。確かに座る時の高さといい、座り心地といい満足を覚えるものだったので、私は、ええ、これにするわ、と光に言った。私が彼等から一旦降りると、光は壁に掛けてあった革製の服のようなものを彼等に着けた。二人の胴体は、繋がった黒い革服によって結ばれた。光はさらに鞭を彼等の肛門(どうやら黒い下着の肛門部分に、鞭が装着できるように加工が施されているらしい)に挿入した。彼等は手足が白く、胴と尾が黒い、馬のような姿になった。
「芙蓉ちゃん専用の椅子よ。名前を付けてあげたら?」
  スミレの提案にも答えず、私は暫くの間、馬のような格好になった白人男性達を見続けた。
「そうね……安直だけど、たんぽぽとひまわりにしようかしら。左側がたんぽぽ」
  私は彼等の上に座り、左側の男の頭をポンっと叩いた。
「右側のちょっと日焼けしている方がひまわり」
  私は右側の男の頭を軽く叩いた。そして、私は芙蓉、宜しくね、と彼等に声を掛けた。彼等は右手でこんこんっと床を叩いた。これがきっと彼等流の返事なのだろう。
「椅子が決まった所で、大広間の方へ行きましょう。皆、芙蓉ちゃんが来ることを楽しみにしているのよ」
  スミレは手を大きく振り上げて、自分の後を付いて来るよう、私達に指示した。
「動きますから、取っ手に掴まって、奥の方へ座って下さい」
  たんぽぽが私に話し掛けた。私はひまわりの肩に付いている取っ手を握って、深めに腰掛けた。右側から乗っていたので、私の体の殆どはひまわりの上に乗っていた。
  彼等の動きは訓練されていて、手足を揃えて上手に移動するので、思ったより揺れは少なかった。

  詰め襟調教

  口笛の音がするので振り向くと、光が自分専用だと思われる椅子を呼んでいた。光専用の椅子は東洋系の肌をしていて、二人とも丸刈りだった。黒の詰め襟服を着ていたので、中学生のようにも見えた。光の趣味なのかしら、と私は思った。光は、二人の尻(鞭の柄は黒のズボンの肛門の辺りに深く刺さっていた。鞭が肛門の粘膜に直接触れている様にも見えなかったので、きっと特種加工された服なのだろう)から鞭を二本共引き抜くと、男達の尻に鞭を当てた。二人の歩き方は、私の椅子に比べるととてもぎこちなかったので、私は夢見女館の従業員が、人間椅子の調教をしていることを知った。私の椅子も光が調教したのだろうか。もし光がこの椅子に何度も乗って、訓練をしていたとしたら …… 光も何度もこの取っ手を握ったのだろうか。私は取っ手を握る手の平が汗ばむのを感じた。
  光が鞭を振るう姿は、とても凛々しく美しかった。光に調教されている椅子は、だんだん歩き方が上手になっていった。光の調教に見惚れているうちに、私は大広間で談笑している女性達の間に運ばれていた。
  女性達は各々、好きなグループに分かれて議論しあっているようだった。私の隣にいるグループはトップレス愛好家達の集まりのようで、女性の乳の形について熱く語り合っていた。私はスミレのいるグループに参加する事にした。輪の中に入る前に、椅子は動きを止めた。そして光が横に並び、私の方へ左手を差し伸べてきたので、私は光の掌に右手を乗せた。光は左手で鞭を振るい、床を鳴らすと、それを合図に椅子が前進し、私達は輪の中心へと進んだ。
「あら、光さんがエスコート?  生意気な娘ねぇ」
  私の正面に座っている女性が、私に向かって憎々しげに言ったので、私は誇らしい笑顔を彼女に向けた。
「淑女の皆様、本日はお集まり戴き、誠にありがとうございます」
  光の声はワイヤレスマイクによって、部屋中に響き渡り、他のグループの女性達も会話を止めて、私達の方を向いた。ゲストの数は三百人程いるだろうか。個性的で、瞳の輝きが強い女性ばかりだった。そして身体に障害を持つ女性も割合多かった。障害を持つ私達には「普通」に行なえてしまう事が、健常者には出来なかったりする事が多いし、私達は普段健常者との差が目に付き、「考える」機会が多いわけだから、ただ優秀な者を集めた時、身障者が多くなるのは当たり前の事なのだろう。社会の中で性差別を受ける女性の方が、男性よりモノを考える機会に恵まれ、男性に比べ圧倒的に優秀な者が多いのと同じ原理が働くのだ。
「こちらは本日が初参加となります芙蓉様です」
  光に紹介されたので、私は軽く頭を下げた。
「それでは皆様、楽しい休息時間をお楽しみ下さい」
  簡単な紹介が終わると、また人々は談話を始めた。私と光はスミレのいるグループに椅子を並べた。光の指示に従って私の椅子も移動した。椅子を演じる者達は、互いの尻を見ながら円形に並んだ。意志の通りに動く椅子は、私のような闘病生活が長い者にも、スミレのように足が悪い者にも、とても便利だった。
「芙蓉ちゃん、いらっしゃい」
  スミレは人間椅子を四つ並べ、その上に横たわった。大きなクッションに寄り掛かりながら白人椅子の上に横になるスミレは、とても気迫があり、今まで見た事がないくらい綺麗だった。皆の位置が定まると、能面を付けた者達が、各々の前に小さな丸テーブルを置いていった。その後、夢見女館の女達が次々と、クラッカーに色々な食材を乗せたオードブルやキャビア、そしてカクテル『夢見女館』を各々のテーブルの上に置いていった。
「夢見女館の宿泊パーティに乾杯!」
  スミレが音頭を取ると、皆が一斉に乾杯と言った。私もグラスを掲げながら乾杯と言った。私は食事の前には祈る習慣があるので、飲む事を少しためらっていると、光が声を掛けてきた。
「芙蓉様は確かクリスチャンでしたよね。私もそうなんですよ。宗派は少々違いますが ……。共に食事の前の祈りを捧げましょう。芙蓉様が祈って下さい」
  私は目を閉じ、神へ食前の祈りを捧げた。光が私のエスコート役になったのは、宗教が一緒だからだろうか、なんて事を私は祈りながら考えていた。

  キリスト教と同性愛

「あら、芙蓉ちゃんもクリスチャンなんだ。結構、キリスト教徒って多いのね。私も日曜学校には行っていたのよ」
「スミレちゃんは、今は行っていないの?」
「ええ、だって中学に入ってからは、部活動が忙しくって。芙蓉ちゃんは今も行っているの?」
「ええ、行っているわ。大人になってもキリスト教と触れていると色々考えさせられるわ。例えば女性同性愛者の中にキリスト教信仰者が多いのは何故か、とかね。
  日本の男性は『男色』って言葉があるように、同性愛を歴史的に認識する事が出来るのよ。それに現代的感性から言っても、性に能動的になる事は『男らしい』といわれるでしょ。だから男性同性愛に向かう能動的な行為にはどこか『男らしさ』があるということになる …… いわば逃げ道が作れるわけなのよ。
  でもね、女性同性愛者っていうのは、男性と根本的に違うのよ。
  日本に女性同性愛は制度的に無いし、『女らしい』という言葉には、受動的であれ、みたいな意味合いが含まれるでしょ、能動的に性欲を求めるのは汚らわしい、みたいな。だから女性同性愛者である、という自己認識には、能動的に人を愛する女性である自分、能動的に人を性的に欲する女性である自分、っていうのを受け入れなければならないのよ。でも物語的にも制度的にも女性同性愛者は少ないし、女性が読む物語、たとえば少女小説や少女マンガやドラマなんかには、女性が女性を愛する物語が圧倒的に少ないわ。そこで日本の女性は宝塚的勘違いをするわけよ、例えば『女を愛する自分は男なのではないだろうか』とか、『あの人が男性的だから、女性である自分は愛してしまうのだろう』とかね。だけど子供の頃に聖書に触れた女性は、結構そうならないで、女性のまま女性を愛する『レスビアン』になったりするわけ」
  スミレはワインを飲みながら、私の話を聞いていた。周りのテーブルを見渡すと、私のグループではカクテル『夢見女館』を残している人はいなかった。カクテル『夢見女館』はお店では御代りすることが出来なかったが、ここでも一人一杯と決まっているようだ。私は少し残念に思った。カクテル『夢見女館』は、私が飲んだ物の中で、一番口に合う美味しい飲み物だった。
  光が生ハムとチーズを乗せたクラッカーをつまみながら、私に話し掛けた。
「やはりそれは聖書が同性愛を禁じているからでしょうか。…… そういえば私は同性愛の存在自体を疑った事など無かったわ」
「そうなのよ、光さん、そこがポイントなのよね。キリスト教に接していない日本人女性は、同性愛の存在を知らないのよ。クリスチャンは禁止される存在としての同性愛を知っているから同性愛者になり易いの。おなべのようなトランスジェンダーではなくって」
  私が一息つくとスミレがキャビアをつまみながら言った。
「確かにそりゃそうだわ。禁止されていようがいまいが、概念として同性を愛する行為を知っているかいないかで、大きく違うわね。人間って知らない概念を簡単に理解出来る程、頭良くないもの」
「そぉーなのよ、だからアニメの『少女革命ウテナ』は素晴らしいのよぉ」
  そう言った女性に手を向けながら、光が「そちらの方は乙姫様です」と紹介してくれた。乙姫は私に向かって「乙姫です、宜しく」と言った。確かこの人は、さっき私が光にエスコートされた事をやっかんだ人よね、と私は思った。
「ねぇ、芙蓉さんは見ました?  テレビで放映されていた『少女革命ウテナ』」
「ええ、もちろんです、乙姫さん。一九九〇年代の日本のレスビアンストーリィを語る時には、欠かせませんものね」
  私はその時、彼女が『少女革命ウテナ』に出てくるとキャラクター・樹璃と同じ格好をしている事に気付いた。乙姫は今流行りのコスプレーヤーだった。彼女は衣装作りも上手く、足を組みながら椅子に座る格好といい、毅然とした態度といい、樹璃の雰囲気そのものを醸し出していた。
「そうなのよぉー、嬉しいわ。見ていない方に説明しますねぇ。『少女革命ウテナ』は姫宮アンシーって女の子が、天上ウテナっていう男装している女の子に …… ウテナは一人称をボクっていう子なんですけどねぇー …… 出会って、色々あって、家族から独立した女性として旅立つっていう、とても現代的なお話なのよぉー。物語が現代に追いついたって風の物語で、その中に本格的に表現されたレスビアンが出てくるのです!  これがまた、愛した人がたまたま女の子だったんですぅ、みたいな少女漫画にありがちな、逃げ入っている娘じゃなくって、男性向けエロ本に出てくるような男に媚び々々キャラでもなくって、正真正銘レスビアンってキャラがなのよ。私みたいなパンツルックの凛々しい女性なのよ、主人公のウテナみたいに王子様になりたいから男の格好してまーす、みたいな勘違いヤロウじゃなくって、ちゃんと自己認識が女性で、女性が好きっていうレスビアンなわけ。もーこれが夕方のテレビアニメ番組かぁー?  って思っちゃう程、凄い番組でさぁー。あれが放映された前と後じゃ、日本のレスビアンって違っちゃうだろうねぇー」
  横になっていたスミレが、ちょっと上体を起こし、ワインを入れたグラスをくるくると揺らした。スミレが話に興奮している証拠ね、と私は思った。スミレはワインにちょっと口を付けてから言った。
「そうそう。あれには驚いたわね。孤独なレスビアン達にとって、とても勇気付けられた作品だとおもうわ、私。子供の時に『少女革命ウテナ』を見ていたら、人生変わっていたわね」
「『ウテナ』が子供の頃に放映されていたら、自分が男かもなんて勘違いすることも、自殺しようなんて思いつめる必要もなかったわけよぉー、私達レスビアンはさぁ。
  九十年代に入ってから、女性誌にも社会人としてパンツスーツを着た女性がグラビアに増えたけど、それまではパンツスーツを着た女性の写真が殆ど無くって、ブティック店頭でもパンツスーツって捜すのが大変だったのよねぇー。そんな中ではさぁー、概念としてパンツスーツを着る女性像が無かったからこそ、パンツ好きな女性はそれまで自分の事を男かもしれないと勘違いする事が多かったわけだけどぉー、いいのよ別に、女のままでパンツスーツを着ていればぁー。
  ガーンと経済力を持って、男に扶養されないで生きていける女だったら、別に男の目を気にしたりとか、結婚願望を持っていて男の子の好みの女性像風に着飾ったりする必要 …… まぁ、いつでもお客さんに買われるように綺麗に着飾っている規格内の野菜みたいなもんよね …… なんてなくって、自分が好みの格好をして、自分が好きな相手を選べばいいんだものぉー。でもってカッコイイ女になって女のパートナーを選ぶわけよぉ!  くぅっ、樹璃ってカッコ良すぎ!」
  樹璃に似た格好をしながら、乙姫の話し方は樹璃にほど遠かった。その乙姫がアニメキャラクターの樹璃を賛美する姿はなんとも面白く、私は声を出して笑った。
「でも、もうちょっと樹璃に似せて話したらいかが?  乙姫さん」
「芙蓉さんもそう思いますよね?  さっきまで私が樹璃の真似して話していたら、スミレさまに普通に話せって注意されたんですよぉー。なんとか言ってやってくださいよ。このオンナに」
  乙姫が口をへの字に曲げて、スミレの方を見た。スミレは再び横になりながら、乙姫に言い返した。
「別に私は命令してないわよ」
「あなたの存在自体が命令口調なんですぅ」
  乙姫は唇をちょっと尖らせて言った。私は夢見女館で乙姫に会った事は無かったが、スミレと仲良しなんだなぁ、と二人の会話を聞きながら思った。
  スミレは乙姫の抗議を無視し、クラッカーにナッツ入りチーズを乗せながら、私に言った。

  『女嫌いの床』を踏む女達

「ところで芙蓉ちゃん、御泊り夢見女館のご感想はいかが?」
  私は新宿御苑の入口に光が出迎えてくれていた事を思い出し、どきっとして、少し体を震わせた。あれが今日一日エスコートしてくれる始まりだなんて私は知らなかったので、場所に着いてしまったらお別れかしら、なんて思っていたのだ。それから、光と手を握ったり、椅子を選んでもらったり、紹介してもらったり、横にずっと並んでいたり、光がずっと私の事を見ているのを知って興奮したり。カウンターの向こう側からこちらに来ることなんて無いと思っていた光と、こんなに接近できるなんて私は思ってもみなかった……などとスミレに言おうと思ったが、とても恥ずかしかったので止めた。
「新宿御苑に夢見女館のこんな別館があるなんて思わなかったわ。驚いちゃった。
  それに、会場に着いてからは刺激的な出来事の連続だったわ。そう、『女嫌いの床』からだわ。あれは女性嫌悪のある女性などを集めていらっしゃると光さんに伺ってね、成る程と思ったのよ。私は昔、自分は女性が全般的に嫌いだと思っていたの。でもそれは間違いだということを前にサチさんに指摘されたのよ。私が嫌いなのは日本社会、いわば男性社会が求める女性像であり、またそういう女性像を信奉する女性が嫌いなのであって、女性自体が嫌いなのではないってね。
  では男性社会が求める女性像を信奉する女性ってどういう人かしら。それはやはり自分より強いものに立ち向かっていかない女性の事だと、私は思うの。例えばポルノ表現規制を推進する女性がいるけど、彼女達は社会的 …… これはいわば男性的価値観だけど …… に性的表現を抑圧されて生きてきて、それに疑問を持たない、もしくは抵抗出来ない層なわけよね。家や地域によっては、女性がポルノに触れるだけで暴力振るわれたり、侮辱されたりすることがあるわけだから。だからこそ自分が受けた、ポルノ表現を見てはいけないっていう仕打ちを、男女両方の規制にしようと頑張るわけよ …… 何時の世にも国民の表現規制をしたい国家権力はとにかくなんでも規制には賛成だしね …… 規制推進派の女性は知識不足で、表現する権利というものが国民にとっていかに重要かを知らないし。
  でも男性に声を上げられる強い女性はそうは考えないわ。自分達にもポルノ表現に触れる権利を、表現の自由を、と声を上げる事が出来るのよ。そして男達をぱっぱーっと脱がせて、男の裸でグラビアを飾って女が見る権利を取得するわけよ。
  それにしても、あのポルノ規制推進派の女性達って、同性として恥ずかしいっていうか、迷惑っていうか ……」
「足引っ張られるんだよね。とりあえず現実の性暴力は厳しく摘発していくとしても、私は表現規制は許せないわね。女のくせしてエロ表現を規制したいなんて、何考えているのかしら。女の人生はセックス至上!  えっちしまくって、楽しまなきゃ、何のための人生か!  女のためのエロ本市場をどかーんと作って、オナニー三昧の日々を送るの!  これでこそ女よ。それなのにあの不感症女達、何考えて生きているのかしら」
  スミレがチーズと剥き海老とオリーブをクラッカーに乗せながら言った。私の前にあるクラッカーはトッピングが乗った状態でテーブルに並べてあるが、スミレの前には色々な食材が並べてあって、好きに乗せられるようになっていた。よくよく見ると、私とスミレのテーブルの大きさも大分違っていて、スミレの方がずっと大きかった。
  私はクラッカーの上に乗せてあるプチトマトを食べながら言った。
「そうなのよね。保守的な男達が求める女性像を求める女達、つまり保守的な女性達は、女性が権利を求めていく歴史的な流れを止めるのよ。まぁ、女性を下層階級に留めたい保守的な男性にとってはとてもありがたい事なんでしょうけど、権利を取得したい、しようと頑張っている女性にとっては、保守的な行動を取る女というのは、不利益以外のなにものでもないのよ」
  私の言葉を聞きながら、乙姫が椅子の頭を優しく撫でていた。椅子は嬉しそうに乙姫の手の方へ頭を摺り寄せていた。そうか、ああやって椅子を可愛がればいいのか、と私は思った。乙姫は左手でオレンジジュースの入ったコップを持ちながら言った。
「そうなんですよぉー、芙蓉さん。あたしなんてぇー、この間、イベントのパンフレットに超レスビアン差別発言が載っていてぇー、このバカ女サイテー、めっちゃ迷惑とか思っちゃいましたよ …… でも残った文書は、現代の日本人女性が発したレスビアン差別表現の資料として使わせてもらいますけどっ …… まぁ情報等を入手しながらも、差別を推進するのが好きなバカ女は『女嫌いの床』行きって事でいいんですけどぉー、殆どの女性は情報等を入手していなかったり、入手出来ない環境にいるから保守的になってしまうんだと思うんですぅ。だからあたしたちみたいなイイオンナは、情報を得ていない、女性解放の教育を受けられない環境にいる女性に、女性が権利を取得できるよう働くのは、一時的にはとても怖い事だったり、物理的・精神的暴力を受けたりするけど、将来的にはとても楽になる事で、幸せな未来を獲得するために頑張らなきゃならないんだって事を言わなくっちゃいけないと思うんです …… っていっても私、絵を描いたり文章書いたり出来ないんだけどぉー」
「いや、貴女は樹璃のコスプレしているだけで、十分、頑張っていると思う」
  私がそう言うと、乙姫が膝を大きく叩いて喜んだ。
「あたしもコスプレすることって、大切な表現の一つだと思ってますぅー。なんか嬉しいなぁ。あたしも早く栞みたいなクソアマに激ラブしたいのよねぇー。あっ、栞っていうのは『少女革命ウテナ』で樹璃が激ラブな女の子なんです」
  乙姫が一息ついたところで、スミレが言った。
「女嫌いと一言でいっても、情報が無いだけなのか、元々差別主義者なのか、女性差別を受けすぎて気が狂っちゃっているのか、ただのバカなのかは、なかなか判別しづらいのよね。差別主義者とバカは、私が丁寧に踏んであげるってかんじだけど」
  スミレは巨大な器に注いであるコーンスープを口に運んだ。
  私は、スミレに踏まれたらさぞかし痛いんだろうなぁと考えていた。いや今までだって踏まれた女性はいるに違いない。スミレの椅子の足元には、サイズ・二十五センチメートルの真紅のハイヒールがあった。足の悪いスミレは、普段は踵の低い革靴などを好んで履いていた。だが夢見女館の優秀な従業員達の手を借りれば、いくら足が悪いといっても、ハイヒールくらい履いて歩けるに違いない。きっとあのヒールの高い靴は、『女嫌いの床』を踏む為だけに買ったのだろう。スミレは靴とお揃いの真紅のサテンで出来た裾が広がるイブニングドレスを着ていた。胸と腰には金色の太い紐が幾重にも体に巻き付いていた。長い髪は大きな三編みにして巻き上げ、それを金色と真紅の紐で留めていた。胸には金で出来た大きなコイン型(盆型?)のペンダントヘッドが輝いていた。これで気迫が無ければ体育館の垂れ幕に包まれた巨体女というところだが、スミレはその迫力で女帝のような雰囲気を醸し出していた。
  私は干アンズを口にしながら言った。
「そう、情報が足りないというのは女性にとって深刻な悩みだわ。私だって学校教育で男女差別が無いって教わって、そうやって卒業まで信じてきたもの」
「でも芙蓉ちゃんの学校は名簿で男子が先で女子が後でしょ」
「私の学校は母の母校でもあってね、母は生徒会長もやっていたのよ。そんな母親に育てられて、差別があると思う方が難しいし、名簿の順番なんて、後ろの方が劣等なんだって考えがなければ思い付かないわよ。芙蓉のふはね、男女混成で並んでも、後ろの方なのよ。だから社会は実力の世界で、私には実力が無いだけなんだって思ってたの。それに私が幼い頃は、日本の中でキリスト教徒が差別されているって事の方が深刻な悩みだったもの。
  就職する時よ。女性の雇用の方が無いし、落とされるし、入社してからも能力給でない会社で同期の男性と給料や昇進の差別があるし。そして女性全般が男性平均に比べ、凄く悪い待遇のまま働かされている事を知ったわ。私はとても怒りを覚えたけど …… でもよく仕事の出来る女性の先輩が、昇進の意志が無いって知った時のほうが絶望的に思えたわ …… 仕事が出来る女性の先輩が昇進出来なかったら、通院や入院で休みがちな私なんてどうなるんだろうって思ったもの ……」
「就職すると、誰でもわかる事なのかしら?  芙蓉ちゃん。私は足っていう人の目に付き易い障害だったから、大分苛めや陰口にあったのよ。悪い意味でも良い意味でも特別扱いされる事が多かったの。その上、就職口は少なかったわ。女は容姿、みたいな雰囲気でね。まぁ、校正の仕事にありつけたから良かったけど」
「就職すればわかる女ばかりじゃありませんよぉー、スミレさま。オタク女なんて、オタクな本当の自分と現世、みたいなかんじで分けちゃっていて、自分のこと女だって認識すらしていませんものぉー」
「私が思うにはね、乙姫。それはオタク女に限った事ではなく、女性全般に言える事だと思うのさ。オタクの場合、物語に則って狂っていくから説明しやすいだけで、多くの女性が社会に幻滅して訳も分からず狂っていくんだと思うのよ。狂った女性達は社会に波紋を広げ、社会を狂わせていくの。そして多くの狂人達が私達に踏まれて幸せになっていくのよ。なんて素晴らしいシステムなのかしら。
  …… そういえば芙蓉ちゃん、貴女の椅子を皆さんに紹介して頂けないかしら?」
  スミレは椅子の白い背を撫でた。スミレの椅子は、嬉しそうに首を伸ばした。

  人間椅子という快楽

「芙蓉様はまだ来たばかりであまり説明していませんので、かわりに私が芙蓉様の椅子の紹介をしましょう」
  光はゆらゆらと動く自分の椅子に鞭を振るいながら、私の椅子を説明し始めた。
「芙蓉様が使われている椅子の原産地はアメリカです。今は日本に帰化していますけど」
「ねぇ、光さん。男の方も椅子になればこの男子禁制の夢見女館に来る事が出来るの?」
「いいえ、芙蓉様。ここにいる者達は、皆、去勢されています。男を捨てなければこの館に入る事は出来ないのです。彼等の中の多くの者は社会で男性として働き、夢見女館では女性の体の下で椅子になったり、テーブルになったり、コート掛けになったりして、女性に奉仕し、快楽をむさぼっているのです。彼等にとってはそれは男性からの解放であり、私達はそれに協力する者です。私達女性はただ自分達の幸せだけを求めて、女性解放をすすめるのではなく、もう一つの性である男性の解放運動も推し進めなければなりません。そうしなければ真の女性解放は為し得ないでしょう。女性と男性は相互関係で成り立っています。例えば女性は自分達の社会進出を求める一方で、男性が正社員として働くのを放棄し、アルバイトだけで生きて行く権利を認めなければなりません。また女性はズボンを履く権利を求め勝ち取っていったわけですから、男性がスカートを履く権利も認めなければならないのです。女性がリーダーシップを取る上では、協力するリーダーではない男性の、またリーダーに成る気のない男性の存在を認めていかなければならないのです。強い女達が増える一方で、弱い男達が増えるのは当たり前の事です。だからこそ私達は寛容な心で、男を軟弱に育て、支えていかなければならないのです。
  そういえば芙蓉様の椅子の事ですが、アメリカ北部や北ヨーロッパの男子は質が良いのですよ。アメリカ社会には差別や階級があるので、かえって調教しやすいという面もありますが、一方、私達が彼等に今までの男性像を押し付けないからこそ、彼等は男性像からの解放を求めて性器を捨て、椅子になるのです。私達は彼等のその誠意を尊重し、愛しく思います」
  私は光の言葉を聞きながら、この部屋の和んだ雰囲気について考えていた。光景として衝撃的な大広間の風景は、決して殺伐としたものではなかった。シャンデリアの明るい光の下、人々は人間椅子の上に座り和んでいた。この空気は人々だけで作られたものではなく、人間家具達が醸し出す幸福感が創り出していたのだろう。
  私はたんぽぽとひまわりをとても愛しく感じ、二人の頭を撫でた。二人は私の手に頭をこすり付けて喜びを表した。
  光の話が終わると、スミレが自分の椅子を賛美し始めた。
「おーほほほ、芙蓉ちゃん。私の椅子はね、ヨーロッパのお貴族サマだった女達を私がハントして連れてきたのよ。まぁ、調教は夢見女館の調教専門の方にお願いしてきたんだけどね。…… 女はいいわよ。柔らかいし、肌触りもいいし。私のサイズに合う女は白人系じゃないとなかなかいなくてね。私のお気に入りなのよ」
「まぁ、気に入った人を椅子用に連れてきてもいいの?  スミレちゃん」
「そうよ、芙蓉ちゃん。この会場にも結構椅子が夫って人が多いのよ。私の隣の紀乃下さんもその一人で、彼女の椅子は夫と彼の会社の同僚なのよ」
  紀乃下は、宜しく、と言って頭を下げた。私は、芙蓉です宜しく、と挨拶した。紀乃下の隣に座る乙姫は、大きく手を上げて言った。
「私のはねぇー、お兄ちゃん達なのよぉー。今日は上の兄に暁生の、真中のに冬芽のコスプレをさせてきたのよぉー」
  私は大きな声で笑った。暁生と冬芽というのは『少女革命ウテナ』のキャラクター達だった。アニメでは暁生と冬芽が、乙姫がコスプレしているキャラクター・樹璃の下で馬のように伏せているなんて光景は無かったし、想像も出来ないのだが、コスプレーヤーである乙姫は、そのような設定を演じているのである。凄い想像力だった。
「乙姫さんって、笑わせるわよね」
「んもう、芙蓉さんって、趣味が合うわよねぇー」
  スミレが乙姫の言葉を遮って、乙姫の隣に居る篠崎、鳥居、黒川達の椅子を紹介した。彼女達の椅子は夢見女館が用意したものだったが、どれも逸品ばかりだった。

  コスプレ・ショー

  光がちらっと腕時計を見た。
「スミレさま、お時間です」
  スミレが急に起き上がったので、スミレを乗せていた椅子が激しく揺れた。スミレは椅子の尻に挿入してある鞭を取り、椅子の背をピシッと強く打った。
「あらそう、じゃあ行かなくちゃ。芙蓉ちゃん、今日は貴女の為にショーを用意したの。楽しんでいってね」
  スミレ達が部屋を出て行くと、夢見女館の従業員達が入ってきて、客達を部屋の壁の方へ移動させた。すると入口に近い扉から、大きな円形の舞台が運ばれてきた。私は従業員に指示されるまま、舞台の近くに陣取った。部屋の照明が落とされ、舞台に備え付けられたライトが明るく輝いた。
「おーほっほっほ、やっとアセルス様をゲットいたしましたわー」
  ライトに照らされながら、幾つもの白薔薇が短い裾に飾ってある白いチュチュを着たスミレが、扉の向こうから現れた。髪飾りには白い大きな薔薇が山のように付いていた。スミレはプレイステーション用ゲーム『サガフロンティア』に出てくる白薔薇姫のコスチュームプレイをしていた。巨大な白薔薇姫は、同じく大きな白薔薇の飾りを付けたデカイ白人椅子に座って登場した。白薔薇を付けた白人女性達はとても美しかった。
  私が次に見たものは、褐色の肌を黄金の鎧で包み、金色の鬣を持つ背の高いアフリカ系の女性に、両手を掴まれ吊るされている光の姿だった。二人の姿はゲームに現われる金獅子姫とアセルスにそっくりで、光は水色の提灯袖の上着と黄色の燕尾服を着て、ぐったりとして俯いていた。金獅子姫役の女性は、私が見た事のない者だった。
  三人(と椅子の合計七人)は舞台に上がった。
  スミレ …… いや、この場合白薔薇姫と呼ぶべきなのだろう。白薔薇姫は椅子の尻から鞭を引き抜き、光 …… アセルスに鞭を振るった。会場に響き渡る音からすると、やらせではなさそうだ。俯いていたアセルスが鞭に驚き、あー、っと声を上げた。私の体は、光の悩ましい声に震えた。私は下半身が温かくなるのを感じ、人間椅子に座っているのが恥ずかしくなった。
「ああ、どうして貴女はそんなに私を魅了するの …… その姿、その声、存在自体が悩ましい」
  そう言いながら白薔薇姫はアセルスに鞭を振るった。アセルスの服が、白薔薇姫の鞭によって脱がされていった。恐らく服に仕掛けがあるのだろう。アセルスは簡単に剥かれていって、あっというまに下着だけの姿になった。アセルスの(いや、光のか?)胸は小さく、小さな体と胸は、小学生の成長途中の体を思い起こさせた。
「おお、私のアセルス」
  アセルスのフロントにあるブラジャーのホックを、白薔薇姫の大きな手が丁寧に外した。私の位置は三人を横から見るような角度にあり、白薔薇姫の異様に長い舌が(スミレの舌ってあんなに長かったのね)、アセルスの少し膨らんだ乳の中心にある乳首を嘗め回した。
「だめだよ、白薔薇姫、なにをするの?  私達は友達だろ?」
「いいえ、アセルス、貴女がオルロワージュ様の血を受けた時から、私は貴女に魅了されたのです。貴女はなんて罪作りなお方、なんて全能なお方。そしてこの世の中に、同性の愛を引き裂くものなど無いのです」
「ああっ感じてしまう!  白薔薇姫。き、気持ちが良いっ」
「そう、快楽に身を委ねるのです、アセルス様」
  白薔薇姫の舌に弄ばれているアセルスの乳首は、つんとした出っ張りになっていった。小さなアセルスの、二倍近く大きく見える白薔薇姫は、掌でアセルスの乳を包み込んだ。そうするとアセルスの小さな胸の膨らみは、白薔薇姫の手の中に隠れてしまうのだった。白薔薇姫は観客へのサービスか、アセルスの胸を弄るのを、掌から指先に変更した。腕をYの字に伸ばされたアセルスは、下半身を捩って白薔薇姫の愛撫に抵抗するのだが、空しく終わった。
「ああっ、そこは駄目だよ、私、体が痺れて ……」
  白薔薇姫は髪飾りから白薔薇の花が咲く蔓を取り、アセルスの体に巻き付けた。アセルスの体に薔薇の棘が食い込み、白い薔薇が見るみるうちに赤い薔薇へと変わっていった。原作のアセルスは半妖魔で、紫色の血だったが、アセルスの衣装を纏う光の血は赤かった。私は光の赤い血をみて、ほっとするのだった(何故だ?)。
  淫乱な白薔薇姫の食指は、とうとうアセルスのきつくしまった足の間へと延びていった。白薔薇姫は手をアセルスの股の間へと差し入れた。アセルスの血は、体を伝わり、白薔薇姫の手に流れ、白いチュチュを赤く染めた。
  白薔薇姫の肌理細かな白い手が、アセルスの股を出たり入ったりする度に、小さな体の淑女はああっ、と声を上げるのだった。
  ショーが始まってから、大広間はとても猥雑な空気が流れていた。女達は服を脱いだり、夢見女館の女性達に奉仕させたり、椅子に股を擦り付けたりしていた。私もショーを見ながら、もぞもぞと腰を動かしていた。
「アセルス様、なんて美しいのでしょう。私は貴女様の虜でございます。さぁ、そこにいらっしゃるお嬢様、一緒に悦しみましょう」
  スミレがそう言って私を指すと、たんぽぽが、動きます、芙蓉様、と言った。私は椅子の取っ手を掴んだ。椅子はゆっくりと舞台に上がっていった。
  舞台から見下ろす大広間は、凄い光景であった。女達は交わり、絡み合い、声を上げ、椅子を幾つもくっつけて、その上であらゆる行為が行なわれていた。
「さぁ、これを使って、アセルス様を悦ばせてやって下さい」
  私がスミレに手渡されたのは、太い、ペニスを模ったバイブレーターだった。アセルスは、『サガフロンティア』に出てくる零姫とメサルティムのコスチュームを着た少女達に膝を掴まれ、足をMの形に開かされていた。アセルスの性器には体毛が無く、綺麗に剃られているようだった。
  白薔薇姫は私の横に立ち、バイブレーターを私の両手で持たせ、その手を白い手で包み込んだ。
「アセルス様もお嬢様にお願いするのです!」
  アセルスの衣装(もうそれは靴しか残っていないが)を着た光は、私の目をじっと見詰めながら言った。
「芙蓉様 …… お願いです。私の淫らな穴を悦ばして下さい」
  アセルスの瞳は涙が零れるのではないかと思う程、潤んでいた。
  私と白薔薇姫は、ケーキカットをする恋人達のようにバイブレーターを握り締め、アセルスの性器に押しあてた。器具の先端をアセルスの濡れた割れ目にあてると、ぬるぬると液が器具に纏わり付き、花が咲くように性器が開いていった。器具の先端を十分に濡らし、クリトリスにあてると、アセルスは声を上げながら体を反らせた。
  私と白薔薇姫は二人で器具を丁寧に舐め、挿入の用意をした。バイブレーターは光の愛液とスミレの唾の味がした。
  私達は慎重に、アセルスのヴァギナへとバイブレーターを挿入した。私が入れたこともないような太く長いそれは、アセルスの体内へ思ったよりもスムーズに入っていった。
「さぁ、このスイッチをいれて、アセルス様を悦ばせて下さい」
  私はためらう事なく白薔薇姫に手渡された器具のスイッチを入れた。私が一気に強にまでスイッチを押し上げると、アセルスはあー、っと大きな声を上げた。
  バイブレーターにはクリトリスとアナルを刺激するポイントが付いていて、それらの細かい振動はアセルスの事をとても悦ばせているようだった。
  アセルスが揺れるたびに白薔薇の棘は体に食い込み、小さな体から流れた血は私の手を赤く染めた。私と白薔薇姫は、二人でバイブレーターが落ちないように押さえ、顔をくっつけながらアセルス左乳と右乳を舐めた。アセルスはひっ、ひっ、と息を吸った。
  体が火照ってきたせいか、私の腕には軽い湿疹が浮き出ていた。だが子供の頃からの体質だったので、たいしたかゆみは感じなかった。
「はあぁー」
  アセルスは体を強く震わせた。私は自分が光を感じさせた事に喜びを覚えた。私は電動によって震える器具をさらに自分の手で動かした。
「いいー !  そこがいい!  いい!」
  アセルスは腰を強く揺らしながら、二度、そして三度と達した。アセルスは息を途切れさせながら、いい、いい、と叫び続けた。
  次第にアセルスが静かになっていったので、私達はバイブレーターのスイッチを切り、性器から抜いた。器具は愛液に覆われ、穴から白濁した液が床に流れ落ちた。太いバイブレーターを入れたアセルスの穴は、少し奥の方まで、朱色の内壁を見せていた。
  私は屈み込み、アセルスの性器や股を、舌で綺麗に舐めた。開いた穴に私が舌を入れると、アセルスは、あっ …… 、とか細い声を上げた。
  すると突然ライトが消え、会場がショーの終わりを示唆した。私達は舞台ごと、出口に運ばれている様だった。

  乳肉昇天

  私達は舞台ごと小部屋に運ばれた。小部屋は大広間の隣にあったようなのだが、一体何処にこの小部屋への扉があったのだろうと私は首を傾げた。金獅子姫役などの女達が、いつしかいなくなっており、部屋には私とスミレと光(そして各々の椅子)だけがいた。スミレは白薔薇姫の衣装を脱ぎ、素肌の上にシルクの薄布を、天女のように掛けていた。
「とても楽しかったわ」
  私が喜んでいると、スミレがこっちにいらっしゃいよ、と言った。私はスミレの椅子に靴を脱いで上がった。スミレの椅子は私の椅子より大きく、数もたくさんで、いつしか八体の椅子が用意されていた。それらはスミレ専用らしく、一つ一つが大きな体格をしていた。
  私がスミレの椅子に上がると、スミレは私をむぎゅーっと抱いた。スミレの体は柔らかい肉に包まれているので、まさに、むぎゅー、といった感触だった。それは私の知らなかった触り心地で、肥満した女の肉の気持ち良さに、私は暫し陶然とした。
「やっと二人きりになったのね、芙蓉ちゃん」
「えっ、だって、そこに光さんが ……」
「馬鹿ね。光さんは夢見女館の従業員で私達はお客さん。その間には深い谷間があるのじゃないの」
  それはそうだ、と私はスミレの言葉に納得した。よくよく考えてみれば光の行動は、夢見女館の従業員としては当たり前で、その一挙一動にドキドキしている私の方がどうかしているのだった。私は自分の行動を思い返して、少しばかり落ち込んだ。
「それよりも客同士で愛し合う方が自然よ」
  そういうスミレの隣で、光が私の服に手を掛け、私の白のブラウスを脱がし、ブラジャーを外し、金色のベルトを外し、桃色のズボンを脱がしていた。私は光の脱がし方の上手さに、ただ感心するだけだった。そのまま、私は光にするするっとショーツを脱がされた。裸になった私の全身には、軽い湿疹が浮き出ていた。
「ああっ!  芙蓉ちゃん、興奮しているのね!」
  私はスミレに優しく抱かれた。スミレの胸はまさに初雪のように白かった。私のほんのり赤い肌が、スミレの肌の白さを一層際立たせた。
「あっ」
  後ろから光が私のクリトリスを弄った。私の体は先程のショーで興奮し、性器はお漏らししたみたいに濡れていた。光は私のお尻を左手で揉みながら、右手を私の性器に押し当てた。
  私はスミレの唇に吸い付いた。スミレの唇はもっちりして、その口の中の歯茎はぴちぴちしていて、とても良い具合だった。私とスミレは舌を絡め、唇を吸い、瞳で語り合った。スミレの瞳はいつもと違って、少し不安そうな輝きを帯びていた。私はスミレが安心するように、目で微笑んだ。
  光の指が私のヴァギナへと入ってきた。指は一本、二本と増えていき、親指が挿入された。
「うっ!」
  私の体の中へ光の手が力一杯入ってきた。光の手は私の体の中でゆっくりと動き、ゆっくりと出て、再び入ってくるのだった。
「うう ……」
  私は女性の手が入ってくる感触を初めて味わった。光の手はとてもスムーズに私の体内で動き回った。私は体の奥の方まで光に貫かれ、体を串刺しにされているように錯覚した。
  私はスミレの唇から口を離し、少し下に降りて、スミレの乳首を吸った。スミレの乳首を私の口の中に入れ舌で転がすと、スミレは非常に喜び、再び私を、むぎゅー、と抱きしめた。私の顔はスミレの胸の肉の中に埋まった。
  女の肉とはなんと素晴らしいものなのだろう。私の顔と体は、スミレの肉の中に埋まっていった。弾力のあるスミレの素晴らしい肉体に包まれ、私は幸せな気分だった。私は夢中になってスミレの乳房を吸った。
  むぎゅー。
  私の鼻と口はスミレの乳肉に埋まり、次第に息苦しくなっていった。私はスミレにそれを知らせるべきか、この柔らかい肉に包まれる快楽に身を委ねるべきか、薄らいでいく意識の中で、悩んだのだった。

< 終 >

初出 文芸同人誌『少女帝国1998』

あとがき 2012/08

これが月刊連載のサンプル号になります。

価格は月50円か80円(もしくは50円)を予定してます。
毎月1日更新予定です。

DL・閲覧数が少なく、月刊連載をしなかった場合もこちらで告知(更新)します。

応援をよろしくお願いします。

藤間紫苑

奥付



百合嫁


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著者 : 藤間紫苑 FujimaShion
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/fujimashion/profile
ホームページ:http://www.fujimashion.com/
ツイッター:@fujima77

表紙イラスト 仁清七光


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