閉じる


<<最初から読む

5 / 7ページ

オーバーキル

 シファは空から東京湾に、センサーブイを投下した。
 センサーブイはシファの脚のところに投下口がある。
「この潜水艇には対潜魚雷も爆雷も使えない。使ったら破壊力が強すぎて潜水艇ごと東京湾精密航路施設を破壊してしまう」
「位置は解析できてわかっているのに」
 潜水艇はそれを知っているせいか、悠々と湾内中央に出ようとする。
 それをシファとミスフィが見下ろしている。警察のエアバイクもロボットヘリも一緒なのだが、彼らは水中目標に対する武器がなく、手出しができない。

「司令、発砲許可お願いします!」
 突然のシファの声に、ええっ、何を撃つの!? とみなが思う。
 しかし、宮山は許可のサインを送っていた。
「弾頭徹甲! 対水上効力射1発! テーッ!」
 シファが開口した空中の見えない砲口より発射した533ミリ弾の弾頭は、そのまま天空に登り、そして弾頭に仕掛けられた高性能炸薬を炸裂させた。
 爆圧で弾頭は変形し、針のような鋭い形状に自らを鍛造する。自己鍛造弾である。
 恐ろしいまでの貫通力を持つそれは、精密誘導で海面を貫き、潜水艇に突き刺さった。
「命中!」
 潜水艇は撃ちぬかれて浮力バランスを崩し、急浮上した。
 そこに海上保安庁や艦隊の警備艇が殺到し、それぞれから特殊部隊が移乗、潜水艇の乗員を逮捕した。
 そして、その沖合では艦隊の主力哨戒機・乙戦が潜航中の不審潜水艦を追跡中だった。
 おそらく潜水艇を回収するつもりだったのだろう。
 海上警備行動が発令され、何度も浮上を求められたにもかかわらず、母艦潜水艦は東京湾口の複雑な塩分濃度の差の作る音響境界面に何度も隠れようとする。

 そこでついに乙戦は対潜魚雷を投下した。潜水艦による潜水したままの領海侵犯はあきらかな敵対行為であり、撃沈する正当な理由になるのだ。
 母艦潜水艦は急回避したが、それは失敗した。
 対潜魚雷が正確に突入して炸裂し、潜水艦表面の人工筋肉を引き裂き外殻チタンをめちゃめちゃにし、内殻に穴を開けた。瞬時に海水がなだれ込み、艦内を満たし、乗員を瞬時に窒息させた。

 脱出の余裕はなかった。
 その爆発の水柱とともに、母艦潜水艦は沈没した。

守るべき価値

「いずれ母艦潜水艦もサルベージして、どの国の仕掛けだったかは解明されるだろう。
 もうサルベージ船の手配も始めている。
 しかし」
 井岡警部は口を歪めた。
「普通の気のいいお弁当屋さんを殺しておいて、なにが秘密だってんだ!」
 シファも頷いた。
「私もそう思います。本当に」

 厚木基地に乙戦が戻ってくる。東京湾口まで幾重もの対潜網にもかかわらず潜水艦の侵入を許したことで各戦闘哨戒飛行隊が大騒ぎになっているのだ。
「ああ。
 取り乱してしまったが、弁当屋の彼になんの罪がある?
 仕事と趣味の幸せを普通に求めているだけなのに、なぜ?
 不条理にもすぎる!」
 シファは頷いた。
「井岡さん、これからご遺族にこの事件のことをご報告に伺いますよね?
 私達もご一緒します」
 井岡は顔を上げた。
「一緒に御佛前に報告しましょう。
 割り切れない事件ですが、でも彼は自分を、自分に関わる人々を守ろうとした。
 その守るべきものを、私達が守らないでどうするんです?
 悔しいのは本当です。
 私も悔しいけれど、彼の守ろうとしたものは、私達も守るべきです。」
 井岡はしばらく考えて、そののち、頷いた。
「この世で守るべき価値は、職責にかかわらず、みな同じですから」

<了>

奥付



プリンセス・プラスティック/マリン・マッドネス


http://p.booklog.jp/book/53796


著者 : 米田淳一
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/yoneden/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/53796

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/53796



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ



この本の内容は以上です。


読者登録

米田淳一さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について