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ー 24 ー 商店街の孤独

彼らが楽しく談笑しながら食事をしている頃、エリックは駅に向かいながら天空橋界隈を見学していた。


ごみごみした街だ。狭い通りに、小さな建物がひしめき合っている。
活気があるとも言えるのだろうが、言葉の分らない彼にとっては、ただ喧しいだけだった。

大体、この国は信用ならない。

成田空港を出てから少しの間、エリックは自分のスマートフォンに集中していた。
だが、ふと気付くと電車の窓の外は高層ビルが立ち並ぶ大都会へと変貌していた。
先ほど見た田園風景が、幻だったかのように感じられた。

まるで、騙し討ちにあったみたいだった。



庶民的な店が建ち並ぶ、夕暮れも間近なショッピングストリート。
主婦らしき女性達、連れ立って歩く子供達、様々な商店の主たち。
一見、緊張感の微塵も感じられない、生活感に溢れた人々だ。

だが、この街の住人が空を飛んで大火災をくい止めたというのだ。

知らず知らず、ひとりひとりを睨みつけるような眼差しで注視していた。
まるで、こちらの隙を突いて今にも飛び立つのではないかとでもいう様に。


俺はもう騙されない。

そして、特別なのはお前等だけじゃない。
俺の方がもっと、ずっと優れているんだ‥‥


言葉も通じない異国の地で、余計に孤独感が増した。

だがそれは、彼が他者に対して密かに優越感を感じる際に必ずついてまわる、お馴染みの感情だった。



あちこちの店先から美味しそうな匂いが漂ってくる。

彼は空腹を感じていたが、ホテルに着くまで我慢することにした。

ホテル近くのコンビ二か、ハンバーガーショップで夕食を調達しよう。
まだこの街に気を許してはいないのだ。




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ー 25 ー 受け止めない


翌朝、瞑想を終えて。

「さて、リュータ。宿題は考えてきた?」

『エリックの、リュータに対する態度の理由。何のために日本に来たのか』を考えること。それが宿題だった。


「うーん‥‥考えたんですけど、よくわかりませんでした。瞑想を習いに来たのなら、俺に会いに来たとは言わないだろうし。単に天空橋の見学なら、あんなに喧嘩腰なのも変だし」

「そうだね」

「何か、ブログに関係ない理由かもしれない」

「うんうん。なるほど」


(なるほど、って‥‥)

「あのー‥‥んで、正解は?」

そう聞かれて、カイはにっこり笑った。

「わかりません」


「‥‥っええええええ!!!!俺、けっこう真剣に考えたんですけど!!」

「あはははは!そうそう。それが目的です」

カイは屈託なく笑いながら、拍手などしている。

「昨日リュータは、エリックの態度にまともに反応してしまったでしょう?エリックのアタックを‥‥あ、エリックのアタックって、ダジャレみたいですね」

そう言って、自分でクスクス笑っている。


「えーと、エリックの攻撃的なエネルギーを受け取って、怒りのエネルギーを返していたね」

「あ‥‥」
たしかに。隆太は売られたケンカを買った格好だった。


「それで、宿題を考えている間は、エリックのことを怒っていた?」

‥‥‥言われてみれば、怒っていなかった気がする。

首を振る隆太に、カイは嬉しげに微笑んだ。

「マイナスのエネルギーを反射しあうのは、エネルギーを奪い合うこと。『どっちが勝ちか』争うことだよね。それでは相手のことを理解出来ないね。
 そんなときは、『この人の行動には、どんな理由があるのだろう』って考えるんだ」


なるほど。反発しあうだけでは、何も生まれない。

「でも‥‥結局答えはわからないんですよね?」

「そう。でも、わかろうとする気持ちが大事なんですよ。自分の良いエネルギーを開いて、差し出すんです」


ああ‥‥そうだ。俺はまた、教えを忘れて‥‥


「ハァ。俺、また螺旋やっちゃいましたね」

「フフ。でも、仕事ではちゃんと出来ているでしょう?」

「ああ、そうですね。ま、仕事は仕事ですから」

テレフォンオペレーターのアルバイトをしている隆太にとっては、理不尽な客のクレーム対応など慣れたものだ。
怒りのエネルギーを受け流す術は知っていた。

だが、昨日は真正面から受け止めてしまった。
突然の外国人の訪問やら風の力など色々あって、平常心を失っていたのかもしれない。


「よし!反省!!悪いエネルギーは、受け止めない。良いエネルギーを差し出す!」

「その通り。じゃあ、朝ごはんにしましょうか。一緒に食べるよね?」

隆太の肩をポンと叩いて、カイが歩き出す。
ホアとフオンは、既に階下へ降りて朝食の準備をしている。

「あ。そういえば!」

隆太はあることに気付いて、急いでカイに追いついた。

「エリックの行動の理由を知るのは、自分を知ることにつながるって言ってましたよね?」

「え?ああ、そうそう。でも、その話は長くなりますから、あとでね」

カイは振り向きながら笑い、腹をさする。

「ワタシ、お腹が空いちゃいました」

その途端、隆太の腹がグゥ~と音をたてた。



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ー 26 ー コーラとポテチとアメリカ人

仕事を終え、もうじき家に着くという頃。


「‥‥あれ?休み?」

グエンのレストランの看板が出ていない。

店の前に着いてみると、やはり入り口には「臨時休業」の札が掛けられていた。

珍しいな‥‥と思いながら扉を開き、「ただいまー」と声をかけながら中に入る。



「‥‥なんで、またいるんだよ」

エリックだ。昨日と同じ席に座っている。
カイは今回はエリックの向かいに座り、隆太に笑顔を向けた。

「おかえり。リュータ!」

カイの笑顔で今朝の話を思い出し、仏頂面にならないように気をつけながら片手を挙げた。
「ハイ、エリック。‥‥昨日はどうも」

エリックも軽く手を挙げた。特に笑顔も見せず。

「ユリも呼んだんだ。きっともうすぐ着くよ」

どうやら、このまま部屋に帰れる雰囲気ではないみたいだ。
とりあえず荷物だけ置いてくるから、と断り、隆太は店を出て自室に向かった。


階段を上りながら、有希子の携帯に電話する。有希子はすぐに電話に出た。

「隆太君?またアイツ来てるらしいわね。何しに来たのよ!」

隆太は今朝の瞑想後の会話をかいつまんで説明した。
とりあえず、今日は喧嘩腰はやめて話をしてみよう。おそらくカイもそれを望んでいるだろう。

「んんん‥‥オッケー、わかった。もうすぐ着くから」

電話を切ってジーンズのポケットに突っ込み、隆太はキッチンスペースの戸棚を探った。
昨日の感じから見て、おそらく店で出しているメニューは食べないだろう。
スナック菓子でも出しておいた方が無難だ。

ポテトチップやせんべい等、数種類のスナック菓子と、数本の冷えた缶コーラを抱えて部屋を出た。

さて、どんな展開になるのやら‥‥‥



有希子が来るまでの数分の間、気詰まりではあったが、隆太はなんとか間を持たせようと試みた。

お菓子の袋を開けつつ、カイを通じていくつか質問などしてみる。

「‥‥よく眠れたし、晩飯にはショボいハンバーガーを食ったよ!!なんでみんな同じことを聞くんだ?」

いかにもウンザリしたように、エリックが顔をしかめる。

だが、隆太は怒りに正面から反応せず、矛先をヒョイと躱す。

「みんな、って‥‥どれくらい?」


「‥‥お前らふたりだよ」

「ふうん」

(たったふたりに聞かれただけで、”みんな”呼ばわりかよ)
実はそんなことを思った隆太だったが、表面上はエリックの不機嫌など意に介していないかのように、コーラを開けて飲み、ポテトチップに手を伸ばす。

袋を全開にして一枚口にくわえると、袋ごとエリックの方へ向けて押しやった。
ちょうど、テーブルの真ん中ぐらいだ。

「私もいいかな?」

「もちろん」

テーブルに置いたコーラの缶をカイに手渡す。
ついでだというように、エリックにも渡した。

エリックは一瞬カイの様子をチラリと盗み見て、黙って自分もコーラを開けて飲み、ポテトチップに手を伸ばした。

隆太は内心、「おお!本場だ!!」と一瞬呑気に感動してしまった。

(さすが本物のアメリカ人。コーラやポテチが似合うなあ……)


エリックはもう一枚手に取ると、疑わしげにジロジロ眺めたり匂いを嗅いだりしている。

「アメリカのと、味が違う?」

「イヤ‥‥大体一緒だ」

ぶっきらぼうにそう答えて口に放り込むと、バリバリ噛み砕いた。
単に、味の違いを説明するのが面倒だったのかもしれない。

口の端からぽろぽろと食べカスがこぼれ落ち、ジーンズで指を拭っている様子を見ながら、隆太は再び妙な感動を覚えていた。

(おお!映画で見た事あるぞ!こういうの‥‥あれって、ホントなんだなあ)


そうこうするうちに、有希子が到着した。急いで来たのだろう。少し汗ばんでいる。

「コーラ、飲みますか?」

「アタシ、ビールがいい」
そう言ってまっすぐ冷蔵庫へ向かい、勝手にビールとグラスを持って戻ってきた。

バッグを椅子の背に置き、椅子に座るなりビールを注ぐ。

「で?今日は何しに来たわけ?」
昨日のような臨戦態勢でこそないが、挨拶も前置きも一切ナシ、単刀直入だ。

さすがのエリックも、一瞬言葉に詰まった。


自分で訊ねておきながら、有希子は返事も待たずに「いただきまーす♪」とか言いながらビールをゴクゴク飲み、「ぷはあ。美味しーい」と満足げだ。

エリックなど一顧だにせず、ポテトチップをパリパリ食べては「ああ、ポテチ久しぶりに食べたわー」などとウットリ呟いている。因みに、こちらは食べこぼしてはいない。

なんだか可笑しかったが顔には出さず、隆太は再び訊ねた。

「で?何しに来たって?」

「俺は‥‥べつに、ヒマだったから‥‥」

エリックはそう言って目を逸らし、またひとくちコーラを飲んだ。


(ヒマ、って‥‥やはり、観光に来たわけじゃなさそうだな‥‥)

そう思ったが、隆太は「ふうん」とだけ言って、それ以上追求しなかった。
まあ、用があるなら自分から切り出すだろう。

どうやら有希子もそう考えているようだ。

「あ!歌舞伎揚げもある!隆太君、これも開けていい?」
「ええ、もちろん」

グエンファミリーはスナック菓子を買わないことを知っている有希子は、カイではなく隆太に了解を求めた。


エリックはどうも落ち着かぬ様子だった。
昨日とうって変わって、我々が挑発に全く乗って来ないので調子が狂ったのかもしれない。


お互いに無関心を装いながら、相手の出方を窺っている。
そんな、そこはかとない緊張感があった。

「私、これ好きなんだ~。ああ、ビールに合うわあ」
と、いかにも幸せそうにビールを飲んでいる有希子も 実は同様であることを、隆太は承知していた。



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ー 27 ー 風使いのかざぐるま

「もし観光の予定が無いのなら、エリック、瞑想をやってみるかい?」

カイがそう助け舟を出したのは、有希子が歌舞伎揚げをひとつエリックに差し出し、彼が首を振って断ったにも拘らず 彼の目の前に3~4個まとめて置いたので、エリックが困惑の表情を浮かべた時だった。


「瞑想…?なんで俺が?」

「リュータのブログを読んでいたんでしょう?もし興味があるなら、と思ってね」


「Ha!」エリックはバカにしたように嗤った。

「俺にはそんなもの必要ない。ちっちゃな樹を眺めて感動するんだろ?そんなアホくさいことやってられっか」

あからさまにバカにした口調だったのでカイに通訳してもらったのだが、さすがに少しムッとした。隆太にとって、あれはとても神秘的で重大な体験だったのだ。


が、顔には出さなかった。

(これは、挑発だ。この言動の裏に、何かがあるんだ。‥‥たぶん)


「瞑想に興味無いんだったら、カイに観光案内でもしてもらったらいいですよ。せっかくお店も休んだんだし。浅草とか両国、六本木とか‥‥ええと‥‥この辺だったら、どこがいいですかね?」

なるべく世間話のような口調で有希子に意見を求める。

有希子も内心では怒っているのだろうが、上手く隆太の口調に合わせてくれた。

「そうねえ‥‥築地はこの時間じゃ閉まってるだろうし‥‥あ、秋葉原?」

日本の有名な観光地の名前が羅列されたことで、エリックも話の流れがわかったようだ。
カイの通訳を待たずに口を開いた。

「お、俺は‥‥観光なんかに興味は無い」

口元を手で拭うと、眉間にしわを寄せて、何事か呟く。
「俺は、探しに来たんだ。もしかしたら、と思って‥‥」

ふたりは、目線でカイに通訳を求めた。

「‥‥日本のおもちゃで、名前を忘れてしまったんだけど‥‥神秘的な響きの名前だった。キラキラした模様の付いた、丈夫な紙で出来てて‥‥」


カイが双方に目を配りながら同時通訳する。

「a pinwheel‥‥えーっと、日本ではなんていうのかな?ファン?」
そう言いながら、指をくるくる回す。


「おもちゃ?ファン‥‥」
「それって‥‥」


『かざぐるま!!』


隆太と有希子が、人差し指を立てて同時に叫んだ。


「ああ!それだ!!確かそんなカンジの名前だった!!ずっと思い出せなかったんだ!!」

エリックは少し興奮している様子だ。
今までの人を見下したような挑戦的な表情は消え、眉の辺りが開いている。

隆太はポケットから携帯電話を取り出し、かざぐるまの画像を検索した。
そのいくつかをエリックに見せてみる。


ー確かに、これだ。間違いない。
エリックはそう言うように、頷いた。

「なんで、かざぐるまなんか探してるの?」

「それは‥‥お前らに関係ないだろ」

(カイは「それはキミ達に関係のないこと」と訳してくれたが、隆太はすでに、エリックのぶっきらぼうな口調に似つかわしい言葉遣いに 脳内で変換出来るようになっていた)


「まあ、それはそうだけど。‥‥これが欲しいの?」

「これって確か、簡単に作れましたよね?」

「うん。子供の頃に作ったことがある。ねえ、”キラキラした模様の丈夫な紙”って、きっと千代紙じゃないかしら?たぶん、文房具屋とかコンビニに売ってると思うの。私、買ってくる!」

「んじゃ、俺、パソコン取ってきますね。作り方を調べてみる」

そう言い残すや否や、ふたりは足早に店を出た。

店には呆気にとられた様子のエリックと、微笑んでふたりを見送るカイが残された。



十数分後、有希子が息を切らせて戻って来た。

「あるだけ買ってきた♪」と、得意気に収穫をテーブルに並べる。
ビニールで包装された綺麗な千代紙のセットが、4種類。

「おお。結構あるんですねえ。エリック、こんなカンジの紙でいいの?」

エリックが、戸惑い気味に頷く。

ノートパソコンの画面を見ながら、部屋から持ってきた割り箸や画鋲、ハサミなどを使い、隆太は黙々と作業を進める。
興味津々のカイや、ぬるくなりつつあるビールを飲みながら覗き込む有希子に見守られること数分。

「出来ました」

完成したかざぐるまを、エリックに手渡した。

彼は黙ってそれを受け取り、曖昧な表情を浮かべたまま見つめていたが、やがて「ふうっ」と息を吹きかけた。

かざぐるまが音も無く、くるくる回る。

3人は目を合わせて微笑んだが、エリックは回転の終わったかざぐるまを じっと見つめたままだ。


もう一度、息を吹きかける。さっきよりも、少し強く。

回転が終わりそうになるとまた、息を吹きかける。
そうしてしばらく回し続けた。


鮮やかな彩りが、溶けてひとつになる。

くるくる回る かざぐるま。


それ以外に動くものの無い部屋の中、3人は黙って彼を見守っていた。




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ー 28 ー 独白

「子供の頃、近所のばあさんにこれをもらったんだ」

しばらくかざぐるまを回し続けた後、エリックはそれをそっとテーブルに置き、低い声で静かに話しはじめた。
テーブルの上のかざぐるまを、伏し目がちに見つめたまま。




うちはすごく貧乏だった。
貧しい地区だったが、その中でも特に貧乏だったんだ。

父親は俺がごく小さい時に出て行った。母親は働きづめだった。
周りの子供達は、貧乏ながらもそれなりにおもちゃなんか持っていて、中にはビデオゲームなんか持ってるヤツも居た。
でも、俺は何も持っていなかった。それが悔しくて、俺はいつも独りで居た。

ある時、家の周りをブラブラしていると、近所の顔見知りのばあさんが俺を手招きして家に上げてくれた。
うちと同じくらい小さなボロ屋だったが、きちんと整えられていて清潔だった。

ばあさんは、熱いココアと手作りのクッキーを出してくれた。
そのどちらも、俺は初めて口にするものだった。
こんなに旨いものがこの世にあるのかと思ったよ。

両方ともおかわりして、学校のことなど少し話し、その日は帰った。

翌日から、学校が終わるとばあさんの家に行き、お菓子やスープをごちそうになった。
俺はいつも腹を空かせていたし、缶詰めや出来合いじゃなく 手作りのモノを食べられるのが楽しみだった。
でもそれ以上に、話をするのが楽しかった。
俺の話を(何でもない話だったが)、ちゃんと聞いてくれる大人は初めてだった。

ばあさんはいつもニコニコしながら俺の話を聞いていたが、やがて自分のことも少しずつ話すようになった。
ばあさんは若い頃、日本から移住してきたのだと知った。

日本のことも、少し話してくれた。
その話のついでに、かざぐるまを俺にくれたんだ。

俺は嬉しかった。
自分だけのおもちゃを貰ったのは、おそらく生まれて初めてだったと思う。
家に帰っても、ずっとかざぐるまで遊んだ。息を吹きかけたり、持って走り回ったり。
眠るときも、ベッドの側のテーブルに立てて、眠くなるまで息を吹いて回してた。
かざぐるまが壊れてしまうと、ばあさんが作り直してくれた。

そうやって何ヶ月か経った頃、俺は風を操れることに気がついた。
初めは、かざぐるまの回転を少し長引かせることが出来ただけだったが、だんだん力を伸ばした。
かざぐるまがいつまでも回り続けるのが嬉しくて、俺はさらに夢中になった。

いつの間にか、普通なら息が届かないほど離れた場所にあるかざぐるまを、風を操って回す事が出来るようにもなった。

俺は夢中になった。ボロボロになって紙が破けるまで、何度も何度も作り直してもらった。
そのキラキラした紙は、その1枚しか残っていなかったんだ。

修復不可能なまでに壊れてしまうと、ばあさんは新しいものを作ってくれると言ったが、俺は断った。

他のものは欲しくなかった。
壊れてしまった かざぐるま。あれが、俺の唯一のかざぐるまだったんだ。

それに、その頃には”風を操ること”のほうに興味が向いていたのだっだ。


「そのうち、ばあさんの家からは足が遠のいて何年も会わなかった。自分の家でも色々あって、ハイスクール卒業と同時に俺は家を出た。‥‥それっきりさ」



エリックは唐突に(と、隆太には思えた。)話を結んだ。

初めこそ カイが通訳するのを待って話していたのだが、途中から独り言のような口調になり、目も虚ろになっていた。
当時の光景を思い浮かべていたのだろうか。

話し終えた後、エリックはしばらくの間放心していた。

皆も沈黙していた。静かに彼の次の言葉を待っていた。


ようやく沈黙に気付いて顔を上げたエリックは、皆が自分を見つめているので 反射的に腰を浮かせた。

一瞬、とまどい気味にモゾモゾとポケット等を探ったりしていたが、おもむろにテーブルの上の風車を掴むと「帰るよ」と呟いた。

誰とも目を合わせずにテーブルをまわり込み、店の中程で少し立ち止まる。

何か言葉を探している様子だったが、結局曖昧に首を振っただけで何も言わずに つかつかと出口へ向かうと、一度も振り返ること無く出て行った。




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