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ー 49 ー 双子の力

「えーと……つまり、その女の子がアンプとスピーカーみたいな役割をしてるってこと?」

「うん。そうだね。でも、同時に掃除機みたいな役割もあるね。観客のエネルギーを吸い取っちゃう」

「そっか。でも、それが何故問題になるんだろう。
 もともと、歌手と観客の間にある感動って、そういうことじゃないのかな。歌に感動する観客、観客の盛り上がりを喜ぶ歌手。
 修行でよくやるエネルギーの循環と似てるんじゃ?」

修行では、心を開いて植物からエネルギーを受け取り、感謝の念を以て植物にエネルギーを返す。
すると、その植物はより一層、美しく優しいエネルギーを放出する。
またそれを吸収し、還す。
これを繰り返すことで、両者のエネルギーは強く大きく成長する。

さらに この修行を複数で行うと、場のエネルギーがより膨らむのだ。



「修行と違うのはね、まず、彼らがエネルギーの操作に気づいていないこと。
 そして、妹の方は聴衆からエネルギーを奪っていること。もちろん、無自覚でね。

 それから、最も恐ろしいのが‥‥想像してみてごらん。
 もし彼らが、怒りや憎しみのエネルギーを発信するようになったら、どうなるか」

「あ‥‥」

確かに、恐ろしいことになるだろう。
憎悪がとどまるところなく増幅され、まき散らされる。
しかも残念なことに、喜びや感動などプラスのエネルギーよりも、憎悪や怒りといったマイナスのエネルギーの方が遥かに伝播力が強く、速く広まるものなのだ。


「それで、マスターは早くから修行をさせるために、その子達を引き取ったんですね?」

「そう。彼らの心が、正しく育つように。愛を軸にした螺旋を登ってゆけるように」


彼らの才能は、寄り添うように生きる幼い兄妹ふたりが、自分たちを守るために生み出されたものなのかもしれない。

そう思うと隆太は、切ないような気持ちになった。
この先どうか、憎しみや怒りに塗り込められること無く 強い心を育てていけるよう、精一杯祈ろう。自分に出来る事は、それくらいだ。


いつか見せてもらった施設のパンフレット。
豊かな緑に囲まれた、小さな村のようなコミュニティー。

そこに暮らす穏やかで優しい人々の間で、子供達がゆっくりと成長していけますように。
大人達に見守られ、無邪気な笑顔でいられますように。

そしていつか、彼ら自身も。
小さな子供達を見守る 強く優しい大人になれますように・・・・





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ー 49 ー エリックと双子達


彼らの暮らすコミュニティーはゆるやかに開かれている。
外に仕事や家を持ちながら瞑想に通って来る者もあれば、内部の住居で暮らしながら外で仕事をしている者、また内部の住居で暮らし施設内の仕事をして賃金を得ている者もある。


ただ、外に仕事を持っていて施設の住居に入居するには、厳しい審査がある。

営利目的の賃貸ではないため家賃が割安なのだが、その分「金がないのでとにかく安い部屋に転がり込みたいだけ」といった人間が、度々応募してくるのだ。


よって審査の1つは、賃料を支払い続けられるかどうかの見極め。

厳しいのは、もうひとつの審査だ。
それは、マスター(もしくはその代理人に)よる面談。

刻々と変化する面接者のエネルギーの質が丸見えになってしまうのだから、マスター相手に嘘はつけないのだ。


だからといって、完璧な人間だけを住まわせているわけではない。

あからさまな悪意を持って 施設の住人に危害を加えようと目論んでいたり、また、本人にその自覚が無くても 周りを引きずり込んでしまうほど強い負のエネルギーを持つ者を断る程度だ。

(後者の場合には、外から通う修行を提案する場合もある)


そして何より、住人の瞑想や修行を邪魔したりからかったりしないこと。

修行を拒否するのは本人の自由だが、他人のそれを邪魔することだけは、ここでは絶対に許されないのだ。



外出も帰宅の時間も全くの自由で、門限などは無い。

ただ、「他人に迷惑をかけない程度で」という暗黙のルールは存在する。


住居のサイズは数種類あり、一人暮らしから大家族にまで対応出来るようになっている。

エリックが借りているのは、一人暮らし向けのコテージ数軒が隣あって建てられている家だ。
ベッドルーム1つにサービスルーム、ユニットバスに簡易キッチン。そしてリビングルーム。
リビングルームの掃き出し窓から、共用の小さな中庭に出られる。

簡素だし広いとは言えないが、きちんと手入れされており、エリックが前に住んでいた部屋よりはよっぽど上等なのだそうだ。


新たに加わった子供達は、エリック住むのコテージに隣接する 空き部屋に入ったということだ。



「なるほど。お隣さんですか」

「そうだね、それと、教育係かな。親のいない子供達だからね」

「え?!あのエリックが?」

(有希子なら、「あの仏頂面で愛想無しで横柄で威張り屋のエリックが?」とでも言ったことだろう)


「……難しい子たちみたいだし、それはちょっと無理なんじゃ……」


あら、とホアが断言する。
「彼なら大丈夫よ。いい教育係になるわ」

「…それとも、いい生徒かな?」


なんと、エリックは手話を学び始めたのだそうだ。

声の出ない少女のために。
そして、双子の神秘のシンクロニシティによって彼女の感情を読み取り、ずっと彼女の気持ちを代弁をして来たという少年のために。



「エリックは、話が出来ない辛さを知ってるからね」

カイの言葉は、隆太にもよく理解出来た。

エリックは、手に入れた風の力のことを誰にも話さなかった、と言っていた。

でも、それは。

…話さなかったのではなく、話せる相手がいなかったのではないだろうか。
もしくは、話すべき相手がいたとしても、それに気づかなかったのだ。

何故なら、「自分の話をちゃんと聞いてくれる大人がいなかった」から。
これは彼自身が、口にした言葉だった。

かざぐるまをくれたおばあさんが その相手だったのかもしれないが、エリックは新たに手に入れた風の力に夢中になり、その機会を手放してしまった。


彼は、「話せる相手がいない」ことが、いつしか「話したくない、話す必要が無いから話さない」にすり替えられてしまうことを知っているのだ。

だから、彼は今、自分がその子供達の話の聞き役になろうとしているのかもしれない。



「だったら、エリックがその子達の守人になればいい」

隆太の言葉に、カイの表情が明るく柔らかになる。

「その子達と一緒に修行して、見守って、一緒に成長していけばいいんだ。俺みたいに」




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ー 50 ー 音使い

「それで、その子達って、どんなカンジなんですかね?」


養護施設に保護される前の彼らに関しては、マスターにもよくわからないらしい。

ふたりで手を繋ぎ街を彷徨っている所を保護され、警察を初め数カ所の施設に預けられた後に、例の養護施設で3年ほどを過ごしたのだそうだ。

家や家族のこと、自分たちの年齢など、何を聞いても「わからない」としか言わなかったらしい。

ただ唯一口にしたのが、「僕はジョー、こっちはエミリー。エミリーは喋れない。僕たち、双子なの」

彼らはとても親密で、常に行動を共にしている。
少女は声が出ないだけで、言葉はきちんと理解しており、読み書きも出来る。

だがほとんどの場合、彼女の言葉は兄である少年の口を通して語られる。
彼女はその言葉を聞き、頷くのみ。



養護施設から彼らを引き取る際にマスターが入手出来た情報は、これぐらいだった。
ただ、その施設では彼らの扱いに手を焼いていたらしいことは察せられた。

マスター他、エネルギーの流れを見ることの出来る者数人で観察したところによると、2人の間では言葉を発さなくてもなんらかの意識の交流があるようだった。

普段は、エミリーの感情や思考をジョーが自然に読み解き、必要であれば他者に説明している。
テレパシーのようなものなのだろうか。

ふたりとも感情を表に出すことは少ないが、例外は歌っているときだった。


ジョーが歌い始めると。

彼はその曲に盛り込まれている感情と、自身の歌う喜びをエネルギーとして存分に放出する。
それ自体は、珍しいことではない。
歌う事を愛し、歌う才能に恵まれた者にとって正しい姿だ。

ただ、そのエネルギーにシンクロして エミリーがエネルギーを増幅し、放射する。
さらに、周りにいる者を同調させ、聴衆のエネルギーを無理矢理引き出して奪ってしまうのだ。


「なんだか、魔法か催眠術みたいな話ですね」

「うーん。相手の気持ちに関係なく、無理矢理心酔させてしまう…という意味では、近いかもしれないね」


さらに注意深く観察した結果、ジョーが歌っている時にエミリーも一緒に歌っていることがわかった。

エミリーは時たま僅かに口を開き、その際声帯の震えが確認出来たという。

特殊な機材で録音してみたところ、人間の耳には聞こえない音域で、エミリーはたしかに歌っていた。
無意識にジョーの歌の旋律をなぞるうち、自然と身に付けたのだろう。

だが、おそらく生まれつき声が出なかったせいで(もしくは長い間声を出していなかったせいで)、自分が歌っていることに気づいていないのではないか。


……これが、マスター達の見解だった。



「まさか、歌ってる自覚の無いエミリーに『歌うな』とは言えませんしねぇ」

「そうなんだ。それはきっと、『ジョーの歌を聴くな』と言うのとほとんど同じ意味になるだろうね」

カイも、珍しく思案顔だ。



このまま永遠に、ふたりきりでひっそり暮らしていければ、問題はないのかもしれない。
しかし、現実にはそうはいかない。

せめて彼らが自活出来る年齢になり、最低限まともな収入を手に出来るようになるまで、このコミュニティー全体でケアするべきだろう。

この世界に満ちる、愛を教えながら。
他人のエネルギーを操作する必要など無いのだ、と教えながら。



「あ、じゃあ……それも、エリックとくっつけちゃいましょう!」

「え?」

「音って、たしか空気の振動ですよね?」


隆太の思いつきは、こういうことだ。

『音』は、空気の振動である。
『風』は、空気の移動である。

ならば、『風』で『音』を遠くまで運べば、より広くエネルギーを届けられるのではないか。

ジョーが歓びや優しさに満ちた歌を歌う。
エミリーがそのエネルギーにシンクロし、増幅させる。
増幅したエネルギーをさらに、エリックが風で運ぶ。

彼らの能力によって、多くの人の心が幸せを感じられるのだ。

人は心が満たされていると、他人に優しくなれる。
他人から優しさを受けた人は心が温かくなり、別の他人に親切に出来る。
幸福の連鎖だ。


また、3人が共通の目標に向かうことで団結するというメリットもある。

明確な目標を持つことで、修行の意味も明確になる。
その中でエミリーは、他人のエネルギーを強制的に同調させ奪うことと、互いにエネルギーを循環させることの違いを学べるのではないか。




「ん~………それは面白いアイディアだけど」

カイが眉間にしわを寄せて考えている。

「そう上手くいくだろうか…」

「それは、わかんないけど……だって俺、その子達に会った事無いし、施設の様子がどんなかも知らないし。エネルギーを風で運べるかどうかもわからないし」

「……」

カイは、想定出来る限りの事態を吟味しているのだろう。


「だからね、あくまでも提案ってことで!判断はマスターにしてもらえばいいわけだし!」


そう意気込む隆太に気づいて、カイは意外そうな表情を浮かべた。

「なんだかリュータ、ずいぶん積極的ですねえ」


隆太は思わず身を乗り出した。

「だって!エリックの望みもこれで叶うんですよ?『風の力の使い道』!」




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ー 51 ー 充実の日々

結局、隆太の提案は大いなる賛同を以て受け入れられた。

特に、エリックにとっては。


彼は進んで双子に話し掛け、仲良くなろうとしているらしい。

もちんエリックだけで双子の世話が出来るわけもなく、複数の大人達が協力している。


子供達は、表に出さないだけで、豊かな感情を持っていることもわかった。

修行にも興味を示し、積極的に関わろうとする大人達に、徐々に心を開こうとしているそうだ。

とりわけ、エリックの風の力と、日本に滞在した時の話は、子供達のお気に入りのようだった。
時にはむこうから話をせがみにくるのだと、エリックは自慢げにメールを寄越したものだ。

双子以外の子供達からもエリックは慕われており、「風を操る『日本通』のお兄さん」という位置づけになっているらしい。
実際には数日間日本に滞在しただけなのだが、隆太達が送った大量のおもちゃやお菓子のインパクトは絶大だったようだ。
ただ、日本のおもちゃに関しては エリック自身に知識が全く無かったため、逆に子供達から教わっているそうだ。

手話といい玩具の知識の習得といい、エリックは周囲に溶け込もうと努力をしている。
もちろん修行にも精を出しており、大人達とも良い関係を築いているようだ。

マスターから時おり送られてくるメールからは、エリックの変化が見て取れた。
添付された写真には、ほんの数ヶ月前の彼とは別人のように柔らかな表情のエリックが写っていた。


隆太も負けてはいない。
翼はさらに成長し飛行距離も延び、また、日頃から自身のコントロールドラマに気をつけるようになったせいか、職場で周囲から話し掛けられることが増えた。

以前は「プライベートなことでは話し掛けにくかった」のだそうだ。
だが最近では、さほど親しくない相手から人生相談のようなものまで持ちかけられるようになり、その度に修行の内容やコントロールドラマのことを話した。

隆太自身が変わるにつれ、徐々に隆太をとりまく環境も変化して行った。
夏が終わる頃には昇級し、リーダー職の中のトップになっていた。


もちろん、修行も順調だ。

隆太は既に、空を見上げるだけでエネルギーを取り込める。
宇宙と繋がるまでにかかる時間もずっと短くなり、簡単に繋がれるようになった。

もちろん、簡単だから、いつものことだからといって、その素晴らしさは少しも減ずることは無い。


グエン一家や有希子も同様だ。

天空人の間でも、瞑想をする人がさらに増えている。
自然のエネルギーについての知識と経験が、少しずつ少しずつ、広まっていた。


自分の周りで、あるいは遠く離れた場所で。

一緒に修行をしている仲間がいると思うだけで、なんだか楽しくなる。



隆太がある噂を耳にしたのは、そんな充実したある日のことだった。




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ー 52 ー 秘密会議


「世界滅亡の年?」

職場での昼休み、チームの女の子達が話していたのだ。
なんでも2012年は、世界が滅びる年なのだという。


「ああ、ノストラダムスとかなんとか文明の予言とか、そういうやつか」

「マヤの予言ですよ!来年、人類は終末の日を迎えるらしいです」

「大原さん、短い間でしたが今までお世話になりました…」などとふざけていたので、彼女がそれを信じていないことは明白だったが、まあ、要は女性というのはそういった話題が好きなのだろう。


そのことはそれっきり忘れてしまったのだが、家に帰り遊びに来ていた有希子の顔を見たら思い出した。

「水沢さん、マヤの予言って知ってますか?」

「何よ、突然。知ってるわよ、2012年に人類が滅びるって話でしょ?」

「わたしも知ってるよ。映画になったんだよね」

…フオンまでも知っているのか。

「王さまのぶらんちで見たもん」


「それはね、人類の意識が大きく変わり進化することを予言している、という説もあるみたいだよ」

カイが両手に皿を持って現われた。

「へええ」

「進化って、どういう風に?」

「それがね……」
気を持たせるように、間を空ける。


「私達が、日頃からやってることよ」

カイの後ろから現れたホアが、せっかくのセリフを横取りした。


「ああ!せっかくカッコよく発表しようと思ったのに……」

「いいから、はやく並べちゃってね」

ホアは手にした食器をテーブルに置くと、皿を持ったまま肩を落とすカイの背中をポンと叩き、キッチンへ戻って行く。


「なに、なに?」

有希子が興味を示す。隆太も気になりはじめた。


気を取り直したカイが、テーブルに皿を並べる。

「その説というのはね、私達の修行の内容。それを、世界中のみんなが知ることになる、ってことです」

「おおおおお!それは確かに、大改革ですね!!」

隆太は思わず声をあげた。

この修行を始めた当初、自然の発するエネルギーとつながる素晴らしさを皆が知ったら、どんなに素晴らしい世界になるだろう、と隆太は想像した。
修行の内容が広まることを願い、ブログを書いたりしていた。

それが、現実のものになるというのだ。


「でも、それって今に始まった話じゃないじゃない?修行の内容は昔からあったし、今じゃ本やネットでもさんざん取り上げられてる。なのに、なんで2012年なわけ?」


「さあ……それはわからないけど。興味を持つ人が一気に増える出来事が、何か起きるのかな?」


カイのその言葉を聞いた時、隆太には閃くものがあった。


「えっと、じゃあ……」

その閃きはアイディアの種のようなもので、自分が何を閃いたのかさえ まだわからない。

「あれ……なんか今、思いつきかけたんだけど……」

もどかしく言葉を探しながら、種の発芽を待つ。


「あ‥‥ああ‥‥えっと、その出来事、俺達で起こしちゃえる‥‥かも?」

そう言った途端、隆太の頭の中で種が芽吹き、一瞬でその計画は大木へと成長し計画の全貌が表れた。


「なに、なに?何よそれ、楽しそうじゃないのよ~♪」

有希子は早くも興味津々で、着ていた薄手の上着を脱ぎ出す始末だ。
カイもフオンも期待に満ちた目を向ける。


隆太は自分の思いつきを話し始めた。

すぐにホアも加わり、料理の冷めるのも構わず、突然の秘密会議が始まった………





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