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ー 33 ー コントロールドラマ

夕食を終え、グエン夫妻に挨拶して部屋に戻った隆太は、さっそくパソコンを起ち上げた。

「コントロールドラマ」について調べるためだ。

風呂に湯を溜めている間に軽く見てみようと思ったのだが、思いのほか相当数がヒットした。
想像以上に浸透している言葉なのかもしれない。



コントロールドラマとは。

「幼少期に、どうしたら家族の関心を自分に向けさせることが出来るか、最も効果的だった態度を自然と身につけ、そこから抜け出せなくなってしまうこと」…らしい。

「脅迫者」「被害者」「尋問者」「傍観者」の4タイプから成り、無意識のうちに互いに相手からエネルギーを奪い取ろうとしてしまう。

そう、親も子も、互いにエネルギーの奪い合いを続けるのだ。



例えば、「脅迫者」。
脅迫者は、攻撃的な態度で周囲を威圧し、相手を脅かして自分に注意を向けさせることで相手のエネルギーを奪い、満足する。


そして、「脅迫者」に脅された人は、多くの場合「被害者」となる。
「被害者」は、「自分はあなたのせいでこんなに酷い目に遭っています」と、相手に罪悪感を抱かせることで、自分の身を守ろうとする。
自分の身に起きた不都合な出来事を、常に周囲の誰かに責任があるように感じさせ、相手を自責に追い込む。

被害者は、力の無い子供の間は極限まで我慢を続けるが、成長して力を得ると暴力的な方法で周囲に対抗しようとすることが多い。
被害者から、脅迫者に転身するのだ。


「尋問者」。
このタイプは、相手の欠点や誤りを見つけ出し、それを批判する。
それを繰り返すうち相手は自信を失い、エネルギーを徐々に奪い取られる。
ひいては、尋問者は欠点や誤りだけでなく、自分の意に反する物事について批判しはじめ、相手は自分自身の考えより、「尋問者に批判されないように」ということを優先して行動するようになってしまう。
尋問者はそれを見て、満足を得る。

「傍観者」
例えば両親が共に「尋問者」タイプの場合、子供は「傍観者」を演じることになる。
尋問者は互いに”自分の意見”を押しつけ、子供を自分の味方に引き入れようとするのだが、子供はどちらか一方につくのを避けたがる。
それで、曖昧な態度をとったり無関心なフリをして、相手に自分を気遣わせるように仕向ける。相手に批判されるのを恐れ、自分の本心を隠し他人と距離を置くようになる。


こうしたコントロールドラマは、親から子へ繰り返し受け継がれてしまい、親子間だけでなく,
成長後の他人との付き合い方にまで影響を及ぼす………



……大雑把に言うと、こんなところだろう。

多くの場合、人はこの中のどれかに属するものらしい。


(自分は、この中のどれに属するだろう……)


自分の子供時代を振り返ってみる。


隆太には、歳の離れた姉と兄がいる。
現在はふたりとも独立して、それぞれ家庭を持っている。

姉は7つ、兄は5つ離れており、小さい頃の隆太は相当可愛がられたらしい。
ただ、それはおそらく人形かペットのような扱いだっただろう。

朧げながら、家族4人の中で隆太の争奪戦が繰り広げられていたように記憶している。


だが、隆太が成長するにつれ、年上の姉兄達は自立して隆太にあまり構わなくなった。

両親や近くに住む祖父母は、末っ子である隆太を相変わらず可愛がった。

そんな訳で、小学校の後半は ほとんどひとりっ子のように育ったのだった。



(俺の場合は………傍観者の傾向が強いかもしれない。)

昔から、他人にあれこれと口出しされたり、自分のことを色々詮索されたりするのを避ける傾向がある。
自分のことを他人に話すことも、ほとんど無かったと言っていいだろう。

友人達には、「何を考えているかわからない」とか「なかなか本心を見せない」などと言われたものだ。
結局、現在も付き合いがあるのは、程よく距離を取ってくれる人間ばかりだ。

両親、特に母親は、尋問者の特徴に当てはまる部分があるような気がする。
と言っても、「まあ、それっぽいこともあったかもな」ぐらいのレベルだが。


そして。

その「コントロールドラマ」ってやつから自由になるには、どうすればいいのか。

ネットで検索して出て来たものを読み進む。
それぞれのタイプへの対処法等も紹介されているが、大きくまとめれば
「相手を赦す」
「過去の人生を見直す」
「相手にもコントロールドラマを気付かせる」

こんなところだろうか。

言っていることはわかるが、どうにもボンヤリしてつかみ所のない話だ。


隆太はパソコン画面から目を上げ、ベッドに背を預けた。

天井を眺めながら、片手で頭をバリバリと掻きむしった。
考えが行き詰まったときの、隆太の癖だった。

(赦すっつったってなぁ……別に、家族の誰のことも怒ってねーし。現在はともかく、過去の人生なんて平凡なものだしなあ。てか俺、そもそもコントロールドラマにハマってんのか?)


殆どの人が多かれ少なかれこのドラマに陥っているらしいから、きっと自分も例外ではないのだろう。
だが、学生時代も今の職場での人間関係にも、目立ったトラブルはない。

特に困っていることも無い自分に、あるかどうかもわからないドラマから抜け出して自由になる必要があるのだろうか?


「………わかんね。」

しばらく考えを巡らせていた隆太だったが、ついに諦めて呟いた。

とりあえず、時間ももう遅い。明日も仕事だし、寝るとしよう。


立ち上がって「うーーーん…」と大きく伸びをし、バスルームへ向かう。

洗面所の歯ブラシが目に入ると、隆太はフオンの眠そうな様子を思い出し、フッと笑みをこぼした。



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ー 34 ー 心の仕草

翌朝の瞑想で隆太が受けたのは、カイからの意外な言葉だった。

「ああ…それ、どっちでもいいんです」


「……へ?!」

「リュータが特に困っていないなら、必要無いね。ただね、そういったエネルギーの奪い合いがあることを知っていることが大切です」

「……はぁ。」

「でも、リュータ。君は自分がどのタイプに入るか、考えたね?それから、ご家族のことも」

「……はい。たしかに。俺は、傍観者の要素が強いかもしれません」

そう思った理由をいくつか述べると、いつの間にか傍へ来ていたホアとフオンが頷いた。

「そうね。リュータは自分のことをほとんど話さないものね。私達、リュータのブログが無かったら、アナタのことをほとんど知らないままだったわよ?」


「そんな……俺、そこまでヒドイですか?
 なんか、すみません。別に内緒にしてた訳じゃ…」

ホアは吹き出した。
「もちろん、今のは冗談。それに、謝る必要なんて無いのよ。リュータにとって、そのスタイルは必要なことだったんだから」

「今までのリュータにとって、ね」
カイが言い継いだ。

「ほら、ブログの中にリュータのご両親が訪ねてきた時のことが書いてあったね?」
(「両親来襲」http://tsubasanomoribito.blog111.fc2.com/blog-entry-29.html


「ああ、ありましたね……」
すぐに内容を思い出すことが出来たが、胸がギュッと痛んだ。
あの記事には、サラの名前も出てくるのだ。

サラからの、最初で最後のバレンタインチョコレート……


「あの中に、ご両親から色々質問されて、リュータが何かの仕草をして、それを見てご両親が話題を変えたっていう話。あれは、とてもわかりやすい例だったね」

なんだか、微妙に話が違う気がする。
話題を無理矢理変えたのは、たしか隆太自身だった筈だ。

「ああ、あれは確か…メンドクサくなって頭掻いてたら、フオンが色々話しだして、両親がフオンの話に乗っかった感じかな」

「そうそう。そうだった。その仕草はね、リュータの心の仕草だね」

(……心の仕草?)

「自分が”メンドクサイ”と思っていること。それを言葉に出してしまうと、相手と対立してしまう。傷つけてしまうかもしれない。だから、仕草で伝えてるんだ」

「え、でも……これって、単なる癖で。えっと、考え事する時とか、面倒になった時とかに、つい……あ!」

カイは微笑みながら頷く。

「そう。つい、態度に出るんだ。なんとなく、相手にわからせるんだね。傍観者タイプの人に多いことかもしれないね。親しい相手なら、それで通じる。喧嘩にもならない」

「でも、それでは…」ホアが続きを引き取る。
「何も解決しない。相手を封じ込めただけだから。お互いに何もわかりあえないまま」


「でも……うーん………それって、悪いことなのかなぁ」
頭を掻きむしらないよう気をつけながら、隆太は言葉を選んだ。

「何から何まで、いちいち明確になるまで話し合うなんて、自分にはちょっとシンドイ気がして……」

そう言うや否や、夫妻は慌てて否定した。
「いや、いや…」
「違うの、違うの」
そして、ほんの一瞬互いに顔を見合わせた。


「今の話は、例として挙げただけ。いつもいつも話し合う必要なんて無いのよ」
「そう。必要な時に、必要なことを。少しずつ」

「出来ることを、出来るだけ。でしょ?」
フオンが口を挟み、両親を見上げた。

「そうよ。そのとおり」
こぼれ出るような笑顔を浮かべ、ホアはひざまずいてフオンを抱き締めた。
フオンはホアに髪を撫でられながら、誇らしげに微笑む。


「リュータは、自然からエネルギーを貰えることを、既に知っている。この世界が、有り余るエネルギーに満ちていることを知っている。だから、エネルギーを奪い合う必要は無いってことも。」

話しながら、カイが隆太の瞳をまっすぐに見つめる。

「人は結局、自分の体験を通して他人を理解し、対応します。
 だから、自分がどのタイプかを知って、心が偏らないように気をつける。エネルギーを奪い合わないように気をつける。必要な時が来たら、修行を思い出す。それで充分なんです」


そう言うと、フオンの頭を撫でていたホアの頭をクシャクシャとかき乱し、愛おしげな笑みを浮かべた。

「傾向と対策」
髪をくしゃくしゃにされながら したり顔でそう言ったホアに、3人は言葉を失った。


「なん…て?」

カイとフオンは(笑顔の名残を残したまま)揃って首を傾げ、隆太と言えば呆気にとられるばかりだ。


「そんな難しい言葉、いつの間に……」
思わず吹き出しながら問う隆太に、ホアは得意気に胸を張った。


「そりゃ、この辺の奥様方と話してたら、嫌でも鍛えられます。みんな初めは気を遣ってゆっくり喋ってくれるんだけど、話に夢中になると私のことなんてお構いなしなんだもの」

ウフフ、と笑いながら首を振る。

「必死で話について行こうとしてたら、上達しました」

そう言ってホアは立ち上がり、おどけてお辞儀をした。


「やれやれ」
カイは自分のおでこをピシャッと叩いて苦笑いした。

「女性がおシャベリなのは、世界共通なんだねえ」

そう言ったカイは、とても幸福そうだった。



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ー 35 ー 心が偏らないように

午後3時過ぎ。

隆太が仕事から戻ると、一家は留守にしていた。

(みんなどこへ行ったんだろう……この時間帯は、ランチ営業の後片付けを終えて休憩しているはずなのに……)


帰ったら、コントロールドラマや修行のこと、エリックのことなど話したいと思っていた隆太は、なんだか拍子抜けしてしまった。

それに内心、「今日もエリックが来てたりして……」と 淡く期待していたのだ。



(手持ち無沙汰だし、久々に飛ぶ練習でもしようかな…)


ホア特製の”飛行練習用パーカー”に着替えて階段を下り、外に出る。
(隆太のブログ「飛行アイテムゲット!」http://tsubasanomoribito.blog111.fc2.com/blog-entry-20.html

ひと気の少ない商店街の裏通りを神社へ向かって歩いていると、あの時のことを思い出した。


有希子が怒鳴り込んできた日。

色々なことを聞いて、様々なことを思い知らされ、自分の不甲斐なさを責めた。
頭の中は滅茶苦茶だった。ひどい精神状態で、まともに呼吸も出来ないほどだった。

耐え切れずに外の空気を吸いに部屋を出た隆太を心配し、こっそり後をつけてきたフオンと出くわしたのだ。

そして隆太は、幼いフオンの無垢な優しさに救われたのだった。


あれは、つい3日ほど前のことだ。
その直後、長老宅での宴会があり、明くる日にはエリックの来訪があり………

「激動の3日間だったよなあ……」

思わず、ため息と共につぶやきを漏らした。


だがそれも、自分自身の弱さが招いたこと。
閉じこもっていた2ヶ月間の反動が、一気に押し寄せたんだ…

そう思う隆太だったが、今となっては後悔などしない。
自分にとって、その2ヶ月は必要な期間だったと思えるからだ。


そしてきっと。

激動は、まだ続く。
自分にとっても、エリックにとっても。
すべては密接に絡み合い、大きなうねりとなる。



カイの言葉を思い出しながら、隆太は黙々と歩く。

「人は結局、自分の体験を通して他人を理解し、対応します。だから、自分がどのタイプかを知って、心が偏らないように気をつける。エネルギーを奪い合わないように気をつける。必要な時が来たら、修行を思い出す。それで充分なんです」


ー自分の体験を通して他人を理解し、対応するー


たしかに、その通りだと思った。
何かを考える時、何事も結局は”自分の体験・経験”というフィルターを通ることになる。
本で知識を得たり、人に教わり学んだことも、体験の1つだ。

その際に、自分の考え方の癖などを把握していれば、物事の本質や相手の真意、意図を見誤る可能性は減ってくるだろう。
カイの言う、「心が偏らないように」とはそういう意味ではないだろうか。

そしてだからこそ、カイは「自分を知るということが修行」と言ったのではないか。



そこまで考えて、隆太は足を止めた。

有希子の言葉を思い出したのだ。

「隆太はサラを見下している」
「引きこもっていられる隆太が羨ましくて、八つ当たりしてた……」

もしかして、水沢さんも。
過去に、誰かに「見下されている」と感じたことがあったのだろうか。
そんな経験があったから、隆太がサラを見下していると言ったのだろうか。

そして、隆太のことをあんな風に怒ったのは、本人も「八つ当たり」と言っていたように 無意識にエネルギーを奪って……?



「イヤ」

隆太は顔を上げ、声に出して言った。

「そんなの、どっちだっていいんだ」


ひとつ、深呼吸をする。意識して、明るい表情に切り替える。

仮に彼女が、自分の過去を隆太に投影していたとしても。
隆太のエネルギーを、(一時的にせよ)奪う結果になったのだとしても。

意図してやったことじゃない。サラを失った悲しみの中での、無意識の行動だったはずだ。

だって、あの、水沢さんだもの。


隆太は自信を持ってそう信じることが出来た。
そして、そんな風に信じることの出来る仲間がいることを、誇らしくも思う。


まだまだ修行中の身なのだ。俺も、彼女も。


心が晴れやかに、軽くなった。

(ああ…それ、どっちでもいいんです)
今朝の、肩の力の抜けた カイの表情を思い出して、少し和む。


そう。どっちでもいいことを いつまでも考え込んでも、しょうがない。

それに。
必要の無いことには とらわれず、素早く頭を切り替える。
そういう水沢さんの機転を、俺は尊敬してるんだ。
俺も、見習おう。


ふと見上げると、抜けるような青空の中に白い大きな雲がぽっかりと浮かんでいる。


(うん。よく考えることと、くよくよ悩むこととは、全く別だもんな!)


大きく息をつく。

隆太の心の底に、僅かに澱のように溜まっていたモヤモヤは、ため息と共にキレイサッパリ吹き飛んだ。


雲を眺める隆太の唇の端に、小さな笑みが浮かんだ。


そのとき。

突然 、両の側頭部がフワッと開いたような気がした。
こめかみから耳の上あたりまで、なんというか、開放感を感じたのだ。

初めての感覚だったが、直感的に”悪いこと”ではないのがわかった。


(俺いま、自分でエネルギー開いたのかもしれない!!)

そう感じた隆太は、嬉しくなって 神社までの残りの道を駆け出した。




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ー 36 ー 風神

神社での飛行訓練は、素晴らしいひと時となった。


自ら開いたらしきエネルギーを、馴染みのある修行場所でさらに拡大する。

瞑想に入る前から、丸めた網が勝手にほぐれてゆくようにスルスルと エネルギーの場が広がり、側頭部の開放感と一体になった。

その必要がないことはわかっていたが、パーカーの背中部分を手早く取り外しながら 周囲の樹木との繋がりを試みる。

樹木を意識した途端に、隆太のエネルギーと結びつき 次々と樹々に伝播した。

急速に拡がり、高まる場のエネルギーを感じながら、隆太は飛び立った。


そのエネルギーの塊に支えられるように、また同時に隆太がそのエネルギーを引っ張り上げるように、高く高く羽ばたく。

雑木林の上をぐるぐると旋回し、高く飛んでは地上スレスレまで降下し、また 羽ばたきながら空中で静止し……しまいには、空中でぐるりととんぼ返りまでしてしまった。

その間、エネルギーの繋がりは途切れること無く、それどころか側頭部を通って全身に行き渡り、隆太の中でさらに増幅して外に放射された。

見渡す限り全ての物が美しく輝き、生命力と”存在すること”の喜びに満ち溢れていた。


これが、この世界の本来の姿。
やはり世界は、とても美しい。

誰を失ってどれだけ悲しんでいても、不満や怒りを抱え心を閉ざしていても。

個人の感情などとは無関係に、世界はこんなにも美しいのだ。



空を飛ぶ爽快感と、エネルギーと存分に繋がれた幸福感に満たされながら、隆太は柔らかに着陸した。

どれぐらいの時間、飛んでいたのだろう。
久々の飛行だったせいだろうか、背中の辺りが若干だるくなっていた。


「ほぅ・・・」
気怠げに息をついたが、疲れではなく幸福感からの溜め息だった。
徐々に平常時の状態に戻りながらも、まだ余韻は続いていた。


「リュータ~!!!」
隆太がパーカーを着終える頃、雑木林の向こうからフオンが飛び出してきた。

「飛んでるの、見えたよ!!ぐる~って回ってたね!すごいねえ!!」

フオンは瞳を輝かせ、隆太の周囲をピョンピョン跳ね回っている。


そこへ、カイとホアも駆け寄って来た。

「素晴らしいエネルギーの循環だったね!」
「遠くからでもよくわかりましたよ」

嬉しげにそう話す彼らは、駅からの帰り道で 飛んでいる隆太を見つけたらしい。

「エリックにも見せたかったねえ」
「そうね。一緒に来ていれば見られたのに……」

「え!エリックと一緒だったんですか」

フオンが隆太に白い袋を差し出した。
「これ、リュータにお土産。みんなで浅草に行ったんだよ!」

なんでも、朝の瞑想の後に有希子が電話してきて、「浅草には風の神が祀られている」と教えてくれたのだそうだ。

それでエリックの泊まっているホテルに電話して、連れ出したというのだ。


「ランチを早めに切り上げて出掛けたから、ほんの短い時間だったけどね。彼は、とても大きな仏像に興味を持っていたようだよ」

「へえ・・・」

それはきっと、雷門にある風神雷神の像のことだろう。

隆太はまだ実物を見たことが無かったが、写真などでは見た記憶があった。
その姿は巨大で恐ろしく、「神」というよりは『鬼』を思わせる表情だったように思う。

そんな恐ろしげなものが「風の神」とされていることを、彼はどう感じたのだろうか……


「あのね、エリック、こいのぼりパタパタさせてくれたんだよ。吹き飛ばさなかったよ」

一瞬思いを馳せていた隆太の袖を引っ張り、フオンが嬉しそうに報告する。

「わたしね、吹き飛ばしちゃ駄目だよ、って言ったの。そしたらいっぱいいっぱい、あっちのもこっちのもパタパタさせてくれた」

「げ!吹き飛ばす云々って、言っちゃったのか……」
(オレが言ったってバレたかな…)


一瞬焦ったが、すぐに開き直る。

(ま、いいや。言ってしまったものは取り返せないしな。素直なフオンの前で変なこと言った俺が悪いんだ)

「そうか。良かったな、フオン。コレ、お土産ありがとね」
「うん!いいよ!」

フオンの頭上に、手をかざす。
するとフオンは、ピョンピョン飛び上がりながら、隆太の手にハイタッチする。
フオンのお気に入りの遊びなのだ。


4人揃っての帰り道。

歩きながらもしばらくの間、ハイタッチは続いた。




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