閉じる


試し読みできます

現代の日本人よ(16)

「日本の未来は明るいじゃろうか。
 本気でそれを考えんといかん。
 けんど高度経済成長期に目一杯働いて、やっと裕福になったとばかりに、今しか見ようとしない日本人が多すぎるぜよ。
 利己主義の蔓延じゃ。
 自由主義、民主主義・・・、歪んだ主義や思想を絶対視するから日本が腐っていきよるんじゃ。
 民意はテレビや新聞に誘導されている。
 それで今日の日本が出来上がった。
 今の日本、どこかおかしいと思わんか、変になったと思わんか。
 
 聖職者のいない学校で教育される子供達。
 利己主義をのさばらし、吹聴する大人達。
 このまま行けば、大和民族は末期を迎えるじゃろう。
 もう、その症状が出ちゅうのに、気づいちゅうのに、自己治癒力を失っちゅう。
 それが今の日本なんじゃ」


試し読みできます

― その1 ―  京に迫る将軍の行列

 天下太平の世にあった江戸の終焉は黒船来航から始まった。
 嘉永六年六月三日、蒸気機関のペリー艦隊が江戸沖に現れてから五年、大老となった井伊直弼によって西洋諸国との間で通商条約が調印され、異人が国土に足を踏み入れるようになってしまった。
 異国人による国土の穢れ、そして侵略を危惧する声が攘夷を生んだ。
 そして安政七年三月三日、江戸城桜田門外において大老・井伊直弼が開国に反対する攘夷浪士によって白昼堂々惨殺されたのである。更には坂下門外で老中・安藤信正が襲われ、京では攘夷浪人による幕吏への天誅が横行する。
 徳川幕府の独裁に明らかな翳りが見え始め、水戸・長州を中心とした反幕府勢力を中心とした諸藩の浪士浪人が尊王攘夷で結束して、京を支配した。・・・その力を背景に朝廷の発言力が増大していく。
 そんな中で文久二年、大事件が起こる。

 薩摩藩・島津久光が率兵上京し、朝廷の勅使を護衛して江戸に赴い。そして幕府に改革を迫ったのだ。外様大名が武力と天皇の意を借りて徳川幕府に迫った歴史的な出来事だった。・・・その結果、一橋慶喜が将軍後見職に、松平春嶽が政事総裁職に任命され、京都守護職には松平容保が就いた。
 しかし島津久光の暴挙はそれだけでは済まない。薩摩藩の大名行列を妨害したイギリス人四名を白昼、追い回して殺傷したのだ。・・・生麦事件である。
 その後、関東でイギリス公使館焼き討ちや西洋人斬りが横行し、イギリスは大艦隊を横浜に集結させた。その上で幕府に圧力をかけ、法外な賠償金を要求してきたのである。

 そんな状況下で将軍・徳川家茂は京へと向かっていた。そこで天皇の前に跪き、攘夷の実行、つまり異国との戦争を約束するためである。 


   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ― 東海道 ―
 文久三年二月、春爛漫の東海道を大行列が西進していた。
 征夷大将軍・徳川家茂の軍勢である。
 「京で待つ孝明天皇に攘夷の実行を約束し、公武合体を成し遂げる必要がある。・・・公武が一枚岩となって西洋と向き合わなければ、国内が更に乱れる。攘夷志士による天誅や内乱が拡大すれば、日本の国土は、その隙を狙う西洋諸国による侵略の危機に晒されるだろう。西洋の手に落ちれば、インドや清国のように植民地と化すだろう。・・・それだけは何としても防がなければならん」
 家茂は強い決意をしていた。

 しかしまだ二十歳にも満たぬ若者なのだ。これまでに江戸を離れた事も無ければ、戦の経験も皆無だった。

 そんな一人の若者の肩にに日本の命運という重荷が圧し掛かっている。
 「先に入京した将軍後見・一橋慶喜や政事総裁・松平春嶽は、攘夷派志士による天誅との攘夷派公家の朝廷支配によって追い込まれているとの報告だ。この私が自ら何とかしなければならない・・・。徳川家の筆頭であり、征夷大将軍のこの私が・・・」
 その目には強い覚悟の光が秘められていた。
 「・・・しかし、イギリスが大艦隊を集結させ、生麦事件の補償を求めて来ていると言うではないか。・・・一触即発かだな。このままではアヘン戦争の二の舞になる」
 極めて苦しい状況ばかりが並んでいる。八方塞がりだ。
 行列の足取りは鉛のように重い。
 それでも家茂は日本の命運を背負って京に向かっていた。
 
 ― 京・四条河原町 ―
 土佐藩邸。
 坂本竜馬が飛び出してきた。
 「いやー、やっと出られたぜよ」
 大きく伸びをした。謹慎処分を受け入れ、漸く脱藩の罪を赦免されたのだ。僅か数日の謹慎で許されたのも、軍艦奉行・勝海舟が山内容堂から竜馬の赦免約束を取り付け、政事総裁・松平春嶽もそれを土佐藩に申し入れるなどしていたからなのだ。

 「自由の身がやっぱりえいぜよ。大手を振って歩ける。何しろ謹慎中は、退屈で死にそうじゃったきに」
 と独り言が幾つも出てくる。
 
 「坂本!」
 背後で声がした。
 勝海舟を支える片腕の佐藤与之助、それと新宮馬之助、千葉重太郎という海軍塾の仲間である。そんな竜馬を迎えに来てくれたのだ。
 「よく我慢できましね、坂本さん」
 「まっこと、退屈で退屈で堪らんかったきにのう」

 「少しやつれました?」

 「いや、どうやら肥えたようじゃ」
 と言って竜馬が笑い、つられて皆も笑った。
 「俺は越前藩に頼み込みに行ったよ。日本海軍の宝・坂本竜馬を一日も早く海軍塾に戻せ、土佐藩に申し入れろってさ」
 重太郎は方々に無理を言って回ったようだ。
 「勝先生も、坂本竜馬は容堂公から脱藩御赦免の約束を得ていると土佐藩に圧力を掛けておりました」
 と与之助も付け加える。
 皆、それぞれに竜馬の身を案じていたのだ。
 「竜さんにもしもの事があったら困るだろう。・・・日本のため、そして江戸で心配している父上や佐那のために俺も大変なんだからさ」
 そんな重太郎の本音もある。

 「でもこれで藩からの追っ手もなくなり、晴れて海軍塾に打ち込めると言うものです」
 馬之助がそう言った。
 そして彼等は竜馬を取り囲むようにして、大坂の海軍塾へと向かうのであった。

 

 竜馬は本音を口にはしなかった。

  「藩籍が戻ったっちゅうことはよ、紐付きになったっちゅうことぜよ。

  何をするにも土佐藩の坂本、土佐藩の、藩のって・・・。

  ・・・ああ、またそんなところに戻ってしまったがよ、

  苦労して四国の山を越えて脱藩したのによ!

  全てをかなぐり捨てて、上士の目から逃れたのによ!

  ・・・なのに、また上士の下に戻された、

  天下の坂本竜馬から土佐藩の坂本権平の弟に逆戻りじゃ。

  でも、

  わしは自由が好きなんじゃ!

  ・・・けんど、勝先生がわしの身を案じて、あの容堂公に頭を下げてくれたようなもんじゃきに・・・、

  今はこれで良しとしちょくか、

  後は知らんけんどよ」


試し読みできます

奥付



竜馬外伝i-31 天皇と将軍


http://p.booklog.jp/book/53963


著者 : 中祭邦乙
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/nakamatsuri/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/53963

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/53963



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ



試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格100円(税込)

読者登録

中祭邦乙さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について