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 美人。目の覚めるような美人。野村省吾は昼下がりのカフェで、目の前に座る彼女の美しい横顔に目を奪われていた。窓の向こう側では、真夏の強い陽射しが歩道を跳ねる。陽射しに顔をしかめながら、足早に歩くビジネスマン。日傘を差して買い物袋を片手にする年配の女性や、楽しげに笑顔を交わす学生風の若い女性のグループ。通りを行き交う多くの人の流れの中にも、彼女ほど目を惹く魅力的な女性は一人もいない。渋谷駅から徒歩で五分ほどの距離にあるオープンカフェ。繁華街の交差点に面したロケーションにあるこのカフェは、待ち合わせに最適だった。彼女からの突然の電話に驚きながら、時たま訪れるこのカフェを、待ち合わせ場所に指定したのは野村だ。一枚の写真を頼りに、野村に電話をして来た彼女。浅田美樹と名乗る彼女と、電話で会話をするうちに、彼女に興味が湧いた。会って話を聞く約束をしたのは昨日の事だ。

待ち合わせの時刻にカフェに現れた彼女は、驚くほど美しい魅力的な女性だった。胸元で緩く巻かれた栗毛色の長い髪。細面の顔に切れ長の涼しげな目と鼻筋の通った高い鼻。薄化粧な彼女の顔の中には、魅力的なパーツが詰まっていた。濃紺のジーンズに肌触りの良さそうな白いコットンシャツというカジュアルな服装でいながら、どこか艶やかな雰囲気が漂う。長身でスタイル抜群の彼女が、店内の客の視線を一身に集めたのは言うまでも無い。店内に現れた彼女の姿を追う羨望の視線が、彼女が向かう先にいる野村へと集まり、非難の込められた視線へと変わる。違うだろう。視線は、野村にそう囁きかけて消えて行く。彼女と自分の、不釣り合いさを自覚するには十分だった。目の覚めるような美人。その言葉は、彼女のような美人の事を指すに違いない。

「この写真の事なんです」

昨日の電話で話していた写真。彼女は、自分の頼んだアイスティーのグラスをテーブルの端に寄せて、持って来た雑誌をテーブルの上に広げていた。彼女が広げたページには、野村が撮影した一枚の写真が掲載されていた。彼女が、この写真の事を話しているのは、何となく理解していた。彼女の言う雑誌には、伊豆半島の海辺を散策するコラムが連載されていた。企画を引き受けて、記事にしたのは野村だ。海辺の風景を写真に収めて、短いコラムにまとめる。彼女が目ざとく見つけた写真を撮影したのは、約二週間前の事になる。

「野村さんが書かれた記事ですよね?」

「そうだね。フリーでライターをやってる。僕が企画を引き受けたんだ」

彼女は、上目使いに野村の顔を見つめていた。その視線をかわすように誌面に目を落とす。魅力的な仕草。野村は、彼女に惹かれている自分に、少し動揺していた。

「この記事に載っている写真の場所へ、私を連れて行って欲しいんです」

野村の顔を覗き込む彼女の目は真剣だった。

「南伊豆の海岸だよ。場所を教える事はできるけど、君がこの場所へ行きたい理由も聞きたいね」

晴れた日の海辺の風景。青い水平線が広がる海と朽ちかけた平屋の古いレストラン。白い外壁や青い屋根は潮風に吹かれて色あせ、風情ある佇まいが印象に残った。白砂の海岸を目の前にするレストランの佇まいは、和の情緒溢れる港町の街並みと一線を画する南欧風の魅力的な風景だった。取材の最後に切り取った風景。野村も気に入っている写真だ。

「このオートバイです」

写真には、レストランの脇に停められたハーレーダビッドソンが写っていた。白いタンクにドリルドハンドル。夏の陽射しを受けたマフラーが銀色に輝く。シートの上には白いハーフヘルメットが置かれていた事も覚えている。古い平屋の建物の脇にあるアクセントとして、切り取った風景の中の大事な要素だった。

「このオートバイとヘルメットは彼のものなんです」

彼女は写真の中のハーレーダビッドソンを指差しながら野村に言った。

「彼のオートバイがこのレストランにあるから、彼に会いにこのレストランへ行きたいって事かい?」

彼女は黙って頷いた。

「彼ってのは君の彼氏かい?」

「昔のね。別れて三年になるんです。このレストランに野村さんと同年代の男の人はいましたか?」

「分からないな。レストランには入っていないから。でも、このオートバイが君の言う彼のものだったとしても、客として偶然いたのかも知れない。このレストランに行けば必ず会えるとは思えないな」

「違うんです」

彼女はアイスティーに手を伸ばしながら事情を説明し始めた。

 彼女へ、彼から三年ぶりの電話があったのは、一週間程前の事だった。イタリア料理のシェフだった彼は、海辺でレストランを経営している事などを話した。彼女は、もう一度やり直したいと言う彼と会う約束をしたが、彼は約束の日に、待ち合わせ場所には現れなかった。彼女が、彼と連絡を取れたのはその日の深夜。トラブルに巻き込まれていると言う沈んだ声の彼との電話は突然切れ、それから連絡が取れなくなった。心配になった彼女は、自分で彼に会いに行く事を決めた。会いに行きたくても、彼のレストランの場所は分からない。困っていたところ、偶然にも野村の記事に載っている、彼のハーレーダビッドソンを見つけた。彼女の話を、簡単にまとめるとそういう事になる。ちょっと信じられない話。野村はそう思いながらも、彼女の真剣な眼差しに引き込まれていた。

「一人で行くのは怖いし、野村さんに、連れて行って欲しいんです」

「僕が君と一緒にかい?」

「場所も分からないし、お願いします」

彼女はずるい。目の覚めるような美人から、甘えたような表情で上目使いに頼まれて、簡単に断れる男など、この世の中にはいない。野村は困惑した調子で答えながらも、彼女をあの場所へ連れて行く事を、どこかで喜ばしい出来事のように思っている自分に、半ば呆れていた。この美しい女性と過ごす時間が楽しめたとしても、昔の彼氏のもとへエスコートするという事だ。

「トラブルに巻き込まれているなら、私一人じゃ怖いんです」

「それはそうだね」

野村は自分の口から出た言葉を笑った。自分の正直な気持ち。野村省吾は、彼女の頼みを断るつもりはないようだ。一緒に過ごす時間を、楽しみたいと思っている。この魅力的な女性との出会いを、自分の一言でふいにしたくないというのが、正直なところだった。断った時の、彼女の落胆する様子を見たくない。彼女の喜ぶ様子を目の当たりにできるのは、とても嬉しい出来事。どんな無理難題でも、頼まれた相手が彼女の場合には、誰しもがそう思うはずだ。

「連れて行ってあげるよ」

「ありがとうございます」

彼女は笑顔も魅力的だった。野村と翌日の再会を約束した彼女が、雑誌を片手に席を立つと、店内の視線が再び彼女に注がれる。目の覚めるような美人。野村は窓の向こうの歩道から、笑顔で手を振る彼女に片手で答えると、飲みかけのアイスコーヒーに手を伸ばした。どうかしている。突然電話をして来た見ず知らずの美人と、南伊豆まで出掛けようという自分。そう考えながらも、心躍らせるもう一人の自分が確かにいた。伊豆半島の先端にある港町まで、彼女を連れて行くだけだ。あの場所で彼女と別れたら、写真を撮りながらコラムの続きを自分で書こう。半分は、彼女とあの場所を訪れる約束をした言い訳だった。本音を言えば、彼女が彼と会えても、もう一度やり直すのを止めてくれるのが、野村にとって一番嬉しい結末だった。無理な頼みを快く引き受けてくれた優しい男として、自分に魅力を感じてくれるのが理想だ。だが、そう上手く事が運ぶとも思えない。彼女を送り届けるだけで終わったとしても、コラムの取材をする事はできる。野村が、風景をコラムにして紹介する今回の企画を、気に入っているのは事実だった。あの街の風景はとりわけ魅力的で、もう少し記事にしてみたいとも考えていた。仕事のスケジュールは調整できるはずだ。アイスコーヒーを飲みながら、しばらく考えを巡らせた野村は、テーブルの上の伝票を片手に席を立った。混み始めたカフェを後にして、仕事場へ戻る事にしていた。明日には、彼女とあの街を再び訪れる事になる。旅の支度も必要だった。


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 容赦なく降り注ぐ陽射し。野村は、白砂の海岸を目の前にして、遠く彼方に広がる水平線を眺めていた。二週間前と同じように晴れた日だった。真夏の陽射しの中で青く輝く海面に、波頭が白く映える。海水浴シーズンの真っ最中だが、海岸にいる人影はまばらだった。地元の住民らしき家族連れが数組と、波間に浮かぶサーファーが数人。平日の昼下がりという事もあるが、まるでシークレットビーチの様相だ。海岸沿いで商売をする海の家もなく、シャワーやトイレの設備も見当たらない。メジャーなビーチが点在する海岸線の中で、この海辺だけは穏やかな時間が流れる不思議な空間だった。

 午前八時に、前日に待ち合わせしたカフェに現れた彼女を車に乗せて、東名高速を飛ばした。伊豆半島を南下する国道は思いのほか空いていて、この場所へ辿り着いたのは一時間程前の事だ。野村は約三時間のドライブの間に、彼女は美しい容姿のほかに、聡明な頭脳や細やかな心使いも持ち合わせている事を知った。年齢は二十八歳で職業は服飾デザイナー。オリジナルブランドを展開するアパレル会社を経営しており、三ヶ国語を操る帰国子女で、一年の半分を海外で過ごす。野村の質問には的確な答えを返し、会話の中にはユーモアも忘れない。運転する野村に、プルトップを空けた缶コーヒーを差し出し、眩しそうな表情をすれば、コンソールボックスのサングラスを手渡す。非の打ち所のない理想的な女性。野村はドライブの間に、ますます彼女の魅力に惹かれていた。彼女をこの場所へ案内する理由が、彼との再会でなければどれだけ良かったか。野村は水平線を眺めながら、その事を何度も考えていた。

腕時計の針は正午を過ぎていた。野村が、海岸の上にある石段に腰を下ろしてから、三十分程が過ぎている。彼女は戻って来ない。野村が座る石段からレストランまでは、歩いて数分の距離のはずだった。彼との再会に、立ち会うつもりはなかった。魅力的な彼女が、昔の彼氏と再会する場所になど居合わせたくはない。道化の自分を自覚させられるだけの事だ。野村は、彼女に自分の携帯電話の番号を教えて、この石段で彼女と別れた。彼がいなければ、再びこの場所へ戻って来る約束だった。彼女が彼と再会できたなら、野村の携帯電話が鳴るはずだ。野村はこのまま自分の取材を始め、彼女は彼との時間を楽しむ。彼女は彼との今後を話し会い、野村は二度と彼女と会う事はないだろう。それは、野村にとっては、とても残念な結末だった。野村は、しばらく迷ってから、携帯電話を取り出して、彼女の携帯の電話番号を押した。彼女は彼と再会できたのだろうか? 自分から彼女に、彼との再会を確かめるのは気がすすまなかったが、気をもんで彼女を待っているこの時間が、耐え切れないほど苦痛になっていた。

野村の電話に彼女は出ない。三十分の時間が経っているという事は、彼に会えたという事だろう。野村は石段で彼女を待つ事を止めて、海岸の先に停めた四輪駆動車へと歩き始めた。残念な結末だったが、覚悟はしていた事だ。そう都合良く、事が運ぶはずはない。そう自分に言い聞かせてはいたが、車への足取りは自然と重くなっていた。彼との再会を邪魔するつもりは最初からなかったが、レストランヘ向かって、彼女を連れ戻したい心境にも駆られていた。もし、彼女からの電話があれば、またこの場所へ迎えに来ればいい。彼女の口から、直接彼との再会を告げられていない事に、まだ淡い希望を託している自分が可笑しかった。路肩に停めた車に乗り込んで窓を全開にすると、エンジンを掛けてエアコンの設定を、一番低い温度まで下げる。真夏の陽射しに容赦なく照らされた車内は、蒸し風呂のように暑くなっていた。野村はシートを少し倒して、ダッシュボードから取り出した煙草に火を点ける。煙草を吸う素振りのない彼女に遠慮して、東京からこの場所まで煙草を吸う事を控えていた。吸い込んだ煙をゆっくりと吐き出しながら、フロントガラスの向こう側に広がる海に目を向ける。カーステレオから流れる、洋楽のスローなメロディーに耳を傾けながら、これからの予定に考えを巡らせた。街へ戻る手前に小さな港がある。堤防の先の風景を、もう一度楽しみたくなった。彼女が一緒だったなら、とても魅力的な時間が過ごせただろう。堤防の右手には、白砂のビーチが連なる美しい海岸線が続いている。前回の取材で訪れた時も、日光浴をしながら半日をあの場所で過ごした。魅力的なオーシャンビューが楽しめる抜群のロケーションだった。堤防のある港の先には、海辺に小さなホテルがある。今晩は、あのホテルで過ごす事にしよう。野村はシートを起こしてステアリングを握ると、海沿いの道を港へ向かって走り出した。真夏の陽射しがボンネットの上を跳ねて、フロントガラスから車内に飛び込んで来た。サイドウインドウの向こう側を、白く輝く海岸が流れて行く。野村は道の先に揺れる陽炎に向かって、彼女との出会いを振り払うようにアクセルを踏み込んだ。


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篠田浩平は、カウンターに陣取って睨みを利かす男の態度にうんざりしていた。午前中から仕込みを始めて、昼に訪れる客のために店のドアを開けたとたんに現れたのは、目の前にいるこの男だった。男は勝手に店のドアに準備中の看板を出すと、カウンターへ陣取って、ぎらついた目で篠田の顔を見据えていた。どうせ昼間に訪れる客は、気まぐれな海水浴客くらいのものだが、男の振る舞いは営業妨害に近い。男の気持ちもわかるが、自分を責めるのは筋違いだった。何度も説明したが、男が理解する様子は全くない。今では、篠田の男に対する態度も、かなり横柄になっていた。

「何度も話しているだろう。あんたの女が自分でやったのさ。俺が勧めた訳じゃない」

苛立った口調で口を開いた篠田に、目の前の男が怒鳴り声を上げた。

「お前が薬漬けにしたんだろうが」

「人聞きの悪い事を言わないでくれ。確かに、あんたの女に頼まれて、手に入れる方法は教えたさ。それだけだよ」

「お前が渡して使わせたんだろう。借金を作らせて、売り飛ばすような真似しやがって」

「違うさ。売人みたいな事を言うなよ。あんたの女に頼まれて、代金を貸してやっただけだよ。金を返したいって言うから、知り合いの店を紹介してやったんだ。親切に相談に乗ってやっただけさ。売り飛ばしたなんて言われる筋合いはない。俺も自殺しちまうなんて思わなかった。残念だし、寂しいよ」

男は黙って篠田の顔を睨みつけていた。

「俺にどうしろって言うんだよ。死んじまったもの、いまさらどうにもならないじゃないか」

一年ほど前まで、男の女は店に良く遊びに来る常連客だった。もっとも、この男が自分の女だと言っているだけで、本当のところは良く分からない。勝手に惚れて、自分の女だと言っているだけのような気もしていた。予約を受けた夜の客がいなくなると、店は飲み屋に様変わりする。レストランの営業時間は午後九時。それからの時刻は、バーとして客がいなくなるまで店を開けていた。男の女が来たのは、バーとして営業している時刻で、ハーレーに乗る篠田の仲間と一緒に、よく明け方まで騒いでいた。

男の女は、篠田が紹介した風俗店に勤めに行くようになって、街から姿を消した。自殺したと聞いたのは、目の前に座るこの男からで、姿を消してからの事は何も知らなかった。男が店へ現れたのは、今日で三度目になる。前に来た時には、興奮して殺してやるとまで言われた。とばっちりも良いところだ。薬の売人は紹介したが、使うようになったのは、男の女が金を払って手に入れたからだ。代金の立て替えをして、薬を預かった事は認めるが、自分が売人のつもりはない。薬は、男の女が自分で売人に注文していたし、商売しようと、預かった薬に代金を上乗せした事はない。確かに、薬が手に入るという噂を聞いて、野村の店の常連になる客は多いし、それで助かっているのは事実だが、商売として薬を扱っているつもりはなかった。男に売人の名前や連絡先を教える訳にはいかなかったが、注文を取っている人間は別にいると何度も説明している。篠田は、姿を現したがらない売人から、薬の引き渡しを頼まれているだけで、いわば預かり係を自認していた。それを何度説明しても、世間じゃそれを売人と言うんだと男は凄む。男の理屈も分からなくはないが、いずれにせよ、薬を使う事は、男の女が自分で勝手に始めた事だ。

篠田は、男の女のほかにも、何人もの女に風俗店を紹介している。無理に紹介している訳ではない。手っ取り早く稼げる方法を教えてやっているだけだ。紹介した女が、全員自殺している訳でもないし、自殺の理由が、薬の中毒が原因である可能性もあった。錯乱状態になって死んでしまったのかもしれないし、過剰摂取で死亡する場合もある。それは男の女の問題で、いくら責められても仕方のない話だった。篠田は、現れては怒鳴りつけるばかりの目の前の男が、一体何を求めているのか分からなかった。

街の人間と親しくもないし、男の事も良く知らないが、目の前の男が、街で知られた男だという事は知っている。街中で何度か見かけたような気もするが、それもかなり以前の事だ。気にも留めてもいなかったし、どんな男なのか知りたくもなかった。女が街を出て風俗店で働いていた事や、自殺した事は誰にも知られたくない様子だった。篠田の店を通して薬を手に入れていた事を、警察には話しに行かないだろう。女が薬浸けになって、風俗店へ勤めに出た事が、すぐに噂話になって知れてしまうはずだ。警察がらみの事で、何か騒ぎになったと聞いた事もある。警察署へ足を運びたく無い人間も世の中には多い。もっとも、男は言いがかりをつけて、自分から金でも巻き上げようと思っているはずで、自分を陥れるつもりなら、ここへ来ないで警察へ向かって薬の事を話しているだろう。篠田が、男に薬の事を説明しても、男が警察へ話しには行かないだろうと考えている理由だった。噂話の好きな街の連中の散々な振る舞いには、篠田もうんざりしていた。よそ者を嫌う田舎町。篠田もまるで歓迎されていなかった。海が綺麗な事が気に入って、この街に流れ着いた頃には気がつかなかった。この街へ来て二年が過ぎようとしていたが、親しくする地元の人間は、今でも一人もいない。

「店に来ては、こうやって営業妨害されてる。いい加減、俺も黙っちゃいないぜ」

「いまさらどうにもならないで済む話じゃないだろう」

カウンターの中央で凄む男。うんざりだった。

「死んじまったもの、どうにもならないさ」

「お前が殺したんだ。涼しい顔して開き直っても許さねえからな」

「だからどうしろって言うんだよ。金でも払えって事かい?」

「ふざけるな」

男の怒鳴り声。まったく話にならない相手だった。

「あんたはどうかしてるよ。悲しいのはわかるし、同情もするさ。だけど、俺を責めるのは間違ってる。あんたの女はいわゆる悪い女だったし、自分で堕ちていったのさ」

カウンターに座る男の表情が変わった。逆上している。何度も口を突いて出そうになった言葉だったが、その度に呑み込んで来た。今日はもう構わなかった。これ以上、男の言いがかりに付き合う気はない。篠田が目を落とした腕時計の針は、昼を廻っていた。

「客が来るかもしれないし、いい加減に帰ってくれないか。あんたの言いがかりにはうんざりだ」

「俺の女を殺しておいて、悪びれた様子もなく他人事みたいに開き直ってる。言いがかりなんかじゃない。お前が薬を使わせて、金を取り立て、風俗店に売り飛ばしたから自殺したんだ」

「言いがかりだよ。開き直っている訳でもない。事実を話しているのさ。あんたは、俺に八つ当たりしているだけだ」

「俺はお前を殺してやる。お前みたいな奴は、死んだほうがいい」

「いい加減にしろよ」

男は前に来た時と同じだった。殺してやると言うと満足したように帰って行く。今日もこれで終わりだろう。もう帰って行くはずだ。篠田は男に背を向けて、カウンターの裏手にあるドアに手を掛けた。料理の仕込みに、小部屋にストックしてある、輸入物の缶詰が必要だった。食材には、イタリアから直輸入した本場の食材を、出来るだけ使う事にしていた。ドアを潜って小部屋の中へ入ると、棚に並べられた缶詰に目を向ける。後頭部に走る衝撃。頭が割れるような激痛。頭の芯が痺れるような、今まで経験した事のない痛みだった。二度目の衝撃で、体が宙に浮いたような感覚を覚えた。篠田は、薄れゆく意識の中で、男が店に来た目的をようやく理解していた。殺される。本当に殺される。篠田は、床に打ちつけた顎の痛みを遠くに感じながら、闇の中へと落ちて行った。


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電話。サイドテーブルの上で、携帯電話が鳴っていた。時刻は午前零時を過ぎていた。海辺のホテルに部屋を取った野村は、窓際にある低いテーブルに苦心しながら、パソコンで締め切りの迫る記事を書き上げていた。見慣れない電話番号が、ディスプレイに浮かぶ。浅田美樹にはあれから何度か電話を入れていたが、結局のところ、彼女が電話に出る事は一度もなかった。最初に会ったカフェで、彼女が口にしていた彼の抱えるトラブルも気になっていたが、彼女からの電話がないのでは確かめようもなかった。野村は何度か彼女へ電話をするうちに、彼女の身勝手な振る舞いを、腹立たしくも感じ始めていた。彼女の頼みを快く引き受けたはずだ。約束したはずの電話一つ寄越さない振る舞いは、許されるものではない。原稿を書く手を止めて電話に出た野村の耳に入って来たのは、その彼女の声だった。

「助けて欲しいの……」

電話の向こう側の彼女は、泣きじゃくっていた。

「どうしたんだい」

彼女の振る舞いを、腹立たしく感じていた自分は姿を消していた。

「男の人に捕まっているの……」

「彼はどうした?」

「彼は……」

「いないのかい?」

「レストラン……」

彼女からの電話は突然切れた。野村はすぐに着信履歴から電話を掛け直したが、電話は呼び出し音もならずに、繋がらない状態になっていた。トラブルに巻き込まれている。野村はそう考えると、居ても立ってもいられなくなった。車の鍵と携帯電話をジーンズのポケットに仕舞い込むと、部屋の鍵を片手にフロントへと向かう。海辺の小さなホテル。深夜のフロントは無人だった。内線電話で呼び出したクラークに、外出を伝えて部屋の鍵を預けると、ホテルの正面に停めた四輪駆動車に乗り込む。運転席に座って、再び彼女へと電話を掛けたが、彼女の掛けて来た電話番号は、相変わらず繋がらない状態が続いていた。彼女から、石段での別れ際に教えられた電話番号へも掛けたが、呼び出し音だけが空しく耳元で鳴る。

野村はステアリングを握って、しばらく考えてみたが、海辺のレストランへ向かう事くらいしか思いつかなかった。電話が切れる間際に彼女が口にした言葉は、レストランだったし、いくら考えて見たところで、野村と彼女との繋がりは、写真に収めた海辺のレストランしかない。彼女は、あのレストランの写真がきっかけで野村を探し出し、野村は彼女を、あのレストランへ案内した。彼女からの深夜の電話に慌てているが、実際のところ、自分と彼女とは、まだそれほど親密な関係でもない。トラブルに巻き込まれたのなら、自分に助けを求めるより、警察へ通報するべきだ。野村はそう考えながらも、車をあのレストランへと向けていた。この街へ連れて来たのは自分だし、助けを求められている。何よりも、彼女を放っておく事など出来ない自分がいた。深夜の海岸沿いの道を、白砂のビーチへ向けて車を飛ばす。深夜の道路を行きかう車は一台も無かった。道路を照らし出すオレンジ色の明かりが、現れては背後に消て行く。背の高い街燈が、広く間隔を開けて道端に並んでいた。右手の漆黒の闇の中には、昼間に青く輝いていた、あの美しい海が広がっているはずだ。幾つもの小さな漁火が、闇の中に淡く揺れて浮かんでいた。

彼女と別れてからの時間を過ごした港を過ぎてしばらく走れば、レストランのある海岸だった。野村は四輪駆動車を海岸まで乗り入れると、レストランへ向かって闇の中を走った。潮風で風化したコンクリートの狭い道が、レストランへと続いていた。月明かりの中で、平屋の建物のシルエットが闇に浮かぶ。レストランに明かりは灯っていなかった。建物の壁際には、写真にあった白いタンクのハーレーダビッドソンが停まっていた。彼女の言う、彼のオートバイだ。建物の周囲を歩いてから、正面のドア越しに店内の様子を覗いてみたが、レストランに人の気配は無かった。闇の中で潮騒が野村を包み込む。野村は携帯電話を取り出して、彼女が電話をして来た見知らぬ番号へ、再び電話を掛けた。電話は、相変わらず繋がらない状態だった。呼び出し音が鳴る、彼女に教えられた番号へも電話をしたが、彼女は出ない。レストランの中から呼び出し音が鳴っている気配もなかった。彼女は、このレストランにいない。そう考えると、野村にはどうすれば良いのか分からなかった。しばらく考えて、壁際に停まるハーレーダビッドソンに目を向けた。オートバイが停まっている事を考えれば、彼はこのレストランに住んでいるのかも知れない。彼と顔を合わせたくもなかったが、彼女からの助けを求める電話を伝える必要はあった。彼のトラブルが原因なら、彼女の居場所が分かる可能性もある。 

野村は、ベアックと青い文字が書き込まれたガラスドアを拳で叩いた。ドアノブの代わりに色褪せたバーが取り付けられたドアが、大きく揺れる。野村がドアのバーを引くと、ドアはあっけなく開いた。ドアに鍵は掛けられていなかった。野村は、戸惑いながらも薄暗い店内へ足を踏み入れた。板張りの床がきしんで音を立てる。月明かりが射し込む窓際にテーブル席が四つ。壁際にあるカウンターにスツールが六つ。カウンターテーブルの向こう側には、酒のボトルが壁一面に並べられていた。オープンキッチンスタイルの小さなレストラン。闇に慣れた目には、装飾品も特にない、殺風景な店内の様子が見て取れた。野村は、カウンターの奥にあるドアへ向かって足を進めた。そのドアの向こう側に彼がいなければ、レストランは無人のはすだ。入口のドアに、鍵が掛っていなかった事に胸騒ぎを覚えながら、カウンターを抜けて奥のドアを開ける。床に倒れる人影。野村は立ちすくんだまま、しばらく倒れる人影を見降ろしていた。体が言う事を聞かなかった。ようやくの思いで人影に声を掛けたが、倒れた人影は身動ぎ一つしない。彼女ではない。倒れているのは男だった。短い髪。暗がりの中に浮かぶ白いTシャツ。身長は野村と同じ百八十センチ程だろう。彼女の言う彼だろうか? ドアの周囲の壁を探ると、電灯のスイッチがあった。部屋の裸電球が灯ると、床一面に広がる血の中に男が倒れているのが分かった。男は明らかに死んでいた。倒れる男の蒼白な横顔を見ながら、野村はあらためて事の重大さに気がついた。殺人現場に独り佇む自分。野村は弾かれたように店内を走り抜けると、レストランを飛び出して砂浜まで走った。白砂の上で足を止めて、立ったまま膝に両手を置くと、息の上がった呼吸を整えながら自分に問いかける。

「一体、どうなっているんだ……」 

携帯電話を取り出して彼女へと電話を掛けたが、相変わらず電話は繋がらなかった。彼は殺されていた。彼女も殺されてしまったのかもしれない。野村は混乱した頭で、自分がこれから取るべき行動を考えていた。振り返って背後のレストランへ目を向ける。裸電球の淡い明かりが、建物のシルエットの中に浮かんでいた。
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県警の警部補、橋場大輔は、目の前に座る男の話を、信用していいものか迷っていた。午前五時の取調室。事件の第一発見者である男の事情聴取を始めて、二時間余りが経とうとしていた。男は、拉致されている女性を捜索しろの一点張りだった。見ず知らずの女を、東京から殺人現場のレストランまで連れて来たという話も、説得力に欠ける。第一、深夜のレストランを、男が訪れた理由すらはっきりとしなかった。男の憔悴し切った表情からすれば、本当の話のような気もするが、説得力のある説明とは言い難い。

「それで、その女から助けを求める電話があって、レストランへ向かったんだな」

「そうです」

「レストランへ向かったのは、電話が切れる間際に、その女がレストランにいると言ったからだって?」

「いるとは言いませんでしたが、レストランと……」

「言いかけて、電話が切れた」

橋場が話を引き取る。

「そうです。もう何度も説明しているじゃないですか」

男は、ポケットから取り出した携帯電話の着信履歴を見せながら、不愉快そうに言い捨てた。

「で、その女は、殺害の実行犯に拉致されていると言うんだな?」

「そうに違いありません」

「なぜ、そう思う?」

橋場は男の顔を覗き込んだ。青白い顔の中にある男の窪んだ目が、橋場を正面から見据えていた。

「彼女が、レストランでオーナーを殺害していたら?」

「彼女は、そんな事をする女性じゃありません」

「でも、有り得ない話じゃないだろう?」

「彼女に限ってそんな事はない。とても綺麗な女らしい人だ。きちんとした人で、乱暴な事をするような、いわゆる悪い女じゃない」

男の目には怒りの表情があった。橋場は男の様子を観察しながら、この男が犯行を行った訳ではないと感じていた。刑事の堪。殺人の実行犯とは、何度も顔を合わせて事情聴取している。犯行を行った直後の実行犯なら、目の前の男のように、真正面から刑事の顔を見据える余裕はないはずだ。

「それだけの理由で有り得ないと言えるのかい? 女ってのは、本当の自分を見せたがらないもんだ。化粧もするし、着るものにもこだわる。よそいき顔は得意だ」

男は、机に目を落として、しばらく考えていた。乾いた唇を舐めると、橋場に向き直って口を開いた。

「彼女は、レストランで殺害された男の事を心配して、東京から、わざわざ会いに訪れたんです。それに、電話で助けを求めて来ましたから。男に捕まっていると……」

「何人の男に?」

「そんな事まではわかりません」

男は明らかに苛立っていた。

「いいですか、彼女は慌てていたし、泣きながら電話をして来たんです。明らかに普通の状態じゃなかった。彼女が助けてくれと言うのだから、男に連れて行かれているのは、間違いありません」

「あんたが、その女と別れたのは昼だろう? 本当に、男に連れ回されていたとしても、レストランで事件を起こした人間とは、別の男なのかもしれないじゃないか」

「それならそれでいいんです。でも、放ってはおけない。彼女は、レストランの男がトラブルに巻き込まれていると話していました。彼女に何かあったらどうするんですか」

「それはそうだな。その話はそれとして、レストランのオーナーの遺体を発見した時の状況を、もう一度聞かせてくれないか?」

「いい加減にして下さい。彼女を捜し出すのが先だ。彼女も殺されてしまったらどうするんですか。一刻の猶予もないはずだ」

男は息もつかない剣幕で捲し立てた。橋場は男の様子を観察しながら、考えを巡らせた。興奮した男の聴取をこれ以上続けても、あまり意味はなさそうだった。

「一応、その電話番号を調べてみよう」

橋場は、自分の手帳に男が示した電話番号を書き留めた。

「もう一つあるんです」

男は携帯電話のボタンを押しながら、ディスプレイにある別の番号を指差した。

「これが、最初に彼女から教えられた電話番号です。ホテルに掛けてきた電話は、拉致している犯人の電話かもしれない」

ディスプレイには、男の言う二つの電話番号が交互に並んでいた。

「何度掛けても繋がらないんです。こっちの番号は……」

「分かったよ。取りあえず調べてみよう」

橋場は男の話を遮って、もう一つの電話番号も手帳に書き留めた。

「あんたの話は一応分かった。東京からこの街に来たばかりのフリーライターで、目的は取材。一緒に来た女は被害者の元彼女だが、あんたは被害者と面識はない。彼女から助けを求められて深夜にレストランへ向かったところ、殺害されている被害者を発見した」

調書に目を落としながら話す橋場に、男は黙って頷いた。

「取りあえず今日のところはこれでいいが、街にこのまま滞在していてくれよ。また事情を聞く事になるだろう」

橋場は、男が告げた滞在先のホテルの名前を手帳に書き留めると、取調室のドアを開けた。免許証や名刺で身元は確認している。野村省吾、三十二歳、独身。ライターとしてはそれなりに名前が売れている男らしい。まだ、この男も容疑者の一人だが、逃亡する可能性は低いだろう。現場での鑑識作業も進んでおらず、事件の詳細が分かるのはまだ先の事だ。

「彼女を急いで捜して下さい。携帯の電波を追えば……」

「そうしよう。後は任せてくれよ」

椅子から立ち上がった野村の肩を叩きながらドアへと促がす。野村が演技をしているようにも思えなかったが、野村の話を橋場はまだ半信半疑だった。若い女が、見ず知らずの男に、東京からレストランまでの案内を頼むものだろうか? 偶然に、雑誌の写真の中に、捜していた男のオートバイを見つけたと言うのも理解に苦しむ。だが、野村の様子は、本気で連れて来たという女の身を案じているようにも見える。橋場は肩を落として取調室を出て行く野村を見送ると、椅子に腰掛けて、机の上に靴を履いたままの両足を投げ出した。隣りの部屋の隠し窓から様子を見ていた同僚の志村が、取調室へと入って来た。

「帰していいんですか?」

「大丈夫さ。あの男がホシとも思えない」

第一発見者が犯人である場合も確かに多いが、被害者との接点が今のところ何もない。受け答えする野村の様子からしても、実行犯である印象は薄い。そうなると、野村が話している事は、本当の事のようにも思えて来ていた。連れて来たと言う女が、殺人事件の犯人に違いないと主張している訳ではない。野村が、ありもしない話をでっち上げる理由も、特に見当たらない。橋場は、次第に野村の話した女の存在が気になり始めていた。

本当に女を連れて来たのだとすれば、その女の方が被害者によほど近い関係だ。だが、女がレストランのオーナーを殺害したのだと仮定すれば、野村に助けを求める理由がわからない。殺すつもりがなくて、成り行きで殺してしまったのなら、慌てて逃げるだろう。殺意があってレストランを訪れたのなら、見ず知らずの男に、レストランまで案内させるような真似もしないはずだ。名前や携帯電話の番号まで教えている。橋場は、レストランにあった遺体の状況からすれば、殺害の実行犯には強い殺意があったに違いないとも考えていた。レストランのオーナーは、背後から刃物で数箇所を刺されていた。殺意がなければ、刃物による複数の刺し傷を負わせるはずは無い。女が、頭に血が昇って犯行に及んだのなら、絞殺や鈍器による殴打の方が、よほどしっくり来る。刺し傷で、しかも複数となれば、最初から殺意を持って犯行に及んだ可能性が高い。状況を並べてみれば、第一発見者の野村が連れて来たと言う、浅田美樹と名乗る女が、実行犯である可能性は低いようにも思えたが、興味を惹かれる存在だった。

「この電話番号を一応洗ってみてくれないか。その電話番号を使っている女を、レストランに連れて来たと話している。ホシに、その女が拉致されていると言うんだが……」

橋場は志村に手帳の電話番号を教えると、腕を組んで天井を見上げた。

「本当ですかね……」

「わからんね。とりあえず至急調べてみてくれ。浅田美樹って名前の女だそうだ。本当の話なら、至急に保護する必要がある。ホシは人質を取って逃走するつもりか、あるいは……」

「目撃者の口封じ……」

「縁起でもない話は止めにして、至急調べてみてくれよ。昨晩の午前二時頃に、最後の電話を受けたと話している」

「本当なら、その女がホシじゃないですかね?」

「考えてもみたんだが、レストランまで案内させているんだ。直後に殺人事件じゃ、レストランのオーナーを殺しに街へ来ましたって、自分から言っているようなもんだからな。あまりにも単純で幼稚な犯行になっちまう。最初から自首するつもりでの犯行なら、分からなくもないが……」

「取りあえず、至急、電話会社に照会してみます」

張り切っている。不謹慎な話だが、若い刑事には、退屈な事件の捜査ばかりの毎日より刺激的なのだろう。殺人事件など、この世の中から無くなれば良い。橋場は心底そう考えていた。被害者の無念さや残された人間の苦しみなど、若い刑事には考えも及ばないはずだ。橋場はその悲惨さを身を持って知っている。被害者の無念さを考えれば、残された人間は、その生活も人間性も事件の発生と同時に百八十度変わってしまう。橋場は、取調室を出て行く志村を見送りながら、口をついて出る大きなあくびを噛み殺した。自分が当直の夜に、年に何度もない凶悪事件。久し振りの嫌な気分を十分に味わう事になった、ついていない夜。ろくに仮眠もしないまま現場へ向かって、こうして朝を迎えている。

橋場は、被害者の男の事は少し知っていた。あまり評判がいいとは言えない男だった。田舎町によそから来た者に、いい評判がないのは良くある事だが、あの男の場合は少し違う。女遊びが好きな派手な男として知られていて、深夜にレストランで違法薬物を使用するパーテーを開いているという噂もあり、内偵する事も検討されていた男だった。いわゆる暴力団のような存在のない静かな田舎町で、唯一、ダーティーな男。暴力事件や恐喝事件など、表立っての犯罪を起こして歩いている訳ではないが、注意を要する始末に悪い男だった。第一発見者の野村が言っていたように、トラブルを抱えていてもおかしくない。レストランへ地元の人間が行く事もあまりない様子で、週末になると派手なオートバイに乗った連中が集まる事も、評判の悪さの一因だった。ハーレーダビッドソンを乗り回している、派手な男。鼻つまみ者のワル。周囲からの評価はそんなところだった。

レストランの現場検証には少し付き合ったが、殺害現場に凶器は無かった。争った形跡もなく、刃物での犯行であれば抵抗の際にできるはずの、いわゆる抵抗痕も見当たらない。倉庫を兼ねた事務所に荒らされた形跡はなく、ほとんど空の手提げ金庫も、手をつけずに残されていた。物取りの犯行ではなく、どちらかと言えば顔見知りの犯行。怨恨の線が強い。第一発見者の野村が連れて来たと話す、浅田美樹と名乗る女の犯行を疑う理由でもある。被害者の交友関係をたぐるのは、面倒な捜査になるはずだ。街の人間と仲の良い男ではない。週末に集まる連中は、遠方からの客がほとんどだろう。飲酒運転の取り締まりを避けて、朝方まで騒いでいると聞いた事もあった。レストランではあったが、深夜には飲み屋として営業していた店のはずだ。常連客を探し出しても、捜査が広域にまたがるのは間違いない。橋場は、手間の掛かる捜査を覚悟していた。

 橋場は取調室を後にすると、正面玄関を抜けて駐車場へと向かった。夜勤明けの引継ぎも必要ないはずだ。深夜の召集で、同僚の刑事達は既に捜査に当たっている。もっとも、橋場のほかに、刑事は志村と定年間近の捜査課長の二人。刑事は三人しかいない田舎の小さな警察署だった。駐車場の一番奥。今にも倒れそうな古いブロック塀の隣が、橋場が車を停める定位置だった。捜査車両の出払った早朝の駐車場を横切ると、十年落ちのステーションワゴンに乗り込んでシートに身を沈める。夜が明けたばかりの白みがかった空を、フロントガラス越しに見上げて、しばらく考えを巡らせた。シートから身を起こすと、アパートへ戻って一眠りする衝動を抑えて、ステアリングに手を伸ばす。朝食を腹に収めてから、部屋へ帰る事にしていた。しばらく走れば、国道沿いに終日営業のファミリーレストランがある。寝覚めのコーヒーを飲みたい気分では無かったが、トーストとハムエッグの朝食を取って、アパートの万年床へ潜り込むつもりだった。夕方までゆっくり寝て、電話には一切出ない。滅多にない凶悪事件が起きたからには、寝る暇のない毎日が始まるはずだった。県警本部からの捜査官が昼には到着して、捜査本部が設置されるはずだ。夕方までには、捜査本部への召集が掛けられて、退屈な捜査会議に、延々と付き合わされる羽目になるのは目に見えていた。夜勤明けの非番である今日だけは、ゆっくり自分の好きに過ごす。捜査本部に顔を出すのは明日からにする。県警本部からの捜査官と、顔を合わせるのは気分の良いものではない。自分の立場が悪くなる事は承知していたが、橋場はそう心に決めていた。

橋場がこの街へ赴任してから、三年が過ぎようとしていた。県警本部からの応援の名目で、この警察署への着任を命じられた当初は、後任の捜査官がすぐに派遣されるものだと思っていた。体調不良で長期療養となった刑事の替わりに、しばらく捜査の応援に当たると言うのが当初の話だった。県警本部の強行犯担当として、先頭に立って凶悪事件の捜査に当たって来た自分が、片田舎の小さな所轄署に左遷されたと気がついたのは、着任してから三ヶ月が過ぎた頃だった。同期だった同僚の捜査官が課長に昇進した。人員不足は間違いなかったが、橋場は呼び戻されずに、顔も知らない新しい捜査官が増員された。前任の捜査課長と折り合いが悪かったのは確かだ。捜査方針の食い違いで言い争う事もしばしばだったが、結果は必ず出して来た自負はあった。組織の中では疎ましく思われていたのかもしれない。そう考えても、納得のできるものではない。海辺のレストランでの殺人事件の捜査本部が設置されるのであれば、顔馴染みの捜査官が派遣されるはずだ。最初の捜査会議に欠席するのは、せめてもの抵抗だった。幸い、所轄署での評判は悪くない。署長や課長も、橋場を責め立てる事はないだろう。県警本部からの捜査官の振る舞いを、面白くなく思うのは、所轄署の署員なら誰でも同じだ。

駐車場の狭い門を抜けて、裏通りから警察署の正面を走る幹線道路へステアリングを切る。路地を挟んで、警察署の隣にある蕎麦屋の店主が、いつもより早く店のシャッターを開けるところだった。早朝から午前九時まで店を開けて、昼まで再び店を閉める。橋場も、魚市場の客相手に朝食を用意する蕎麦屋の常連だった。警察署のすぐ隣という事もあって、朝昼晩と通い詰める日もあるほどだった。馴染みの店主に片手を上げて挨拶すると、店主が運転席の窓に顔を寄せた。

「殺人事件だってな」

「耳が早いじゃないか。当直の晩に災難だよ」

「夜中にあれだけ大騒ぎすれば話は広まる。ここらの連中は皆知ってるぜ」

「この街で殺人なんて物騒な事件はまず無いからな」

橋場が知る限り、この街での殺人事件の発生は初めての事だった。夏のこの時期には、よそから来る海水浴客の喧嘩や、若い連中の起こす騒ぎは確かに多いが、殺人までの凶悪事件は起こった事はないはずだ。かなりついていない夜だった事は間違いない。

「浜の先にあるレストランだってな」

「ああ、そうさ。店主の男が死んじまった」

「いつかは騒ぎを起こすと思ってたよ。まさか殺されちまうとは思わなかったがな」

「評判が悪い男だったからな。何か聞いた話があったら教えてくれよ」

「なんだか若い男と、浜で揉めているのを見た事があるぜ。確か先週の夕暮れ時だ」

「そうかい。どんな様子だった?」

「若い男が、突っかかってる様子だったな……。レストランの男は困った様子だった」

蕎麦屋の店主は、宙を見ながら思い出すように話し始めた。

「髪の短い、若い男だったよ」

「若いって幾つくらいの男さ?」

「そうさな……二十四、五ってところかな……」

「ここらじゃ見掛けない顔の男なんだろう?」

「どこかで見た顔のような気もするんだが……だぶん、街の人間じゃないな。そう言えば、耳に大きなガラス玉をしてたよ」

「ガラス玉?」

「女の子がしてるやつさ。そいつのでかいのだよ。ダイヤモンドみたいに光ってた」

「ピアスか」

「ピアス? 何だか呼び方は知らねえが、耳にしてたのは覚えてる」

蕎麦屋の店主は、坊主頭を掻きながら、思い出したように何度も小さく頷いた。

「そうかい。ありがとうよ。参考にさせてもらうよ」

大きなピアスをした若い男。特徴のある男だ。被害者の交友関係から捜し出すには、そう苦労しないように思えた。

「いや、礼なんかいいのさ。偶然に見掛けただけだ。あんたもこれから、お疲れさんだな。蕎麦ならいくらでも喰わしてやるから、いつでも寄んなよ」

顔を崩した蕎麦屋の店主は、窓越しに橋場の肩を軽く叩くと、店の中へと入って行った。路地から車を出すと、幹線道路を海へ向かってゆっくりと流す。橋場は、眠りから覚めない街を走り抜けながら、これからの捜査の事を考えていた。男の交友関係を洗うのが最初の仕事になるはずだった。店を訪れていた客も洗う事になるだろう。レストランの客を洗うのはそう難しくはないはずだ。予約を取って営業していた節がある。予約名簿を押収すれば、大半の客の身元が判るはずだ。問題は、深夜に集まっていた、飲み屋の方の客だった。ハーレーダビッドソンを乗り回している連中が多いはずだ。交友関係が分かってくれば、その線から手繰って客が分かるかも知れない。橋場はそう考えていた。

郵便局と町役場の前を通り過ぎて、突き当たった海沿いの国道を右折する。左折すれば魚市場があって、その隣が漁港だ。事件現場のレストランは、その先にある浜に佇む一軒屋だった。夜にもなると人影も無い一帯で、事件の目撃者を期待するのは間違っている。橋場が、初動捜査もそこそこに、現場を切り上げた理由だった。道の両側に整然と並ぶ椰子の木を横目に、国道をしばらく流す。民宿や飲食店が軒を連ねる一帯が、人気の海水浴場だった。路肩に駐車した車から、サーフボードを抱えたサーファーが、コンクリートの塀を乗り越えて行く。道の左手にはロングビーチが広がっていて、遊泳禁止区域は絶好のサーフスポットになっていた。県外ナンバーの車が縦列駐車する路側帯を過ぎて、海の家のトタン屋根が並ぶ一帯を通り過ぎると、目的のファミリーレストランの大きな看板が現れた。橋場は国道を横切って、駐車場へ車を乗り入れると、レストランの建物の裏手へ向かった。見覚えのある派手なオートバイが停まっていた。黒いタンクにチョッパーハンドルのハーレーダビッドソン。この街で見かけるハーレーダビッドソンと言えば、レストランで死んだ男の白いバイクと、このレストランに停められている、目の前の黒いバイクくらいのものだ。橋場は、黒いハーレーダビッドソンの隣に車を滑り込ませると、建物際を歩いてレストランの正面へと向かった。あまり飲む気分ではない、寝覚めのコーヒーを飲む事にした理由だった。同じハーレーダビッドソンに乗る者同士だ。被害者の男の事を何か知っているかも知れないと考えていた。交友関係が少しでも分かれば、捜査の糸口になるはずだ。レストランでの殺人事件の話が街に広がれば、聞き込みをしても口を閉ざす人間が多くなる事は、経験から知っていた。まして、狭い田舎町で起きた初めての殺人事件だ。犯人が身近に潜んでいるのではないかと、疑心暗鬼になる住民も多いはずだ。周囲とのトラブルを避けたい心情が働いて、知っている事でも黙っているのが得策と考えるようになる。早いうちに情報を得ておく必要がある。橋場が、寝床へ向かうのを我慢して、ファミリーレストランへ向かった一番の理由だった。

 早朝のレストランを訪れている客はまばらだった。窓際に、夜通し遊びほうけていたに違いない、若い男女のグループが一組。新聞を広げて、定食に箸を伸ばす作業着姿の男が一人。客は橋場を入れて三組。ガランとした広い店内に、窓際のグループの賑やかな話し声が響く。橋場は、窓際のグループが時折上げる大きな笑い声に辟易としながら、ドリンクバーで注いだアメリカンコーヒーを口に運んでいた。注文したスクランブルエッグの朝食を運んで来た眠気まなこのウエイターが、料理をテーブルに置くのを見計らって声を掛ける。

「駐車場のバイクは見栄えがするね」

「黒いバイクですか?」

「そうさ。ハーレーだろう。君のオートバイかい?」

「いや、厨房の人のハーレーです」

橋場の問い掛けに戸惑った様子のウエイターが、少し口ごもりながら答えた。一晩中勤務していたに違いない。橋場は、ウエイターの青白く生気のない顔を見ながら、自分の顔も同じ様なものだろうと想像していた。

「この辺りで、ハーレーに乗っているなんて珍しいね。持ち主は厨房で忙しいのかな?」

ウエイターは少し困った表情を浮かべていた。

「この料理をたいらげたら、持ち主にハーレーの話を聞かせてもらいたいんだがね」

橋場は、テーブルの脇に置かれたバスケットからフォークを取り出しながら、ウエイターの顔を覗き込んだ。明らかに、変わり者の厄介な客だと思われている。

「勤務中ですから……」

「無理を言って悪いんだが、頼んでくれないかな」

橋場が、ポケットから取り出した警察手帳をさりげなく見せると、生気のない顔のウエイターの表情が変わった。

「しばらくしてからで良いんだ。一つ、二つ聞かせて貰らいたいだけで、手間は取らせない」

緊張した顔のウエイターが、困惑した様子で口を開いた。

「取り調べですか?」

「そんなんじゃないさ。食事を済ませたら、裏の駐車場で待っていると伝えてくれないか?」

「分かりました……」

ウエイターは浮かない表情を浮かべながら、席を離れて行った。

橋場は、スクランブルエッグとトーストを口に運びながら、朝食にトーストを食べるのが久し振りである事に気がついていた。一人身になってからは、朝食を取らない事もしばしばだった。勤務の日には、警察署の隣の蕎麦屋で済ませる事がほとんどだが、非番の日にはコーヒー一杯が大半だ。妻が死んで四年になるが、一緒に暮らしていた当時は、朝食に必ずトーストが用意されていた。若い頃に自分が捜査した傷害致死事件の容疑者に、逆恨みされた。仮出所して来た男は橋場の自宅を探し当て、居合わせた妻に刃物を向けた。首を切られた妻は、意識不明のまま二日間を病院で過ごし、三日目の深夜に息を引き取った。子供がいれば慌しい生活に追われて、妻の死を受け入れていたかも知れないが、独り残された自分が、いまだに妻の死を割り切れていない事には気がついていた。自分を責めて荒れた時期と、左遷される事となった時期は重なる。港町に赴任した事もあるが、妻が死んで以来、口にするのはもっぱら白飯と味噌汁の朝食だけだった。このトーストは少し焼き過ぎている。バターがたっぷりと染み込んだ、表面だけ少し焼いたトースト。妻が用意してくれた、橋場好みのトーストを思い出しながら、朝食を腹に収める。見計らったように、空になった食器を下げに来たのは、料理を運んできたウエイターとは違う年配の男だった。

「清水が何かやりましたか?」

胸につけたネームプレートに、マネージャーの文字が浮かぶ。橋場はコーヒーカップを口元に運びながら、気さくな笑顔を装った。

「清水さんってのはバイクの持ち主かな。違うんですよ。捜査の参考に話を聞きたいだけでね。驚かせてしまいましたね」

「そうですか。ならいいんですが、また騒ぎかと思いましたよ」

「またってのは?」

「先週にも刑事さんが来ましてね。喧嘩の場に一緒にいたらしい」

携帯電話の調査を頼んだ、志村の顔が浮かぶ。橋場も、深夜の海水浴場で、若い連中の喧嘩があった事は知っていた。怪我をした男が告訴を取り下げて、一件落着のはずだった。

「その件とは別の話でね。本当に参考までなんですよ」

「連れの連中がやんちゃな奴らばかりのようで……本人は真面目に仕事しているんですがね」

「若いうちは、やんちゃな方がいいんですよ。警察沙汰は困りますがね」

橋場は、自分の口を突いて出た言葉に少し驚いていた。県警本部で捜査していた頃は、こんな言葉は口にしないはずだった。威嚇と恫喝を繰り返して捜査に取り組む自分に、嫌気が差した時期もある。最近では、自分の人相が、以前より少し柔らかくなったような気すらしていた。この街に赴任した事も、悪くなかったのかも知れない。自分を少し取り戻している気がしていた。

「話は聞かせてもらえますかね?」

「裏の通用口から向かわせます。店内でもいいんですが」

客席を見回すマネージャーに手を振りながら、橋場は席を立ち上がった。

「いやいや、外で結構です。お客さんの目もありますからね。別に世間話をしたいだけですから」

橋場が手にした伝票を受け取ったマネージャーがレジへ向かう。橋場はポケットから取り出した皴だらけの札で会計を済ますと、店の裏手の駐車場へと向かった。車にもたれて、通用口から現れるはずの清水を待つ。しばらくして、通用口から遠慮がちに現れたのは、長い髪を後ろで結わえた色黒の若い女だった。背の高い、細身の女。白い厨房用の服に白い長靴。白い帽子を片手に、伏し目がちに橋場に目を向ける。

「清水さんかい?」

若い女が小さく頷くのを見て、橋場は自分の勝手な思い込みを笑った。ハーレーを乗り回す、ワイルドで少し粗暴な男を想像していた。

「女の子が、こいつを乗り回すのは大変だろう」

ハーレーを親指で指しながら笑顔を向けた橋場に、若い女の顔が少し緩んだ。

「慣れたから平気です」

「倒したら起こせないだろうな」

「たぶん」

笑うと口元に大きな八重歯が覗く。笑顔の可愛い女だった。

「名前は?」

「清水由佳」

「幾つだい?」

「二十三」

「長いことハーレーに乗ってるのかい?」

「二年くらいかな……」

清水由佳は少し考えながら、上目使いに橋場に答えた。

「この街でハーレーに乗っている知り合いは誰かいる?」

「浩平」

「篠田浩平?」

海辺のレストランで殺害された被害者の名前だった。

「そう。ほかにハーレーに乗ってる人はいないから」

橋場は、清水由佳の返事に興味を覚えていた。篠田浩平を浩平と呼び捨てにしている。

「かなり親しそうだね」

「親しいと言えば……」

「どんな知り合いなんだい?」

橋場の問い掛けに、清水由佳は少し迷いながら小さな声で答えた。

「元彼……」

「付き合っていたのか……いつ頃までだい?」

「別れて半年くらいかな。このハーレーも、浩平が乗っていたのを二年前に貰ったの」

「そうなのか……別れたのなら、もうそんなに仲良くはなかったのかな?」

「そうでもないけど……たまに電話したりもする」

橋場は少し迷ってから、篠田浩平が殺害された事は黙っている事にした。別れてから半年とは言っても、殺害された事を聞けば悲しみに暮れるだろう。

「篠田さんのレストランに集まるハーレー乗りは、どんな人達なのかな?」

「浩平が良く行くショップにあるチームの人達が多いかな」

「店の名前は?」

「知っているでしょ。こないだの刑事さんにも話した。喧嘩の事じゃないの?」

「そうか。こないだの刑事に話してくれていたんだね」

清水由佳は黙って頷いた。

「忙しいところ悪かったね。喧嘩の件はもう片付きそうだ。女の子が巻き込まれると大変だから、今後は気をつけるんだよ」

清水由佳は橋場に小さく頷くと、通用口から店内へと戻って行った。橋場は、ステーションワゴンに尻を預けて、胸元から取り出した煙草に火を点けると、煙をゆっくりと吐き出した。最近の店内は、煙草を吸うのに肩身が狭い。青く澄み切った空を見上げて、考えを巡らせた。志村に、被害者の行きつけのバイクショップを聞けば、交友関係はある程度分かるだろう。清水由佳が、被害者の篠田浩平と付き合っていた事が分かったのも、大きな収穫だった。篠田浩平に恨みを持つ人間に、心当たりがあるかもしれない。一眠りする前の収穫としては上出来だった。今日も暑い一日になりそうだ。橋場は車に乗り込むと、駐車場を後にして、街外れのアパートへと車を向けた。


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