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25.暴走

25-1

 
翌日の午後-

翼は、手に持った自らのケータイをただじっと見つめていた。


『愛菜、
何かあったんだろうか』
あれから何度となく連絡しても彼女からの応答が無いことに、翼は不安と疑問を抱き始めていた。

「いくら何でも、おかしいよな。そうだ」
次第に愛菜の音信不通を怪しくさえ思い始めていた翼は、一つの考えを思いついた。
すると、すぐにケータイを操作し通話へと入っていく。


「あっ、社長ですか?おはようございます、翼です。今日の出勤を少し遅らせていただきたいんですが、いいでしょうか?実はちょっと……」
翼は、電話にて天馬にあることを頼み始めた。





一方-

悪夢のような夜が明けた光星の自宅マンションでは、ベッドの手摺りに腕を繋がれた全裸の愛菜と羽月が、弱りながら横たえていた。
そんな二人を嘲り笑いながら、光星は出勤の準備へと勤しんでいた。

「たくよぉ、昨日は派手に遊びすぎたから頭痛いぜ」
ブツブツとそう言いながら、長い黒髪を掻き分ける。

「光星さん……」
羽月が力無いかすれた声で言った。

「あぁん?何だよてめぇよぉ」
光星が面倒臭そうに羽月を睨むと、彼は鉛のように重たく感じるその身体を何とか起こした。

「何で……何でこんなことすんねん。俺、光星さんの言うことちゃんと聞いてきたやんか……」
羽月がそう言うと、光星は「ハァ」とため息をつきながら答える。

「俺はな、お前らみたいな星羽会の奴らが嫌いなんだ」
「えっ??」
「聞こえねえのか?俺はおまえら糞信教の人間が嫌いだっつったんだよ」
光星は、鋭い目付きで睨みながら羽月に言い放った。

「何で、何でやねん。何でそこまで星羽会を憎むんや?それに……何で"St.Alice"を??」
「……」」
羽月が声からがらに問いただしても、光星はそれ以上何も答えなかった。


「ん?」
その時、光星は自分の足元に一枚の写真が落ちていることに気がついた。

「何だ、この古そうな写真は?ガキが二人写ってるけどよ」
光星は写真を拾い、それを不思議そうに見つめた。

そのことに気付いた羽月は、ハッと目を大きく開いた。

「光星さん、それは……!」
羽月が慌てながら言うと、光星は、その写真が彼のものだということにニヤリとしながら気付いた。

「何だ、コレお前のか。こんなボロい写真を何で持ってんだぁ?」
「お願いや、それだけは返して欲しいんや!」
「ふーん」
光星は写真をあらためてじっと見つめた。
しかし、その最中に意識を失っていると思われた愛菜も、二人のやり取りをひそかに見ていた。



『あの写真!何で?何で羽月くんが……??』



愛菜が心の中でそう呟く中、光星は写真をジャケットの内ポケットにしまい込んだ。
「なっ、光星さんそれ返してやっ!」
「うるせんだよ星羽会の生き残りがっ!へっへ……面白そうだから俺が預かっとくぜ。じゃあ、俺は店に行くからな。変なマネするんじゃねぇぞ、わかったな」

光星はそう言い捨てると、拘束された羽月たちのいる部屋の中から姿を消していった。


「くそっ……何でや、何であんなことするんや」
羽月は目に涙を溜め、その悔しさやもどかしさを重くのしかかる沈黙へとぶつけた。
そんな彼を、となりにいる愛菜は、視線を悟られないように静かに見つめていた。



一方-

午後7時をまわった頃、翼は歌舞伎町のとあるビルの前にいた。

「たしか、ここの7Fだな」
翼は、直ぐさまそのビルのエレベーターへと乗り込み、目的である7Fへと上がっていった。


到着すると、翼は黒と白を貴重とした気品に充ちた扉を目の前にしていた。

「【Club Mirror】……ここか」
すると、扉は自動的に右へとゆっくりと開いていった。

「いらっしゃいませ、お客様」
開いたドアの奥から、すかさず黒服らしき男が出て、翼を迎える。

「あの……一人なんですが、今は大丈夫ですか?」
「はい、ただいま席の方がまだ空いておりますので、すぐにご案内致します」
翼は直ぐさま愛菜のことを黒服に尋ねようと思ったが、それだけでは失礼と思いまずは客として【Mirror】の店内へと入ることにした。


黒服に席を案内されると、翼は黒色のソファへと腰をおろした。


『久しぶりのキャバクラだな。会社の接待以来か』

翼はそんなことを考えながら、渡されたおしぼりを手にしつつ辺りを軽く見渡した。
そこは、【Club Mirror】という名前の通り、壁が一面鏡ばりにされた、【Pegasus】とは違う意味で現実とは掛け離れたような不思議な空気間を漂わせていた。

一見会社の経営者や重役とも思われるような客層には、見事なまでにドレスアップしたキャスト達が笑顔とスタイルを武器に接客に勤しんでいる。
それらの雰囲気からとれる完璧さが、同じ水商売に携わる翼には、そのレベルやクオリティの高さが肌で感じられていた。


『愛菜、ここでNo.1を張っているの…』

翼はひっそりとそう思った。
すると、黒服の男がアイスやマドラーなどをせっせとテーブルにセットする。

「お客様、本日キャストの御指名などはありますでしょうか?」
黒服が翼に尋ねる。

「えっと、愛菜さんて人に会いたくてきたんですが、今日は出勤されてますか?」
翼がそう答えると、黒服は一瞬険しそうな顔を見せる。

「申し訳ありません。愛菜さんは、本日こちらに出勤されていません。他のキャストもおりますので、そちらで-」
「お休みなんですか?」
翼が黒服の言葉を遮ると、彼は翼の全身をサッと見渡す。
翼の容姿を見て明らかに「ホストである」と半ば認識した黒服は、あらためて口を開いた。

「お客様、大変失礼ですが愛菜さんとはお知り合いか何かで?」

「はい、昔からの友人で。あの、愛菜さんと何日も連絡が途絶えているので、それで心配に思ってお伺いしました。あの、彼女は今こちらには?」
「……少々お待ち下さいますか」
翼の言葉を聞き、黒服はその場からスタスタと去っていった。


『愛菜……』
そう考えながら俯いている翼を、黒服は離れたところから店長と彼のことを見ていた。

「店長、あのお客様ホストですよね」
「あぁ、そこまで派手ではないが間違いないだろうな」
「営業かもしれませんし、帰っていただきましょうか?」
「うーむ……」
二人がそう話していると、そこにスラリと背の高い、ホワイトのドレスに身を包んだ一人のキャストがやってくる。

「店長、あたしをあの人の所につけてくれませんか?」
「凜(リン)が?」
凜と呼ばれた一人のキャストは、まっすぐ翼を見つめた。

「店長、いいですよね?」
「うんわかった。凜、頼むな。どうやら愛菜指名みたいなんだが」
「はい」


凜は、フワッとしたその巻き髪をなびかせながら、黒服に連れられ翼のもとへと向かった。
彼女が自分のところに近づいていることに、翼も気付く。


「ご紹介します、凜さんです」
黒服が翼に対して紹介をすると、凜はニコリとほほ笑んだ。

「はじめまして、凜です。お隣り失礼してもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「じゃあ、失礼しますね」
翼が凜を隣に促すと、彼女はゆっくりとソファに腰をおろした。
そして、黒服が去ったのを確認すると、凜は翼に話し掛けた。

「はじめまして。【Pegasus】の翼さんですよね」
「はい。何で僕のことを?」
翼が聞き返すと、凜は小声で再び話し始めた。

「愛菜さんのことで、ここにいらしたんですよね?私もって言うかお店もですが、ここ数日間愛菜さんが行方不明なのをとても心配していたんです。家電はもちろん、ケータイに連絡しても出ないし……」
「愛菜、こちらへの出勤にも出てないんですか?」
「はい。あの仕事にプロ意識の高い愛菜さんが無断欠勤するなんて、私達には考えられないことなんです。ましてや愛菜さん、うちのNo.1だし」
凜は一変して、不安げそうに翼に言った。

「そうだったんですか」
翼はため息と同時にそうつぶやく。
そんな彼を見てか、凜は再び口を開いた。

「やっぱり、聞いていた通りの人ですね」
「えっ?」
「翼さんは忙しくて気付いてなかったかもだけど、あたし【Pegasus】では羽月くんの指名客なんです」
「羽月の……?」
翼は、思いもよらない話に驚く。
凜は続けた。

「はい。あたし人見知りだから、初めて【Pegasus】に遊びに行ったとき、ホスト初めてのあたしに、とっても優しく気さくに接してくれたのが羽月くんでしたぁ。あの子、ちょっとおっちょこちょいだけど、根はとても純粋で」
凜はどこか切なそうに笑うと、再び続けた。

「羽月くん、ついこないだも言ってましたよ。翼くんはとってもいい人や~って。だから、あたしも愛菜さんが指名してるあなたには、興味があったんです。あの人や羽月くんが認める人だってことが、今は何となくわかる気がします」
「そうですか、羽月のやつが……」
その時翼は、最近の羽月の態度の異変について思い出していた。
羽月の自分への直接の態度と第三者へ話している自分のことの話の内容で明らかな差異があることに、翼は沸き上がる違和感を抑えられなかった。



「すみません、せっかく来てくれたのに力になれなくて」
凜は、【Mirror】店内から帰ろうとする翼に申し訳なさそうに言った。

「いえ、こちらこそありがとうございました。羽月のこと、これからもよろしくお願いします」
そう言って店を出ようとした翼の視界に、壁にかけられた一枚の写真が映る。



『これは……』




飾られたその写真を見ると、そこには漆黒のドレスに身を纏った、愛菜にも勝るとも劣らぬほどの美しい一人のキャストの姿が写っていた。
微塵も笑うことなく、一切の漆黒に充ちた瞳のその彼女に、翼はいつしか吸い込まれるように見入っていた。


「凜さん、この人は?」
翼が尋ねると、凜はふと切なげな表情をして答えた。

「前にうちのお店で愛菜さんに負けないくらいすごい人気だった女の子です。もう亡くなってしまったんですが、"明衣"さんっていうんです。ファンだったお客さんの希望もあって、ここに写真だけ飾ってるんです」
「そうだったんですか」
翼は、あらためて"明衣"という名前の少女の写真を見つめた。



『この人が明衣さん……愛菜が教会で言っていた』



どこまでも続くような"彼女"の瞳の深い闇に、翼はまるで自らを映す本当の"鏡"でも見ているかのような不思議な感覚を覚えていた。










時間は20時半過ぎ-

【Mirror】を後にした翼は、【Pegasus】へと遅れての出勤をしていた。

「社長、おはようございます。すみません、お時間いただいてしまって」
「おう、お客さんが待ってるぞ。【Mirror】の方はどうだった?」
「いえ、愛菜は店にも出てないらしいです」
「そうか……。それと翼、お前羽月のこと知らないか?あいつ今日無断欠勤で、連絡しても音信不通なんだ」
「いえ、俺は何も聞いてませんが……??」
「一体あいつにも何があったんだ。とにかく、お前はフロアの接客に行け。俺はもうちょっとあたってみる」
天馬にそう促され、翼は指名客の待つテーブルへと足速に向かった。


「翼おそーい!」
少し待ちくたびれた感の梨麻が、頬を膨らましながら翼に詰め寄る。
「ゴメン梨麻、ちょっと用事が長引いちゃって!」
翼が申し訳なさげに言うと、梨麻は表情をニカッと笑顔に変える。

「じゃあ、今日も飲もうっ!」
翼と梨麻は、互いのグラスを交わし笑顔で酒を口に運んでいった。
しかし、愛菜に続き羽月までが音信不通になった今、彼の心中は穏やかなものではなかった。





そして、それから15分たってのことだった。

25-2

 
「ガシャーン」という激しい音が、店内のどこかからか響き渡った。
それと同時に、女性の悲鳴らしき声が雑じっている。
「何だ!?」
何事かと反応した翼は、すぐに立ち上がり音のした方へと向かった。


「翼くん」
小走りで移動する翼に、由宇が声をかける。
「由宇さん、この音は一体?」
「多分奥の方の卓だね」
その時だった。



「キャー!!」
女性客の悲鳴が、さらに店内にいるすべての人間を凍り付かせようとしていた。
「行こう」
由宇に促され、翼は足速にその悲鳴とざわめきのたっているところへと向かっていった。



「なっ!?」
足を止め絶句した翼が目にしたのは、ひっくり返ったヘルプ椅子やテーブル・散乱したアイスや割れたグラスだけではなかった。
倒れたテーブルや椅子を尻目に、光星がヘルプのホスト一人の襟首を締め上げていた。

「こっ、光星さん……やめてください……」
「うるせぇんだよてめぇ」
光星はヘルプホストをものすごい形相で睨みながら、ドスの効いた声を放った。

「キャーッ!!」
「な、何なのよぉコレェ!」
その周囲にいる女性客たちが、怖々と光星達の方を見つめている。
その中には、光星の指名客である果穂の姿もあった。

「ちょっと光星、どうしちゃったのよぉ!」
果穂がそう言うと、光星は彼女の方を振り返りギョロリと睨みつけた。

「うるせぇっ!!」
「ちょ……光星……!?」
荒れた光星の態度に、果穂の瞳にうっすらと涙が浮かび上がる。
すると、そこに佐伯と翔悟も駆け付ける。


「お客様、大丈夫でしょうか!?光星、お前何をやってるんだ!!」
佐伯がそう言いながら近づくと、その瞬間、光星は彼の腹部に強烈な足蹴りを入れる。

「ぐぁっ!」
佐伯は腹を抑えながら床へと倒れてしまった。


「キャーーー!!」
「イヤアァァ!!」
果穂をはじめ、その周囲にいる女性客たちの悲鳴が再び上がる。
そこへ、たまりかねた翼と翔悟が割って入る。

「光星さん、あなた何を!」
「光星、お前何てことしてんだよ!!」
翼と翔悟が同時に叫ぶと、光星は二人を交互に睨みゆっくりと口を開いた。


「翼ぁぁぁ!てか、翔悟さん……あんたもこいつの片を持つってかぁぁぁ」
「!?何言ってんだよお前。どうしちまったんだよ光星お前!」
「うるせぇぇぇ!!」
すると、光星は目の前で訴えかけるように翔悟を突き飛ばした。

「うわぁぁあっ!」
翔悟は左肩から床へと激しく激突するように倒れ込む。
「翔悟さんっ!」
由宇が倒れ込む翔悟を抱き起こす。

「痛っ……!!」
翔悟は激しく生じた痛みを堪えるように左肩を右手で抑えた。

「翔悟さん、まさか……!」
「あの野郎、本気でやりやがって。どうゆうつもりだ!」
翔悟は苦渋の表情を浮かべながら、まるで突然現れた悪魔のように豹変した光星を睨んだ。
その光星は、その悪魔のような視線を目の前に立ちはだかる翼へと向けていた。

「光星さん、あんたどうしてしまったんだ!ここはホストクラブ、お客様の女性たちが楽しく過ごす場所だろう!」
周囲が騒然唖然とする中翼が鋭い目付きでそう言い放つと、光星はニヤリと不敵な笑いを浮かべた。

「何がおかしいんだ?」
「翼ァァァ…お前も偉くなったよなぁ」
「?」
「あの失態ばっかり繰り返してたクズホストのお前がよォォォ……今やNo.1だもんなぁオイオイオイ」
「……光星さん、あんたどうしちゃったんだ……?」
「うるせぇよ」
「あんたは確かに嫌な性格だけど、ホストの仕事はちゃんとこなしていた!なのに、果穂さんたちがいる前で、突然どうゆうつもりなんだ!!」
「果穂ォォォ?」
すると、光星はソファから自分のことを恐る恐る見ている果穂の方に目をやった。

「光星……」
果穂は涙声でつぶやいた。

「果穂ちゃん……!」
その光景を、離れたフロアから騒ぎを聞き付けやってきたやってきた梨麻達他の女性客やホスト達も息を呑みながら見ていた。


するとその時だった。

光星は突然果穂に飛び掛かり、彼女の首を締めにかかった。

「キャアアァー!!」
周囲が再び悲鳴を上げる中、光星の手はみるみるうちに果穂の首にめり込んでいく。

「あっ……」
「一々うるせぇんだよこの風俗嬢がよォォォ」


「やめるんだ!!」
翼は、果穂の首を絞める光星を背後から羽交い締めにした。
途端に、光星の絡み付いた手は彼女の首から思ったより軽い力でスッと離れた。

「かはっ……ゲホッ……」
苦しげに激しく咳込む果穂。
そこにたまり兼ねた梨麻が駆け寄る。

「果穂ちゃん!」
「ゲホッ……梨麻……」
「果穂ちゃん、大丈夫…?」
「梨麻……あたしぃ……」
いがみ合っていたはずの果穂と梨麻は、お互い涙を浮かべながら抱き合った。


「ちくしょォォォ話せェェェ!」
獣のように暴れ狂う光星により、羽交い締めしていた翼は吹き飛ばされた。
「ぐっ!」
翼は仰向けに倒れるが、すぐに上体を起こす。

「翼くん、大丈夫か?」
「由宇さん……えぇ俺は何とか。だけど翔悟さんや佐伯さんは…」
翼と由宇は、床に膝をついて苦しんでいる翔悟と佐伯を交互に見つめた。
二人とも回復しつつあるものの、未だ復活は望めていない状態なのは誰の目から見ても明らかだった。


「んっ?」
その時、翼は光星のジャケットからひらひらと落ちていく一枚の何かを目にする。



『これは……』



翼は、床に落ちたそれをすぐに手に取った。
それを目にした光星は、その表情をギョッとさせる。
翼は、光星を睨みながらゆっくりとその場に立ち上がった。


「光星さん、何であんたがコレを持ってるんだ!?」
「……うっ」
翼がそう問いつめるも、光星は突然黙り込み何も答えようとはしなかった。
するとその瞬間、光星は床に転がっている円柱状のヘルプ椅子を翼へと目掛けて投げ付けた。


「うわっ!」
椅子はガードした翼の腕へと直撃する。
その瞬間、光星はエントランスの方へと凄まじい勢いで駆けていった。

「しまった!」
翼はそうつぶやくと、右手に持ったそれを見つめた。

「翼くん、その写真は?」
由宇がふと翼に尋ねる。
「これ、羽月が大切にしていた写真なんです。あいつが絶対肌身離さずずっと持っていたこれを何故これをあの人が」
その時、翼の中にある一つの恐ろしい予感が沸き上がった。



『今日は羽月も音信不通で来ていない……。まさか!』



「どうしたんだ、翼くん!?」
「由宇さん、どうゆうわけかは知りませんが、羽月は今光星さんのところにいるかもしれない!ずっと肌身離さず大切に持っていたこの写真を、あいつが手放すはずがないんだ!」
すると、翼は写真をジャケットの内ポケットに入れる。


「翼くん、どうするつもりだ?」
「由宇さん、俺は光星さんを追います。お客様が楽しんでる空間を壊したあいつを、俺は絶対に許せない。それに-」
「それに?」
「あいつを連れ戻さなきゃ」
翼はそうささやくと、寄り添い合っている梨麻と果穂のところへと歩み寄った。

「梨麻ちゃん……果穂さん、大丈夫ですか?」
「翼くん……」
翼が優しく声を掛けると、二人はゆっくりと頷いた。

「よかった……。こんなことになってしまって、本当に申し訳ありません。ホストの代表としてお詫びします。梨麻ちゃん、果穂さんと一緒にいてあげて」


すると翼は、すぐに立ち上がり周囲に向かい、

「お客様方、大変騒がせてしまいまして、誠に申し訳ありませんでした」
と言い、深々と頭を下げた。
それを見てか、翔悟や由宇達他のホスト達も頭を下げ、謝罪の言葉を女性客へと発していった。


「佐伯さん、大丈夫ですか?」
「翼……。何とか大丈夫だ」
「社長は今は?」
「天城さんに呼ばれて今はタイミング悪く出てるんだ。どうした?」
「光星さんの自宅住所を教えて下さい。そこに今羽月もいるかもしれないんです!」
「……事情はよくわからんが、今さっき用意しておいた」
佐伯は一枚のメモ用紙を翼へと手渡した。

「それが光星の住所だ。お客様には言っておくから、みんなの代わりに行ってこい!社長にも連絡しておく」
「佐伯さん、ありがとうございます」
翼はメモを受け取り、エントランスへと走っていった。


「翼っ!」
エントランスに行こうとする翼に翔悟が声をかける。

「翔悟さん」
「何か事情はよくわからんけどよ……あいつのこと、一発くらいぶん殴ってこいよな」
「翔悟さん……その分店とお客様を由宇さん達と一緒に頼みます」
「へっ、えらそーに言いやがって」
翼と翔悟はフッと笑い合った。

「じゃあ、ちょっと行ってきます!」
去っていく翼の背中を、翔悟はじっと見つめていた。



『あいつ……ほんとに最初とは比べものにならんほど成長したんだな……』

そんな思いを抱き、翔悟は去っていく翼の背中を見守っていた。



翼は走った。



光星の逃げる先へ。



羽月と愛菜が囚われている一つの場所へ。



自分が長い間ひた隠しにしていた心の中の熱いものが



彼をひたすら前へと動かしていた。



しかし、この時翼は気付いていなかった。



これら一連の騒動こそが、"アリスの子"が仕組んだものだということに。










そして、この後待ち受ける先で起こる凄惨な結末を










コノ時、誰モガ予測スルコトハナカッタ。





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