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第四魔法学園

 何故だ?何故私はこんな所にいる!?
 私は今、死にかけていた。
 目の前には、バーゲンに詰めかけるおばさんの如く、大量のゾンビ達が、私たちを仲間にしようと押し寄せてくる。
 それを部隊の仲間たちが、斬り刻んだり燃やしたり、私の目に映る情景は、正に地獄絵図だ。
 更に匂いも凄い事になっている。
 口で呼吸しているのに、腐敗臭によって、呼吸が苦痛に感じられるほどだ。
 本当にどうして、私はこんな所に来てしまっているのだろうか・・・
 私は本年度から、第四魔法学園に通う「凰印《おういん》」十五歳である。
 生まれた時から魔法の才能に恵まれず、初等部や中等部の魔力診断では、常に最下位を独走していた劣等生だ。
 そんな私が、せっかく義務教育を終えたのに、高等部に進学したのにはわけがある。
 それは、楽しい青春時代をおくりたかったからだ。
 年頃の男に、これ以上の進学理由なんて必要ない。
 その気持ちだけで、私は才能をカバーする為に、必死に努力を重ねる事ができた。
 そしてなんとか、この第四魔法学園に入学する事ができたというわけだ。
 しかし、入った学園が、まさかこんな学園だったとは、入ってみるまで分からなかった。
 学園なんて何処も同じだと思っていたが、この第四魔法学園は、他とは少し違うところがあった。
 それは・・・
 おっとその前に、第四魔法学園とか毎回言っていると面倒なので、これからは「第四」と呼ばせてもらおう。
 と言うか、私たち学生も、街の人達もみんなそう呼んでいるので理解してくれ。
 では話を戻して、第四が他の学園と違うところ、それは「実戦により学習する」という事だ。
 そんな話、私は全く聞いていなかったわけだが、世間では周知の事実だったらしい。
 まあ、知っていたところで、競争率の高い他の学園に入れるほど、私の魔力は高くはないし、入れただけでもましなわけだが、青春と命の天秤は、あまりに酷いと思うわけで。
 とは言っても、今更この死にそうな状況を回避する術はなく、ただ仲間たちの健闘を祈るしかない私であった。
「凰印、まだ生きてるか?」
「ああ。でもさっき、少しチビってしまったけどね」
 今、私を気づかって声をかけてくれたのが、親友の「歌琥《かく》」だ。
 一応この学園では、結構できる奴って事になっている。
 中等部からの付き合いであり、全寮制のルームメイトでもあり、同じ部隊の仲間だ。
 ちなみに部隊とは、一年生から三年生までの縦割りで決められる、実戦を共にするグループの事。
 各学年二名ずつが集まり、六人で一部隊となる。
 しかし我が部隊は、三年生が二人と、一年生が四人で構成されていた。
 なんでも現在の二年生は昨年、難解な特別授業と言う名のミッションで、多くの人が残念にもお亡くなりになられたり、再起不能になってしまったらしい。
 その分今年、多く入学させたもんだから、こんな変則部隊が生まれる事になったわけだ。
 きっとそのおかげで入試の競争率が下がり、私が高等部に進む事ができたのだから、死んでいった方々へは、お礼と苦情を両方お伝えさせていただきます。
「ありがとう!コノヤロー!」
「どうしたの凰印?」
 今、私の亡き先輩への言葉に反応して、声をかけてきたのは「罵蝶《ばちょう》」ちゃん。
 魔力を主に肉体強化に使うのが得意な、それなりの血筋を持っている狂暴女だ。
「いや、死んでいった英霊たちに、ちょっとお礼と苦情を」
「何それ?」
「まあ気にしないでくれ」
 ちなみに先ほど「罵蝶ちゃん」と紹介したが、普段はそうは呼んでいないので、その辺りは察して欲しい。
「ホント、凰印ちゃんどうしちゃったんだろうねぇ~wまあいつもどこか変だし、いてもいなくても戦力には変わりないけどぉw」
 あちらで、優しい口調で私の悪口らしき事を言っていらっしゃるのが「兎琴《うきん》」ちゃん。
 罵蝶ほどではないけれど、肉体強化にも長けている魔法剣士だ。
 何故か歌琥とは仲良しで、二人のコンビは色々な意味でそこそこ有名だ。
「おいおいお前ら余裕だな。気を抜くと死ぬぞ!」
「そろそろよ。気をつけてねv」
 そして今、偉そうに話しかけてきたヤローと、優しい言葉をかけてくださった女神は、先輩の「珍形《ちんけい》」くんと「孫感《そんかん》」ちゃんだ。
 もちろん普段は、珍形先輩、孫感先輩と呼んでいますよ。
 念の為。
 以上が我が部隊の六人であるが、私以外の五人は、学園でも比較的有能な人たちが集まっている。
 しかも二年生がいないから、とりわけ一年生の私以外の三人は、皆トップクラスの成績優秀者だ。
 ぶっちゃけ私がいなくても、このグループはやっていけるだろう。
 むしろ私がいない方が、好成績を収める事ができると思われる。
「さて、いよいよ最終段階だ」
 そう言う珍形先輩の前方には、どうやらゾンビ達を操っていた術者らしき人物の姿が見えた。
 ちなみに、今我々が進んできた道のりは、ダンジョンの中である。
「なのに何故視界が確保されているのだ?」と思う人もいるかもしれないので一応説明すると、魔力を使った魔法には、辺りを照らすものも存在するのだ。
 その魔法を使って辺りを照らすのは、当然戦力にならない私の役割だ。
 要するに、辺りを照らす魔法は、子供程度の魔力でも使える簡単な魔法って訳です。
「学園の学生風情が、よくもまあ此処まで来やがったものだ」
 術者はどうやらおっさんで、ゾンビ達がやられたのにも関わらず、まだ余裕の表情を見せていた。
 当然その辺りは珍形先輩も気がついているようで、こちらの臨戦態勢は解かれる事はない。
 ちなみに、この部隊のリーダーは珍形先輩である。
 頭も良く魔力もあって、それなりに頼りになる先輩だ。
 どちらかと言うと手堅い作戦を好む人で、今日のミッションも、無事生還できる公算が高いと思われる。
 しかし今日の任務は、生きた心地はしなかったけどね。
 珍形先輩の前に、罵蝶と兎琴が出て、相手を警戒する。
 そのすぐ後ろで、歌琥が魔力を高めていた。
 我が部隊の戦い方は決まっている。
 と言っても、ごくシンプルな戦い方だ。
 武闘派である罵蝶と兎琴が前衛で盾を務め、歌琥と両先輩が魔法で攻撃する。
 その後ろで、私は見ているだけだ。
 いや、一応立場上は、サポート役という事になってはいるが、ライト役以外は何もしていないのだけれどね。
「大人しく、捕まってくれませんか?我々もあまり人は殺したくないので」
 珍形先輩は、罪人であるゾンビ達を操っていたおっさんに説得を試みた。
 今日の実戦学習は、この洞窟をねぐらにする賊退治である。
 生死は問わず、とにかく学生全員で、賊を壊滅させる事が目的だ。
 他の場所では、きっと他の学生が、同じような戦いを繰り広げているに違いない。
「何をなめた事を。そんな半端な気持ちで、テロ集団はやってないは!」
 おっさんの強気は相変わらずだ。
 何か切り札を隠し持っているのだろうが、まだそれを見つける事ができない。
 罵蝶も兎琴も、そして珍形先輩も動けずにただ見合っていた。
 魔法ってのは、正直何でもできる能力である。
 その人のアイデアによっては「なんじゃそりゃー!」なんて思う魔法もある。
 だけど、五感に訴えかけない魔法ってのはマスターするのが難しいが、戦闘に使える魔法ってのは覚えやすく、故にだいたい出そろっていると言っていい。
 たとえば炎の弾をぶつける魔法は、目に見えるので覚えやすい。
 逆に体を強化する魔法は、自分にしか分からないし、他人に伝えるのが難しいので、素質が大きく左右する。
 ただ、一般的に知られているし、難易度は中級クラスか。
 とにかく、対抗手段はされてみれば納得するものではあると思うが、特定するにはかなり困難でもあるという事だ。
 時間だけが流れる。
 相手に動く気配はない。
 これはおそらく、カウンター系の魔法で何かしてくるのだろう。
 自分から動けるものなら、きっともう何かしてきているはずだから。
「ああもう、やっちゃって良いかな?」
 罵蝶が我慢の限界にきている。
 なまじ戦闘力があるから、すぐに力ずくで解決しようとするところがある。
 まあ「なまじ」と言う表現は、罵蝶には当てはまらないか。
「よし、罵蝶お前突っ込め!」
 私は、軽く冗談交じりに言ってみた。
 おそらく、罵蝶が一対一で負ける要素は少ない。
 たとえどんな反撃があったとしてもだ。
 それを、なまじみんなで攻撃すれば、私あたりが足を引っ張る可能性が十分にある。
「わかった。許可しよう。では歌琥と僕の魔法で牽制するから、その後のタイミングで突っ込んでくれ!」
 珍形先輩は、慎重な人だ。
 だからこういう作戦をとったのだろうが、カウンターを警戒するべきこの状況では、カウンターにこそ気をつけるべきなんだけどねぇ。
「孫感先輩、こちらが攻撃した直後、魔法の盾の展開をお願いできますか?」
「そうすると、罵蝶さんに何かあったら対応が遅れるけど?」
「罵蝶なら、一対一ならそう簡単には負けません。それよりも後ろの我々が、足を引っ張る可能性の方が高いです」
 少し考える素振りを見せた後、孫感先輩は納得して、首を縦に振ってくれた。
 よし、これで私の身は安泰だな。
 くっくっく!私も悪よのぉ。
 罵蝶頑張れよ。
「今だ!」
 珍形先輩の合図に、歌琥が雷撃《ライトニング》系の魔法を、賊のおっさんめがけて放つ。
 珍形先輩もそれに合わせて、雷撃系魔法を放った。
 相乗効果による、効果の倍増を狙ったものだ。
 電気を帯びた魔力の塊が、おっさんに向かって飛んでゆく。
 さて、おっさんは何をしてくるのか。
 おっさんはすぐに、何処からともなく、でかい盾をとりだした。
「魔法反射の盾か!」
 この対応策は、一応予想の範囲内だ。
 だけど、いくつかの理由で、私は可能性が低いと考えていた。
 一つに、このアイテムの入手が困難である事。
 次に、このアイテムを持っているからと言って、武闘派の使い手を前に余裕なんて持てないはずである事。
 当然その辺りはきっと、他にも対応策があったのだろうが。
 そして何より、この盾を隠し持つには、でかすぎる事。
 すなわち、この盾は別の次元、別の世界にアクセスし取りだした物であり、そんな事ができるこのおっさんは、ただのゾンビ使いではなく、かなりの黒魔術師でもあるって事だ。
 放たれた魔法は、思った通り魔法反射の盾により、こちらに返された。
 と同時に、罵蝶と他五人の間に、孫感先輩の「魔法の盾《マジックシールド》」が展開される。
 魔法の盾とは、魔力による盾を作り出し、魔法攻撃や物理攻撃を防ぐ為のものである。
 だが「絶対魔法防御《アンチマジックシェル》」が、完全に魔法を遮断するのとは違い、魔法をどれだけ止められるかは、術者の力量次第だ。
 罵蝶はまあなんとかなるだろうが、孫感先輩ではこの向かってる魔法は止めきれない。
 故に私の安全は、この時点では保障されていない。
「うらぁ!」
 罵蝶は、向かってくる電気の塊を、槍で斬り裂く。
 常識はずれだが、思った通り、罵蝶だけなら大丈夫だ。
 だけど、罵蝶に斬られて二つに分かれた電気の塊は、こちらに向かってきていた。
「まさか歌琥の魔法を止める事になるとは思わなかったよぉ~」
 そう言って、孫感先輩の魔法の盾に魔力を重ねたのは、兎琴だった。
 歌琥&珍形先輩VS兎琴&孫感先輩の魔力の戦い。
 普通に魔力で考えれば、これでもまだ、歌琥達の魔法の方が強い。
 魔力が全てではないが、どうなる!?
 再び一つになった電気の塊が、魔法の盾にぶつかる。
 防ぎきれるのか?
 と、次の瞬間、電気の塊のパワーが一気に半分以下へと減少し、そしてすぐに消滅した。
「俺の魔法は、兎琴には届かないようになってるんだよね・・・」
 歌琥の言葉は、少し寂しそうだった。
「なるほど」
 歌琥は尻に敷かれているのね。
 でも助かった。
 もうこれで、後ろの私たちに懸念は無い。
 行ってくれ!罵蝶!
「ひゃっほーい!」
 罵蝶がおっさんに斬りつける。
 おっさんが盾を罵蝶に向ける。
 でもそれ、魔法反射の盾だよね。
「結構貴重な物だから、壊さずに持って帰りたいな~」なんて私は思うわけだが、罵蝶はあっさりと盾ごと、おっさんを斬って捨てた。
 戦いは、終わった。
 結局、今日の実戦学習での我が部隊の戦果は、一名のみを排除しただけに終わった。
 あんなにもゾンビを倒したのに、なんだか理不尽。
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最終更新日 : 2012-07-30 20:09:04

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学園の日常

 第四では、実戦学習以外にも、もちろん通常授業ってのが存在する。
 高等部に進学した者は、この先、或る程度のエリート街道が約束されているので、政治や歴史など、最低限の知識は必要となるだろうから、授業があって当然だ。
 エリート街道という意味はで、私が高等部に進級できた事は奇跡ではあるが、その話は今話す事ではないので、忘れていただきたい。
 とは言っても、今の世の中に必要なのは、政治や歴史などではなく、やはり力だ。
 だからそう言った授業は、特に重視されるものではなく、みんな適当に受けていた。
 見回すと、真面目に授業を受けているのは、私以外には女生徒一人だけだった。
 あの女生徒はそこそこ高い魔力を持っているのに、どうしてこんな授業を真面目に受けているのだろうか。
 文官を目指しているのだろうか。
 それとも、歴史を伝える何かをしたいのだろうか。
 そんな事を考えて、ただ一人真面目に授業を受けている女生徒を見つめていると、その女生徒が私の視線に気が付き、少し冷たい視線をこちらに送ってきた。
 私は、その子がちょっと綺麗な子だったので、少しドキドキして視線をそらした。
 歴史を真面目に勉強する理由なんて、まあ私があれこれ考えるものでもないか。
 歴史か・・・
 今の世の中、今の世界の形になって、既に二十年近くになる。
 その前は、世界中で戦争が行われていたらしい。
 その状況を一気に解決へと導いたのが、現在の漢帝国の皇帝「火神《かしん》」様であった。
 正直火神様が、どんな風に皇帝へと昇りつめたのか見たわけではないし、実感もないから、私に思うところは全く無い。
 ただ、今の火神には「様」をつける価値も無いと思っている。
 簡単に言えば、悪政はなはだしいわけで、各地では今、独立などの動きが出てきているとか。
 賊もやたらと増えているらしく、第四の実戦学習頻度も、それに合わせて増えている。
 まったく、もう少し平和な時代に生まれたかった。
 いや、戦争が無いだけ、その幾万倍も良かったと考えるべきか。
 とにかく、せめて私が生きている間は、戦争なんて起こらない事を祈るよ。
 考え事をしていると、いつのまにか、歴史の授業は終わっていた。
 これでは、真面目に受けているとは言えないか。
 教室を見回すと、真面目に授業を受けていた女生徒の姿も、もう教室にはなかった。
 授業の後私は、構内の鍛冶場へと向かった。
 此処では職人たちが、それぞれの生徒の要望にそった、それぞれに必要な武器などを作っている。
 生徒自身、機材を使わせてもらって、好きな物を作る事も可能だ。
 私は魔力が弱いから、道具に頼るところが大きく、此処へは頻繁に足を運ぶ。
 別に武闘派ではない私に、どんな武器や道具が必要なんだと思うかもしれないが、たとえば私がひそかに携帯している物としては、拳銃がある。
 この世界には、拳銃なんてものは存在しない。
 いや、私が持っているので存在してはいるが、あるのはこれだけであるし、そしてその物でもない。
 実は私には一つだけ、みんなには話していない、特別な魔法を使う事が出来る。
 それは「千里眼」であり「異世界を見る魔法」だ。
 異世界と言っても、皆が知っている「天界」「魔界」「精霊界」「妖精界」の四世界とは違う世界、パラレルワールドの世界だ。
 私の生きる世界の外には、遥か何千何万年前から、あらゆる可能性から分岐した、無数の世界が存在する。
 その異世界を見る事は、私にとって、全ての価値感を覆すだけのものがあり、興味深い。
 そこに、拳銃という物が存在した。
 そしてその異世界では魔法が存在せず、科学技術がそれを補っている。
 その力は、魔法を圧倒的に凌駕するもので、本当にその世界が存在するのか、最初は信じられなかったくらいだ。
 だけど、拳銃を作ってみて理解した。
 この力は使えるし、その世界は確実に存在しているのだろうと。
 手間という意味では、魔法の方が圧倒的に楽だから、我々の世界の人間は、みんな魔法を使う。
 それが、科学技術の進歩を妨げたのだろう。
 とにかく、こういった科学技術は、魔力が少ない私が生きぬく為の、一つの光明となった。
 だから、頻繁に鍛冶場に通って、日々研究開発と改良に力を注いでいるというわけだ。
 さて、昨日職人さんに頼んでおいた物が完成していた。
 私自身で作れない物、作れない部分は、当然職人さんに頼んで作ってもらっている。
 私はそれを自室に持ちかえると、早速組み立て調整する。
「また何か作っているのか?」
 同室の歌琥が質問してきた。
 実は歌琥にだけは、私の千里眼の「異世界を見る魔法」について話をしている。
 他の人に話さないで隠すのには、色々と理由があって、話したくはないからだ。
 それでも歌琥にだけは隠さず話しているのは、中等部からの付き合いだし、信頼できる奴だと思っているからね。
 故に私が変な物を作っている情景も、それは見なれたものにはなっているが、やはり興味はあるのだろう。
「まあな。私は魔力が弱いから、道具に頼るしかないのでね」
 私が組み立てをしながらこたえると、歌琥が手元を覗き込んできた。
「前に作っていたのと似てるな」
「ああ。あれの改良版だ」
 歌琥の言う通り、私は以前も同じような物を作っていた。
 今作っているのは、拳銃である。
 以前作ったものは、魔法を使って弾丸を発射するタイプのものだった。
 かなり単純な作りで、製造も楽だったが、魔力をごくわずかな隙間に集め爆発させるという高度な技を要し、故に訓練も必要だし、誰でも扱えるものでは無い。
 それに魔力も消費するし、私の場合他の人のサポートもあるから、魔法を使ったものは使いづらかった。
 そこで、より拳銃らしく、弾薬のように、爆発物を組み込んである弾丸を用意すればどうだろうかと考えた。
 魔力は、宝石など鉱物の中に蓄える事が出来る。
 硬度の高い物にはより多く蓄える事ができ、より良い魔法《マジック》アイテムを作るには、ダイヤモンドは欠かせないものだ。
 もちろんそんなものを拳銃の弾薬に使用するのはもったいないし、弾薬には合わない。
 撃針を叩くハンマーの力で、その鉱物を破壊し、魔力を解放できなければ意味がないからだ。
 で、私が最適だと判断したのが、貝殻「シェル」である。
 爆発により粉々になるし、手に入れるのも簡単だし、正に理想的だった。
 ただ、シェルは生物鉱物であるから、この中に魔力を蓄えるのは不可能に近いと言われている。
 それでも私は、何度も挑戦して、それを可能にしていた。
「よし!できた。歌琥、ちょっとテストするのに付き合ってくれ」
「了解!」
 私と歌琥は、学園敷地内にある、砂浜へと向かった。
 此処は、一部生徒の練習場的エリアとなっている。
 新しい攻撃魔法のテストなどは、海へ向けてやれば安全確保できるし、気兼ねしなくていい。
「歌琥、魔法の盾よろしく!」
 歌琥は、基本的には攻撃、中でも雷撃系魔法が得意な、風の精霊魔術師だ。
 だから魔法の盾は、孫感先輩ほどの防御力はない。
 それでも魔力は学園でもトップクラスなので、力押しでかなりのシールドを展開できる。
「オッケー!全力でいいのか?」
「ああ。歌琥の全力くらいは貫けないと、武器としては役に立たないだろう」
 歌琥の魔法の盾を貫ける攻撃魔法なんて、我が学園の生徒で扱える者は数えるほどしかいないだろう。
 だから私の言っている事は、間違いと言うか、欲張り過ぎかもしれない。
 でも、これだけ手間をかけて作るアイテムだ。
 それくらいの効果は期待してもいいだろう。
 ちなみに前回作った拳銃は、魔法の盾を貫く事ができた。
 ただし、射程距離五メートルで試したもので、それ以上は命中率が悪く、実戦で使うには少し無理があった。
 ではまず、歌琥の魔法の盾をターゲットに、狙いを定める。
 撃ち方は、見よう見まねでやるしかない。
 前回異世界を覗いた時には、拳銃の構造を調べるので精いっぱいだったから。
 一応、拳銃の内部で爆発が起こるわけだから、念の為できる限り魔力を高めて、身体強化を図る。
 私の身体強化なぞ、戦闘では全く役にたたない程度ではあるが、やらないよりはいいだろう。
 前回の実験では、徐々に魔力を高めていったので限界を知り得たが、今回は最初から全力だ。
 鍛冶場の職人の技術を信じて、私はトリガーを引いた。
 その後は、一瞬の出来事だった。
 大きな爆発音とともに、私の体は後ろに吹っ飛ばされ、爆発に耐えきれなかった銃は破壊され、弾丸は一瞬にして魔法の盾を貫いた。
 手はしびれ、しばらく動かせそうになかったが、私は痛みも忘れて、壊れた拳銃を見ていた。
 そして笑いがこみ上げてきた。
「ははは。やべぇコレw」
 歌琥も一瞬驚いて呆然としていたが、すぐに心配そうに私の所に駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?凰印!」
「おう。これは面白いよ」
 今回のテストは、決して成功したとは言えなかった。
 だけど、その威力を目の当たりにして、私は嬉しかった。
 これが完成したら、私でも対人戦闘の戦力になれる、そう確信したから。
 私は手の感覚が戻ってから、破壊された拳銃の部品を拾って、歌琥と共に自室に戻った。
 この日のテストはこれで終了だ。
 私は早速、次の拳銃を作る為、再び鍛冶場へと足を運んだ。
2
最終更新日 : 2012-07-30 20:09:04

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学園のエース

 今日の授業もまた、実戦となっていた。
 一番平和だった頃は、ひと月に一回の実戦だったらしい。
 まったく、これでは青春を謳歌するどころか、やはりそのうち命を落とす確率の方が高いと思われる。
 何とか身の安全を確保する為にも、私は無能者である必要があるのだ。
 そう、成績が悪いのは、ひとえに成績優秀者とパーティを組む為。
「などと言い訳していても、魔力が無いってのは実際、無能者って事だよなぁ」
 さて、今日のミッションは、隣町までマジックアイテム運び、大量の現金を受け取り持ちかえる事。
 そしてこの任務についている生徒は、好成績を収めている部隊と、成績優秀者を含む部隊のメンバーだけだった。
 要するに、少数精鋭で任務を行う。
 他の生徒は、山に亜人種との話し合いに行く領主の護衛だ。
 正直そっちの方が安全だから、今日に限っては、この部隊である事が忌々しい。
 それでも私が、戦闘に参加しなければならないような状況にはなりにくいし、ならば荷台でじっとしているだけだから、そんなに危険でもないわけか。
「まっ、どうせ私は何もしないのだから、いいか」
 歌琥は、荷台の外側、後ろに乗っている。
 その横には孫感先輩。
 前には、ナンバーワン部隊のリーダー「旺盛《おうせい》」先輩と「露色《ろしょく》」先輩。
 後は別の馬車二台と、罵蝶や兎琴は単騎馬に乗って護衛していた。
 そしてもう一人、さっきから私の独り言にも全くツッコミを入れず、向かいでずっと、だまって座っている女の子がいた。
 旺盛先輩の部隊で、エースと言われる「愁癒《しゅうゆ》」ちゃんだ。
 もちろん面識はないので、愁癒ちゃんなんて呼んだ事はないが、可愛い女の子なので、紹介の際はそう呼ばせてもらう。
 もう一度言うが、愁癒ちゃんは、ナンバーワン部隊のエースだ。
 頭脳明晰、一騎当千、容姿端麗、文武両道、才色兼備と、褒める言葉には困らない、全てにおいて完璧な女の子だ。
 おそらく全学年でも、トップクラスの魔法剣士。
 入学してまだ3カ月だが、告白して振られた人の数は二十人を超えているとか。
 ようするに、今や第四のアイドルである。
「暇だなぁ~今どのへんかなぁ」
 くっ!
 さっきから何か話のきっかけがつかめないかと、さりげに独り言を言っているのに、愁癒ちゃん全く反応ねぇ。
 モテる女はだから嫌なんだ。
 私のような底辺野郎とは、共に暇な時間をマッタリ過ごすのも嫌だというのか。
 だったらいいよ。
 こうなったら、その可愛い顔に穴が開くくらい見つめてやるぞ。
「・・・」
 ん~可愛い。
 私なんか顔以外全て駄目なのに、この子は全てがそろっているんだよなぁ。
 神よ、あなたは理不尽だけれど、今この子の顔を、これだけじっくり見つめる事ができる幸せ、こんな機会を与えて下さってありがとうございます。
 私はしばらく、愁癒ちゃんの顔を眺め続けた。
「ねぇ。何か用?そんなに見られてると、気になるんだけど?」
 なんと!
 愁癒ちゃんが、この私に話しかけてきた。
 しかも、気になるって!
 これはもしかして、恋の始まりだろうか?
「いや、気になると言われても、あなたとはまだ知り合ったばかりだし」
「何言ってるの?どうでもいいから、あっち向いててくれる?」
 ぐすん・・・
 ちょっとしたジョークなのに、ノリが悪いなぁ。
 でも、見るなと言われると見たくなるのが、人というもの。
 なんとか本人にばれないように、顔を見続ける事はできないだろうか?
 そう思って辺りを見回すと、ピカピカに磨かれた剣に、愁癒の顔が映っているのをみつけた。
 ふっふっふ、私の視線から逃れられると思うなよ。
 そんな事を考えながら、剣に映る愁癒を見ると、とても寂しそうな顔をしていた。
「えっ!?」
 私は振り向いて、愁癒の顔を直接見た。
 睨《にら》む目が、とても冷たい。
 気のせいだったのかな?
 再び剣を見ても、寂しそうな愁癒の顔を映す事は無かった。

 無事「遼東《りょうとう》」にある隣町へと到着した。
 荷物を下ろす間は、皆辺りを警戒する。
 遼東は治安が悪く、このところ何度も商人の荷馬車が襲われている。
 噂ではあるが、この遼東の領主の指示で、兵士が賊を装って襲っているなんて話もある。
 あくまで噂ではあるし、それがもし本当だとしても、第四のある街「楽浪《らくろう》」は、なかなか取引をやめられる状況ではない。
 なんせ遼東を通らないと、他の街へ行く術が無いからだ。
 海上移動って手もあるが、異世界にあるような大きな輸送船は存在しない。
 よってコストがかかりすぎるので、今のところ遼東との取引を続けるしかないのだ。
 さて、無事荷物は領主指定の宝物庫へと運び入れられた。
 これで一応、契約は成立だ。
 後は金を貰って、とっとと帰るだけ。
 と言っても、きっと此処からが本番なんだろうけど。
 大量の荷物を奪うより、金や宝石を奪う方が楽だろうからね。
 少し待っていると、遼東の財務係の者が、袋を一つ持ってきた。
 それを、楽浪の流通係補佐が受け取る。
 そして二三言葉を交わした後、袋を持ってこちらへと向かってきた。
 その時、なんだろうか、私はその袋から、何か魔力が放出されているのを感じた。
 袋の中にマジックアイテム、又は魔力を持った宝石が入っているのだろうか。
 受け取るのは現金だけだと聞いていたが。
「すみません。その袋の中、確認させていただけませんか?」
 私は名前も知らない、楽浪の流通係補佐に声をかけた。
「何か?これは大切な預かり物である。簡単に学生に見せられる物ではない」
 そう言う流通係補佐は、少し動揺しているように見えた。
 私は、持っている魔力が少ない。
 だから、扱う魔力はいつも小さなものだ。
 故に、少ない魔力を効率よく使うのが得意であり、魔力操作が繊細で器用であると自負している。
 そうならなければ、第四に合格する事は出来なかっただろうから。
 そんな私だからこそ感じられるような微量な魔力が、確かに今も、袋の中から放出されているのが感じられた。
「失礼しました」
 私はそれでも、仕方なく、袋の中を改めるのを諦めた。
 なんせ取引物を守る事だけが今日の任務で、それ以上は口出しできるものではない。
 たとえこの物流係補佐が、現金以外にもマジックアイテムや宝石を受け取っていて、それを懐に入れようとしていても、それを防ぐ事は任務ではないから。
 まっ、賄賂なんて思うのは、私の勝手な想像であるが。
 ただ、今回の場合は少しおかしい。
 賄賂であるならば、立場の弱い側から渡すはずだし、そうでないにしても、私は何か違和感を覚えていた。
 私は、放出される微量な魔力がどうなっているのか、千里眼を使って調べる事にした。
 千里眼は、異世界を見る事以外にも、魔力の状況や、魔法の性質、近くなら隠れた人や物の状況なども、把握する事ができる。
 ただしどれも、色々条件があるので、完璧にとはいかない事も多いが。
 見ると魔力は、細い一本の糸のように、何処かへ続いているようだった。
 異世界ではGPSや発信器という物があった。
 それは、所在地を特定させるものであるが、そういった魔法が、この世界に存在していてもおかしくはない。
「どうした?何かあったのか?」
 いつのまにか近くに来ていた歌琥が、耳元に話しかけてきた。
「あの金袋の中から、何やら魔力が放出されているんだ」
「ほう。マジックアイテムがあの中にねぇ。だからと言って、何か懸念する材料にはならないと思うが?」
 歌琥の言い分は当然の事。
 普通に考えれば問題はない。
 爆発系のマジックアイテムなら、私でなくても、皆が気づくほどの魔力を感じるだろうし、今回の場合はその物に危険はない。
 だが・・・
「ただ、その魔力が、糸のように何処かに続いているようなんだ」
 私の言葉を聞いて、歌琥は顎に手をあてた。
 これは歌琥が考え事をする時の癖だ。
 まあ、特に歌琥の癖と言うより、皆がやる仕草でもあるわけだが。
「追跡魔法の一種かな?」
 追跡魔法は、自分の知る人物の居場所や、特定の物を探す時に使う魔法だ。
 一方的に魔力を発して探すわけで、色々と条件が厳しく、簡単に扱える魔法ではない。
 しかし探し物が、特定の魔力を常に発していたら、追跡は容易にできるだろう。
「そうだとするなら、帰りに襲われる確率は、限りなく百パーセントだな」
「うむ。珍形先輩に話しておこう。凰印は愁癒に、警戒するよう伝えておいてくれ」
 歌琥くん、あなたは無茶を言う。
 愁癒が私を見る目は、氷よりも冷たいのだよ。
 さて、私と愁癒は、荷物の無くなった荷台に乗り込んだ。
 帰りは、金袋を持っているのが流通係補佐であるから、そちらの護衛についた方が良い気もするが、荷馬車に金品が有るように装う為に、行きと同じポジションなんだそうだ。
 バカな作戦だとは思うが、私は愁癒や歌琥など、強い人の傍にいられるわけだから、別に反対はしないけどね。
 間もなくして、荷馬車は走りだす。
 そしてすぐに街をでる。
 愁癒に話す口実はあるが、さてどう話をきりだすか。
 行きは荷物がいっぱいで、二人きりなのを意識せずに済んだが、このガランとした荷台に二人だと、どうもテンションが違ってくる。
 多少の下心も湧こうというもの。
 そんな事を考えていると、愁癒がいきなり私に話しかけてきた。
「ねぇ。さっき、金袋の中を改めようとしたでしょ。どうして?」
 なんと、話さなければならない話題を、愁癒から振ってきてくれた。
 これはもしかして、愛の以心伝心だろうか?
「ふっ、あれか。少し袋の中から、魔力が放出されているのを感じてね」
 決まったな。
 これからのテーマは、ダンディで行こう。
「みたいね。マジックアイテムでももらったのかしら?」
 なんと!
 愁癒はあの魔力を感じとっていたのか。
 流石にナンバーワン部隊のエースだ。
 でもなんだか悔しいな。
 あの魔力を感じとれるのは、自分だけだと思っていたのに。
 だけど流石にあの魔力が、どういう類のものかは分からないだろう。
 私は少し、偉ぶる風を装ってこたえた。
「魔力は、細い糸のようになって、何処かに続いていた。すなわち、金袋の在りかを追跡する為の物だよ。故に、帰りに我々が襲われる可能性は百パーセントだ」
 すると愁癒は驚いたようで、それが顔に表れていた。
 よし、これで私の事を、少しは見なおしたであろう。
「それ、本当なの?それが本当なら、どの馬車に金が積み込まれているか、賊にはすぐに分かるって事なんじゃないの!?」
「まあ、そういう事になるね・・・」
 襲ってくるって事だけ分かっていれば良いと思っていたけれど、よく考えたら、こうやってダミーの荷馬車を走らせても、金の在りかは先頭の馬車だと特定されてしまうわけか。
 私と愁癒はすぐに立ち上がった。
 私は、荷馬車の後ろから顔を出した。
「歌琥、賊はきっと、前の馬車をピンポイントで狙ってくる」
 私がこう伝えると同時に、前では愁癒が、旺盛先輩に
「幼臭《ようしゅう》さんの乗る馬車に寄せてください。もうすぐ賊がきます」
 と、伝えていた。
 ふむ、あの流通係補佐の名前は「幼臭」というのですな。
 今日だけは覚えておこう。
「前方、賊を発見!臨戦態勢をとれ!」
 旺盛先輩の声が聞こえた。
 良いタイミングだったな。
 ただ、金の中にマジックアイテムを入れていた事を考えると、この賊は遼東領主の回し者であるのだろう。
 正規の軍人を使っているって話もあるから、果たして我々で対応できるのかね。
 第四のエリートが集められているとはいえ、こちらはまだ子供だ。
 まっ、今日はライトの魔法も必要無いし、できる限りサポートするか。
 死にたくはないからね。
 そんな事を考えていると、愁癒が荷台の屋根へと上った。
 その華麗な身のこなしからは、うわさ通りの身体能力である事がわかる。
 愁癒と共にいれば守ってもらえると思っていたが、期待しても良いかもしれない。
 いや、それは無理か。
 このまま馬車を走らせた状態で、この敵を相手に戦い続けるのは無理だ。
 何処か戦いやすいところに馬車を止めて、迎え撃つなり、逃げられる状況を整えるなりした方がいい。
 私は馬車の前方へと移動した。
「旺盛先輩、どこか戦いやすい所で馬車を止めて戦うべきです」
「いや、このまま突っ切った方が良いだろう。愁癒がいる。なんとかするさ」
 話をしている間にも、賊からの魔法攻撃が始まっていた。
 私が乗っている荷馬車の屋根には愁癒が乗って、魔法の盾を展開しながら、賊への攻撃もしている。
 歌琥も前方に移動してきて賊への攻撃をしているし、後ろには孫感先輩もいるから、この荷馬車だけなら、走りながらの戦闘も可能かもしれない。
 だけど、賊のターゲットは、前を走る馬車だ。
 せっかくこの荷馬車に、金を積んでいるかの如く装っていたけれど、やっぱり賊にはバレバレのようだし、どうしたものか。
 そうこうしている間にも、賊は先頭の馬車への攻撃を強めていた。
 前の馬車に乗る珍形先輩が奮闘しているが、そんなにはもたないだろう。
 敵はただの賊ではない。
 黄色いマスクで顔を隠している事からしても「大尉」とか「軍曹」なんて呼び合う言葉が聞こえてくる事からしても、おそらくは遼東の兵士だ。
 そして兵士の多くは、何処かの魔法学園卒業生だ。
 第四の生徒は実戦馴れしているとは言え、本来なら敵う相手ではないはずだ。
 ざっと見たところ、潜在魔力だけなら愁癒や歌琥の方が上だが、人数も違いすぎる。
 我々が走る先に、大きな岩山が見えた。
 この賊を相手に有利に戦うには、その岩山を利用して戦うしかないと思えた。
「旺盛先輩、一旦あの岩・・・」
 私がそこまで話した時、前方を走っていた馬車の車輪が、敵の攻撃をうけて破壊された。
 車輪を失った馬車は、目の前で横転した。
 すぐにこちらの荷馬車も追い付き、旺盛先輩はそこで止めた。
 兎琴、罵蝶、愁癒が前に出て、尚も続く賊の攻撃を防ぐ。
「大丈夫ですか?」
 私は、倒れた馬車のドアを開けて、中に声をかけた。
「ああ、流石にこれはヤバイな」
 珍形先輩の言う通り、これは確かに色々な意味でヤバイ。
 珍形先輩の下敷きになっていた、幼臭とか言うおっさんが
「何がヤバイだ。さっさとわしの上からどけ!」
 と、偉そうに言ってきた。
 なんだか、こんな人を守らなければならない事が、腹立たしく感じられる。
「申し訳ありません」
 珍形先輩は、狭い馬車の中でなんとか立ちあがって、幼臭に手を差し伸べた。
 そうこうしている間にも、賊はこちらへの攻撃を続けていた。
 罵蝶は無双しているが、一人で全てを抑えられるわけではない。
 兎琴と愁癒は、こちらへの接近をかろうじて防いでいる程度。
 孫感先輩は魔法を止めてはいるが、数に勝る賊の攻撃は、徐々にその防衛網を削ってくる。
 旺盛先輩も、愁癒の加勢に入った。
 露色先輩と歌琥は、協力して大きな魔法攻撃を放とうとしていた。
「歌琥の魔法に呼応して、あの岩山の影まで行きましょう」
 倒れた馬車から出てきた珍形先輩にそう言うと
「そうだな。幼臭さん、合図したら、あそこまで全力で走ります。金袋は僕が持ちますから」
 珍形先輩は幼臭にそう言って手を差し出した。
 しかし、幼臭は嫌な顔をして
「いや、金は私が持つ」
 と言って、金袋を離そうとはしなかった。
 全く、逃げ遅れて死んでも知らないよ。
 と言うか、幼臭を守る事は今回の任務ではないし、金さえ守れればいいんだけどね。
 歌琥と露色先輩が協力して、強力な攻撃魔法を放った。
 それに合わせて、罵蝶、兎琴、旺盛先輩、愁癒が散開する。
「今だ!」
 珍形先輩の合図に、私と珍形先輩、そして幼臭は岩山に向けて走り出す。
 旺盛部隊の、漢伏《かんふく》、漢注《かんちゅう》、減性《げんせい》は、もう一台の馬車と、荷馬車、そして馬車に繋がれていた馬に乗り、岩山へ向けて走らせた。
 私はすぐに荷馬車に飛び乗る。
 そして珍形先輩に手を差し伸べた。
 しかし珍形先輩は、幼臭を先にやろうとして、なかなか荷馬車に乗らない。
 私なら命の方が大切だから、幼臭なんて捨て置くけどねぇ。
 流石に珍形先輩だと言いたいところだけれど、此処でそれは命取りになりかねない。
「早く乗ってください!」
 ようやく幼臭の手が、私の手をつかんだ。
 私は思いっきり引っ張って、幼臭を荷台に引きずり込む。
「もっと優しく乗せんか!」
 おっさんが何か言っているが、今はそんな事に構ってはいられない。
「珍形先輩!」
 私が再び手を差し伸べた時、賊からの巨大な魔法が、こちらに向かってきていた。
 それに気がついた珍形先輩は、魔法の盾を展開した。
 走り続ける荷馬車は、そのまま珍形先輩を置いて走り続けた。
 賊の魔法が、珍形先輩の魔法の盾に行く手を阻まれる。
 だが、長くはもたなかった。
 数秒でシールドは消失した。
 大きな爆発が起こった。
「うああぁぁ!」
 珍形先輩はそのまま、爆発に呑み込まれた。
「珍形先輩!」
「珍形さん!」
 私の叫びと共に、別の馬車に飛び乗っていた孫感先輩の、悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「くそっ!」
 あの爆発では、おそらく助からないだろう。
 私にもっと力があれば。
 そうは思っても、今はそんな事を考えている余裕はない。
 この状況を何とか打開しなければならない。
 他のメンバーは、なんとか岩山の後ろへと退避する事ができた。
 この岩山をぶっ壊せるほどの術者が敵にいたらどうにもならないが、とりあえず攻撃は止まった。
 これで、回り込んでくる敵にのみ気をつければ良い。
「珍形さん・・・」
 孫感先輩は、崩れるように座り込むと、顔を手で覆って泣いていた。
 これ以上の犠牲は出してはいけない。
「幼臭さん、その袋の中、確認させてください!」
 金を置いていけば、おそらく皆助かるだろう。
 私としては、何とか珍形先輩を回収し、金なんてどうでも良いから逃げ帰りたい。
 でも、珍形先輩が命がけで守ったものだ。
 なんとか、一番良い方法で、任務だけは遂行しなければならないと思った。
「だから、この中は見せられんと言っておろうが!」
 こんな命の危険な状況で、人が既に一人死んでいる状況で、このおっさんは、一体何を考えているのか。
 中にある、魔力を発しているアイテムを取りださないと、逃げられないのに。
 私が解せない気持ちに憤っていると、愁癒がいきなり声をあげた。
「幼臭さん!あなたは、助かりたくないのですか?!」
 愁癒は怒っていた。
「その中には、我々を追跡する為のマジックアイテムが入っているのです。それをハッキリ言わない凰印もどうかと思いますが。とにかく、それを何とかしないと我々は逃げられないと言っているのです!」
 それを大っぴらに言ってしまうと、遼東との関係がね。
 でも今は、そんな事言っている場合ではなかったな。
 私がバカだったと言う事か。
「そ、そんな物が、入っているわけないだろうが!」
 それでも幼臭は、認めなかった。
 そういう事か。
 このおっさんもグルだったって事か。
「失礼しますぅw」
 いつの間にか、幼臭の後ろに兎琴が立っていた。
 そして一撃、幼臭の首元へと打撃と電撃を喰らわせた。
 すると幼臭は、気を失って、その場に倒れた。
「さっ、金袋の中を改めましょうw」
 皆が目をまるくして唖然としている中、兎琴は涼しい顔で言った。
 兎琴ちゃん、怖い。
 でも、生き残る為だ。
 私はすぐに幼臭の抱えていた金袋を取り上げると、中を改めた。
 中には現金コインと同じくらい、沢山の宝石が入っていた。
 本来なら全部の宝石を取り上げてしまいたいが、時間も無いしそうは言っていられない。
 私は魔力を発している物だけを探した。
 すぐにそれは見つかった。
「これか・・・」
 取り上げて見ると、ブローチに宝石がついていた。
 私はそれを歌琥に投げた。
 それを受け取った歌琥は、皆を見回してから言った。
「誰かに、コレとダミーの金袋を持って、敵を引きつけてもらう」
 まっ、普通に考えればそういう作戦にはなるが、あまり気乗りがしないな。
 そのポジションはかなり危険だし、誰か一人を犠牲にするような作戦だ。
 それでもこの作戦でいくなら、迷わず罵蝶にやってもらいたいところだ。
 罵蝶ならそう簡単にやられはしない。
 が、罵蝶は今も接近する敵を近づけないように奮闘中だ。
 となると、旺盛先輩か・・・
 歌琥も同意見だろうが、流石に旺盛先輩には頼めないか。
 しばらく口をつぐんでいると、旺盛先輩がいきなり口走った。
「これは凰印、お前が持って敵を引きつけろ」
「えっ?」
 いきなり何を言い出すんだこの先輩は。
 皆、この命令がまともではない事を理解しているだろう。
 ハッキリ言って、任務の為に死ねと言っているようなものだ。
 だけど、この部隊のリーダーは旺盛先輩で、我々の部隊のリーダーがやられてしまった今、旺盛先輩の作戦に従うのは当然だ。
 それに、私一人で逃げるなら、ある意味楽かもしれない。
 最悪このブローチは、捨ててしまえば良いわけだし。
 よし、とにかく一刻も早く行動しないと全滅もあり得るし、此処は従おう。
「わかりました。歌琥、ブローチとダミーを!」
「おい!これは一番危険な役回りだ。やはり罵蝶にやってもらった方が」
 歌琥の言う事はもっともだが、私も偶には危険なポジションを担当しないとね。
 おそらく死んでしまっている珍形先輩に申し訳がない。
 私は、歌琥が差し出すブローチとダミー袋を、笑顔で受け取った。
「では、その馬をかります」
 そう言って私は、一頭の馬にまたがった。
 すると愁癒が、こちらに走ってきたかと思うと、私の後ろへと馬に飛び乗った。
「私も行きます!一人だと怪しまれます」
 愁癒の言動は確かにその通りではあるが、私は、少し嬉しかった。
 これで助かったと思ったからではない。
 明らかに私を、気づかってくれているのが分かったから。
 旺盛先輩は、少し驚き、そして悔しそうな顔をしていた。
 この人がリーダーで、よくもまあナンバーワン部隊になったものだ。
 それでも、旺盛先輩から発せられた作戦は、悪いものではなかった。
「まず、北の森の方に、凰印と愁癒、そして南側へは馬車で珍形・・・の第十八部隊メンバーで出発。敵がどちらか、或いは両方の追撃を開始すると同時に、我が部隊メンバーは金を持って、荷馬車でまっすぐ楽浪をめざす」
 要するに、一応敵に作戦を看破されている事も想定して、おとりをもう一つ用意したってわけだ。
 そして旺盛先輩は、手柄と安全も確保か。
 でも、果たしてそう上手くいくかな。
 これだと戦力を分散しすぎだし、何かが引っかかるんだよなぁ。
「では、速やかに作戦を開始せよ!」
 旺盛先輩の合図に、私は北の森を目指して馬を走らせた。
 少し遅れて、馬車に乗り込んだ歌琥たちも、南へ出発した。
 まずは予想どおり、多くの賊がこちらについてくる。
 歌琥の馬車はもう視界に小さいが、どうやらあちらにもそこそこの賊がついて行ったようだ。
 敵も案外単純だったか。
 それとも・・・
 まっ、この後は他人を心配している余裕はない。
 とにかく生還する事だけを考えよう。
 後ろからは、既に賊からの攻撃が始まっていた。
 それを愁癒が、魔法の盾で防いでいる。
 もし一人だったら、私も今頃こんなに余裕はなく、必死になっていたのだろうな。
「ありがとう、愁癒」
 私はなんとなく言っていた。
「ふん!私は負けるのが嫌いだからね」
 言っている意味は分からなかったが、私はなんとなく、少し照れている愁癒の事が、好きになれそうだと感じていた。
 森に入る頃、賊の追撃の手は明らかに減っていた。
 どうやらこちらの作戦は、もうすでにばれてしまっているようだ。
 だけど、これだけの時間を稼げたのだから、旺盛先輩たちは、なんとか楽浪へ逃げ帰れたと信じたい。
「どうするの?そろそろ、そのブローチは捨てて、逃げ帰る事にするの?」
 愁癒の提案は、正に良いタイミングだろう。
 だけど私は、これを持ち帰りたいと思っていた。
 一つに、このアイテムが、遼東の謀略の証拠になり得る事。
 そして、この魔法を少し研究して、あるものを作りたかった。
 異世界には携帯電話なるものがあった。
 あれがこの世界にあれば、今回のようにバラバラになった時でも、連絡を取り合える。
 それは、ミッションをよりスムーズに、確実にコンプリートできるって事だ。
「いや、この数の追手なら、私と愁癒ならなんとかなる」
 愁癒は私の言葉に、笑顔になった。
「あなた、魔力は少ないし使えない奴かと思っていたけど、実は結構やりそうね」
「そんな事はないよ。ただ、自分が助かる算段だけは、しっかりしているだけさ」
 本当にそうなんだ。
 私のように力の無い者は、そうしないと生きていける世界ではないからね。
 本当なら、珍形先輩も助けたかった。
 だけど私は、自分の命だけで手いっぱいだったんだ。
 罵蝶なんかは、自分以外にも沢山守る事ができる。
 きっと愁癒だってそうだろう。
 本当に悔しいよ。
 私も誰かを守れるようになりたい、そう思った。
「と言う事は、この状況を一人で乗り切る手立てもあったわけよね?」
 まあ、そういうわけだ。
 だが、私の能力の全てを話しているのは、歌琥だけだ。
 魔力の少ない私が生きぬくには、手の内は常に隠しておくに限るから。
 それでも、私を心配してついてきてくれた愁癒だ。
 私は少しだけなら、見せても良いと思った。
「まあね」
 私は魔力を高めた。
 すると私の目の前に空間のひずみが現れる。
「これは、異次元アクセスの魔法ね」
 そう、先日の賊退治の時、ゾンビを操っていたおっさんと同じ魔法だ。
 これは高度な魔法ではあるが、魔力はさほど必要としない。
 私はそこから、いくつかの魔力球を取りだした。
 私は魔力が少ないから、時間があれば魔力をためてあるのだ。
 もちろん、高価な宝石は使えないから、用途に応じて色々と工夫を凝らしている。
 これから使う物は、球状に薄く膨らませた鉄の中に、シェルを詰め込んであるものだ。
 それを後ろの愁癒に渡した。
「これを敵に向けて投げでくれないか?」
 異世界で言う、手榴弾のようなものだ。
 ただし、爆発の大きさは魔力に比例するから、今回用意したものは、手榴弾の比ではないくらいの、大きな爆発が起こるはずだ。
「あなたの魔力で、これだけの魔力をためるのは、いったい何カ月かかるのか」
 愁癒の言う通り、本来ならきっと、何カ月もかかるだけの魔力が、この魔力球の中にはおさめられている。
 だけど私は、魔力が他人より圧倒的に少ないが、それ故に回復力だけは人一倍早かった。
 だからこれを一つ作るのに、一日しかかからなかった。
 それでも一日かけて作ったもの。
 使うのももったいないけど、こんな時の為に用意したのだ。
「遠慮なく、投げつけてくれ」
 私の言葉に、愁癒は追撃してくる賊に、次々に魔力球を投げつけた。
 私は千里眼で後方を確認しつつ「魔法の矢《マジックミサイル》」を放った。
 魔法の矢は、矢を模したものだから、本来大きさもそれくらいある。
 だけど私の魔力量では、それは魔力の無駄使いというもの。
 と言うか、通常の大きさだと、魔法の矢を放つ事もできない。
 だから私は訓練を重ねて、魔法の矢を針くらいの大きさまで小さくする事で、魔法の発動を可能にしていた。
 私の放った魔法の矢は、投げつけた魔力球に命中する。
 途端に大きな爆発が起きた。
 追手の何人かは、咄嗟に魔法の盾を展開したが、私の攻撃の良いところは、魔法の爆発だけではなく、飛び散る鉄の破片が存在する事だ。
 魔法耐性の高い人にも、物理攻撃でダメージを与えられる。
 当然圧縮された魔力の爆発も大きく、シールドなど簡単に打ち破った。
 馬に乗り走りさる後方の森が、大きく炎上した。
「これで、しばらく追ってこれないよね」
「凄いじゃん。あの魔力球を狙い撃てるなんて」
「まあこれくらいできないと、私なんて生きていけないって事ですよ」
 愁癒は、なんだか楽しそうだった。
「ところでさ、さっきの異次元アクセスの魔法が使えるなら、お金とか、そのブローチも、異次元に送っておけばいいんじゃないの?」
 愁癒の考えはもっともだ。
 だけどこの魔法は・・・
「異世界の住人との契約が必要な魔法だから、そう簡単にもいかないんだよね」
「要するに、決められたものしか、無理って事か」
「理解が早くて助かります」
 私と愁癒は、顔を見合わせて笑った。
 愁癒とは、なんとなくうまくやれそうな気がした。
 だけど、また次の実戦からは、別の部隊なんだよな。
 同じ部隊でやりたかったよ。
 そんな事を考えていた私だったが、楽浪に戻ってから、その望みが、悲劇の後に達成される事は、この時は思いもしなかった。

 私と愁癒は、後方の追手が無くなった事を確認してから、一旦先ほどの岩山付近に戻った。
 そこで、珍形先輩の亡きがらを確認し、愁癒の魔法で火葬してから、楽浪へ帰宅の途についた。
 既に辺りは真っ暗な時間だ。
 疲れもピークに達しており、今すぐベットに入って眠りたい気分だった。
 それでも私たちは、学園の学園長室へと戻らなければならなかった。
 任務報告の為、珍形先輩の死の報告の為に。
 それに、きっと大丈夫だとは思うが、旺盛先輩たちのミッションコンプリートも確認しなければならない。
 報告は、高村産《こうそんさん》学園長に行う。
 私は学園長室のドアを叩いた。
「珍形部隊、凰印戻りました」
「旺盛部隊、愁癒戻りました」
 すると内側からドアが開けられた。
 ドアを開けたのは、歌琥だった。
「凰印、無事だったか。良かった・・・」
 歌琥の安心しようは、少し大袈裟なくらいだった。
 普段なら、此処まで心配させてしまう事など、まずあり得ない。
 歌琥自身が、私を守ってくれているからだ。
 それでも、今日の歌琥の安心のしようには、違和感を覚えた。
 まさか、珍形先輩以外にも、誰かがやられたのだろうか。
「ああ。他の人達は無事か?」
 学園長室に入りながら、室内を見回すと、珍形先輩以外の皆の顔があった。
 私は一瞬ホッとしたが、その表情がすぐれない事に、そして旺盛部隊の面々がいない事に気がついた。
「俺達の部隊は、珍形先輩以外は無事だが、旺盛先輩の部隊は・・・」
「そうか・・・」
 今日の任務は失敗で、二つの部隊の半数を失ったって事か。
 私は、隣で涙を我慢している愁癒の肩を、いつの間にか抱いていた。
 その後しばらくは、誰も言葉を発しなかった。
 気がつくと、孫感先輩が泣いていた。
 皆ソファーに座り、ただ、学園長が来るのを待った。
 しばらくすると学園長がやってきて、皆は淡々と報告を行った。
 私と愁癒からの報告は、珍形先輩の亡きがらの確認と火葬を行った事。
 そして、遼東の謀略の証拠となり得る、ブローチの提出だ。
 歌琥たちは、旺盛部隊の壊滅の確認と、幼臭が行方不明である事の報告だった。
 全てを総合すると、遼東に賄賂で懐柔された幼臭に、みんなはめられたって事か。
「そうか。残念だ」
 学園長の言葉は、我々だけでなく、楽浪全ての住人の気持ちであるはずだ。
 学園が口出しできる事ではないが、今後遼東との間に、紛争が起こる事は明らかだった。
「では、みんな任務御苦労だった。部隊の欠員補充や再編については、後日発表する」
 そう言った高村産学園長の言葉で、皆は一人、また一人と部屋を出ていった。
 私は、最後まで部屋に残っていた。
 学園長にお願いがあったからだ。
「どうかしたか?今日は疲れただろう。早く部屋に戻って休みなさい」
 学園長の言う通り、確かに心身ともに疲れていた。
 だけど、今後の為にも、今できる事は今したかった。
「そのブローチ、私に貸してもらえませんか?」
「これをかね?復讐にでも使うつもりか?」
 学園長は、どうやら私が、このアイテムで敵をおびき出し、復讐するのではと思ったようだ。
 まあ、それも面白そうではあるが、私にそんな大それた事ができるわけもないし、もうこのブローチを追跡する事は無いだろう。
 別に金と一緒に有るわけではないからね。
「いえ、この魔力を研究して、マジックアイテムの開発をしようかと思いまして」
 これは、幼臭が、遼東が裏切った証拠になり得る品だけど、もうそんな事で訴える前に、遼東から何か動きがあるだろう。
 楽浪を攻めるにしても、又は他の行動だとしても。
 こちらの学生六人を殺して、金品を奪ったのだから。
「ふむ。分かった。それは君に預けよう。あっいや、好きに使ってくれ」
「ありがとうございます。きっと面白いものが作れると思いますよ」
 私は、今日の最後に笑顔を作って、学園長室を後にした。
 だけど心の中では、自分の不甲斐なさに、憤りと悲しみがあふれていた。
3
最終更新日 : 2012-07-30 20:09:04

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第十八部隊

 我が学園は、三年生が四クラス、二年生が二クラス、一年生が七クラス存在する。
 だから、部隊分けは、綺麗な縦割りとはならない。
 そしてまた、昨日の任務で上級生が多く亡くなった事で、それはますます困難となった。
 人材というにも乏しかった。
 だから、今回クラス担当教師より発表された、新たな部隊分けは、仕方のないところだろう。
「歌琥、兎琴、罵蝶、凰印、この四人はそのままに、愁癒を新たに部隊に加える。さらに三年生孫感にはリーダーとしてよりも、別の三年生の補佐の方が向いていると考え、別の部隊に移動、代わりに、一年生の香那《かだ》を加える」
 担当教師の発令に、私は喜びと寂しさ、両方を感じていた。
 愁癒と共にやれる事は、昨日望んでいた事なので、それは嬉しい。
 だが、三か月だが、今まで共に戦ってきた孫感先輩との別れは、やはり寂しかった。
 私はなんとも複雑な気分のまま、午前の授業を終えた。
 昼食の後、私は新しい部隊メンバーと会う為、部隊室へと赴いた。
 我が部隊に充てられた部屋は、ナンバー十八ルームである。
 今回の部隊再編でも、部屋番号は変わらなかった。
 私は軽くドアをノックすると、いつもと同じようにすぐにドアを開けた。
 ノックなんてものは、この部屋に入る時には、あくまで形式的なものだったので、必要性は全くなかった。
 だけどどうやら、今日はそうではなかったようだ。
 部屋の中には、何故服を着ていないのか分からないが、ほとんど裸同然の女の子が立っていた。
 さて、どうしたものか。
 女の子はビックリして、こちらを見たままフリーズしている。
 まずは大切な部分を隠してもらいたいものだが、指摘して良いものなのだろうか。
 とりあえず、じっくりと凝視してみる。
 ふむ、どうやらまだまだ未成熟のようだ。
 同じ学園生とは思えないが、此処にいるって事は、この子が新しく部隊に加わる、香那って子だろうか。
 とりあえず、聞いてみない事にはわからない。
 なんだか涙目になっているように見えるが、私もどうやら動揺しているようだ。
 無神経にもこの状況で話しかけていた。
「もしかして、香那・・・さん?」
 そう言うと、ようやく女の子はフリーズ状態から解放され、服であらわになっていた場所を隠すと、顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。
「そっか。私は凰印。よろしくね」
 私は満面の笑顔を作ってから、静かにドアを閉めた。
「キャァー!!」
 閉めたドアの向こうから、大きな悲鳴が聞こえてきた。

 私は、歌琥が来るのを待ってから、再び部屋のドアをノックして、返事が返ってくるのを待ってから部屋に入った。
 中には、ちゃんと服を着た香那が、椅子に座っていた。
 さて、こんな時は、先ほどの事を謝るべきなのだろうか。
 それとも記憶を、忘却の彼方へと追いやる方がいいのだろうか。
 悩んだ挙句、私が出した結論は、お礼を言う事だった。
「香那、さっきは、ありがとう。良いもの見させてもらったよ」
 一応言っておくが、私はまだまだ動揺が収まっていなかったようだ。
 私の言葉に、香那は再び顔を真っ赤にして涙目になった。
 そして
「もうお嫁にいけないー!」
 と叫んで、机に突っ伏した。
 どうやら、お礼を言うのは間違った選択肢だったようだ。
「どうしたんだ?」
 歌琥が尋ねてきた。
 私はどうこたえて良いものか考えた。
 本当の事を言ったら、香那がマジ泣きするかもしれない。
 だから私は、黙ってテーブルの上に置いてある、脱いだばかりの衣装を指差した。
 それは、私が以前から、学園内の洋裁工房に頼んでおいた、戦闘用衣装だった。
 この世界の衣装というのは、異世界での架空人物、魔法使いが着ている物に似ている。
 もしかしたら異世界人にも、こちらの世界を見る事ができる者がいるのかと思うくらいそっくりだ。
 だけど、この衣装はハッキリ言って動きにくいし、戦いには向いていないと私は思っていた。
 そこで、異世界人が普段着ているような動きやすい衣装を、洋裁工房に頼んでおいたのだ。
 ジーパンや軍服、どれにしようかと考えたが、同じ学生って事で、私は「学ラン」と「セーラー服」に決めた。
 その中の一着を、香那は着てみたくなったのだろう。
 まあ、別に試着するのは構わないが、タイミングが悪かったか。
 私が色々考えて状況を整理してる間に、歌琥もどうやら理解したようだ。
 笑顔を作って、黙って椅子に座った。
 私も、突っ伏したままの香那に少し視線を送ってから、歌琥の横の席に座った。
 少し気まずい雰囲気が続いたが、すぐに罵蝶たちがやってきて、とりあえず平静をとりもどした。
 と言っても、新しい部隊の顔合わせは、空気が重かった。
 昨日、珍形先輩を失った事に伴った再編だ。
 愁癒から見れば、自分以外のみんなを失ったのだ。
 私の見たところ、さほど部隊メンバーとのつながりが強いとは思えなかったが、それでもやはり仲間であったろう。
 香那も話は聞いているようで、完全にこの重苦しい空気にのまれていた。
 でもこのままでいるわけにはいかない。
「では、まずは自己紹介から始めますか」
 私がそう言うと、皆もそれぞれに同意の意思を示した。
「では、まずは俺からだ。名前は歌琥。風系の精霊魔術を得意としている。この学園の入学試験では、魔力診断で三位だった。よろしく!」
 歌琥はこの重苦しい空気を払拭するように、いたって明るく自己紹介をした。
 皆は口々に「よろしく」と返事を返した。
 次に、歌琥の向かいに座っていた、香那が立ちあがった。
「うちは香那。第六部隊から移籍してきたよ。白魔術が得意だよ。絶対魔法防御や蘇生もできるよ。よろしくだよ」
 香那の自己紹介を聞いて、みんな気がついたようだ。
 この子が「癒しの天使」という二つ名を持つ者である事を。
 癒しの天使、それは、死者の出た部隊を移動する。
 再び死者を出さないようにとの配慮から。
 要するに、我が部隊が、今一番悲しみの中にあるって事か。
 それでも、香那が来てくれたのは嬉しい事だ。
 白魔術師は、実際の軍などでも、必須と言われている人材であるから。
 それに、絶対魔法防御や蘇生ができるとなれば、最高クラスの白魔術師って事になる。
 皆、香那の移籍を歓迎した。
「では、次は私ねぇ~w」
 香那の隣に座っていた兎琴が立ちあがった。
「私は兎琴と申しますぅ。歌琥とは将来を誓い合っていますぅ。基本的な魔法は一通りできる魔法剣士ですぅw」
 兎琴の自己紹介が終わると、皆「ヒューヒューだよ」とか「あついあつい!」とか、歌琥との仲をひやかした。
 次に罵蝶が立ちあがった。
「私は罵蝶。武士だ。武器は槍を使う。学園内では誰にも負けない武力であると自負している」
 皆は「お~」とか言いながら、拍手を送った。
 罵蝶が学園一の武力ってのは、誇張でもなんでもない。
 亡くなられた旺盛先輩も強かったし、他の先輩方の中にも強い人はいるだろう。
 だけど、罵蝶の強さは、明らかに抜きんでていた。
 まあ、それを知るのは、我が部隊のメンバーだけかもしれないが。
 次に、私の隣に座っていた、愁癒が立ちあがった。
「私は愁癒。第一部隊の生き残りだ。エースと言われてはいたが、大したものではない。一応、魔法、剣術、両方にそれなりの心得はある」
 愁癒は自己紹介を終えると、少し硬い表情のまま、すぐに席に座った。
 きっと昨日の事に、責任を感じているのかもしれない。
 もしも私についてこなければ、もしかしたら旺盛先輩たちを守れていたかもしれないのだから。
 だけど逆に、一緒に死んでいた事も考えられる。
 他人を助ける為に死んでも、私はバカバカしい事だと思うし、結局守れなかったら目も当てられない。
「私は良かったと思っている・・・愁癒が生きていて・・・」
 なんとなく私は呟いていた。
 だが、みんなの拍手と、謙遜する愁癒の言葉を否定する声に、私の呟きはかきけされていた。
 さて、いよいよ私の自己紹介だ。
 正直、此処までのみんなの自己紹介は、それぞれに優れた人物である事をうかがわせるものだった。
 だけど私には、誇れるものなど何もない。
 私がこの部隊にいるのが不思議に思える。
 なんて自己紹介すれば良いものか。
 私はゆっくりと立ち上がった。
「えー・・・凰印です。可愛い女の子が大好きです。よろしく」
 私は、少し格好をつけて言った。
 言ったのは結局冗談だった。
 罵蝶は、少し冷たい目で見ていた。
 兎琴はよくわからない反応。
 香那は、さっきの事をまだ引きずっているようで、照れと恐怖の反応ってところか。
 でも、私の両隣に座る歌琥と愁癒は、少しあきれていたが、笑顔で拍手してくれた。
 さて、自己紹介が終わり、次はこの部隊のリーダーを決めなければならなかった。
 本来なら三年生がリーダーになるわけだが、この部隊にはいない。
「では次に、この部隊のリーダーを決めないとな」
 歌琥の言葉に「はい!」と返事をして、罵蝶が手を挙げた。
 まさか、罵蝶がリーダーをやりたいとか言うのだろうか。
 少し不安な気持ちになった。
「はい、罵蝶くん」
 歌琥は議長よろしく罵蝶の発言を許可した。
「はい!私以外が良いと思います!」
 まっ、こんなところだろう。
 私はホッとした。
 リーダーは頭も使うし、面倒な事も引き受けなければならないからね。
 罵蝶には、残念ながらその資質はない。
 武力は学園一でも、作戦立案とか雑用は苦手だからね。
 とにかく、皆は罵蝶の発言に頷いた。
 私としては、歌琥にやってもらえれば色々と楽だが、愁癒でも良いかと思う。
 愁癒の魔力はおそらく歌琥よりも上だし、頭も良さそうだ。
 問題は、他から来た人をリーダーにするのに、抵抗があるかもしれないって事くらい。
 どちらにしても、私にはこのどちらか以外には考えられなかった。
「立候補はありませんか?」
 歌琥の言葉に、誰も手を挙げるものはいなかった。
 私は意外だった。
 愁癒は、旺盛先輩に対しても不満を持っていたようだし、リーダータイプだと思っていたから。
 だけど今回は、第十八部隊に入ってきたようなものだし、遠慮したのだろうか。
「では、立候補がいないようなので、誰か推薦はありますか?」
 歌琥の言葉に、すぐに手を挙げたのは、愁癒だった。
 愁癒はこのメンバーをあまり知らないはずだ。
 だから今更ながら、立候補する気にでもなったのだろうか。
 誰もいないならやるってのは、責任感の強い人ならよくある話だ。
 だけど、愁癒の口からは、予想しなかった名前が発せられた。
「凰印が良いと思う」
 一瞬、時間が止まったように皆が唖然とした。
 私なぞ、この三カ月、皆の足を引っ張り、皆に守られてきただけの無能者だ。
 それがリーダーなぞ、認める者はいないはずだ。
「ふむ。言われてみれば、それも良いかもしれない」
 何故か歌琥まで、愁癒の意見に好意的な発言をした。
 歌琥は、多少私の能力の事を知ってはいる。
 だけど、戦闘に役立つものではない。
 拳銃などのアイテムに頼らなければ、戦闘力はゼロの軟弱者だ。
 いつも、生きて帰る事しか考えていないし、私がリーダーなぞありえない。
「私は誰でも良いけど、理由を聞かせてもらえるかな?」
 罵蝶の疑問は確かに私も聞いてみたかった。
 愁癒程の使い手が、私を推する理由はなんだろうか。
 すると愁癒が、少し冷笑を浮かべたように見えた。
「そうねぇ、凰印は、リーダーに必要な資質の内、人望以外は、全て持っているからかな」
 なんとまあ、私ごときを高く評価してくれているものだ。
 昨日の一件でそう判断したのかもしれないが、それまでの私を知る人なら、そんな事は言えないはずだ。
 そう思っていたのだけれど、意外に皆、愁癒の言葉をバカにするような事はなかった。
「うん。凰印ちゃんなら、立派にリーダーを務められると思うよぉ。だけど、それ以上に、歌琥や愁癒ちゃんの方が、その資質はあるように思うのだけれど?」
 兎琴が私を、それなりに認めてくれているのは、少し意外だった。
 だけど、私をリーダーにする事を、全面的に肯定しているわけではない。
 確かに言う通り、私より向いていると思われる人がいるのだから。
 その辺り愁癒は、どう考えているのだろうか。
「たとえば私がリーダーをしたとして、私が間違った判断で作戦を実行しようとした場合、それを止められる人はいるのかな?昨日、結局旺盛先輩の作戦に反対できた人はいなかった。先輩だから仕方がなかったと言えるかもしれないけれど、私にはそんなあなた達が、私に指摘できるとは思えない」
 なるほど。
 一年生ばかりの部隊だ。
 みんなの意見を聞いて、みんなが納得する結論を出せる人が、この部隊のリーダーには、より合っているという事か。
「確かに、凰印の判断力は、俺や愁癒にも劣らないし、皆の意見を柔軟に取り入れる事もできる。ただ、やはり戦闘力が無いってのは、致命的になりはしないか?」
 歌琥は愁癒にそう言うと、少し不敵な笑みをもらした。
 もしかして歌琥は、この討論の中で、私をリーダーにするつもりだろうか。
「戦闘力ねぇ。昨日、凰印は一人でおとりになると言った。それに私もつきあったわけだけど、おそらく一人でも生きて帰る事はできたと思う。その程度の戦闘力は見せてもらったわ。それに昨日、もし凰印がリーダーだったら、どうなっていたと思う?」
 私がリーダーだったらか。
 そんな事、考えもしなかったが・・・
 そうだな、行きはともかく、帰りは確実に襲われる可能性があったから、部隊配置は変えていただろう。
 なんとか岩山までは馬車で行けたと思う。
 だから珍形先輩は、あの時点で死ぬ事はなかったかもしれない。
 そうなると岩山のところで、すぐにはブローチを取りだす事ができなかったかもしれないが、いずれはそれに繋がっただろう。
 とにかく逃げるにしても、追跡されていてはどうにもならなかったから。
 その後は歌琥に任せたが、私がリーダーだったら、幼臭は捨て置いたかもしれない。
 ブローチと一緒に・・・
 荷馬車に金を積んで出発、兎琴、罵蝶、旺盛先輩に少し足止めをしてもらって、それぞれ単騎で撤退してもらえば、たぶん死者はでなかった。
 でもこれは、結果を知っているからの考えで、あの場所でこの判断ができた保障はないし、自信もない。
「まっ、凰印がリーダーなら、死なない算段はしっかりしてくれそうではあるな」
 歌琥の言葉に、今まで話しに入ってこなかった香那が、手を挙げて少しモジモシした後、口を開けた。
「凰印、うちはあなたがリーダーで良いと思うよ。でも一応、聞かせてほしいよ。あなたがリーダーなら、何を一番重視する?」
 私はリーダーになるつもりはなかったのに、なんだか私がリーダーをやりたくて、その判断をする為の議論をしているみたいだ。
 でも、私の本心を知れば、私をリーダーにしようなんて考えないだろう。
 私は、本心を隠さずに話した。
「私が重視する事、それは、自分が生き残る事だよ。その為なら、任務だって放棄するし、金だって捨てる。そういうわけで、私をリーダーにはしない方が良いだろ」
 リーダーか。
 自分の命が大切なら、リーダーになる方が良いのだろうな。
「そうか。なら凰印、あなたがリーダーだよ。私は賛成するよ」
 そういう香那と目があった。
 香那は照れくさそうに、目をそらせた。
 横では歌琥が、下を向いて笑いをこらえていた。
 愁癒も兎琴も笑顔だった。
 罵蝶はどうでもいいといった感じだった。
「何故?私がリーダーを?」
 すると愁癒が笑いだした。
「ははは!分からないのか?本当に自分だけが生き残る事を考えているなら、進んでリーダーするだろ?凰印の本心は、ただ、みんなの命を預かるのが嫌なだけなんじゃないかな?」
 私はハッとした。
 確かにそうかもしれない。
 私は、自分自身の本心に気がついていなかったのか。
「それにな、凰印が生き残れるなら、みんな生き残れるさ。此処にいるメンバーは、きっとこの学園最強だと思うぞ」
 メンバーを見渡した。
 歌琥の言う通り、それは間違いなかった。
 一年生ばかりではあるが、きっとそれがこういうメンバーを集める事になったのだろう。
「はいはい、では、凰印で決まりな。どうせ誰がリーダーでも、私は生き残るからな」
 罵蝶の言葉も、違いなかった。
「では、反対の者、挙手をお願いします」
 歌琥の言葉に、手を挙げる者はいなかった。
 こうして私は、望まずして第十八部隊リーダーとなった。
 リーダーとなった私は、最初の命令として、洋裁工房から送られてきた学ランとセーラー服を、皆に戦闘服として利用するように告げた。
4
最終更新日 : 2012-07-30 20:09:04

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リーダー凰印

 私がリーダーになって一週間が過ぎた。
 楽浪と遼東の間に、何かしら動きがあるものだと思っていたが、特に変化はなかった。
 たかだか一介の学生には、情報も何も入ってはこないし、なんとなく納得できない日々を過ごしていた。
 そんな中でも、私はアイテム製造と、それのテストに励んでいた。
「よし、魔法反射の盾と、コントロールダガーは、コレで使えるな。コントロールシールドとの併用は難しいが、このブローチの助力があれば、最高で十二までいける」
 今までなら、歌琥にだけ手伝ってもらっていたが、私はリーダーになった事を機に、全ての部隊メンバーに多くを話して、みんなに手伝ってもらっていた。
 リーダーとして作戦を立てるには、全てのメンバーの能力をしっかり把握しなければならない。
 だけど、自分の能力は話さないで、みんなの能力だけ聞くのも道理に反する。
 それに、みんなに知っておいてもらった方が、よりみんなの意見を聞けるからね。
 当然、それぞれの能力に関しては他言無用だし、話す事は強制ではない。
「それにしても、あの時の魔法反射の盾を、こんな形で使うとはね」
 歌琥の言う通り、前に罵蝶が真っ二つにした魔法反射の盾を、私は持ち帰っていた。
 任務中に手に入れたアイテムは、一応学園長へと提出しなければならないが、壊れているものに関してはその限りではない。
 まあ私の場合、先日の任務で手に入れた、今胸につけてあるこのブローチのように、欲しいものはそう言って貰うのだけれどね。
 ちなみに今は、ブローチからの魔力の糸は、もう出てはいない。
 別の用途に、私の意思で操作できるように改造していた。
「では次は、コレをためそう」
 そう言って私は皆に、異世界で言う「携帯電話」のような物を渡した。
 近くでの実験では、通話も呼び出しも既に上手くいっている。
 これはお互いの携帯電話より、超微量の魔力を発信し続けて会話を可能とするものだが、どちらかと言えば、トランシーバーみたいなものかもしれない。
 基地局は存在せず、それぞれの携帯電話を経由させる。
 操作キーも、〇から九までの数字と、送信ボタンと可否ボタンしかない。
 みんなが遠くまで離れた事を確認すると、私は試しに話してみた。
「聞こえるか?」
「すごい!聞こえるよ!」
 砂浜の向こう、既に見えなくなるところまで罵蝶は離れていたが、どうやら会話できるようだ。
「では、私の携帯電話の魔宝石を取り外してみるから、罵蝶と歌琥が話せるか試してみてくれ」
 そう言って私は、携帯電話に取りつけてある、魔宝石を取り外した。
 魔宝石とは、永久に魔力を放出する事ができる宝石である。
 強い魔力を持ったものは、超高値で取引される貴重なものだが、私が使っているのは、一番安いやつだ。
 それでも、携帯電話を動かすには、十分な魔力を得る事ができた。
 しばらくして、再び魔宝石を携帯電話にはめ込んだ。
「どうだ?喋れたか?」
「喋れたぞ。これはいい。先週のような事があっても、お互い連絡がとれるし、連携もできる」
 歌琥の言う通り、先週のあの任務の時にこれがあれば、違った結果になったかもしれない。
 でもこれが完成したのは、あのブローチの追跡魔法を参考にできたからだ。
 先ほどやっていた実験、盾やダガーのコントロールもそうだ。
 魔法反射の盾を更に二つに切り、四つの小さな魔法反射の盾と、通常の小さな盾を四つ、そしてダガーを四本、遠隔コントロールする魔法。
 本来、物を自由に動かすには、コントロールの魔法が存在する。
 私には、それをするには魔力が足りないし、マスターするにも時間がかかるだろう。
 そこで考えたのが、動くアイテムを作り、超微量の魔力でコントロールする事。
 コントロールアイテムも、携帯電話も、どちらも魔法で電波のようなものを作り出せるようになった事で、製造可能となったアイテムと言えるだろう。
 まあ、自動で動くダガーや盾は、以前から既に完成はしていたけれどね。
 もし前回の任務で、愁癒がついてきてくれなければ、その盾を使用するつもりだった。
「ふぅ~凄いよ。まさか凰印が、これほどのブラックスミスだとは知らなかったよ」
 ようやく香那が戻ってきた。
 なんだか私をブラックスミスと言ったように聞こえたが、そんな大それたものではない。
 だけど、そこを目指すのも良いかなと思った。
 私は、みんなが戻ってきたのを確認してから伝えた。
「ではみんな、それを今後、常に携帯しておいてくれ」
「了解!」
 みんなは携帯電話をポケットにしまった。
 ちなみに、今みんなは、先日採用した戦闘服を着ていた。
 女性用が一着足りなかったので、罵蝶は男性用の学ランだが、意外に似合っていた。
「さて、後は拳銃の実験だな」
 これは、先日歌琥と一緒に実験して、一度失敗している物だ。
 だけど、今日は結構自信があった。
「よし、せっかくみんないるんだし、みんなの魔力を重ねてみるか」
 歌琥の提案は、強力な魔法の盾を作って、貫けるか試そうって事だ。
 それに今日は、香那がいる。
 絶対魔法防御に対しても、一度試しておきたいと思っていた。
「では、海の方向に、歌琥、愁癒、兎琴は魔法の盾を共同で展開してくれ。香那はその前に、絶対魔法防御、できるか?」
 絶対魔法防御は、魔法を完全に止める事のできる魔法だ。
 だから物理攻撃である拳銃なら、貫けるとは思っている。
 だけど、物理的にもかなりの抵抗があると聞いているので、一応試しておきたかった。
 ただこの魔法は、かなりの魔力を必要とするものだ。
 だから一応、香那には確認をとった。
「大丈夫だよ。でも一体何するのよ?」
「まあそれは、見てのお楽しみ」
 香那は一つ息を吐いた後、海の方向に、絶対魔法防御を展開した。
 続いてその後ろに、歌琥、愁癒、兎琴の魔法の盾が展開される。
 私は狙いをつけた。
 今回も一応、手を中心に身体強化する。
 左足を後ろに下げて、体が吹き飛ばされないように固定。
 そして私は、トリガーを引いた。
 辺りに、大きな爆発音が響いた。
 拳銃から発射された弾丸は、一瞬にして魔法の盾まで貫いていた。
「凄い・・・」
 愁癒の顔には、驚きの中にも、笑みがあった。
 他のみんなも、それぞれに驚きのコメントを発していた。
 だが、威力は申し分ないのだが、狙いはかなりずれていた。
「とは言っても、学園の鍛冶場の技術や私の能力では、精密さに欠けるからね。狙いがかなりずれている。まあ今回は、拳銃が壊れなかっただけマシだけど」
 やはり、弾丸の大きさを完全に統一できないのがいたい。
 目で見て大きさの違いは分かりにくいが、銃身や銃口を、弾丸の誤差の一番大きなところに合わせていては、誤差の一番小さい弾丸では使いものにならない。
 私は、弾薬が装填されている弾倉を取り外し、銃口から中を覗いた。
 目視で確認できるズレはない。
 さて、どうしたものか。
「凰印、少しそれを見せてくれないか?」
 そう言いながら、愁癒が手を差し出してきた。
 私は愁癒に、弾倉は外したまま拳銃を渡した。
 愁癒はそれらをじっくり見ると、その構造を理解したようだ。
「なるほど。面白いね。で、凰印は今、この拳銃とやらに命中精度を求めているのだよね?」
「ああ・・・」
「では、魔法でその辺り補助すればどうだ?」
 愁癒の考えは、私も既に考えていた。
 だが、発射のタイミングまで、魔力を敵に悟られないようにしたい。
 先ほどまでやっていた電波を飛ばす魔法程度なら、ほぼ相手に悟られる事もないが、銃身と弾丸の隙間を埋めるとなるど、それなりに魔力が必要だろう。
 撃つタイミングの一瞬に限定するにしても、魔力操作の繊細さと、一瞬に魔力を発する器用さを必要とする。
 訓練すれば私には可能だろうが、戦闘中に常にそれができるかと言えば、不安だらけだ。
「それはかなり難しいんじゃないかな?」
 私の否定に、愁癒は少し笑顔を見せてからこたえた。
「いや、凰印なら簡単だろう。魔宝石を使って、これだけ色々できるのだから」
 確かに、言われてみればそうだ。
 魔力をなるべく使わない事を考えるあまり、簡単な方法を見落としていた。
 ハンマーの動きに連動して魔力を発動し、一瞬だけ銃身内を弾丸の大きさに合わせて魔力コーティング。
 もしくは、魔力による銃身を伸ばす手もある。
 それならついでに、薬きょうの排出も連動してできるな。
「ははは。愁癒ありがとう。次のテストでは完成したものを見せられそうだ」
 愁癒は満面の笑みをうかべた。
 その笑顔に私は、なんとも言えない安らぎのようなものを感じた。
 もしかしたら私は、この愁癒を好きになりつつあるのかもしれない。
 そう思った。
 私はこの後、自分の魔力を使って、銃身内のコーティングを試した。
 見事に弾丸はまっすぐに飛んだ。
「よし、では次は・・・三日後にテストするから、またみんな手伝ってくれ」
 私は皆にそう伝えたが、次に拳銃を使うのが、テストではなく実戦になるとは、この時の私には知る由もなかった。
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最終更新日 : 2012-07-30 20:09:04

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