閉じる


30.決戦の始まり、そして……

30-1


聖との店の存続をかけた勝負を宣言してからの翌日、翼が完全復帰を果たした【Club Pegasus】は、にわかながら雰囲気を盛り返し始めていた。
しかし、以前のように満卓の様子は見られず、ちらほらと空席が目立つことも事実だった。

翼をはじめ、【Pegasus】の一同はこの状態を何とか回復しようと努めてはいたが、『謎の薬物』と『殺人』のキーワードが絡んでか、店への客足は芳しいものではなかった。


「くそっ、こっちもダメか」
ケータイを睨みながら翔悟がつぶやく。

「翔悟さん、どう?」
「難しいな、こりゃ」
翔悟と由宇は深くため息をつく。


「何とか翼くんが復帰してくれたから入ってるけど、彼のお客さんだって躊躇してる人もいるはずだしね……」
「あぁ。だが由宇よ」
「えっ?」
「何であんなことしちまったんだろうな……あいつ」
「翔悟さん」
「俺、許せねぇよ。あいつをあんな風にしちまった"Alice"ってもんがよ」
「……」


由宇の目に映る悩ましげな翔悟が思うのは、先日事件の当事者となった光星のことだった。
翔悟と光星は、【Unicornis】時代から共に切磋琢磨してきた間柄だけに、その間柄を知る由宇は何も言うことはなかった。

「翔悟さん、光星さんのことは僕も悔しいよ。でも、今はお店のことを考えようよ。一番つらいのは社長なんだし」
「あぁ、そうだな」
「それに、今日からでしょ?聖さんが出勤してくるのって」
「あぁ」

時間は午後7時を過ぎていたが、あれだけ大口を叩いていた聖が出勤してくる様子は未だなかった。
翔悟と由宇は、それにも目をやっていた。


『このまま来なければいい』

翔悟たちの頭の中では、そんな言葉すら浮かんでいた。



一方、フロアで接客している翼はというと-


「もう、心配したよ~。翼が怪我したとか聞いたからさぁ、あたしてっきり光星と同じ事件に巻き込まれたのかって……」
「あぁ、心配かけてゴメン。事件があったときにタイミング悪くなった感じで、俺は自分のドジで転んだだけだからさ!」
「それならいいけどさ……ってよくもないか。でも、ホント翼が何事もなくてよかった」
「ありがとう、千春ちゃん」
「でもさこの店、やっぱりお客さん減っちゃったんだね」
「うん……まぁ、あんだけマスコミとかもたきつけてきたしね。でも大丈夫、【Pegasus】はこれからもいつも通~り楽しいトコだから!」
「だよね!てか、あたしは【Pegasus】ってよりも、翼に会えればいいんだよね☆」


翼はとにかく女性客の不安を取り除きつつ普段通り楽しんでもらうことに……
そして自分がNo.1なんだという責任感が、他のホスト達への見本ともなるように必死で接客に努めていた。

とにかく、やるしかない-
そんな姿勢が、窮地に陥っていた【Club Pegasus】全体の調子を、少しずつではあるが元に戻そうとしていた。

しかし、そんな中一組の新規の女性客が来店することとなる。



「いらっしゃいませぇ!!」

ホストたちが元気よく迎える中、エントランスから入ってきたのは、自信満々な聖に連れられた一人の白いドレスを身に包んだ美しいホステス風の女性だった。
そこへ、佐伯が早速駆け付ける。


「いらっしゃいませお客様。当店は初めてでございますか?」

佐伯がそう言うと、その女性客はニコリとしながら答える。

「えぇ。私、彼に連れられてここに来ました」
彼女は、聖に腕を組みながらにこやかに店内を見渡す。

「へぇ~。いいお店ね。【Unicornis】より綺麗なんじゃない?」
「かな?まぁ、近々俺のものになるからな…。あ、佐伯さん……電話で話しといた席にご案内しますね」

そう言うと、聖と女性客はフロアの方へと優雅に歩いていった。



「聖の奴め、いきなり彼女を連れてきたか」
佐伯一人となったエントランスに、天馬が現れる。

「彼女?社長、聖さんがお連れになったあの人は?」
「歌舞伎町の人間でも、お水の世界じゃ知ってる人間は知ってる、六本木の大物だ」
「六本木??では彼女は」
「あぁ」

天馬は、ひと呼吸置きながら答えた。
「彼女の名前は【華月 結奈<カツキ ユウナ>】。六本木のある店で最高のカリスマホステスと呼ばれる人物だ」


天馬がそう言う中、聖は結奈とともにソファへと腰をおろす。

「おーい、そこの」
聖はおもむろに、フロアに立っている一人のホストをヘルプとして呼んだ。

「は、はい」
ホストが聖と結奈の座る前に駆け付けると、聖はパチンと指を鳴らしながら彼に言った。


「とりあえず、ゴールドな」
「えっ?」
「ゴールドだよゴールド、ドンペリの。在庫がないわけじゃないよな?それともお前、天馬からそんなことも教えてもらってないのか?」
「あ、わかりました。すぐに-」
「コールもすぐによこせ。他の指名がないホスト全部よこしてな」

聖の見下すような言葉が、少しずつ店内をどよめきに導いていった。


「い、いきなり最初からゴールドかよ……。相変わらず派手にやらかしてくれるぜ」
翔悟がその光景を見つめながらつぶやいた。
そして、聖の隣で優雅な笑みを浮かべる結奈の方に目を向ける。


『結奈……』

彼女を見つめながら心の中でつぶやく翔悟の表情は、次第に切なさを帯び始めていた。


「翔悟」
「しゃ、社長」
「見ると辛いか、彼女を」
「いえ、もう昔のことですから」

翔悟は小さい声でそう言いながら、天馬のもとから離れていった。


「翔悟……」
天馬は、いつになく小さい翔悟の背中を、ただ見守るように見つめていた。



一方-

翼は、何組も訪れた指名客のいるテーブルを回りに回っていた。


「翼よかったよぉ。何もなくて……」
梨麻は、泣きながら翼の肩へと抱き着いた。

「梨麻」
「ホントにね、心配したんだよ……。翼あの時光星さん追ってったのわかるし、あのニュース見てからもう二度と戻らないんじゃないかって思ったの」
「心配かけてゴメン。でも、俺は転んで肩を打っただけだから」
「ホントに?刺されたりしてない??」
「あぁ、転んだ"打撲"はまだ痛むけど、もうお店では支障はない程度だし、俺は全っ然大丈夫だよ!」
「よかった……ホントによかった……」

梨麻が泣きじゃくる中でも、店の中では連続したシャンパンコールが次々ととどまることなく巻き起こっていた。


「あの人、今までお店では見たことないけど、だれ?」
今の今まで泣いていた梨麻も、連続するシャンパンコールにはさすがに気にせざるを得なかった。

「あぁ、今日からこの店に入った聖って人だよ。【Unicornis】から移籍になった人でね」
「【Unicornis】って、前に一斉摘発になった、あの!?」
「あぁ、実は俺が休んでていない間にも警察がここに来たらしいんだけどね。事情聴取だけで何とか大丈夫だったらしいけど」



『ん-?』



翼はここで、一つの疑問を抱いた。



『まてよ……【Unicornis】をあんな簡単に摘発に追いやった"St.Alice"の騒動に絡んでるのに、そもそも何で今普通に営業ができて-』

その時、翼はあるコトを思い出した。



『まだ噂の段階にしろ、"St.Alice"を仕込んだアリスの使徒は、この店の中にいる……。ちょっと待て』

翼は店の中をこっそり見回した。

一見日常のように落ち着いているこの中に、『アリスの使徒』と名乗る凶悪な人物がいる……

翼は不本意ながらも、ある人物へ徐々に疑惑の目を向け始めていた。



『いや、そんなはずない……あの人が-』



「どうしたの翼?ぼーっとしちゃって」
梨麻の言葉で、翼はハッと我に返る。

「あっ、ゴメンゴメン。ちょっと頭も打っちゃったかな~なんて」
「もーう」
翼と梨麻は、クスクスと笑い合った。

「さぁ、今日は翼の復帰祝いであたしもシャンパン開けるよぉ~!」
梨麻は、それまでの悲しい表情を無理矢理ふっ切るかのように、声を上げた。

他愛のない話もあり、光星の事件で果穂が悲しみ落ち込んでいることまで、翼はいつものように親身になり接客していった。


しかし、彼の頭の片すみには、先程の一つの疑問が常にこびりつくように残っていた。










アリスの子の正体-



謎に包まれたこの存在を、翼は気にせずにはいられなかった。





そんな中、【Club Pegasus】は何とか盛り上げをキープしつつ、この日の営業を終えていった。



「お疲れっす!!」
「お疲れ様っす!!」

【Pegasus】の一同は営業終了後の最後のミーティングを終え、各々に解散していった。


「よぉ翼クン、お疲れぃ」
聖が翼へと話し掛ける。

「お疲れ様です、聖さん」
翼も冷静な口調で、それに返す。


「しかしさすがたな、翼クンは」
「えっ?」
「今日一日見てたけど、わずか半年でここまで来ただけのことはあるよ。天馬のやつが認めるだけはあるなーと」
「どうも」
「まっ、7月いっぱいの締めまで、お互いにがんばろうや」

聖は翼の左肩を軽くポンと叩くと、すでに営業終了後の店から出るためにエントランスの方へと歩いていった。



『天城……聖』

翼の視線は、その視界からいなくなるまで、聖の堂々とした後ろ姿を捉えていた。



「翼、ちょっといいか」
天馬が翼へと声をかける。

「社長?」
「どうだ、今日の聖を見て?」
天馬と翼は、同時に軽く息を呑んだ。

「まだ初日なのでまだ詳しくは何を言っていいのかですが、実力はとてもある人ですね」
「そうか。実際に、お前には自信はあるか?」
「それは何とも言えませんが……ただ-」
「ただ?」
「絶対に、負けられません」
「そうか、それを聞いて俺も心強いぞ。それに……」

天馬は、一本のくわえた煙草に火をつけた。

「今月は荒れるぞ、うちは」
「えっ?どういうことですか?」
翼は慌てて聞き返した。

「今月、翼は誕生日だよな」
「え、えぇ。28日ですが?」
「だったら勝機はそこだ。バースデーイベントだ」
「バースデーイベント……!」
「お前はうちのNo.1だ。もちろんバースデーは開催するし、そうすればお前の売上もさらに跳ね上がるだろう」
「そ、そうか!それなら!」
翼が意気揚々とそう言ったが、天馬は冷静な表情を保ったままだった。

「社長?」
「だがな翼……幸か不幸か、偶然にもその日の三日前……25日は聖の誕生日だ」
「なっ…!?てことは」
「あぁ。荒れるってのはそうゆうことだ。光星の件が重なって弱ってる現在のうちの店を、自分のバースデーを利用して乗っとる気だ。今日いきなり、六本木から太客の一人を連れてきたのも、あいつなりの宣戦布告だろう」
眉間に皺を寄せた天馬は、煙をふきながらつぶやいた。


「翼……現役のときの俺は、愛菜や他のお客の力があったのもあり、何とか聖には勝てたが……今のあいつはあの時以上の売上を出すホストに成長しているかもしれん。それでも-」
「それでも俺はあの人に勝って、この店を守ってみせます」

翼は、鋭い眼差しを向けながら天馬に言い放った。



『やっぱりだ。やっぱり今までの翼と何かが違う』



翼に対する違和感にどこか気付いていたものの、天馬はそれ以上は何も言わなかった。
何より、今の【Pegasus】を救う唯一の勝機は、翼のバースデーイベントだということを天馬自身も理解していたからだった。


「とにかく……俺は今月のあの人との勝負、全力で挑んで勝ってみせます」

翼はそう宣言し、納得した天馬に見送られるように【Pegasus】を出た。

30-2

 
店からの帰り道、翼は歩きながら考え込んでいた。


『突き止めた方がいいだろうな』

何かを思い立つと、翼はそのまま美空のもとへと向かっていった。





『オカエリナサイ☆』

"楓"に戻ると、美空が明るい笑顔で翼を迎えた。


「……」
『ドウシタノ?』
「あ……いや」

翼は、考え込んだ末に美空に問い掛けた。


「なぁ、あの時ここで無銭飲食しようとした酔っ払いいたよな。あいつの社員証、あるかな?」
『ウン。取リニ来ルンジャナイカト思ッテ、トッテオイタケド……ドウシタノ?』
「明日、昼間にそいつの会社に行ってくる」
『ソノ人ノ会社ヘ?ドウシテ?』
「ちょっとね、確かめたいことがあるんだ。そこの社長さんとは、顔見知りなもんでね」

翼は、『株式会社アサカワカンパニー』と表記された社員証を鋭い目付きで凝視していた。



翌日-

午前10時差し掛かろうとしていた晴れた日の朝、翼は『アサカワカンパニー』の壮観なる本社ビルの前へと来ていた。


「……久しぶりだな、ここに来るのも」

スーツをビシッと纏った翼は、大きいエントランスをくぐり抜け、受付のところまでゆっくりと何かを噛み締めるように歩いていった。
カツン……カツンと鳴る自らの足音がいつも以上に耳に響くのは、久しぶりに対面する社長である父親への緊張感だけではなかった。


「あの」
インフォメーションに座る受付嬢二人に話し掛けると、彼女達は数秒翼のことを見つめた。

明らかに営業にも来たわけではないその風貌に、彼女達はただただ戸惑うばかりだった。

「あの……恐れ入りますが、アポイントか何かは?どういった御用件でしょうか?」
一人の受付嬢がそう言うと、翼は再び口を開く。

「社長に一言お伝えください。"一也"が来た……と」
「そ、そう申されましても、ただそれだけでは社長のところにお通しするわけには-」
受付嬢がそう答えると、隣にいる翼から見て右側のもう一人が何かに気付いたようにそこへ割って入る。

「あの……もしかして、一也様ですか?社長の息子様の」
彼女の言葉に、翼はゆっくりと首を縦に振った。

「えぇ、そうです。以前と雰囲気は変わっているかもしれませんが、僕は"浅川一也"です。社長につないでいただけますか?ちょっと急な用事なんです」
「は、はい。すぐにおつなぎします」

受付嬢たちは、翼の正体に気がついた途端に態度を変え、社長室へのコールを開始した。

すると、すぐに通話は終わり、彼女たちは「どうぞ」と言いながら翼をエレベーターの方へと導いていった。


「ありがとうございます。突然のことで驚かせてしまってすみません」
翼は、受付嬢二人にそう言って頭を下げると、一人社長室へと向かっていった。


「一也さん、あんなにホストっぽくなって……。今までどこで何をしていたのかしら」
受付嬢たちは、そうつぶやきながら、翼の後ろ姿を見つめていた。

翼は上昇していくエレベーターの中で、不思議なほどの懐かしさと緊張を同時に感じていた。

あの時以来、亀裂の未だ入ったままの状態の父親と対面することは、彼の心拍を著しくしていた。



エレベーターをおり、翼は【社長室】と表示されているドアの前へと立った。
胸の鼓動がさらに激しさを増していく中、彼は優雅な雰囲気さえ漂うドアに二回ほど握りこぶしを「コンコン」と当てる。

「どうぞ」
閉ざされたドアの奥から、過去の悔やみと懐かしさを同時に彷彿させる声が翼の耳へと届いた。

「失礼します」
翼は、【一也】とは名乗らず、そのままドアをゆっくり開け、社長室の中へと足を踏み入れていった。


「……」

中には、窓から外を眺めているのか、ドアにいる翼に背を向けている背広姿の男性が立っていた。

翼は、ドアをガチャリと閉めると、その彼の方へとゆっくりと足を進めていった。
十歩ほど歩いてソファへと差し掛かったところで、翼はその足を止める。

その後、二人の間には重い沈黙が数分ほど流れた。

お互いどう切り出すかを探り合うかのように、翼はめの前に立つ父の背中を見つめ、父はわずかに肩ごしに翼を見る。

しかし、そんな重苦しく…長く感じられた沈黙は、父の言葉によって破られた。


「久しぶりだな、一也……」
「えぇ」
翼も一言のみで反応する。

「元気だったか」
「えぇ…」
「ちゃんと、飯は食ってるのか」
「じゃなきゃ死んでます」

二人の背を向けたままの会話は、再びそこで一旦途切れる。
しかし、沈黙はそう長くは続かなかった。


「一也、こんな会話をするためにわざわざお前が来たわけじゃないんだろう?」
何かを読み取ったように、父は翼へ問い掛ける。

「えぇ。ホントは顔も見たくもないし、話したくもない」
翼も冷静な口調で返す。

「なら単刀直入に話の要件を切り出せ。私もそんなにヒマではないんだ」
「なら話が早い。じゃあお聞きします」

翼は緊張を抑えるようにひと呼吸おくと、改まったように再び口を開いた。


「単刀直入に聞かせていただきます。この会社、【アサカワカンパニー】と星羽会のことについてです」

翼がそう言い切った瞬間、父は何かにとても驚いたのか、翼の方を振り向いては、まるで心臓が止まったかのように固まった。


「?どうしたんです?」
「一也お前、どうしてそんなことを!?」
「??」
「どうしてお前が星羽会のことを!?」

意味もわからず声を荒げる父に、翼はキッと鋭い視線を送った。


「関係あったんだ、ホントに?」
「一也……お前何を」
「俺は今、歌舞伎町の一部で騒動の発端になってる"星羽会"と"St.Alice"のことを探ってるんだ。調べてたら、この【アサカワカンパニー】の名前にたどりついたんだ」
「!」
「どういうことなんです?この会社を含め数社が、"St.Alice"に関与していた事実って?」
「……」
「この薬物の件には、俺の友人も絡んで酷いめにあわされたんだ。黙らずに教えてくれますよね?」
「……」

父は、息子である翼の前で、しばらくの間黙秘を続けたが、もはや言い逃れすらできない状態であることは、自らが一番よくわかっていた。

そして、父は翼の方へと身体の正面を向けた。


「私も噂で都内の一部にアリスの子が出没し『アレ』を再び流出させているなどと耳にしたが……まさかそれが事実で、しかもお前が絡んでいるとはな。皮肉なものだ」
「教えて下さい。"St.Alice"と……星羽会とこの会社に、昔一体何があったんですか?星羽会とは、そしてアリスの子とは一体何なんですか!?」

翼が問いただすと、父は何かを覚悟したかのように、ゆっくりと語りだした。


「星羽会のことだが……そのことに触れるには、我々がしてきたことを先に話さなければならないだろうな」
「してきたこと?」
「そうだ。一也、お前も知っているだろう。我が社の製造・流通における部門では、薬物を取り扱っていることを」
「あぁ」
「そこに、薬物開発に携わっていたある一人の人物がいたのだ。彼は、天才的なその技術と海外の知識を融合させ、ひそかに我が社の中である実験を進めていた」
「実験……?まさか-」
「そうだ。"St.Alice"の前身ともなる、薬物兵器の実験だ。そして-」

父はひと呼吸おいた。

「彼の名前はルペス・クレイアード。星羽会のマザーと呼ばれたアリス・クレイアードの実弟だ」

翼は目を疑った。


「ルペス・クレイアード……!あの"手紙"に載っていたルペスがアサカワカンパニーにいただって!?じゃあ、"St.Alice"を造って流通させたのは……!」
翼の言葉に父は目を背けながら答えた。


「そうだ。あの薬物兵器"St.Alice"は、我がアサカワカンパニーの手によって造られたのだ」


父が自分の前で語り明かし始めた衝撃的事実-

しかし、さらなる事実が息子である翼(一也)を襲おうとしていた。





                                                  第31章へ