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ー 52 ー 秘密会議


「世界滅亡の年?」

職場での昼休み、チームの女の子達が話していたのだ。
なんでも2012年は、世界が滅びる年なのだという。


「ああ、ノストラダムスとかなんとか文明の予言とか、そういうやつか」

「マヤの予言ですよ!来年、人類は終末の日を迎えるらしいです」

「大原さん、短い間でしたが今までお世話になりました…」などとふざけていたので、彼女がそれを信じていないことは明白だったが、まあ、要は女性というのはそういった話題が好きなのだろう。


そのことはそれっきり忘れてしまったのだが、家に帰り遊びに来ていた有希子の顔を見たら思い出した。

「水沢さん、マヤの予言って知ってますか?」

「何よ、突然。知ってるわよ、2012年に人類が滅びるって話でしょ?」

「わたしも知ってるよ。映画になったんだよね」

…フオンまでも知っているのか。

「王さまのぶらんちで見たもん」


「それはね、人類の意識が大きく変わり進化することを予言している、という説もあるみたいだよ」

カイが両手に皿を持って現われた。

「へええ」

「進化って、どういう風に?」

「それがね……」
気を持たせるように、間を空ける。


「私達が、日頃からやってることよ」

カイの後ろから現れたホアが、せっかくのセリフを横取りした。


「ああ!せっかくカッコよく発表しようと思ったのに……」

「いいから、はやく並べちゃってね」

ホアは手にした食器をテーブルに置くと、皿を持ったまま肩を落とすカイの背中をポンと叩き、キッチンへ戻って行く。


「なに、なに?」

有希子が興味を示す。隆太も気になりはじめた。


気を取り直したカイが、テーブルに皿を並べる。

「その説というのはね、私達の修行の内容。それを、世界中のみんなが知ることになる、ってことです」

「おおおおお!それは確かに、大改革ですね!!」

隆太は思わず声をあげた。

この修行を始めた当初、自然の発するエネルギーとつながる素晴らしさを皆が知ったら、どんなに素晴らしい世界になるだろう、と隆太は想像した。
修行の内容が広まることを願い、ブログを書いたりしていた。

それが、現実のものになるというのだ。


「でも、それって今に始まった話じゃないじゃない?修行の内容は昔からあったし、今じゃ本やネットでもさんざん取り上げられてる。なのに、なんで2012年なわけ?」


「さあ……それはわからないけど。興味を持つ人が一気に増える出来事が、何か起きるのかな?」


カイのその言葉を聞いた時、隆太には閃くものがあった。


「えっと、じゃあ……」

その閃きはアイディアの種のようなもので、自分が何を閃いたのかさえ まだわからない。

「あれ……なんか今、思いつきかけたんだけど……」

もどかしく言葉を探しながら、種の発芽を待つ。


「あ‥‥ああ‥‥えっと、その出来事、俺達で起こしちゃえる‥‥かも?」

そう言った途端、隆太の頭の中で種が芽吹き、一瞬でその計画は大木へと成長し計画の全貌が表れた。


「なに、なに?何よそれ、楽しそうじゃないのよ~♪」

有希子は早くも興味津々で、着ていた薄手の上着を脱ぎ出す始末だ。
カイもフオンも期待に満ちた目を向ける。


隆太は自分の思いつきを話し始めた。

すぐにホアも加わり、料理の冷めるのも構わず、突然の秘密会議が始まった………




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ー 53 ー 大作戦 決行の日

2011年12月31日。

その日、チームサレンダーとその仲間達は、海沿いの某所に集合していた。


参加メンバー全員が集まったのが22時15分。

予定していた集合時刻より少し早いが、皆静かに興奮しているため時間はあっという間に過ぎるだろう。



窓の外には、海。

真っ暗な海が広がっている。

空には三日月が煌々と照らし、星の瞬きとともに 寄せる波頭を白く浮き上がらせる。


フオンはだいぶ前から、ホアの膝の上で眠ってしまっている。

夕暮れの海を見てはしゃいでいたから、疲れたのだろう。
そうでなくても、本来眠っているべき時間帯なのだ。

フオンの他にも数名、子供がいるが、彼らもまた眠っていた。

そのため大人達は、僅かに声をひそめ、囁くように談笑していた。


窓辺には、有希子とその夫が並んで海を眺めながら何か話している。

今日初めて会ったその人は、有希子から以前聞いていた印象どおりの、優しげな男性だ。


店のカウンターには、天空橋の面々が腰掛けている。

馴染みの商店の夫婦や、ホアのママ友さん方。そしてその子供達。

隆太の隣の椅子には、最近瞑想を教えている女の子が座っていた。
エリックが来ていた頃、隆太が友人の引っ越しを手伝いにいった時に出逢った娘だ。

後日友人宅で転居祝いが催され、その時に再会して以来、たまにメールのやりとりなど続けているうちに 瞑想の話などするようになり、わりと仲良くなったのだ。

付き合う云々という間柄ではなかったが、隆太はなんとなく、イイ感じなんじゃないかと思っている。


他にも3人、友人が来ているのだが、今は姿が見えないようだ。


「そろそろだね。なんか、緊張しちゃう」

隣に座っている沙織が、エヘヘと笑う。
コーヒーの入ったステンレスのマグで、指先を温めている。

「大丈夫だよ。やることは、いつもと同じだから。でも、外は寒いから気をつけて」

沙織は、コクンと頷くと、マグに口をつけた。


「リュータ、時間だ」

今まで隆太のノートパソコンでSkypeしていた、カイが声を掛けて来た。
話していた相手は、マスター。先代のサレンダーだ。


隆太は立ち上がり、テーブルをコツコツ叩いて皆の注意を引いた。

「そろそろ時間です。あと5分で出ますから、皆さん準備して下さい」


千葉県某所。太平洋を臨む場所に建つ、喫茶店。
飲食店仲間の知り合いの店を、今日だけ貸し切りにしてもらってある。

集まっているのは、隆太たち瞑想仲間だ。
フオンの力の事も知っている、信頼出来るメンバーだ。

壮大な、あるプロジェクトを実行するために集まったのだ。




あの日突然始まった、秘密会議。

それは題して、
『2012年に訪れると言われる精神の大革命のキッカケ、俺達で作っちゃおうぜ大作戦』。


そして、その方法というのは。

「世界中に散らばる同志達で集まり、同じ時間に一斉に瞑想する」

これだけだ。


普段フオン達とやっているエネルギーの循環を、地球規模でやってみようというのだ。

エネルギーの場が強く大きくなれば、普段精神世界などに興味のない人の中にも、エネルギーの存在に気づく者が現われるかもしれない。


もちろん、リスクも考えられる。

例えば、何の予備知識も無しにいきなり宇宙と繋がってしまったとしたら。

人々はそれを神秘体験と捉え、そこにおかしな新興宗教がツケ入るかもしれない。


そこで、マスターの力を借りる。

前もってこの大規模な瞑想を予告し、エネルギーと繋がるとどんな状態になるのかを告知しておくのだ。

世界中に大きな人脈を持つマスターだから、この方法は有効だろう。

協力者を募り広く予告し、またネットにも様々な言語で拡散させておく。
後々、自分の体験を検索出来るようにだ。


仮に失敗して、何も起こらなかった場合でも……

それは単に、「私達は、集まって瞑想します」と予告したに過ぎないのだから、別に害はないだろう。



この計画をマスターに相談したところ、快く……というより、ノリノリで引き受けてくれたのだ。

ほんの数ヶ月で準備を整え、当初の目論見より格段に洗練され スケールアップした作戦が出来上がった。

桁外れの活動力と充分な経済力を持った大人の 本気の迫力というのは、凄まじいものだ。



隆太は、首にかけていたマフラーを沙織に巻いてやった。

そして先頭をきって扉を押し開け、外に踏み出した。



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ー 54 ー 畏れと興奮


あの日突然始まった、秘密会議。

それは題して、
『2012年に訪れると言われる精神の大革命のキッカケ、俺達で作っちゃおうぜ大作戦』。


そして、その方法というのは。

『世界中に散らばる同志達で集まり、同じ時間に一斉に瞑想する』

これだけだ。


要は、普段フオン達とやっているエネルギーの循環を、地球規模でやってみようというのだ。

エネルギーの場が強く大きくなれば、普段精神世界などに興味のない人の中にも、自然が発するエネルギーの存在に気づく者が現われるかもしれない。
たくさんの人がそれに気づけば、大きな話題となり一気に広まるだろう。

隆太はそれを期待した。


もちろん、リスクも考えられる。

例えば、何の予備知識も無しにいきなり宇宙と繋がってしまったとしたら。
人々はそれを神秘体験と捉え、そこにおかしな新興宗教がツケ入るかもしれない。


そこで、マスターの力を借りる。

様々なメディアで 前もってこの大規模な瞑想を予告し、エネルギーと繋がるとどんな状態になるのかを告知しておくのだ。

世界中に大きな人脈を持つマスターだから、この方法は有効だろう。

また、インターネットでも様々な言語で拡散させておく。
後々、自分の体験を検索出来るように。

これらの予告は、ネットの中で勝手に増殖し 難なく世界中に広がる筈だ。


仮に失敗して、何も起こらなかった場合でも……

それは単に、「私達は、集まって瞑想します」と予告したに過ぎないのだから、別に害はないだろう。



この計画をマスターに相談したところ、快く……というより、ノリノリで引き受けてくれたのだ。

ほんの数ヶ月で準備を整え、当初の目論見より格段に洗練され スケールアップした作戦が出来上がった。

桁外れの活動力と充分な経済力を持った大人の、本気の迫力というのは、凄まじいものだ。


 * * *


その計画が、これから実行される。

失敗の不安は無かった。

だが、計画が成功した場合に、どれだけ大きな効果が現われるのだろうかという 畏れのような感情。
同時に、大きなことを成し遂げるのだという奮い立つような興奮を、隆太は感じていた。

きっと、みんなそうなんだろう。
各々静かに上着を着け手袋を嵌め、準備している。騒ぎ立てる者は居ない。
が、浮き立つ気持ちを抑えているのがわかる。

期待と素晴らしい予感にはち切れそうで、それが却って口を噤ませるのだ。


隆太は、首にかけていたマフラーを沙織に巻いてやった。
沙織の頬は期待で上気しているが、外は寒い。

少し驚いたような沙織の表情が可愛らしくて、隆太は沙織の頭をポンと軽く叩いた。
沙織の横をすり抜け、仲間達の間を縫ってドアへ向かう。


隆太は先頭をきって扉を押し開け、外へと踏み出した。



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ー 55 ー 静かなる革命

大晦日の深夜。

海辺の風は、身を斬るように冷たかった。


先ほど姿の見えなかった隆太の友人達が、一斗缶に流木をくべて砂浜に火を焚いてくれていた。
その簡単な焚き火を3つ作り、並べてある。

彼らに礼を言いながら、皆で火にあたった。


何故わざわざこんなところに集まったのか。

それは、フオンの持つ水の力を最大限に利用するためだ。

世界中が、海で繋がっている。
海に面していない場所にも、川が流れている。

水を通してエネルギーが伝わることを、期待しているのだ。



さらにマスターは、赤道の付近に、ほぼ均等に、6箇所。
その付近に住んでいる者のうち、特に瞑想の能力の高いグループを配した。

そうすることによってどんな効果があるのか。

「『6』というのは、調和・バランス・融合、そして『水』の意味を持つ数字らしいんだ。だから…なんかカッコいいかな、と思って」

……だそうだ。
マスターは、完全に楽しんでいるらしい。




日本時間、23時50分。

瞑想が始まった。


全員が、たき火を中心に大きく円を描くように立つ。
フオンは海を背に、波打ち際に一番近い場所に陣取った。

それぞれが銘々に瞑想する。
ある者は目の前の炎を見つめ、ある者は足元の小さな草を見つめ、ある者は空を見上げ、静かに呼吸を繰り返す。
ゆっくりと、寝息の様に安らかに。

自分の親、祖父母、先祖に想いを馳せ、生命の連鎖に感謝する。
自分以外にも同様の繋がりがあることを意識する。
人間以外の、全ての生物にも。
無機物にだって、過ごして来た永い時間がある。

過去にあった全てに、今ある全ての存在に、感謝と愛を捧げる。
そして彼らの放つエネルギーを吸収し、またそれを還す。
自然のエネルギーと繋がり、循環させる。

繋がった者達から、徐々に各々のエネルギー同士を繋げ循環させる。



時を同じくして、遠く離れたカナダでも同様のことが行われた。

エリックのチームは、人口の多い街の小高い場所に配置されていた。


ジョーが歌に乗せて美しいエネルギーを放ち、エミリーはそれを増幅させる。

エリックが風の力で歌声を遠くまで運ぶ。

もちろん、コミュニティーの人たちも瞑想に参加している。



世界の様々な場所で、瞑想が始まっていた。

事前に行った予告のおかげで、瞑想に興味を持って習う者が現れたので、参加者は飛躍的に増えていた。


それぞれの場所でエネルギーの場が膨らみ、樹々や土や水と繋がり、空気とも混じり合い伝播してゆく。


限界まで膨らんだかと思われたエネルギーは、別の場所で成長するエネルギーに引き寄せられるように、さらに膨らむ。

別々の場所で膨れ上がったエネルギー同士が融合し、更に強く大きくなる。

そしてまた別の場所のエネルギーと繋がり、更に大きく……


溶け合ったエネルギーの場が、どんどん地上を覆っていった。




0時00分。


ジョーがさらに美声を張り上げ、エミリーが人間には聞くことの出来ない声を響かせる。

エリックはその波動を乗せた風を大きく回転させ、遠くまで声を運ぶ。

マスターはその傍らに足を組んで座り、片手を地面についた。


有希子は夫と手を繋ぎ空を見上げ、サラを強く想う。

隆太とグエン夫妻は、フオンへ集中してエネルギーを送り込む。


フオンはくるりと後ろを向き、波打ち際まで進むと、足元の波に両手を浸した。


そのとき。


地上に点在する 特に力の強い場所同士が、エネルギーで直接結びついた。

それは地球に這う血管の様に 一瞬にして張り巡らされ、そこからもっと弱い場とも結ばれてゆく。
さらにそれらは、まるで毛細血管の様に地球全体を覆った。


地上が網目状にエネルギーに覆い尽くされる。

膨らんだ愛のエネルギーに、地球が包み込まれる。


赤道に沿って地球を南北に二分するように、目に見えないエネルギーの六芒星が描かれたその瞬間、トランペットのような 高く澄んだ音色が、天上に長く響いた。



その音に気づき思わず空を見上げた人々は、自分の目を疑った。


全ての物が、やわらかく光り輝いていた。

周囲を見回せば、普段見慣れた家族や友人の顔。
街路樹や道端の石ころ。
窓辺に置いた花瓶の中の切り花。
タイヤが取れて倒れている自転車や、机の上の消しゴムまでも。

視界に入る全ての物が、いま存在することの喜びに溢れているように見えたのだ。



たった数秒間のことだった。


だがその現象は、気のせいで済ませてしまうには強烈すぎた。

それを体験した者にとって、一生忘れることの出来ない数秒間となった。




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ー 56 ー 夜明け


奇跡の数秒間のあと、地球を覆うエネルギーの繋がりは 溶け去るように消えた。


世界中が一瞬、静まり返った。

人々は呆然と辺りを見回し、思わず 溜め息ともつかない声を漏らした。
そしてその直後から、爆発的な大騒ぎが始まった。


いま自分が体験したことを隣人と語り合う者。
涙を流し神に祈りを捧げる者。
あらゆる手段で情報をかき集める者……


だがそれらは、全て予想されたことだった。

やがてマスターのネット予告にアクセスが殺到し、一時的に繋がり難くなったりもしたが、さらに彼は周到だった。

各国の最新の新聞に記事が載るように、既に手配してあるのだ。
この体験が無用な混乱を招かぬ様、これからも様々な方法で情報を発信していく用意がある。


あらゆる宗教に差し障りなく 皆が生きる喜びを得られる方法があることを、世界中が知る事になるだろう。

現在ある命に感謝を捧げ、太古からの命の連鎖を敬う。
他者から奪うのではなく、心を解放し、自然と そして他者と繋がることで、エネルギーを補充する。
ただそれだけで、世界は途方もなく美しいものへと変わる。

その手段として、瞑想のやり方も紹介している。
必要とする全ての人が その手段を受け取れるよう、報酬無しで発信しているのだ。




瞑想に参加したメンバーは、みな放心したように顔を見合わせた。

「……凄かったね」「うん。凄かった」「凄かった」


出てくるのは、せいぜいそんな言葉くらいだ。
だが、皆一様に瞳を輝かせ、頬はバラ色に染まっている。
その体験のあまりの素晴らしさに胸が一杯で、言葉など必要なかった。


そのうち誰かが笑い出すと、つられて別の誰かが笑い始めた。
それは徐々に広がって、結局全員が爆発的に笑い続けた。

楽しくて可笑しくて嬉しくて幸せで、満ち足りるどころか幸福ではち切れそうだ。



笑い疲れた隆太は、そのまま浜辺に寝転がり空を見上げた。

「お前らって、なんかいつも笑ってんのな」

帰国直前にエリックが言ったのを、ふと思い出す。

彼も今頃、笑っているだろうか。
充実感に満たされて、幸せを感じながら、笑っているだろうか。
カナダの空の下、信頼出来る仲間達と共に。



先ほどから少し移動した月は、今もなお静かな金色の光を放っていた。
晴れ渡った夜空には、銀色の星が瞬いている。

しばらく夜空を眺めてぼおっとしていると、沙織がやって来て横に座った。


「大原君、風邪ひいちゃうよ」

さっき隆太が巻いてやったマフラーを渡してくれる。
「コレ、ありがと。暖かかった」


「ん・・・」
隆太はマフラーを受け取ると、勢い良く立ち上がった。

「戻ろっか」
沙織に手を貸して立ち上がらせ、ふたりは店に戻った。



店に入ると、温かい飲み物が用意されていた。

みな思い思いの場所でくつろぎ、中にはテーブルに突っ伏して眠っている者も居る。


「お、フオン。眠くないのか?」

「眠くないよ、もう起きちゃった」
フオンは適当な紙の裏に落書きをして遊んでいた。

車で来た連中は帰れるはずだったが、まだ残っているらしい。
おそらく朝までここにいるつもりなのだろう。

話している者はあまりいない。
ゆったりと本を読んだり、窓の外を眺めたりしている。


カイだけがひとり、部屋の隅で忙しく電話したりパソコンに向かったりしていたが、夜明け近くなると戻って来た。

「やはりかなりの人が、奇跡体験をしたみたいだ。相当話題になってるよ」


誰からとも無く、窓の側に集まりはじめる。



「あの奇跡の体験をした後の世界は、どんな風に変わってゆくのかしらね」
有希子がぽつりと言った。


いつか隆太が夢みたように、素晴らしい世界になるだろうか。


もし何も変わらなかったとしても、今までどおりに暮らしていくだけよ。でもきっと、いい方向へ進むと思う。少しずつ、少しずつ。」
ホアが穏やかな笑顔を浮かべている。

「きっと、大丈夫。私達には、こんなに素晴らしい仲間が世界中にいるんだから」
そう言ったのは、有希子の夫だ。有希子が夫を見上げ、嬉しそうに微笑んだ。

「天国にも、サラお姉ちゃんがいるよ」

「そうだね」
隆太は夜空を眺めた。

そうだね、フオン……




徐々に外の闇が薄らいできた。星の光が弱まりはじめる。

息をひそめるように 静かに待っているものは、皆同じだ。




もうじき、夜が終わる。

2012年。

新しい時代の、最初の朝日が昇る。




ー 完 ー  








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