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真相

山本と神部の間に、永遠にも感じる沈黙が流れていた。

最初に沈黙を破ったのは神部だった。

「そういえば、彼が面白い事を言ってましたね。”お父さんを捜しているんだ”って。写真を見せてもらったら、知っている方でしたよ」

「あんた、まさか高岡の親父の事を知っているのか!?」

「えぇ。よく存じてますよ。だって私なんですから、その人を殺したのは」

「なん・・だって!?」

神部は淡々とした口調で語り始めた。

「食材としては賞味期限ぎりぎりでしたが、見世物としてはなかなかでしたよ」

「どういうことだ!」

山本は思わず、神部に詰め寄った。神部は表情1つ変えていない。

「高岡さんもね、ここに来られた時は、それはそれはお腹を空かせていらっしゃったものでね。可哀そうに想い、焼いて差し上げたんですよ。ステーキを」

「あんた・・まさか!!」

「その通りですよ!!その肉は、高岡さんのお父さんの肉!お父さんも息子に食べられて、天国でさぞかし喜んでいることでしょうね」

神部は狂ったように高笑いしている。

山本は全身から血の気が引くのを感じた。それと同時に怒りがこみ上げてくる。

「絶対にゆるさねぇ!お前だけは絶対に!!」

「おやおや。どう許さないのですか?そもそも、牛や鳥、豚は平気で殺して、食べるくせに、なぜ人間は食べちゃいけないんですか?そんなの人間のエゴでしょ。それに高岡さんも言ってましたよ。”美味しかった”って」

「まさかお前、高岡にその事を」

「言いましたよ。全部。彼、最初は信じられないような様子でしたが、とっておいた首を見せてやったら、赤ちゃんのようにビービーと泣いてましたよ。その時の彼の泣き顔といったら、傑作でしたよ。笑いを堪えるのに大変でした。その後、急に飛びかかってきたので、ついつい殺しちゃいましてね。これって正当防衛になりませんかね?ククク・・・」

神部は目を爛々と輝かせながら、語っている。

山本は怒りのあまり、殺意さえ覚えていた。

「あなたの今のその目。いいですねぇ。私と同じ、殺人鬼の目だ」

「俺が殺人鬼だと!?なにを馬鹿な・・」

「それを証拠に、あなた今”この男を殺したい”と思っているでしょ?すでに、あなたの頭の中では”この男をどうやって殺すか”という考えでいっぱいなはずです。そういう目を、今のあなたはしている」

それに対して、山本はなにも言い返せない。しかし、目線だけはしっかりと神部を捉えていた。

「あなたを今ここで捕まえて、高岡さんと同じ目に遭わせるのは簡単なことですが、あなたにはもっと面白そうな未来が待っていそうなので、今回は見逃してあげることにします。それに、あなたとはまたどこかで会える気がしますしね。ククク・・・」

意味深なことを言うと、神部はドアノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開けた。

「またのご来店をお待ち致しております」

神部は、山本に深々と頭を下げた。

未来

山本はこみ上げてくる怒りを必死に抑え、なんとか冷静になり、逃げることを選択した。

今ここで犬死しては元も子もない。そう思ったのだ。

山本は店から飛び出し、振り返ることなく、全力で逃げた。

後ろの方から、神部が追ってくる気配はない。辺りはほんのりと明るくなっていた。

道中、高岡との思い出が、山本の頭を過ぎる。

「高岡・・・ゴメンな」

誰に対してではなく、ただそっと呟いた。

しばらく走っていると、ようやく森を抜け、海辺が見えてきた。

来た時に乗ってきた船が見える。

「あれだ!!」

山本は慌てて、船に飛び乗った。カギは刺さったままになっている。

カギを回すと、すぐにエンジンがかかった。

「よし!いけるぞ!!」

山本はもちろん船を運転したことはないが、数時間かけて、なんとか高岡の地元まで戻ってくることができた。

その時にはすっかり夜は明け、朝になっていた。

「とにかく一旦帰ろう。その前に警察にも連絡しなきゃな」

山本はふらふらになりながらも、車に乗り込むと、そのまま帰路についた。

数日後、警察が無人島に行き、山本が行ったであろうレストランを見つけたのだが、すでに中はもぬけの殻で、椅子1つなかったという。

ただ、奥からは、バラバラになった人骨が多数見つかったという話を山本は後日、警察から聞かされた。

それから、数年の月日が流れた。

街頭のテレビから”グルメ特集!噂の名店”というコーナーが流れている。

そのコーナーで1軒のレストランが紹介されている。

レポーターと一緒に、レストランのオーナーが写っている。

「ここのご自慢はお肉ということですが、何か特別なお肉でも使っているんですか?」

「それは企業秘密ですよ。でも、牛でも、鳥でも、豚でもないことはたしかです。一度食べたら忘れられない味です。私も最初食べた時は衝撃を受けました」

「気になりますねぇ!もぅ!!教えてくださいよオーナー!どこで手に入れてるんですか?」

「無人島にでも行けば、手に入るかもしれませんね」

そう言うと、オーナーはニッコリと笑ってみせた。


~完~

この本の内容は以上です。


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