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28.翼と美空

28-1


「奇跡だ……!」
日も沈んで外の暗さが感じられ始めた中、病室での羽月の検診をしていた医師は驚いていた。

「先生、彼の容態はどうなんです?」
天馬が問い掛けると、医師は首を縦にゆっくり振ってから答えた。

「今は通常どおりに生活や仕事をするのは不可能ですが、辛うじて神経等へのダメージはありませんし、日を追っていけば傷も塞がり起き上がれるようになりますよ」
「そうですか!ありがとうございました」
天馬と翼は、医師へペコリと頭を下げると、ベッドで横になっている羽月に目をやった。

「よかったな、羽月」
「おおきにな翼くん。社長も俺なんかのために、すんません」
仰向けの羽月は、頭を下げて謝るかのように首を僅かに動かした。

「俺達や店のことは心配するな。お前のお客さんたちには、滑って骨折したとか適当に理由をつけておくから」
「はい、おおきにです社長」
「じゃあ、俺は行くな。店にもちょっとは顔を出さんといかんし」
天馬は病室の椅子から重い腰を上げる。

「社長、じゃあ僕も」
翼がそう言うと、天馬は彼を見ながら首を横に振った。

「お前も休め翼。傷もあるし、そんな疲れた顔と腕吊った恰好で店に出るわけにもいかんだろう」
「はい……でも-」
「仕事したい気持ちはありがたいが、明日は定休日だし、とにかく今日と明日はゆっくり休め。社長命令だ」
「……わかりました。そうさせていただきます」
「てなわけだ。羽月、俺達はそろそろ行くから、お前は一日も早い復帰をめざして、ゆっくりするんだぞ」
「はい。社長、翼くん。ホンマ、おおきに」
羽月がそう言うと、立ち上がり一度背を向けた翼は、再び彼の方を振り向いた。

「そうだ、これ」
翼は羽月にあるものを手渡した。

「翼くん、コレ……」
「光星が、店で落としていったんだ。君の大切なものだろ?」
「よかった……よかったわぁ。翼くん、ホンマおおきになぁ!」
羽月は、翼から手渡された姉と写る一枚の写真を喜びながら抱きしめた。


「退院したら、また美空ちゃんとこに飲みに行こうな」
「うん」

その会話を最後に、翼と天馬は長時間座っていた羽月の病室を後にすることにした。

病室を出て間もなく病院の廊下をゆっくり歩いていると、天馬はふと翼に話しかけた。


「翼、ちょっと気になってることがあるんだが」
「はい?」
「さっきの羽月のあの古びた写真のことなんだがな」
「……」
「こんなこと、俺が聞く必要もないことだと思ってるんだが……羽月のやつがずっと探してる姉さんってのはもしや?」

羽月の正体に感づいている天馬の言葉に対し、翼はゆっくりとうなずきながら答えた。


「愛菜のことです……」
「やっぱり、そうだったのか」
「社長は知ってたんですか?愛菜と羽月のこと」
「知っていたわけじゃないが、どことなくな。俺が【Unicornis】で現役のときに、珍しくかなり酔った愛菜がホロッと言ったんだ。"自分には何年も前に離ればなれになった弟が一人いる"ってな。まぁ確かに姉弟だからか、雰囲気が妙に似てるとは思ったが」
「それは僕も事実を知る前に何となくは思ったことありました。二人に交互に会うたびに、どこかで会ったことがある、みたいな」
「あぁ。あの時に愛菜から見せてもらった写真が、さっき見たものと同じだったから、確信しながら驚いたって感じだな。ましてや病室の名義……『星宮』なんてそうある苗字じゃないからな」
「社長……愛菜のところへは、やはり…?」
「今はそっと休ましてやろう。精神的にも相当きてただろうからな。後日、ゆっくり落ち着いたら見舞いに駆け付ければいいさ」
「わかりました」


翼と天馬はそのような会話を目を合わせずしながら、病院の入口へとたどり着いた。

「翼、とりあえず俺は一旦店に戻る。店の奴らに色々と説明しなきゃだしな。とにかく、お前も今夜はゆっくり休むんだ」
「はい。お疲れ様でした」

頭を下げながら翼が見送る中、天馬は一足先のタクシーで一人新宿へと戻っていった。



「さてと、俺も帰るか」

翼はそう言いながら、病院の中でずっと長い間切っていたケータイの電源を久しぶりにONにした。
十数秒ほどでケータイの電源はつき、そこに表示されている時刻は19時を過ぎようとしていた。

「もう夏も近いからかな。まだ微妙に明るいんだな」
翼は薄暗いながらもまだ夕方の明るさのようなその空模様をふと見上げていた。

その時、彼のケータイが振動してメールの着信を知らせる。
翼はすぐにケータイを開き、その液晶画面に目をやる。

「あっちゃ」
翼は呆気にとられたように声を漏らした。
ケータイのメールの受信履歴には、自分の指名客からのメールが多数来ていたからだった。
タイトルや本文には、昨夜の騒動により営業中の店を突然飛び出していった翼への心配の言葉が綴られていた。


『大丈夫?』
『何があったの?』
など、自らの身を心配している指名客の言葉に、翼は胸を締め付けるような感情を覚えていた。

「早く、怪我を治して店に戻らなきゃな」
翼は、疲れた身体にも関わらず、あらためてそう心に決めた。


そして、翼は一本のメールに気がついた。

「美空ちゃんまで。1時間くらい前か」


『翼さん、まだ病院にいますか?』
美空からのメールにはそのように書かれていた。


「美空ちゃん、どうして病院にいるって……」
その時、立ちすくむ翼の後ろから、人が駆け寄ってくる足音を彼の耳は捉えた。
翼は、すぐにその方向へと振り向いた。



「美空ちゃん?」

翼の視界には、病院のエントランスへと急ごうとしている美空の姿が映っていた。
離れたタクシー乗り場にいる翼のことには気付いていないようで、彼女はそのまま病院の中へと入ろうとしていた。


「美空ちゃんっ!」
翼は彼女の名前を呼んだ。
すると、病院へ入ろうとした彼女は、自分を呼んだ彼のいる方へと息を切らしつつ振り返る。


「ハァ……ハァ……」
美空は、息切れをしながら走り疲れた身体を引きずるように、ゆっくりと翼のいる方へと歩いていく。

翼も、そんな彼女の方へと歩み寄っていった。


「美空ちゃん、どうしてここへ?」
『ヨカッタ、無事デ……』
翼の問いかけに、美空は切れる息をただしながら手話で答える。

『昨日ウチニ来ルカラッテ翼サン言ッテタカラ待ッテタンデスケド、メールモ無イカラ不安ニナッテ……。ソレデ、オ店ノ人ニ聞イタラココダッテ教エテクレテ』
「あ……そうだったよねゴメン、ちょっと昨日に色々とあって。でも、それでわざわざここへ?」
『翼サンガ病院ニイルッテ聞イテ……私、スゴク不安ニナッテ』
「美空ちゃん」


『デモ、ヨカッタ。翼サンガ無事デ……私、翼サンニ何カアッタンジャナイカッテ思ッテ……』
美空は、そのつぶらな瞳に涙を溜め、手話をスッと止めた。

そして、自分の目の前に立っている翼の方へとスッと飛び込んでいった。



「美空ちゃん……」
包帯を巻いていない翼の右腕の方へと、美空は自分の顔をピタリとくっつけていた。

「ヒッ……ヒック」と声にならない声が、翼の澄ました耳にはしっかりと響いていた。


「美空……ちゃん」
突然自分の腕もとで泣き崩れた美空の姿に、翼は驚きながらも、どこか心の糸が少しずつ解れる感覚を覚えていた。

「ごめん美空ちゃん、心配かけて」
翼は小さくも優しい声でそう囁きながら、動く右腕で美空の小さな肩を抱いた。



1時間後-

翼は美空とともに歌舞伎町にある"楓"に移動していた。


『翼サン、何モ食ベテナインデショ?スグ何カ作リマスカラ』

美空は手話でそう言うと、どこか申し訳なさそうにすぐに調理にとりかかっていた。

「ありがとう美空ちゃん。でもいいのかい?急に今夜お店閉めちゃったりして」
翼がそう言うと、美空は2回ほどうなずく。

しかしその時だった。
料理の香ばしい匂いのする中、カウンター席でお茶をすすっていた翼は、ふと突然恐ろしいまでの睡魔に襲われ始めていた。


『あ、あれ……??』

肘からガクリと落ちていくように、翼はカウンターのテーブルに突っ伏した。
それに気付いた美空は、急いで翼のもとへと駆け寄った。

トントンと肩や背中を叩いても、翼は目を明けずに、そのまま寝息をたてていた。


翼は、再び夢を見ていた。





『う……ん』










『えっ?』










『そんな』










『そんなバカなっ!』










「そんなっ-!」

翼は勢いよく、仰向けになっていた上体をバッと起こしながら目覚めた。

「痛っ……」
突然体を起こしたからか、傷のある左肩に軽い痛みが走る。

「またあの夢……。何だったんだ……何で夢に『あの人』が-」
そうつぶやきながら、翼は冷静に周りを見渡す。

「ここは……そっか、俺寝不足とかがたたって寝ちゃったのか」
常夜灯のついた部屋の中、上着を脱いだ自分の身体が真っ白いベッドの上にあることで、翼はようやく自分の状態を把握し始めていた。

「ん?」

その時翼は、自分が身体を乗せているベッドに寄り掛かりながら寝息をたてている美空の姿を発見した。



『美空ちゃん。もしかしてここまで俺を連れてきてくれたのか』

美空も相当心配疲れをしていたのか、翼が目を覚ましたことに気付かないまま眠りこけている。

「えっと、今は何時……んっ?」
辺りを見回すと、翼は自分が今まで眠っていたベッド脇の小さい棚の上に何かがあることに気付いた。
薄暗い中顔を近づけてみると、そこには円いトレンチの上におにぎりが二つと湯呑みが手紙と一緒にぽつんと添えられていた。

翼は、まずその手紙に手を差し延べ、それに目を通した。


-翼さん


怪我は大丈夫ですか?
急にカウンターで寝てしまったので、びっくりしました。
お腹は空いているかもしれないと思ったので、おにぎりを二つ作りました。
起きて、食欲があったらでいいので、よかったら食べて下さいね。

それと、夕方病院では突然泣きついてしまって、すいませんでした。
翼さんが病院にいるって聞いて、とても平静じゃいられなくて。

こんなことはおこがましいかもしれませんが、私にできることがあれば、何でも言って下さい。


          美空-





「美空ちゃん……」

読み終えた手紙を片手に、翼はあらためて深い眠りについている美空を見つめた。
彼女の瞳から頬にかけては、うっすら濡れた痕跡も見てとれた。



『俺のために……?』



心の中でそうつぶやきながら、空腹を感じていた翼は置いてあるおにぎりの一つに手をのばした。
サランラップに包まれた綺麗な三角形のおにぎりは、まだうっすらと残った温かさを彼の手に伝えていた。

翼は、包まれたサランラップを一つ一つ解くようにゆっくり開き、露になったおにぎりを見つめる。
そして、口に運びパクリと頬張っていった。


「……うまい」


翼は思わずそうつぶやいた。
一口……また一口と食べていくうちに、彼の中ではどこか遠くに置き忘れてきたような、懐かしいものが込み上げていた。

そんな彼の瞳から、一筋の涙が零れだしていくのには、そう長い時間はいらなかった。

28-2

 
「何で……」
翼はグッと手を握りしめた。

「何で、何でこんなに優しくしてくれるんだよ……」

ポタリ、またポタリと、翼の目からは大粒の涙が次々と零れ落ちていた。
それと同時に彼自らの脳裏に浮かんだのは、数ヶ月前に帰省したときに母親が持たそうとしたおにぎりを無残にも踏み潰した、冷酷な自分の姿だった。



『もう誓ったのに。人は絶対信じない……お金と自分しか信じないって決めたはずなのに……』



目の前にいる美空の優しさ

そして、自分の身を犠牲にしてまで凶刃から守ってくれた羽月の友情


この一日で、自分の中で一気に起こったことが、長い間封じ込んでいた翼の奥底にある感情を激しく揺さぶっていた。

そんな翼の背中を、トントンと優しく叩いたのは美空だった。


「み、美空ちゃん」
『ドウシタノ?』
「な……何でもないよ」
『何デモナクナイ』
「ホントに、何でもないんだ……何でも……」

それ以上は、溢れる涙が邪魔をして言葉にならなかった。
しかし、うなだれている翼の頭を、美空は子供をあやすように優しい手つきで撫でていた。



『なっ……??』



翼は涙だが止まらない中で、そんな彼女の行動に驚いていた。
しかし彼は、その撫でる手を振り払うかのように頭を退ける。


『……』
美空は寂しそうな表情で、翼を見つめた。

『ドウシテ?』
美空の手話を横目で確認すると、翼は重い口を開いた。

「美空ちゃん、俺ね……ホントは美空ちゃんが慕ってくれるような、いい人間なんかじゃないんだ」
『……??』
「自分のことしか考えずに、ガキのようにすねてるくだらない男なんだよ……。美空ちゃんみたいないい子が、俺なんかに関わっちゃいけないんだ」


翼は、肩を落としながら自らのいきさつを美空に語り始めた。


会社員だったときのこと……
紗恵とのこと……
家族との確執のこと……
ホストを始めたこと……

そして、自らの心の内のこと……


翼は、洗いざらい自らのことをそばにいる美空へと告白した。

美空は、真剣な表情でそれらに対してずっと耳を澄ましていた。


「だからね……俺、こんなやつなんだ。最低だろ、どんな事情があれど会社で傷害起こしたり、彼女守れなかったり、病気の母親にひどい仕打ちしたり」
『……』
「あげく今やってるのがホストだもんな……。笑えるだろ?」
『……』
「所詮俺は、次男坊のお坊ちゃま……いや、それにすらなりきれなかった、タダのクズなんだよ……!だから羽月をあんな目に-」

その先を言おうとしたときだった。

気がつくと、美空はすっかり涙顔の翼をギュッと包み込むように抱きしめていた。


「えっ?」
突然のことに翼が驚いていると、美空は『違う、そんなことない』と囁きかけるかのように、首を何度となく横に振った。

「どうして……何で……」
翼が何度問い掛けても、美空は再びゆっくりと首を横に振っていく。
そして、彼を抱きしめていた手で、手話を始めた。


『翼サンハ、ソンナ人ジャナイ』


『翼サンハ、チョコヲ可愛ガッテクレルシ、コノ間飲ミ逃ゲサレタトキモ、一番ニ助ケテクレタ勇気ノアル人』


『ソレニ、オ母サンガ亡クナッテ辛クテタマラナカッタ私ヲ必死デ励マシテクレタ優シイ人』


『ソシテ、トテモ思イヤリノアル人……』



「俺に思いやりなんて」
『アナタハ気付イテイナイワ。何ダカンダ言ッテモ、必ズ人ノコトヲ考エテルモン。羽月サンノコトダッテ』
「……」
『翼サン、ズット一人デ抱エテ……辛カッタデスヨネ』

気がつくと美空は、手話を描くその手に、何滴もの涙を落としていた。
声を失った彼女の精一杯の『泣き声』が、翼の耳には確かに響いていた。

「美空ちゃん、何で俺なんかのためにこんな……」
『アナタガ人ヲ信ジタクナクテモ、ドウ生キテモイイ……。デモ、コレ以上自分デ自分ヲ傷ツケナイデ……。オ願イ……』
「美空……ちゃん」
『アナタハモウ、十分スギルクライ傷ツイタンダカラ……モウ自分ニ優シクナッテ下サイ』



-もう、自分にも優しくして-

その言葉を受け止めたとき、心に溜まっていたしこりのようなものが一気に流れ出たのか

翼は、無意識のうちに美空の胸の中で顔を埋めていた。

子供のように泣きながら、長い間心に溜めていたしこりを多量の涙に変えながら、翼は身も心も美空という名前の少女に全てを預けようとしていた。


「……うっ……うぅっ……」
泣きじゃくる翼の頭を、美空は子守唄を口ずさむ母親のように、頭を撫でながら宥めていた。

「辛かった……。怖かった……。人と接するのも、人に蔑まれるのも、裏切られるのも傷つけられるのも……。自分から大切な人がいなくなるのも……みんな怖かった。怖くてたまらなかった……」
『ウン』
「だからもう自分しか信じれなかった。もう傷つくのが怖いから、自分とお金なら裏切らないから、人を憎めば傷つかないから……」
『ウン』
「でも……何より一番自分を裏切ってたのは臆病な自分自身だった」
『翼サン……』
「ねぇ美空ちゃん」
『?』










俺……もっと自分を楽にしていいのかな?











人を……好きになっても、いいのかなぁ……?










涙で澱んだ翼の素直な言葉は、優しい笑顔の美空の首をゆっくりと縦に振らせた。


それを確認してさらに心のリミッターが外れたのか、翼は動かせる右腕で美空に抱き着き、息を激しく切らせるように泣き続けた。


クールなホスト『翼』ではない
【Club Pegasus】のNo.1ホストでもない

素直な一人の青年『浅川一也』の本来のさらけ出された裸の姿がそこにあった。
 

「何で、何でそんなに優しいんだよ……!」
美空は、そんな『彼』のことを、ただずっと見守るように優しく両手で包み込んでいた。





翌朝-

カーテンから差し込む朝日とともに、翼は目を覚ました。

「ん……」
昨夜のことがあってか、多量の涙で渇いた頬のパサパサ感に気付く。
そして何より、自分が美空の膝を枕にして眠っていたことに驚いていた。


「あっ」
翼はバッと起き上がると、おもむろに美空のことを見上げた。
美空は「おはよ」と口で言うと、ニッコリと微笑んだ。

「もしかして……ずっとこうしてたの?」
翼が膝枕のことを問い掛けると、美空は顔を赤らめながらベッドをおりようとしていた。
すると、やはり脚がしびれていたのか、美空の身体は無言のままベッドから転げ落ちる。


「あっ!」
翼は、慌てて右腕と胴体を使い彼女を抱き起こす。

「大丈夫かいっ!?」
翼がそう言うと、美空は笑いながら舌を出した。
「まったく、心配したぞ」
ため息をつきながら、翼もフッと微笑んだ。

そんな二人が互いの唇を自然と重ね合わすまで、そんな時間は要さなかった。





『今、朝ゴハン作ルカラ、テレビデモ見テテネ☆』
美空は楽しそうにそう言うと、キッチンの方へと歩いていった。

翼はすっきりした柔らかい笑顔で軽いため息をつきながら、テレビのリモコンに手を差し延べる。


何となくチャンネルをまわしていると、翼はリモコンを持つ手を一瞬で硬直させる。



『なっ、何だって!?』


翼は驚きながら画面に映るニュースに見入っていた。

リモコンを落とした音で何事かと思ったのか、美空もキッチンから戻ってくる。

『どうしたの?』と言わんばかりに尋ねてくる美空に気付かないほど、翼はその画面にくぎづけになっていた。



新宿区某所にて発見された、一人の20代男性の刺殺死体のニュース。


その画面の片隅に被害者として映る長髪をなびかせたの男性の顔。


【Club Pegasus】でも一際存在感を出していた見覚えのあるその男とは、


一昨日の"あの時"以来行方不明となっていた光星だった。




「光星さんが……殺された!?」





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