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 けい子ちゃんは今までに色々な人の尻拭いを行ってきた。最初はすぐ下の弟さんの散財の後始末で、それが解決すると、今度は妹さんの結婚式費用も彼女が用立てることとなった。妹さんの結婚式当時は、けい子ちゃんの両親も息子の尻拭いで大金をつかい果たしてしまっていたのである。

 しかしながら、このけい子ちゃんという女性は、何というか・・・言葉では説明のつかない、特殊な能力(第六感)を持ちあわせているのである。例えばこんな感じだ。

 二十年も昔の話だが、弟さんが職場の同僚(男)と飲んで酔っ払ってしまったというので、けい子ちゃんは弟さんが飲んでいるというパブまで迎えに行った。その時に弟さんの同僚の顔を初めて見たのだが、その瞬間、(近い将来、私のお金はこの男に吸い上げられるだろう)と、直感した。そして、その彼女の予感は見事に的中したのである。

 弟さんはその同僚にいいように利用されて毎晩のようにスナックやパブに遊びに行くようになった。その呑み代を工面するために弟さんは多くのクレジット会社からキャッシングするようになり、その額は高級車が一台買えるほどだったという。だが、話はそれだけに留まらず、弟さんと遊びほうけていた同僚のほうは、パブで働いていたフィリピン人女性と行方をくらまし、その男がツケで呑んでいた請求書はけい子ちゃんの弟に回ってきた。その額も半端ではなく、小さな田舎町のことだからそんな噂もすぐに広まり、俺は関係ないと言うことはできずに弟さんは親に泣きついたようだ。

 両親の元には今までに弟さんが借りまくったサラ金会社の督促状が届けられ、毎日のように電話もかかってきた。のちにサラ金会社の社員と飲み屋のママが取り立てに来るようになり、世間の目を気にしはじめた両親は、当時すでにひとり暮らしをしていたけい子ちゃんに土下座をし、お金を助けて欲しいと言ったようだ。見かねた彼女は社会人になって貯めてきた数百万円のお金を両親に手渡した。そして、そのお金は弟の同僚がツケで飲んだ飲み屋のママの口座に振り込まれて、一連の騒ぎは収まったようである。

 その後、年老いた両親に返済する力はなく、戻らぬお金に対してけい子ちゃんのほうも、お金を貸した相手は弟ではなく自分の両親なので取り立てはできないと言った。弟さんには、自分の尻拭いのお金を姉のけい子ちゃんが用立てたことは話していない。それはけい子ちゃんの判断でそうしたようで、年老いた両親がお金を工面したということになれば弟さんもきちんと返済するだろうと、彼女はそのように考えたようだが、結果は見事にハズレた。けい子ちゃんの弟さんは自分が撒いた種とはいえ、裏切られた同僚のツケのお金を支払っていくという現実を受け入れることができなかったようである。 


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 その弟さんも今は結婚して落着いているようであるが、当時の話になると、両親の顔を一切見ない、話さない、聞かない、という態度に徹しているようである。 

 そして、妹さんの結婚式の時もまた姉のけい子ちゃんに悲劇がやってきた。妹さんが今の旦那様を家に連れて来た時、けい子ちゃんは、その相手の男性が北海道出身の人と聞き、結婚話になった時には両親は大変だろうなと思った。が、そう思った矢先に、妹さんの結婚資金を助けてもらえないだろうかと自分に頭を下げている両親の姿が頭に浮かんだという。そして、その予想は的中した。妹さんも北海道ではなく近くの人と縁があればよかったのだが、人の縁というものはそう上手くはできていないようで、結婚式の費用以外にも招待客の行き帰りの交通費までけい子ちゃんが用意することとなった。 

 けい子ちゃんが社会人になって五年間ものあいだ貯めてきたお金は、フィリピン人女性にのめり込んだ自分の弟とその同僚の尻拭いに消え、そのあと気を入れ直して貯めてきたお金は、今度はたった一日の妹さんの結婚式費用ですべて無くなってしまった。そしてけい子ちゃんはその他にも、親しい男友達の事業の失敗に一千万円近いお金を出してきたようだ。その内の六百万円ほどは借金で、その債務も全て彼女が背負い、現在も返済中であるという。

 その親しい男友達が独立して会社を設立した時も、けい子ちゃんは前もってそうなる予想はしていたという。男友達の仕事が軌道にのった時には、彼女は専務待遇で会社の経営に携わる約束をしていた。しかし、社長である男友達が連れてきた仕事仲間の男の顔を見た時、その段階で、お金を何とか助けてほしいといって自分に頭を下げている男友達の未来の姿が浮かび上がったという。けい子ちゃんの男友達が連れてきたその男は、副社長として迎え入れられたようだが、蓋を開けたら営業力などはどこにもなく、会社が倒産するまでのあいだ営業成績はゼロだったという。その男は毎日パソコンを叩くふりをして時間を潰していただけのようである。

 数年後、男友達の会社はけい子ちゃんの予想どおり傾きはじめた。一番の要因は人件費倒れのようである。その倒産するまでの十四、五ヵ月のあいだ、高額な給料を提示して雇っていた副社長の給料、並びに会社の経費等は、社長の男友達に拝み倒されたけい子ちゃんが用立てることとなり、彼女は自分の定期預金から数百万円、その他にも数枚のカードローンカードを限度額いっぱい利用して、何だかんだと一千万円近いお金を男友達に渡してきたようだ。 


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 けい子ちゃんが社会人になった頃はバブル期絶頂期だった。当時、銀行やローン会社に勤めていた友人の付き合いで、彼女は百万~三百万円のお金をキャッシングできるカードを数枚持っていたのである。

 しかし、そうやって作った彼女のお金は仕事のできない副社長の男の手にたんまりと渡り、彼女の元に戻ることなく、ご丁寧にも彼女は現在もそのお金の返済をひとりで背負っている。そして会社の社長であった肝心な男友達は、倒産後、行方をくらましたようだ。いつか必ず返すと、たまにそのような連絡がけい子ちゃんの元に入るらしいが、その、いつかが、いつなのかは、わからないという。

 社長であった男友達を、「彼氏だったのか?」と、私はけい子ちゃんに何度か訊いたことがあるが、彼女は「違う」と頑なに言う。「ぜったいに認めない」と。

 

 そんなけい子ちゃんの特殊な能力について大半の人達は、そうなることが予想できた段階で相手に教えてあげたらよいのではないかと思うだろう。しかし、これは私も経験しているが、感、とか、占い、という確証のないものを基に説明しても、こればかりはどうにもならないのである。また当事者達はその相手にかなりのめり込んでいるため、何を言っても、聞く耳持たぬの状態なのだ。

 その天然がかった後輩のアユちゃんについても、前にけい子ちゃんはこのような話を私にしていた。

「会社に、素直で可愛い子がいるのだけど、その子の彼氏がまたダメなのよ。お金にだらしない顔をしていた。それだけならまだしも、僕にとってSEXできる女は=性欲処理とお金を吸い上げる存在としか思っていません、というような顔もしているの。だけどさ、今の彼女にそのことを話したところで、馬の耳に念仏。アユちゃんその男にかなりのめり込んでしまっていて、言うだけ野暮状態。だけど、その男の尻拭いもまた私のところに来るみたい。男の顔を見た瞬間、アユちゃんの憔悴しきった顔がふっと浮かんだわ。私にお金を貸してもらえないだろうか、って言っている姿がはっきり見えたの。ま、そうなるのは半年後くらいかな」

 今からちょうど半年くらい前だったか、けい子ちゃんは会社の後輩のアユちゃんの半年後をちゃんと予言していた。私は残念ながらその天然アユちゃん本人にお会いしたことはないが、何となく顔は想像できている。 


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 私は、そのアユちゃんの彼氏の名前を知らないので、ここで勝手に、手癖悪男(てくせわるお)と付けさせてもらうことにした。アユちゃんの彼氏、と書くよりも字数が少ない分、楽なのである。

 

 そのけい子ちゃんの後輩のアユちゃんの話を詳しくすると、アユちゃんが手癖悪男と付き合いはじめた時、悪男は仕事を変えたばかりだった。彼の仕事の内容は企業や個人住宅に訪問して、会社で扱っているレンタル商品の営業と集金業務が主だった。ほぼ毎日、十万円以上の現金を扱うため会社側は悪男の採用にあたり、保証人をふたり立てさせた。その時にアユちゃんは悪男の正体に気がつけばよかったのだが、残念なことに気がつかなかったようだ。会社側も保証人からは印鑑証明書付きで実印でも押してもらえば悪男の正体に早く気付くことができたと思われるが、三文判の保証人で採用してしまったのである。

 手癖悪男は関西出身のようで、なかなか身内に会いにいけないという理由から保証人のひとりはアユちゃんがなり、そして、もうひとりは、悪男にいいように言いくるめられて、アユちゃんが字筆を変えて悪男の身内の名前を書いたようだ。いわゆる、私文書偽造、というものになるのだろう。

 無事に就職先が決まった悪男はそこから本業を発揮し、集金伝票をごまかしはじめたようだが、しかしながら冷静に考えてみれば、例えば、私のような単細胞が伝票ごまかしてもその日の内にばれてしまうことだろうが、さすがにそのあたりはプロ並みのワザを悪男は身につけているようだ。誠に感心する。

 そうやって悪男は、毎日集金したお金から一~二万円ほど着服していたようだが、半年後ついに会社にばれたようだ。休みの日以外にその金額を着服していたら、半年後は二百万円近いお金が消えている計算になり、ばれないほうがおかしいべ、という話である。

 その後、悪男は会社を解雇されたが、はいサヨナラ、というわけにはいかず、着服した金はきっちりと弁償しなければならないことは人間社会の常識である。しかし、その金を悪男が払えるはずはなく、その支払いの矛先はまず彼の保証人になった天然アユちゃんに向けられた。しかし、アユちゃんが用立てられたお金は百五十万円と少し。百万円は自分の全財産である定期預金を解約して作り、五十万円はクレジット会社から借り入れたようだ。それでもまだ足りない分の請求に、悪男の勤めていた会社はアユちゃんが字筆を変えて書いた身内の元へ連絡を入れてしまったようである。そこで今度は偽造がばれ、彼が今までもそうやって身内の人達に迷惑をかけてきたことも会社にばれてしまった、というものである。 


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 何がどうなってしまったのか・・・真面目なアユちゃんは頭の整理がつかぬまま悪男の会社に呼び出された。新卒で就職活動をした時の面接会場のような室内に通され、三人のお偉い人の前に彼女はひとりで座らせられた。これが就職活動の面接だったらまだよかったのだが、今回は、会社の金を着服した悪男の保証人になった彼女に、

「あと四十万円、すぐにあなたが作って返して下さい。作れなかった時には偽造罪であなたを警察に訴えさせて頂きます。他人を騙すことはよくないですよ」

 それが、アユちゃんに突きつけられた言葉だった。

 警察だの、訴えるだの、騙すだの、何とも穏やかでない言葉を頂戴したアユちゃんは、真面目な性格ゆえ、自分は罪を犯してしまったのだと自分自身に言い聞かせるようになり、鬱状態に陥っている。そしてまた、それに輪をかけるように、彼女が字筆を変えて書いた悪男の身内の者からも電話が入り、「あなたは人間としての資格はない」と、はっきりと言われてしまったようだ。この件について、誰が悪男の身内にアユちゃんの連絡先を教えたのか、という話になったが、手癖悪男しかいないべ、と誰もが思っている。

 そのようなことでアユちゃんは只今、心神耗弱状態に陥っており、彼女は前に重い鬱病を患ったこともあるようで、けい子ちゃんの見立てではかなり深刻のようだ。

 その話を聞いた時、私はけい子ちゃんの八卦を立てようかと思ったが、立てなくても彼女の性格上、答えはわかっている。けい子ちゃんの妄想そのものが八卦占いのようなもので、いや、八卦占いよりも上をいくかもしれない。先のことをちゃんと見通しているのだ。

 ただ、自分とは関わり合いのない、顔を見た瞬間に悪感を感じるようなだらしのない男の尻拭いに、自分のお金が消えていってしまうという、このけい子ちゃんと、悪寒男と、お金の因果関係に私は大きな関心をもった。彼女は長いことその現実と向き合い、貧乏生活に耐えているが、よく心神耗弱にならずにいられるものだと、こちらも感心している。

 その現象に対してけい子ちゃんは、他人の顔を見た瞬間にそんな妄想をするから現実を引きよせるのだ、とか、前世でよっぽどその者達に酷いことをして来たのだろうなどのお答えを、お金を払った、拝み屋、と呼ばれている霊能者から頂いたことがあるらしいが、しかし、そのような話を聞かされたところで、だからどうすればいいのだという状態に彼女は悩んでいる。



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