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 私は、そのアユちゃんの彼氏の名前を知らないので、ここで勝手に、手癖悪男(てくせわるお)と付けさせてもらうことにした。アユちゃんの彼氏、と書くよりも字数が少ない分、楽なのである。

 

 そのけい子ちゃんの後輩のアユちゃんの話を詳しくすると、アユちゃんが手癖悪男と付き合いはじめた時、悪男は仕事を変えたばかりだった。彼の仕事の内容は企業や個人住宅に訪問して、会社で扱っているレンタル商品の営業と集金業務が主だった。ほぼ毎日、十万円以上の現金を扱うため会社側は悪男の採用にあたり、保証人をふたり立てさせた。その時にアユちゃんは悪男の正体に気がつけばよかったのだが、残念なことに気がつかなかったようだ。会社側も保証人からは印鑑証明書付きで実印でも押してもらえば悪男の正体に早く気付くことができたと思われるが、三文判の保証人で採用してしまったのである。

 手癖悪男は関西出身のようで、なかなか身内に会いにいけないという理由から保証人のひとりはアユちゃんがなり、そして、もうひとりは、悪男にいいように言いくるめられて、アユちゃんが字筆を変えて悪男の身内の名前を書いたようだ。いわゆる、私文書偽造、というものになるのだろう。

 無事に就職先が決まった悪男はそこから本業を発揮し、集金伝票をごまかしはじめたようだが、しかしながら冷静に考えてみれば、例えば、私のような単細胞が伝票ごまかしてもその日の内にばれてしまうことだろうが、さすがにそのあたりはプロ並みのワザを悪男は身につけているようだ。誠に感心する。

 そうやって悪男は、毎日集金したお金から一~二万円ほど着服していたようだが、半年後ついに会社にばれたようだ。休みの日以外にその金額を着服していたら、半年後は二百万円近いお金が消えている計算になり、ばれないほうがおかしいべ、という話である。

 その後、悪男は会社を解雇されたが、はいサヨナラ、というわけにはいかず、着服した金はきっちりと弁償しなければならないことは人間社会の常識である。しかし、その金を悪男が払えるはずはなく、その支払いの矛先はまず彼の保証人になった天然アユちゃんに向けられた。しかし、アユちゃんが用立てられたお金は百五十万円と少し。百万円は自分の全財産である定期預金を解約して作り、五十万円はクレジット会社から借り入れたようだ。それでもまだ足りない分の請求に、悪男の勤めていた会社はアユちゃんが字筆を変えて書いた身内の元へ連絡を入れてしまったようである。そこで今度は偽造がばれ、彼が今までもそうやって身内の人達に迷惑をかけてきたことも会社にばれてしまった、というものである。 


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 何がどうなってしまったのか・・・真面目なアユちゃんは頭の整理がつかぬまま悪男の会社に呼び出された。新卒で就職活動をした時の面接会場のような室内に通され、三人のお偉い人の前に彼女はひとりで座らせられた。これが就職活動の面接だったらまだよかったのだが、今回は、会社の金を着服した悪男の保証人になった彼女に、

「あと四十万円、すぐにあなたが作って返して下さい。作れなかった時には偽造罪であなたを警察に訴えさせて頂きます。他人を騙すことはよくないですよ」

 それが、アユちゃんに突きつけられた言葉だった。

 警察だの、訴えるだの、騙すだの、何とも穏やかでない言葉を頂戴したアユちゃんは、真面目な性格ゆえ、自分は罪を犯してしまったのだと自分自身に言い聞かせるようになり、鬱状態に陥っている。そしてまた、それに輪をかけるように、彼女が字筆を変えて書いた悪男の身内の者からも電話が入り、「あなたは人間としての資格はない」と、はっきりと言われてしまったようだ。この件について、誰が悪男の身内にアユちゃんの連絡先を教えたのか、という話になったが、手癖悪男しかいないべ、と誰もが思っている。

 そのようなことでアユちゃんは只今、心神耗弱状態に陥っており、彼女は前に重い鬱病を患ったこともあるようで、けい子ちゃんの見立てではかなり深刻のようだ。

 その話を聞いた時、私はけい子ちゃんの八卦を立てようかと思ったが、立てなくても彼女の性格上、答えはわかっている。けい子ちゃんの妄想そのものが八卦占いのようなもので、いや、八卦占いよりも上をいくかもしれない。先のことをちゃんと見通しているのだ。

 ただ、自分とは関わり合いのない、顔を見た瞬間に悪感を感じるようなだらしのない男の尻拭いに、自分のお金が消えていってしまうという、このけい子ちゃんと、悪寒男と、お金の因果関係に私は大きな関心をもった。彼女は長いことその現実と向き合い、貧乏生活に耐えているが、よく心神耗弱にならずにいられるものだと、こちらも感心している。

 その現象に対してけい子ちゃんは、他人の顔を見た瞬間にそんな妄想をするから現実を引きよせるのだ、とか、前世でよっぽどその者達に酷いことをして来たのだろうなどのお答えを、お金を払った、拝み屋、と呼ばれている霊能者から頂いたことがあるらしいが、しかし、そのような話を聞かされたところで、だからどうすればいいのだという状態に彼女は悩んでいる。


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「だってさ、好きで妄想しているわけではないのよ。その拝み屋の変な神様に、妄想をしてはいけない、って自分自身に言い聞かせるようにしなさい、などのことを言われたけど、この頭が勝手に妄想しはじめるのだからし方がないじゃない。それってさ、行ちゃんが女性の裸をあれこれ思い浮かべながら、助平な妄想をしたらいかん、って自分に言い聞かせているようなものじゃないの? そんなの無理に決まっているって。拝み屋の神様に一万三千円も払ったというのに、これだけかい、って感じよ」

 いつになくけい子ちゃんは苛立っていた。

 確かに、けい子ちゃんの的確な妄想と、私に劣らないほどの見事な貧乏ぶりに耐えている彼女を見ると、因縁だの、因果だの、前世の業だの、カルマだの、そんなものではなく、何かもっと違う大きな力が彼女に働きかけているのではないかと私は直感した。   

 そしてまた、彼女の本心は後輩のアユちゃんに、お金を貸す貸さない、その理由だけで私の元に電話を入れたのだろうかとそのような疑問も抱いたのである。

 その疑問を払拭するため、その夜、私はけい子ちゃんのことで精神統一をした。

 まず私は彼女の深い意識に交信を試みた。するとけい子ちゃんの意識は両親に対する想いがとても強いことがわかった。彼女の記憶の中には、自分たち弟妹(きょうだい)を育てるために朝早くから夜遅くまで働き詰めだった両親の姿が鮮明に残っており、自分が大人になったら両親のことを楽にさせてあげたいという想いが強くなっていった。社会人になってからの彼女は、両親の苦労をする姿だけは見たくなく、また、自分の付き合う人達に対しても、両親に心配をかけることだけは避けたかったのである。だから、親しい男友達を両親に紹介する時が来たら、彼は自分で会社経営をしておりその会社も軌道にのっているのだと、そのように紹介したくて彼女もギリギリのところまで頑張って来たようだ。しかし、結果は厳しいものとなった。


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 それでも、人生には必ず意味がある、と私は思っている。

 このあとに私は一番肝心な、おそらくけい子ちゃん自身もよくわかっていない、(正確には、忘れてしまっているといったほうがよいのかもしれない)彼女がこの世に生まれてきたお役目を知るために、なぜにお金の試練ばかりが彼女にやってくるのか・・・彼女のことを背後で見守っておられる方に交信をお願いしてみた。こればかりは必ず交信できるとは限らないが、気持ちを落ち着かせてしばらく待つと、けい子ちゃんについて、次のような言葉が降りてきたのである。

 

 ※これから先は私が印象に残った言葉だけをご紹介させて頂きます。


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奥付



七色の芝生 ② 


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著者 : 日向光行
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