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ー 36 ー 風神

神社での飛行訓練は、素晴らしいひと時となった。


自ら開いたらしきエネルギーを、馴染みのある修行場所でさらに拡大する。

瞑想に入る前から、丸めた網が勝手にほぐれてゆくようにスルスルと エネルギーの場が広がり、側頭部の開放感と一体になった。

その必要がないことはわかっていたが、パーカーの背中部分を手早く取り外しながら 周囲の樹木との繋がりを試みる。

樹木を意識した途端に、隆太のエネルギーと結びつき 次々と樹々に伝播した。

急速に拡がり、高まる場のエネルギーを感じながら、隆太は飛び立った。


そのエネルギーの塊に支えられるように、また同時に隆太がそのエネルギーを引っ張り上げるように、高く高く羽ばたく。

雑木林の上をぐるぐると旋回し、高く飛んでは地上スレスレまで降下し、また 羽ばたきながら空中で静止し……しまいには、空中でぐるりととんぼ返りまでしてしまった。

その間、エネルギーの繋がりは途切れること無く、それどころか側頭部を通って全身に行き渡り、隆太の中でさらに増幅して外に放射された。

見渡す限り全ての物が美しく輝き、生命力と”存在すること”の喜びに満ち溢れていた。


これが、この世界の本来の姿。
やはり世界は、とても美しい。

誰を失ってどれだけ悲しんでいても、不満や怒りを抱え心を閉ざしていても。

個人の感情などとは無関係に、世界はこんなにも美しいのだ。



空を飛ぶ爽快感と、エネルギーと存分に繋がれた幸福感に満たされながら、隆太は柔らかに着陸した。

どれぐらいの時間、飛んでいたのだろう。
久々の飛行だったせいだろうか、背中の辺りが若干だるくなっていた。


「ほぅ・・・」
気怠げに息をついたが、疲れではなく幸福感からの溜め息だった。
徐々に平常時の状態に戻りながらも、まだ余韻は続いていた。


「リュータ~!!!」
隆太がパーカーを着終える頃、雑木林の向こうからフオンが飛び出してきた。

「飛んでるの、見えたよ!!ぐる~って回ってたね!すごいねえ!!」

フオンは瞳を輝かせ、隆太の周囲をピョンピョン跳ね回っている。


そこへ、カイとホアも駆け寄って来た。

「素晴らしいエネルギーの循環だったね!」
「遠くからでもよくわかりましたよ」

嬉しげにそう話す彼らは、駅からの帰り道で 飛んでいる隆太を見つけたらしい。

「エリックにも見せたかったねえ」
「そうね。一緒に来ていれば見られたのに……」

「え!エリックと一緒だったんですか」

フオンが隆太に白い袋を差し出した。
「これ、リュータにお土産。みんなで浅草に行ったんだよ!」

なんでも、朝の瞑想の後に有希子が電話してきて、「浅草には風の神が祀られている」と教えてくれたのだそうだ。

それでエリックの泊まっているホテルに電話して、連れ出したというのだ。


「ランチを早めに切り上げて出掛けたから、ほんの短い時間だったけどね。彼は、とても大きな仏像に興味を持っていたようだよ」

「へえ・・・」

それはきっと、雷門にある風神雷神の像のことだろう。

隆太はまだ実物を見たことが無かったが、写真などでは見た記憶があった。
その姿は巨大で恐ろしく、「神」というよりは『鬼』を思わせる表情だったように思う。

そんな恐ろしげなものが「風の神」とされていることを、彼はどう感じたのだろうか……


「あのね、エリック、こいのぼりパタパタさせてくれたんだよ。吹き飛ばさなかったよ」

一瞬思いを馳せていた隆太の袖を引っ張り、フオンが嬉しそうに報告する。

「わたしね、吹き飛ばしちゃ駄目だよ、って言ったの。そしたらいっぱいいっぱい、あっちのもこっちのもパタパタさせてくれた」

「げ!吹き飛ばす云々って、言っちゃったのか……」
(オレが言ったってバレたかな…)


一瞬焦ったが、すぐに開き直る。

(ま、いいや。言ってしまったものは取り返せないしな。素直なフオンの前で変なこと言った俺が悪いんだ)

「そうか。良かったな、フオン。コレ、お土産ありがとね」
「うん!いいよ!」

フオンの頭上に、手をかざす。
するとフオンは、ピョンピョン飛び上がりながら、隆太の手にハイタッチする。
フオンのお気に入りの遊びなのだ。


4人揃っての帰り道。

歩きながらもしばらくの間、ハイタッチは続いた。




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