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<第2話>友達


 友達とは何だろう。親友とは何だろう。恋人とは何だろう。パートナーとは何だろう。さらには夫婦とは何だろう。それぞれに違いがあるのはもちろん知っている。しかしうまく説明するのは難しい。

 普段一緒に遊んだり、飲みに行ったりするのが友達で、それ以上でもそれ以下でもない。親友となれば例えしばらく会えなくても、お互いに心を分かち合える仲。


 では恋人は何だろう。親友との関係に性的な要素を加えたものなのか。いや、違う気がする。恋人であっても必ずしも性的関係が必要ない気もする。親友と性的関係を持ってしまうことだってゲイの世界ではよくあるだろう。友達や親友とセックスしたからといって恋人に発展するのはもちろんあり得る。逆にそのままということもある。「愛」があるかないのかで一概に区別できるわけでもない。「恋人持ち」という肩書きのために「恋人」関係になる人だってたくさんいる。


 その点で考えると、夫婦(同性愛者における「パートナー」)というのはこれらを遥かに超えた物、単純に「愛」があるからというものではない。家族としての「愛」を持っているか、相手のために命を捧げてもいいと本気で思えるかどうかだと思う。この場合は性的関係がなくても成り立つだろう。幾度か喧嘩した、約束を破ったからサヨナラするような相手は決してこのような関係にはなりえないだろう。それは「真の」恋人の関係にも言えることだが。


 ゲイにとってパートナーという最上級関係以外の「友達」「親友」「恋人」の三者は究極の意味でいうと大差がないように思う。恋人持ちでも友達と性的関係を持ってしまうのも頷ける。もちろんそれが永きに渡り続いたら話はまた別だが。そう考えると、ゲイにセフレがいたり、友達に恋をしてしまうのは極自然なことだと思う。しかし恋してしまった相手がノンケだった場合、これらのことは当てはまらないだろう。そこで苦く苦しい思いが生まれるわけだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


1
最終更新日 : 2012-08-09 08:38:54

 「おっす!」

 

 ケンイチは元気そうに挨拶してくれた。待ちに待った金曜日の定時後だ。これから野球観戦をしに行く約束をしていた。待ち合わせ時間の10分前には双方が会社の門の前に到着した。敷地が大きい会社で、お互いの事務所の建物も離れているのに、時間前にはきっちり到着する。そんな彼を見ると「コイツ、真面目なんだな」と思った。ただ、時間とおりでも電車で行くと試合開始時間に会場には間に合いそうにない。


 「試合まであと40分くらいしかないけど、電車じゃ間に合いそうにないから車で行こうか」


 ドライブしながら色々とお話したいのも兼ねて、ケンイチに提案してみた。


 「車?駐車料金めっちゃ掛かんねんけど大丈夫?」

 

 「大丈夫大丈夫!電車苦手だから」


 駐車料金を心配してくれたけれど、もうお金が掛かってもいいからケンイチと二人だけの時間を作りたかった。本当は給料日前で財布は羽のように軽いのに、ここは敢て後先のことを考えないでただ自分の欲望のために無理をした。今週はすべてこの時のために頑張ったから、自分へのご褒美ともいうべきか。


 「あーあ、今日せっかくなのに雨なんて・・・雨男のスキルが発動したようだ・・・(笑)」


 「んー、しゃーないやん・・・俺かもよ。俺もそうやし(笑)」


 そう、自慢にはならないけど俺は雨男という自負を持っている。なぜか特別な日は必ず雨になるのだ。卒業式や入社式、面接といった決められた行事の日はいつも晴れだが、なぜか友達と初めて遊ぶ日、どこかに旅行に行くなどのプライベートなイベントは高確率で雨になるのだ。どうもケンイチもそうらしいので、一体今日はどちらの雨男スキルが発動したのか。まあ、小雨程度だし傘がなくても社員駐車場までは大丈夫でしょう。


 「あ、折りたたみ傘持っとるで。ちょい待ち・・・、ほいっと」


 ケンイチはカバンの中から折り畳み傘を取り出し、ワンタッチで器用にそれを開くと、そっと俺の頭上に傘の半分を持ってきた。


 「あ、うん、ありがとう。」


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最終更新日 : 2012-08-09 07:13:17

  まるで恋人と一緒の傘に入っているこの感覚は何だろう。俺の頭の中で変な妄想が湧き上がっているのが自分でもわかる。確かに研修期間中は会社で一番仲良かったとはいえ、初のプライベートの遊びでこのシチュエーションになるのはさすがに想像できていなかった。もはや俺の頭の中で「これは、デートだ・・・」という認識に変わってしまったのだ。野球観戦よりもケンイチ鑑賞をしたいくらいだ。


 車に入ると彼はものすごい勢いでドアをバンと閉めた。一瞬気圧が上がって鼓膜が痛くなった。でも本人は強く閉めたという認識をしていないようだ。


 「あ、ドア、そんなに強く閉めなくてもしまるよ」


 「あ、ごめん、車にあまり乗っていないから」


 彼のほんの一部のマイナス面、というよりも少々不器用なところもあるのを見て、恋心が引いてしまうどころか逆に愛おしく思えてきた。「恋は盲目」ってこういう時に使う言葉なのかな。たぶん。


 試合開始時間のことを考えると一刻でも早く車を発進させたいのだが、「この密室内の静寂な空間にケンイチと二人でいる」ということしか頭になかった。もういっそうのことコクってしまおうとも考えたが、さすがに「デート」初日でしかも相手は高確率でノンケかもしれないということを考えて、ここは敢て自粛した。しかし人間の欲は止めにくいもので、何かしらのアピールをしてみようと思った。


 「ふー、今週は疲れたぁ・・・」


 そう言いながら彼の右肩に額をそっと当てて寄り添ってみた。もちろん意図的にだ。


 「う、うん。そうやな。お疲れ様ですぅ。え?このあとは平気なん?」


 そっけない返事ではあるけれど、「おいおい」と少し払われるかなと予想していたのを良い意味で裏切られた。Yシャツ越しの彼の肩の温もり、なんとも言えない程よい筋肉の上にあるちょっとした脂肪の柔らかさ。始めてケンイチに「触れた」ことは宝くじに当たるよりも遥かに幸せだと思った。ずっとこうしていたい。「もしかしてこれは勝算ありか」とまたもや一人で妄想が始まった。

  

 「早よせんと遅れるで」


 ケンイチの現実的でごもっともな一言でようやく目が覚めた。「そうだ、球場に早く着かないと。とりあえず今日は野球観戦を楽しもう。ほかの事はまた別の機会で」。そう自分に言い聞かせた。


3
最終更新日 : 2012-08-09 11:19:19

  野球観戦中はケンイチが応援しているオデックスをともに応援したけれど、残念ながらチームは試合に負けたが、彼はすがすがしい顔で


 「まあ、俺が見に来ると負けんねん」


 「俺も観戦しにいくと応援するチームが勝ったためしがないよ。似てるな(笑)」


 「今度サッカー見に行く?」

 

 「カンバ大阪?強いよね」


 「いやいやちゃうちゃう、カリッソ大阪やで。ファンクラブ会員やで」


 「うん、行く行く!サッカー大好きだもん」


 「あれ?サッカーのほうが良かったんか・・・」


 まあ、野球観戦も良かったが、サッカー観戦を提案するということは俺の趣味を探っているのかな。これはますますくっ付いて行くしかないと思った。まあ、俺は大のサッカー好きなのをケンイチには言っていなかったが、この会話で彼は俺の好きなことを把握したようだ。ついでに彼がサッカー好きであることも把握できた。少しずつだが、確実にお互いの距離が短くなっていく。


 「今日の帰りは車で家まで送るね」


 緊張しながら言ってみた。もちろんいきなり家に入ってアレやコレやをするつもりはない。ただし全くないかと聞かれると嘘になる。男、ましてはゲイですもの。

 

 球場からケンイチの家までは渋滞もあり、思いのほか時間が掛かったが、その間にお互いの趣味について楽しく会話できた。どうも彼はゲーム、アニメや声優がすきないわゆる「オタク」らしい。やっぱノンケの可能性大。まあ、俺もゲーム大好き人間だから話にはついて行けた。しかし彼の趣味などのプライベートな一面を見ることができたこと、それについて何の躊躇いもなく楽しそうに話している彼の笑顔は、ずっと見ていたい。段々と膨れ上がってゆく恋心はもう止められそうにない。

 

 何十分経ったのだろう。彼の地元にようやくたどり着いた。家までの街道上にふとスーパー銭湯の看板が目に付いた。下心の魔の声に反抗できず、自分の中で勝手に勇気を振り絞って誘ってみた。

 

 「うん、ええよ。銭湯よく行くで」


つづく


4
最終更新日 : 2012-08-09 07:00:30

この本の内容は以上です。


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