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ー 29 ー 風向き

「……なにアレ」

有希子が立ち上がり、「ドアぐらい閉めてけ、っつーの」とブツブツ言いながら開きっぱなしのドアを閉めて戻って来た。

「何?何なの?この展開。いっきなりベラベラ喋りだしたと思ったら急に黙って、挙げ句、さっさと帰るって…!」

「うーん……何だったんでしょうねえ……そういえば、かざぐるまのこと…初めは『お前らには関係ない』とか言ってませんでした?」

隆太は答えを求めるようにカイを見ながら、飲みかけのコーラに手を伸ばした。

有希子もビールの缶に手を伸ばしたが、それは既に空になっていたことに気付いた。
ビールの空き缶を弄びながら、カイの言葉を待つ。

そんなふたりの視線を受けて、カイはフフッと笑みを漏らした。

「あのね、さっきふたりが出て行った時にね……」

「うん、うん」ふたりして身を乗り出す。

「急にふたりが出て行ってしまったから、彼は君たちが怒って出て行ったと思ったんだ。だから私は、有希子はかざぐるまの材料を買いに、隆太は作り方を調べに行ったと説明した。そしたら…信じようとしなかったんだよ」

「え……なんで?」
「だって私たち、ちゃんとそう言って出て行ったわよね?」

「うん。彼はね、きっと…頼まれたわけでもないのに、理由すら聞かずに、君たちが自分のために動いてくれるということが理解出来なかったんだと思う」


「………」
「で、でも…たかが折り紙ですよ?」

「そうだね。たかが、折り紙だ。でも、彼にとっては大切なものだった」

「それはそうでしょうけど…」

「だから、あの告白は多分……彼なりのお礼だったんじゃないかな」

困ったものだ、と言いた気に笑う。
「とてもわかりにくいけど、彼なりのね」


(お礼……あれが、お礼ねえ………なんつーか……)

「アイツ、相当めんどくさい奴ね!!」

隆太が躊躇していた言葉を、有希子がズバリ言ってくれた。


そんな有希子を、カイが笑いながらとりなす。
尤も、有希子の表情を見れば、本気で不快に思っているわけでないことは明白だったが。

「アハハ。彼はきっと、照れ屋なんだね。『他人が無条件に、他人のために何かをする』という体験に慣れてないから、戸惑ったんじゃないかな」

「え……」

「彼がさっき話したこと、覚えていますか?きっと、なるべく他人と関わらないように今まで生きてきたのでしょう」


「うーん……まあ、風の力のこともあるし、人付き合いを避けるのはわかるけどねえ……」
有希子は腑に落ちない様子だ。

「あ、ちょっと待って。でも、おばあさんは?かざぐるまをくれたおばあさんは、子供だったエリックに無条件に色々してあげてたじゃない?」

カイは大きく頷いた。
「そう。そこなんだよ」

テーブルに肘をつき、中指と薬指でこめかみのあたりをさする。
考えながら話すときの、カイの癖だった。

「彼はたぶん、まだ気付いていないんだ。色んなことに。」

「色んなこと?」

「そう。色んなこと。うーん……」

カイはもどかしげに言葉を探す。

「えっと…例えばね。さっきの君たちみたいな行動。”チヨガミ?”を探しまわったり、かざぐるまの作り方を調べたりね、そういうのを当たり前の様にしたよね。
 それでエリックは驚いてた」

2人はうんうんと頷き、先を促す。

「でもそういうことって、今まで全く無かったわけじゃないと思うんだ」

「?」

「かざぐるまをくれたおばあさん以外にもね、直接気付かなかったとしても、小さな小さな親切や思いやりを受けていた筈なんです。周りの人や、見ず知らずの人にもね」

「ああ……」

カイの言わんとする事がわかってきた。
有希子も隣で頷いている。

「特に、子供の頃というのはね、周りの大人達に注意を払われているものなんです。誰も何も言わなかったとしてもね」

「たしかに。程度の差こそあれ、近くに子供が居たら無意識にでも気にかけるでしょうね」
そう頷きながら、隆太は先日の宴会のことを思い出していた。

自分はもう子供ではないが、近所の人たちがずっと自分を気にかけてくれていたことに気づいて、包まれるような安心感を覚えたものだった。


「そうね。たとえ見ず知らずの子供でも、多かれ少なかれ気にかけるわね」

有希子は少し視線を落とし、昔を懐かしむような優しい表情になった。

「今まで意識しなかったけど、私たちもそうやって皆に見守られながら育ったのよね……」


「ふふ。そのとおり。もちろん、私もそうだった。でも」

言葉を切って、カイはふたりを順番に覗き込む。

「さっき、ユキコは良いことを言ったよ。『今まで意識しなかったけど』って」

「え?う、うん。言ったけど、それが…?」


カイは何故か、とても嬉しそうに微笑んだ。

「君たちは、意識はしてなかったけど、心の中で実は気付いてた。と、思う」

「え?」
「え?」

隆太と有希子は一瞬目を見合わせ、カイを見返した。

「そうなの?」
「そうなの?」

またハモってしまう。

「……そうかも」
「……そうかも」


カイが盛大に吹き出した。

あまりにタイミングが合っていたので、隆太も有希子も
思わず笑ってしまった。



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ー 30 ー 繋がりと流れ

ものの数分も笑い続けただろうか。
ひとしきり笑い終えると、3人は「ハァ」とか「ヒィ」とか「フゥ」とか言いながら目尻の涙を拭い、話を再開した。


「で…何の話でしたっけ」

「えーっと、どこまで行ったんだっけ。…あ!そうそう。意識はしてなかったけど、気付いてたってとこ」

「ああ。そうそう。そうでした」


カイは小さな咳払いを1つすると、真面目な顔に戻った。口の端に、まだ笑いの名残が滲んでいたが。

「そして大人になった今は、小さな親切にもちゃんと気付いて 自然に感謝出来る」


隆太は自信を持って頷いた。
特に、修行を始めてからはそういったことに対する感受性が高まった気がする。

「そうね。知り合い同士じゃなくても、例えばさり気なくドアを押さえて待っていてくれたりとか、公共のものを、次に使う人が困らないように片付けておくとか……ああ、公共マナーって、要はそういうことなのよね」

「そうですね。小さな思いやり。そして、それに感謝すること。特に、日本はそういう心が強いみたいですね。素晴らしいことです」

なんだか日本人を代表して褒められたような気がして、隆太は誇らしくもあり、少し くすぐったくもあった。
「小さい時から刷り込まれてることだから、今まで特になんとも思わなかったんだろうけど…言われてみれば、……うん、そういうのって わりとカッコイイかも」

微笑みながらカイも頷く。

「それでね、エリックがそういうことに気付かずにいたのは……何故だと思う?」


「うーん……わかりやすく親切に接してくれる他人が少なかったから、かしら?」

「確かに、接する機会が少なかったら気付きにくいかもしれませんよね」



「そう。小さい頃からの経験の積み重ねだね。でも、もうひとつの理由。ヒントはね、私たちの修行の中にあるよ」

「えっ!?」

「エネルギーの駆け引きを思い出して。そして、彼の性格」

「性格?えーと……無礼でクチが悪くてガサツで自意識過剰で失礼で超カンジ悪いってこと?」

息継ぎ無しで並べ立てる有希子に、隆太は思わず感心しつつ 呆れてしまった。

「水沢さん……反射的によくそこまでスラスラ悪口言えますね。しかも、ちょいちょい意味が被ってますけど」

有希子が頬を膨らませ、プイと顔を背けておどけてみせる。


「フフ。…でね、彼のあの、攻撃的なところ。あれは何故だと思う?」

「んー……持って生まれた性格…って考えるには、ちょっとキツすぎる気がします。……過去に何かあったとか?」

「ああ、そういうこともあるかもしれないね。でも」
カイは言葉を切って、少し声を落とした。

「コントロールドラマ、って聞いたことがあるかな?」


「コントロールドラマ?」

少なくとも、隆太にとっては初耳だった。有希子を見やると、彼女も初めて聞いたようだ。

「えーと、日本語でなんて言うのか忘れてしまったんだけど……」



カイの説明によれば、「多くの人は、対人関係に於いて4種類の役割のどれかを無意識に演じている」らしい。

親や周囲の人間の注意をひくのに最も効果的な態度(役割)を、子供の時に身につけるというのだ。

大抵はひとつの役割を主に演じるのだが、相手や状況に合わせて複数をミックスして演じ分けている場合もあるのだという。



「人のことを勝手に分析するのは、あまり良いことじゃないけど…」

そう前置きしながらも、
「エリックはいつも、攻撃のエネルギーを発している。おそらく、自分を守るために、相手を威圧して自分を守ろうとする役割を主に演じているからでしょう。そうやって、相手のエネルギーを奪うのに必死なんだ」

カイは小さなため息をついた。

「その役割を演じている人はね、人と対する時に、まず相手を威圧し脅かそうとする。怖がっている相手を見て、自分が偉くなったように思ったり、自信を持ったりする。
 相手に感謝したり礼を言ったりすると、自分が負けたような気分になってしまうという人もいるんだ。
それから、そうやって人を威圧することで、『自分が嫌われてるんじゃない。自分が相手を嫌ってるんだ』って思い込もうとするんだね」

「でもね」
そう言うと一転、カイは見つけた宝物の隠し場所を秘密にしている子供のような表情になった。ワクワクを隠しきれないような、抑えた笑顔。

「……でもね。彼はきっと、もうすぐそこから抜け出しますよ。そして、修行によって彼の世界は大きく変わります」


「え?でも……」
「どうして?彼は修行を拒否したでしょう?」

有希子と隆太が同時に口を開いた。


「流れです。彼は今、大きな流れの途中に居る。自分では気付いていないけど、それは心の中で望んでいた変化です。彼にどんなキッカケがあったのか わからないけれど…」

そう言うと、カイは得意気に人差し指を立てる。

「前に話したでしょう?全ては繋がっている。本当の偶然なんてものは無い。いくつもの出来事が繋がって、彼はわざわざ此処までやって来たんです。遠く、日本まで」

そう言って時計を見上げたカイは、おもむろに立ち上がりテーブルの上を片付け始めた。

つられるように、有希子が片付けを手伝い始め、隆太もそれに倣う。


「かざぐるまのことは、キッカケの1つだね。彼は今、気づきかけているんです。もうじき、彼の中で色々なことが繋がり出すでしょう。そこからはどんどん変わっていくと思いますよ」

片付けを続けながら、カイが当然のことのように言う。
が、その表情は優しく嬉しげだ。まるで、自分の身に良い事が起きているかの様に。

「さ、そろそろホア達が帰ってきますよ。上へ行って、夕食の準備をしましょう」



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ー 31 ー おかえり

カイと隆太がキッチンで夕食を作り始めてすぐに、ホアとフオンが帰ってきた。

「ただいまー!」

荷物をたくさん抱えたフオンがキッチンへ駆け込んでくる。

「おかえりー、フオン」
「おかえり。いま包丁を持ってるから、危ないよ。部屋へ戻って」

「あっ、そうかー!」と呟きながら、フオンは小さな身体で抱えた土産袋を ガサガサいわせてリビングルームへ戻った。

ふたりは夕食作りを中断し、フオンの後について行く。

有希子は夫が早く帰るからと、既に帰宅した。今頃は電車の中だろう。



ダイニングテーブルの上では、ホアによって多くの荷物が解かれている最中だった。

「動物園!!動物園を見たの!!おっきいのがたくさん!!」

急いで荷物をソファに置いたフオンが、興奮状態で飛び跳ねている。

ホアはそんな我が娘の様子にクスクス笑いながら、ビニール袋から取り出した総菜のパックを並べる。
商店街の顔なじみの店のものだ。

「電車の中で静かにさせるの、大変だったわ。でも、ちゃんと我慢したのよね。エラかったよ、フオン」

「うん!みんなでね!行ったの!ルミちゃんもね、ソラくんもね、そいでゴリラがうんち投げたんだよ!あははははは!!」

フオンは興奮冷めやらず、ひとりで勝手にまくしたてては爆笑している。
目尻を下げきったカイに頭を撫でられていることにすら気付いていないらしい。

「フオンは初めての動物園だったものね。楽しかったね」

「うん!あのねパパ、ゾウはこーーーんぐらいおっきいの。テレビで見たのより、ずうっと。で、鼻がなっがーーーーーーくてユラユラするの!」

フオンは口を尖らせ目をキラキラさせながら、腕をめいっぱい広げて象の大きさを語り、様々な動物の動きや鳴き声を真似して見せた。

珍しく舌足らずな口調になっている。興奮のあまり、言葉が追いつかないのだろう。


隆太とカイは、ついにがっちりとフオンに捕まってしまった。

テーブルの上の荷解きをホアと交代し、総菜を並べたりゴミを片付けたりしながらフオンの独演会の観客となり、相づちや拍手を送る。

ホアは首を振り振り笑いながら、作りかけの食事を仕上げにキッチンへ向かった。



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ー 32 ー 見守られて

出来たてアツアツの 優しい味の野菜スープと、ホアが買ってきたいくつかの総菜が並んだテーブル。

食事中も、フオンの勢いは止まらない。

喋りながら食べては「食べるか喋るかどちらかにしなさい」と窘められ、早く喋りたくて咀嚼を疎かにしては「よく噛んで食べなさい」と叱られ。

目を瞑って猛スピードで充分に咀嚼し、飲み込むが早いかまた喋りだし……

終いには、「らい!らいお、オホッ!!ゴホゴホッ!ゴホゴホッッ!!」と咳き込む始末だった。


流石のフオンもようやく落ち着きを取り戻し、しばらくは普段どおりの食事に戻った。

…かと思うと、今度は食べながらコックリコックリと船を漕ぎ始めた。

目をシバシバさせて、箸を取り落としそうになっている。口の端からは、涎が垂れる寸前だ。


「もう……仕方ないね。今日はもうご馳走様して、寝なさい」

カイが、愛おしげに笑いながらフオンの頭を撫でた。

フオンは目をゴシゴシ擦りながら、呂律の回らない口調で言った。

「うん……寝る。ごちそうさまでした。おやすみなさい」

フオンは椅子から降り、ペコリと頭を下げると、おぼつかない足取りでリビングの扉を抜けて洗面所へ向かった。


その後ろ姿を見送りながら、隆太は笑いを噛み殺していた。

「珍しいですね。フオンがあんなにはしゃぐなんて」

「そうだねえ。…ああ、初めて雪を見た時も随分喜んでたけどね」
「フオンは元々動物が好きなの。でもうちは食べ物のお店だから、ペットを飼えないでしょう?」

夫妻もフオンの出て行った扉の方を見やりながら、箸を動かす。


「普段は随分しっかりした話し方をしてるけど、やっぱり子供なんですねえ」

カイは嬉しそうに声をあげて笑った。

「今日は余程楽しかったんだね。普段、あまり遊びに連れて行ってあげられないから。今日エリックが突然来てくれて、良かったよ」

「そうねえ。急に店をお休みにするって言うから驚いたけど、良かったわ。お友達も誘えたし」

話をしながらも、夫妻がそれとなくフオンのたてる物音に注意を向けているのが、隆太にはわかった。先ほどの有希子の言葉を思い出す。


(俺も、こんな風に見守られて育ったんだな……)


エリックは、どんな環境で育ってきたんだろう…かざぐるまのおばあさんは、どんな方だったんだろう……

そんなこともチラリと脳裏を掠めつつ、隆太は決めた。

近々、実家に顔を出そう。

仲が悪い訳ではないのだが、もう2年以上も帰っていない。
酒でも持って行って、両親と酌み交わすのも悪くないよな……




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ー 33 ー コントロールドラマ

夕食を終え、グエン夫妻に挨拶して部屋に戻った隆太は、さっそくパソコンを起ち上げた。

「コントロールドラマ」について調べるためだ。

風呂に湯を溜めている間に軽く見てみようと思ったのだが、思いのほか相当数がヒットした。
想像以上に浸透している言葉なのかもしれない。



コントロールドラマとは。

「幼少期に、どうしたら家族の関心を自分に向けさせることが出来るか、最も効果的だった態度を自然と身につけ、そこから抜け出せなくなってしまうこと」…らしい。

「脅迫者」「被害者」「尋問者」「傍観者」の4タイプから成り、無意識のうちに互いに相手からエネルギーを奪い取ろうとしてしまう。

そう、親も子も、互いにエネルギーの奪い合いを続けるのだ。



例えば、「脅迫者」。
脅迫者は、攻撃的な態度で周囲を威圧し、相手を脅かして自分に注意を向けさせることで相手のエネルギーを奪い、満足する。


そして、「脅迫者」に脅された人は、多くの場合「被害者」となる。
「被害者」は、「自分はあなたのせいでこんなに酷い目に遭っています」と、相手に罪悪感を抱かせることで、自分の身を守ろうとする。
自分の身に起きた不都合な出来事を、常に周囲の誰かに責任があるように感じさせ、相手を自責に追い込む。

被害者は、力の無い子供の間は極限まで我慢を続けるが、成長して力を得ると暴力的な方法で周囲に対抗しようとすることが多い。
被害者から、脅迫者に転身するのだ。


「尋問者」。
このタイプは、相手の欠点や誤りを見つけ出し、それを批判する。
それを繰り返すうち相手は自信を失い、エネルギーを徐々に奪い取られる。
ひいては、尋問者は欠点や誤りだけでなく、自分の意に反する物事について批判しはじめ、相手は自分自身の考えより、「尋問者に批判されないように」ということを優先して行動するようになってしまう。
尋問者はそれを見て、満足を得る。

「傍観者」
例えば両親が共に「尋問者」タイプの場合、子供は「傍観者」を演じることになる。
尋問者は互いに”自分の意見”を押しつけ、子供を自分の味方に引き入れようとするのだが、子供はどちらか一方につくのを避けたがる。
それで、曖昧な態度をとったり無関心なフリをして、相手に自分を気遣わせるように仕向ける。相手に批判されるのを恐れ、自分の本心を隠し他人と距離を置くようになる。


こうしたコントロールドラマは、親から子へ繰り返し受け継がれてしまい、親子間だけでなく,
成長後の他人との付き合い方にまで影響を及ぼす………



……大雑把に言うと、こんなところだろう。

多くの場合、人はこの中のどれかに属するものらしい。


(自分は、この中のどれに属するだろう……)


自分の子供時代を振り返ってみる。


隆太には、歳の離れた姉と兄がいる。
現在はふたりとも独立して、それぞれ家庭を持っている。

姉は7つ、兄は5つ離れており、小さい頃の隆太は相当可愛がられたらしい。
ただ、それはおそらく人形かペットのような扱いだっただろう。

朧げながら、家族4人の中で隆太の争奪戦が繰り広げられていたように記憶している。


だが、隆太が成長するにつれ、年上の姉兄達は自立して隆太にあまり構わなくなった。

両親や近くに住む祖父母は、末っ子である隆太を相変わらず可愛がった。

そんな訳で、小学校の後半は ほとんどひとりっ子のように育ったのだった。



(俺の場合は………傍観者の傾向が強いかもしれない。)

昔から、他人にあれこれと口出しされたり、自分のことを色々詮索されたりするのを避ける傾向がある。
自分のことを他人に話すことも、ほとんど無かったと言っていいだろう。

友人達には、「何を考えているかわからない」とか「なかなか本心を見せない」などと言われたものだ。
結局、現在も付き合いがあるのは、程よく距離を取ってくれる人間ばかりだ。

両親、特に母親は、尋問者の特徴に当てはまる部分があるような気がする。
と言っても、「まあ、それっぽいこともあったかもな」ぐらいのレベルだが。


そして。

その「コントロールドラマ」ってやつから自由になるには、どうすればいいのか。

ネットで検索して出て来たものを読み進む。
それぞれのタイプへの対処法等も紹介されているが、大きくまとめれば
「相手を赦す」
「過去の人生を見直す」
「相手にもコントロールドラマを気付かせる」

こんなところだろうか。

言っていることはわかるが、どうにもボンヤリしてつかみ所のない話だ。


隆太はパソコン画面から目を上げ、ベッドに背を預けた。

天井を眺めながら、片手で頭をバリバリと掻きむしった。
考えが行き詰まったときの、隆太の癖だった。

(赦すっつったってなぁ……別に、家族の誰のことも怒ってねーし。現在はともかく、過去の人生なんて平凡なものだしなあ。てか俺、そもそもコントロールドラマにハマってんのか?)


殆どの人が多かれ少なかれこのドラマに陥っているらしいから、きっと自分も例外ではないのだろう。
だが、学生時代も今の職場での人間関係にも、目立ったトラブルはない。

特に困っていることも無い自分に、あるかどうかもわからないドラマから抜け出して自由になる必要があるのだろうか?


「………わかんね。」

しばらく考えを巡らせていた隆太だったが、ついに諦めて呟いた。

とりあえず、時間ももう遅い。明日も仕事だし、寝るとしよう。


立ち上がって「うーーーん…」と大きく伸びをし、バスルームへ向かう。

洗面所の歯ブラシが目に入ると、隆太はフオンの眠そうな様子を思い出し、フッと笑みをこぼした。




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