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走れカタツムリ君 ー小説のためのエスキース集1ー

  130Rをフルスロットルで抜け、次のシケインの手前でフルブレーキング。
 軽やかにハンドルを切って、最終コーナーのゼブラゾーンぎりぎりを狙ってカタツムリ君は疾走した。
 彼が走ったあとには分泌物でテカテカと光るレコードラインが美しく輝いている。
 実況席で解説していた往年のF1チャンピオン、“プロフェッサー”こと、アラン・プロストはそのコーナリングを見て、
「トレヴィアン!! アンビリーバブル!」と絶賛した。いつも冷静な彼としては信じられないぐらい興奮していた。
 そしてカタツムリ君はターボブースト圧を目一杯効かせて、ホンダV6ターボ•「マイマイ」スペシャルエンジンを全開にした。
  メインスタンド前のストレート。彼は空気を切り裂くように這いずった。
 エアロダイナミクスの粋をこらして作り上げられた螺旋状の貝殻。それは芸術的な程美しく、鈴鹿サーキットによく似合っていた。
 大歓声のメインスタンド前。
 実況席の「イチロー・江頭20:50•古館」は思いっきり叫んだ。
 「さあチェッカーだ、チェッカーだ、よぉぉぉーし、ゴォォォォール」
 ほっとしたようにカタツムリ君はアクセルを緩め、ゆっくりと1コーナーを回り、ウイニングランを行った。
 ピットに戻ると皆が出迎えた。ウサギ君、チーター君、モグラ君、ツバメ君。皆カタツムリ君がゴールするまで約一ヶ月間もの間待っていてくれたのだった。そして大歓声の中、全員が表彰台に現れた。
 競技長のオランウータン老師も大儀そうに表彰台にゆっくりと現れた。普段から無愛想な顔が、今日はさらに不機嫌そうだった。
 実は彼が何かにつけ普段からごひいきにしていたサル族の選手がリタイアしてしまったからだ。老師は苦々しそうにリザルトを発表した。
「全員優勝である」
 完走したもの全員が優勝するという競技会ルールには、競技長であるオランウータン老師と言えども逆らえなかった。何しろ、アース様が制定したルールで、その通達には特使としてマグマ大使が派遣されると言う厳重なものだったのだ。
 皆は歓声の中、全員一位のポディウムに立った。
 大会委員長からトロフィーが渡される。
ピットの連中も喜びで沸き返っている。
大騒ぎだ。そして歓喜のシャンパンファイト。
「おめでとう」
 皆が抱き合ってそれぞれの健闘を称えた。
 皆最高の笑顔だった。
  次の瞬間チーター君がウサギ君を食べた。
 カタツムリ君はツバメ君にぱくりと食べられた。モグラ君は土の中に逃げた。
 滞りなく表彰式は終了した。
 夕日がサーキットを鮮やかなオレンジ色に染めている。(了)


小説のためのエスキース集について

「小説のためのエスキース集」について         天見谷行人

 世に言う処女作、私にとっては「たったひとりのアポロ13」という作品を公開してからすでに一年が過ぎた。そろそろ第二作を書いてみようと原稿用紙に向かった。
 だがなかなか思うように書けない。しばらく頑張ってみたものの、やがて全く前に進めなくなった。なぜだろうと色々頭をひねくり回してみる。
 最初の作品「たったひとりのアポロ13」は自伝的作品だった。この際だからバラしてしまうが、この読み物、95%は実話である。私の体に刻み込まれた実体験が元ネタになっている。創作した部分はたったの5%にも満たないだろう。
 こんな調子でこの先フィクションを描いてゆけるのか、誠に心細くなった。
 このままでは、かねてより抱いていた私のささやかな夢。人気売れっ子作家になって、稼ぎまくり、若い美人秘書の腰を抱きつつ、大手出版社の美人編集者に肩を揉ませ、札束風呂に入って乱痴気騒ぎをすると言う、私の成金趣味を果たせなくなってしまうではないか。
 いかん、いかん。
 夢は諦めてはいけないのである。
 かの著名な国民的アイドルグループのキャプテンも「努力は必ず報われる」と高らかに人類の理想を掲げているではないか。
 そこで……
 私も私なりに何十年かぶりに努力とやらをしてみようと思い立った。
 まずはフィクションを作る基礎体力作りから始めるべきであろうと思われた。
 画家で言えばそれはデッサン、エスキースと呼ばれるものである。
 これから私が描こうとする一連の小品、短編小説の習作達は正にそのエスキースである。
 それゆえに、これらは作品と呼ぶにはあまりにも稚拙かもしれない、また中途半端なものばかりで、失敗作ばかりになるかもしれない。
 しかし「それでいいのだ」とバカボンのパパのように私は開き直った。
 私が狙うのは、出来うる限りの貴重な失敗体験を、このエスキースから得る事だった。
 私が私なりに悪戦苦闘している姿を、面白可笑しく見守って下さる方が一人でもいらっしゃれば、作者としてこの上ない喜びである。
 更に贅沢を言えば、その方達から自由なご感想などを頂ければ作者冥利に尽きると言える。
 いつの日か、札束風呂に入って、美人編集者に素っ裸で肩を揉ませる日々が来るのを楽しみに、私は今日も100円マックのハンバーガーを齧りつつ、この原稿を書くのである。

奥付



走れカタツムリ君


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著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


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