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ー 55 ー 静かなる革命

大晦日の深夜。

海辺の風は、身を斬るように冷たかった。


先ほど姿の見えなかった隆太の友人達が、一斗缶に流木をくべて砂浜に火を焚いてくれていた。
その簡単な焚き火を3つ作り、並べてある。

彼らに礼を言いながら、皆で火にあたった。


何故わざわざこんなところに集まったのか。

それは、フオンの持つ水の力を最大限に利用するためだ。

世界中が、海で繋がっている。
海に面していない場所にも、川が流れている。

水を通してエネルギーが伝わることを、期待しているのだ。



さらにマスターは、赤道の付近に、ほぼ均等に、6箇所。
その付近に住んでいる者のうち、特に瞑想の能力の高いグループを配した。

そうすることによってどんな効果があるのか。

「『6』というのは、調和・バランス・融合、そして『水』の意味を持つ数字らしいんだ。だから…なんかカッコいいかな、と思って」

……だそうだ。
マスターは、完全に楽しんでいるらしい。




日本時間、23時50分。

瞑想が始まった。


全員が、たき火を中心に大きく円を描くように立つ。
フオンは海を背に、波打ち際に一番近い場所に陣取った。

それぞれが銘々に瞑想する。
ある者は目の前の炎を見つめ、ある者は足元の小さな草を見つめ、ある者は空を見上げ、静かに呼吸を繰り返す。
ゆっくりと、寝息の様に安らかに。

自分の親、祖父母、先祖に想いを馳せ、生命の連鎖に感謝する。
自分以外にも同様の繋がりがあることを意識する。
人間以外の、全ての生物にも。
無機物にだって、過ごして来た永い時間がある。

過去にあった全てに、今ある全ての存在に、感謝と愛を捧げる。
そして彼らの放つエネルギーを吸収し、またそれを還す。
自然のエネルギーと繋がり、循環させる。

繋がった者達から、徐々に各々のエネルギー同士を繋げ循環させる。



時を同じくして、遠く離れたカナダでも同様のことが行われた。

エリックのチームは、人口の多い街の小高い場所に配置されていた。


ジョーが歌に乗せて美しいエネルギーを放ち、エミリーはそれを増幅させる。

エリックが風の力で歌声を遠くまで運ぶ。

もちろん、コミュニティーの人たちも瞑想に参加している。



世界の様々な場所で、瞑想が始まっていた。

事前に行った予告のおかげで、瞑想に興味を持って習う者が現れたので、参加者は飛躍的に増えていた。


それぞれの場所でエネルギーの場が膨らみ、樹々や土や水と繋がり、空気とも混じり合い伝播してゆく。


限界まで膨らんだかと思われたエネルギーは、別の場所で成長するエネルギーに引き寄せられるように、さらに膨らむ。

別々の場所で膨れ上がったエネルギー同士が融合し、更に強く大きくなる。

そしてまた別の場所のエネルギーと繋がり、更に大きく……


溶け合ったエネルギーの場が、どんどん地上を覆っていった。




0時00分。


ジョーがさらに美声を張り上げ、エミリーが人間には聞くことの出来ない声を響かせる。

エリックはその波動を乗せた風を大きく回転させ、遠くまで声を運ぶ。

マスターはその傍らに足を組んで座り、片手を地面についた。


有希子は夫と手を繋ぎ空を見上げ、サラを強く想う。

隆太とグエン夫妻は、フオンへ集中してエネルギーを送り込む。


フオンはくるりと後ろを向き、波打ち際まで進むと、足元の波に両手を浸した。


そのとき。


地上に点在する 特に力の強い場所同士が、エネルギーで直接結びついた。

それは地球に這う血管の様に 一瞬にして張り巡らされ、そこからもっと弱い場とも結ばれてゆく。
さらにそれらは、まるで毛細血管の様に地球全体を覆った。


地上が網目状にエネルギーに覆い尽くされる。

膨らんだ愛のエネルギーに、地球が包み込まれる。


赤道に沿って地球を南北に二分するように、目に見えないエネルギーの六芒星が描かれたその瞬間、トランペットのような 高く澄んだ音色が、天上に長く響いた。



その音に気づき思わず空を見上げた人々は、自分の目を疑った。


全ての物が、やわらかく光り輝いていた。

周囲を見回せば、普段見慣れた家族や友人の顔。
街路樹や道端の石ころ。
窓辺に置いた花瓶の中の切り花。
タイヤが取れて倒れている自転車や、机の上の消しゴムまでも。

視界に入る全ての物が、いま存在することの喜びに溢れているように見えたのだ。



たった数秒間のことだった。


だがその現象は、気のせいで済ませてしまうには強烈すぎた。

それを体験した者にとって、一生忘れることの出来ない数秒間となった。




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ー 56 ー 夜明け


奇跡の数秒間のあと、地球を覆うエネルギーの繋がりは 溶け去るように消えた。


世界中が一瞬、静まり返った。

人々は呆然と辺りを見回し、思わず 溜め息ともつかない声を漏らした。
そしてその直後から、爆発的な大騒ぎが始まった。


いま自分が体験したことを隣人と語り合う者。
涙を流し神に祈りを捧げる者。
あらゆる手段で情報をかき集める者……


だがそれらは、全て予想されたことだった。

やがてマスターのネット予告にアクセスが殺到し、一時的に繋がり難くなったりもしたが、さらに彼は周到だった。

各国の最新の新聞に記事が載るように、既に手配してあるのだ。
この体験が無用な混乱を招かぬ様、これからも様々な方法で情報を発信していく用意がある。


あらゆる宗教に差し障りなく 皆が生きる喜びを得られる方法があることを、世界中が知る事になるだろう。

現在ある命に感謝を捧げ、太古からの命の連鎖を敬う。
他者から奪うのではなく、心を解放し、自然と そして他者と繋がることで、エネルギーを補充する。
ただそれだけで、世界は途方もなく美しいものへと変わる。

その手段として、瞑想のやり方も紹介している。
必要とする全ての人が その手段を受け取れるよう、報酬無しで発信しているのだ。




瞑想に参加したメンバーは、みな放心したように顔を見合わせた。

「……凄かったね」「うん。凄かった」「凄かった」


出てくるのは、せいぜいそんな言葉くらいだ。
だが、皆一様に瞳を輝かせ、頬はバラ色に染まっている。
その体験のあまりの素晴らしさに胸が一杯で、言葉など必要なかった。


そのうち誰かが笑い出すと、つられて別の誰かが笑い始めた。
それは徐々に広がって、結局全員が爆発的に笑い続けた。

楽しくて可笑しくて嬉しくて幸せで、満ち足りるどころか幸福ではち切れそうだ。



笑い疲れた隆太は、そのまま浜辺に寝転がり空を見上げた。

「お前らって、なんかいつも笑ってんのな」

帰国直前にエリックが言ったのを、ふと思い出す。

彼も今頃、笑っているだろうか。
充実感に満たされて、幸せを感じながら、笑っているだろうか。
カナダの空の下、信頼出来る仲間達と共に。



先ほどから少し移動した月は、今もなお静かな金色の光を放っていた。
晴れ渡った夜空には、銀色の星が瞬いている。

しばらく夜空を眺めてぼおっとしていると、沙織がやって来て横に座った。


「大原君、風邪ひいちゃうよ」

さっき隆太が巻いてやったマフラーを渡してくれる。
「コレ、ありがと。暖かかった」


「ん・・・」
隆太はマフラーを受け取ると、勢い良く立ち上がった。

「戻ろっか」
沙織に手を貸して立ち上がらせ、ふたりは店に戻った。



店に入ると、温かい飲み物が用意されていた。

みな思い思いの場所でくつろぎ、中にはテーブルに突っ伏して眠っている者も居る。


「お、フオン。眠くないのか?」

「眠くないよ、もう起きちゃった」
フオンは適当な紙の裏に落書きをして遊んでいた。

車で来た連中は帰れるはずだったが、まだ残っているらしい。
おそらく朝までここにいるつもりなのだろう。

話している者はあまりいない。
ゆったりと本を読んだり、窓の外を眺めたりしている。


カイだけがひとり、部屋の隅で忙しく電話したりパソコンに向かったりしていたが、夜明け近くなると戻って来た。

「やはりかなりの人が、奇跡体験をしたみたいだ。相当話題になってるよ」


誰からとも無く、窓の側に集まりはじめる。



「あの奇跡の体験をした後の世界は、どんな風に変わってゆくのかしらね」
有希子がぽつりと言った。


いつか隆太が夢みたように、素晴らしい世界になるだろうか。


もし何も変わらなかったとしても、今までどおりに暮らしていくだけよ。でもきっと、いい方向へ進むと思う。少しずつ、少しずつ。」
ホアが穏やかな笑顔を浮かべている。

「きっと、大丈夫。私達には、こんなに素晴らしい仲間が世界中にいるんだから」
そう言ったのは、有希子の夫だ。有希子が夫を見上げ、嬉しそうに微笑んだ。

「天国にも、サラお姉ちゃんがいるよ」

「そうだね」
隆太は夜空を眺めた。

そうだね、フオン……




徐々に外の闇が薄らいできた。星の光が弱まりはじめる。

息をひそめるように 静かに待っているものは、皆同じだ。




もうじき、夜が終わる。

2012年。

新しい時代の、最初の朝日が昇る。




ー 完 ー  







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ー 57 ー あとがき(改訂版)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この本は、某ブログで綴っていたお話をまとめた物です。
2011年2月から連載を始め、最終話の更新は2011年12月31日の深夜。

この度まとめるにあたり、大幅に加筆修正しました。

特に後編の終盤は、ページ数こそほとんど増えていませんが、様々な設定や『向こうの様子』が書き加えられています。
なので、元のブログの方をお読みになっている方にも楽しんでいただけると‥‥思いたい。



それにしてもね・・・

京急線の中での妹とのアホな会話と、私がある日みた夢が、こんな風にお話になるなんて。
しかも、電子書籍になるなんて。

イヤ、『なるなんて』とか言って、自分でそう『した』んですけどね。へへ。
それにしたって、なんだか感慨深いものがあります。

『天空橋』の設定は、妹とのアホな会話から。
「サレンダー」「サラマンダー」「猫の顔の竜」あたりは、夢から。
そう。冒頭で隆太がみた夢は、そのまま”私がみた夢”なのでした。
(ちなみに、「エリック・ウインター」は夫の知人の名前を借りてます。あんなヤなヤツじゃありませんが)

それから、修行によって周りの景色が輝いて見える‥‥という描写。
あれも私の実体験です。
高校生だった頃。もちろん修行などしていなかった。
ある日突然、その瞬間がやって来たんです。
たった一度きり、数秒間のことでした。
でも、その光景はその後何年も何年も、ずーっと心の片隅に焼き付いてました。


ひとつのお話にしてみよう、と思ったら、すぐさま出来た。
「あの経験とあの設定、そうだ!あの妄想も入れちゃえ」とニヤニヤしながら考えて、あっという間に物語になった。
いや〜、妄想というのは、日頃からしておくものですね。

が、それを文章にするのって‥‥ほんとうにほんとうに、難しいです。
でも、書くことはとても楽しい。
読み直して、「ぐあああああ!」と頭を掻きむしる事も多いけれども!!それでも楽しかった。
書き上げるのに、思ったより時間がかかってしまったけど。


そしてそして。書き終えてから、心底驚いたことがありまして‥‥‥

なんと、この物語の流れが、風水等で言われていることとピッタリ一致していたこと。

2111年までは『火』のパワーで破壊と再生をもたらす。
2012年からは『水』のパワーで調和をもたらす・・・・らしいです。

なんでも、東京タワーが建てられた時、日本には五角形(五芒星)の結界が張られ、『火』のパワーで高度経済成長を遂げた。
そして、先頃の東京スカイツリーのオープンにより五角形だった結界は六角型(六芒星)の形となり、これからは『水』のパワーで対立するものを統合し調和してゆくのだそうです。

風水のみならず、西洋占星術でも2012年から『水の時代』に入るそうですね。



私はこれらのことを全く知らずに、
『火を操るサラ』が滅し、それを乗り越えて、『水を操るフオン』達が”愛と調和”を目指す物語を創っていたのです。

ネットで拾い読みをしていたある日、上記のことを読んだ時の衝撃といったら・・・

ま、諸説ある中で、たまたまそういう記述に当たっただけかもしれない。
事の信憑性については、全くわかりません。所詮オカルト、と言われればそれまでです。
でも。自分が創ったお話に、ピッタリ嵌まる(ような気がする)オカルト話が出て来たら‥‥

‥‥そりゃ、興奮しちゃうでしょ?うひ。






霧野あみ       




 

 

 

〜ここから追記です〜

 

 

 2014年 3月 12日より、

他の作品と同様、”サレンダー”シリーズも無料でお読み頂ける様に致しました。

正確には、全ページを 試し読み 出来る様に変更しました。

 

 

 

最後になりますが。

 

拙い文章で羞恥のあまり顔から血を噴いて悶絶しそうになりながら、なんとか完結致しました拙作。

最終話までお読み頂き、本当にありがとうございました。

 

皆さまの元に、たくさんの幸せが訪れますよう、

チームサレンダーになりかわりましてお祈り申し上げます。

 

 

では。

 

 


この本の内容は以上です。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格100円(税込)
サレンダー 〜翼の守人〜 』 『 サレンダー 〜風使いと音使い〜 前編 』 を購入した方は 50円(税込)

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