閉じる


24.狂イ始メタ歯車

24-1


握手を交わした翼と聖は、数秒ほど互いに見合っていた。
不敵に笑みを見せる聖に反し、翼はただ黙って彼の様子を伺っていた。


『この人、
ただ者じゃない』

翼はホストとしての本能でそう直感した。
しかし、そんな中先に口を開いたのは翼の方だった。


「聖さん、ですね。翼です、よろしくお願いします」
「よろしくっ、翼クン。へぇ、思ってたより礼儀正しいんだね」
「どうも。あの-」
翼がそう言いかけた時だった。


「聖っ!」
そこに天馬が大きい声で割って入ってきた。

「お前、どうゆうつもりだ?何をしに来たんだ!」
「まぁそういきり立つなよ天馬。別に俺は嫌がらせや妨害とかで来たんじゃない。噂の翼クンとやらに会いに来ただけさ。それに-」
聖は、翼の横で驚きながら自分を見ている翔悟達に視線を向けた。

「久しぶりに可愛い後輩にも会いたかったしな」
聖がそう言うと、翔悟は驚きを隠すように口を開いた。

「聖さん……お久しぶりです」
「久しぶりだな、翔悟。【Unicornis】を離れて天馬にくっついてってからは、けっこう目立ってるみてーじゃん」
「いえ、そんな」
その時、聖は優しげだった表情を一瞬で鋭くさせる。

「だが翔悟よ……俺や天馬がプレイヤーとしていないからこそ、ここでNo.1を張れてたお前が……今やホスト歴半年に満たない彼に負けてNo.2か」
「ぐっ……」
聖の突き刺さるような口調に、翔悟は何も言わず顔を伏せた。
しかし、執拗に言い訳をしようとしない彼に、聖はそれ以上何を言うこともなかった。
そして、その鋭い視線は由宇と光星に向けられた。

「由宇、相変わらず元気そうだな」
「聖さんも相変わらずで」
「No.3か。こっちに来てからもがんばってるようだな」
「えぇ」
聖と由宇は、特に何があると言うわけではなく、淡々と言葉を交わす。
そして、次には横にいる光星に話し掛ける……と思いきや、彼はすぐに目をそらした。


『なっ……』


豆鉄砲を喰らったような光星は、そのまま立ちすくむ。
「聖さん……?」
光星は振り絞るように聖に声をかけるが、彼はふぅとため息をつく。

「光星……お前は俺に何と言って欲しいんだ?」
「えっ」
「まぁいい。どの道お前に今以上の伸びなんて誰も期待しないだろうからな。それに-」
聖は再び翼の方へと視線を向ける。

「今俺が最も興味があるのは君だよ、翼クン。天馬以外に唯一あの愛菜さんからの指名を勝ち取ったホストと言うからには会えるのを楽しみにしていたが-」
聖は一本の煙草に火を燈した。

「しかしまぁ何だ、【Pegasus】のレベルもたかが知れてるな、天馬よ」
聖は煙をふきながら、呆れたように言い捨てる。

「どうゆう意味だ、聖」
天馬が冷静に聞き返すと、聖はもう一度煙をふきだしながら答える。

「あの女一人が客につけばすぐにでもNo.1になれちまうような程度のレベルかって聞いてるんだよ。天馬、お前がいたときの【Unicornis】みたいにな」
「聖」
「俺は別にその翼クンに愛菜さんが指名客になろうがかまわんのさ。ホストの世界は結果と現状が全てだからな。ただな-」
聖は、その鋭い視線を翔悟や光星に向けた。

「仮にも一度は名店【Unicornis】を出てる奴が、ぽっと出半年そこらの奴にあっさり抜かれてるのが我慢ならねぇんだよ。自分でそうは思わねぇか?なぁ、翔悟」
「くっ……」
翔悟は、聖の鋭すぎるまでの眼光からただうつむくだけだった。
そして、その眼光は光星に向けられる。

「光星よ」
「……何スか、聖さん」
「翔悟を抜いたその翼クンだけならともかく、由宇にまで抜かれてるとはな。どうだ?自分がいびっていたかもしれない後輩たちに抜かれてる気分は」
「聖さん、俺は」
聖は煙をふきながら見下ろすように光星に言い捨てた。

「そのうちそこのNo.5の背の高い金髪クンにも抜かれるんじゃないのか?一体お前は【Pegasus】で何をやっていたんだ?」
「……」
次々と鋭い言葉を浴びせる聖に、普段饒舌なあの光星が何も言い返すことができず歯を食いしばりながら黙っている。
それを横で見ていた羽月は、内心のハラハラがおさまらなかった。


「聖!いい加減にしろ!お前は一体何がしたいんだ!?」
天馬がそこに割って入る。
「天馬、俺はここの現状をストレートに言ったまでだ。このままじゃ【Pegasus】はさらに上に伸びない……内心お前もそう感じてはいるんじゃないのか?」
「……」

「まぁ無駄話はこれくらいでな。今日はお前にちょっと相談があって来たんだ」
聖はそう言うと、スッとソファに腰をおろした。

「俺に相談?」
「あぁ。これは【Pegasus】にとってもいいと思ってな」
脚を組んでソファにもたれかけた聖は、改まったように口を開いた。

「単刀直入に言うわな。天馬、俺をここに置いてくれないか?」
「なっ!?」
思いもよらない聖の発言に、天馬を初めとする【Pegasus】の一同が驚きのあまりざわめきたつ。
しかし、天馬や翔悟でさえも驚きを隠さない中、翼だけは冷静に彼の次の言葉を待っていた。


「聖、どうゆうことだ?詳しく聞かせろ」
天馬が聞き返すと、聖はすぐに答えた。

「天馬もわかっているだろうが、今【Unicornis】はガサが入って営業停止を食らっている。どうなるかはわからんが、俺は恐らくもう営業するのは難しいと考えてるんだ。しかし、俺が最も心配なのはそんなことじゃない。さっきお前が話しかけていた"アリスの子"とやらのことだ。この店から妙なモノを流した奴がいたせいで、俺はホストとして動けないんでな!」

聖は天馬を鋭い目で睨みながら言い放った。

「おかげで、店はおろか俺の客足にまで影響が出てるんだよ。だったら、俺をここで仕事させてくれることぐらいななきゃ割に合わねぇよな?天馬よ」
「聖……」


「"アリスの子"のことだって手を貸すし、それに俺がここに客を呼べば売上にもなるんだ。悪い話じゃねぇと思うが?」

自信満々に話す聖は、光星に視線を向けた。

「まぁ、後輩いびりにのさばって売上が伸びないどっかのホストよりは俺がいた方がいいだろ」
「……!」
聖の嫌味がかった言葉に、光星は眉を引き攣らせた。

「どうだ天馬、もちつもたれつ……俺をここに置いてみろよ。何より、俺のホストとしての実力はお前が一番わかってるはずだ」
そう言うと、聖はスッとソファから立ち上がった。

「言いたいことはそんだけだ、邪魔したな。まぁ、お互いのためにも…ちゃんと考えといてくれよな」

そう言って、聖は【Pegasus】一同の前から颯爽と姿を消していった。



「何なんだよ、あの人」
「社長の元ライバルか知らないけど、あんな横暴な人がこの店に来るなんて」
「でも、"アリスの子"って……?」


「みんな、聞いてくれ」

ホスト達がざわめく中、天馬は意を決したように口を開いた。
ホスト達も一瞬で静まり返り、その耳を彼に傾ける。
「今から俺が話すことは、みんなのホスト生命や店の存続にも関わることだ。お客はもちろん絶対に関係のない人間に他言するな」
ホスト達がうなずいたのを確認すると、天馬は一息ついてから事の顛末を話し始めた……



約10分後-

天馬から語られたことを耳にしたその場にいた全員が、驚きを隠せなかった。

「そんなものが……」
天馬の横にいる普段冷静な佐伯も、今思っていることをうまく言葉にできずにいた。
事情を知る翼を除き、翔悟を初めとするホスト達全員も何一つ言葉を発することはなかった。
しかし、そんな重苦しい雰囲気を必死で破ったのは翔悟だった。

「社長、聞いてもいいですか?」
「何だ翔悟?」
「その……星羽会って宗教の生き残りってのが、本当に俺達の中にいるんですか?」
「正直なところ、俺にもわからない。ただ、その"St.Alice"ってやつの存在で【Unicornis】がやられたって事実がある以上、俺達もみんなに話して知ってもらうしかない……そう思ったんだ。そして-」

天馬は一度呼吸を調えるために息を呑んだ。

「何より、お前ら一人ひとり全員がこの【Pegasus】の大切なキャストだ。この中に"アリスの子"って奴がいると、俺は信じたくない」

経営者として事実を話さなければならない辛さを必死で噛み締めるような天馬の口調が、事情を深く知る翼にはとても痛いほど滲みていた。
いずれ知ることになったとはいえ、少なからず従業員同士の間に生じ始めている疑心暗鬼が、天馬と翼には重々しく見えてならなかった。

その中で、羽月の正体を唯一知る翼は、気付かれないように彼の様子を伺っていた。

他のホストと同じように、羽月は驚きながらおろおろとしていた。


『俺への態度の変化もだが……あの驚きは演技しているのか?それともみんなと同じように本当に驚いてるのか……??』

翼の中では、星羽会信徒の生き残りという意味での羽月への疑心暗鬼が、ますます深まっていった。

しかし、生き残りとはいえ本当に羽月が"St.Alice"を流している"アリスの子"なのだろうか…?
天馬と同様、翼の中では信じたい相手に対して理不尽な疑いを向けてしまっていることに、苦悩を感じずにはいられなかった。

ミーティングが終わり一同が解散した後、翼は一人天馬がいる店の奥の事務所へと足を運んでいだ。

「社長、翼です」
「おう、入れ」
「失礼します」
翼はドアを開け、事務所の中へと入っていく。

「お疲れ様です」
「今回ばっかりは、俺も頭を悩ませたよ。店の責任者として、あれは正しかったのかってな」
「えぇ。あ、美空ちゃんのこと伏せてくれて、ありがとうございました」
「なぁに言ってんだ。あの子は何も悪くないし、女性のプライバシーを守るのは尚更当然のことだろう」

疲れていても、女性への気遣いは絶対に忘れない……天馬のそういったところに、翼はあらためて感心をしていた。
しかし、それにより翼が天馬に今話そうか迷っていた羽月の正体を留める結果となった。
羽月の正体を言えば、愛菜の正体から彼女の辛い生い立ちまでをもいずれ口にしてしまうことになる。

彼女のプライバシーを考えてか、翼はそれらのことを胸の内に留めておこうと考えていた。


『それにしても……愛菜は一体どうしたんだろう?』
美空のところで別れて以来音信不通になっている愛菜への気掛かりが、翼の中での一抹の不安を時間とともに膨らませていった。



一方-

羽月はひとり大久保にある、とあるマンションの一室の前にいた。

「……」
羽月は無表情のまま、その一室のインターフォンのボタンを押す。
鳴り響く電子音とともに、その部屋のドアはすぐに開いた。

「よう」
部屋のドアから顔を出したのは光星だった。

「光星さん、お疲れ様です……」
「入れや、羽月」
「はい……失礼しますぅ」
羽月は、小さな声でそうつぶやきながら光星が導くその部屋の中へと入っていった。



「ちきしょぉぉおっ!!」
光星は異常なほど荒れた口調で声を上げながら、床にあるごみ箱を蹴り飛ばした。

「ちきしょぉちきしょぉちきしょぉ~何で俺がこんな惨めな思いしなくちゃなんねんだ~!!」
「光星さん、落ち着いて」
「おい羽月!」
「はい……」
「これが落ち着いていられっと思うかぁ!?翼の野郎に抜かれただけでなく由宇にまで抜かれて……そのうえお前にまで抜かれるって、全員のいる前であそこまではっきり聖さんに言われたんだぞゴラァ……」
光星は、右手に持つウィスキーのボトルの注ぎ口を度々口に運んでは、呂律の回らない口調で言い散らした。

24-2

 
すると光星は、別室のドアをギョロリと横目で睨み据える。

「こんなときは……ウサ晴らししねぇとなぁ」

フーフー息を荒げながら、光星は別室のある方へとズカズカ歩いていく。
その様子を見ている羽月は、目をつむりながら苦しそうに顔を背けた。


『もうやめたってくれ……』

羽月は心の中で力なくそうつぶやいた。
しかしその願いは届かないのか、彼の中で悪夢とも言えるその光景は、別室の中で再び再現されようとしていた。



「イヤ……やめて……」

僅かに開いた別室のドアの向こうから、か細いまでの一人の女性の声が力無く羽月の耳に突き刺さる。

「イヤ……」
「イヤじゃねぇんだよ、黙れこのホスト狂いが。おい羽月聞こえるか!?お前も来い!」
光星の言われるがまま、羽月は声のする別室へと向かってゆっくり足を運んだ。

一歩……また一歩が、今の彼にはあまりにも重く感じられた。


「……」
無言でその部屋の中へと入る羽月の視界に映ったのは-



羽月は再び顔を背けた。

常夜灯で薄暗く照らされた部屋の中、セミダブルサイズのベッドの上では一人の全裸の女性が既に半裸になった光星の身体に覆いかぶられていた。

彼女の両腕はロープで拘束され、衣服や下着は部屋中に散乱するように無残なまでに落ちていた。

ぐしゃぐしゃに乱された巻き髪・色白く華奢なまでも豊満さを見せる抜群のスタイル……
そして、涙を流しながら虚ろにどこかを見つめるその女性は、数日前に突然音信不通となっていた愛菜だった。



「やめて光星……」
「あぁ!?気安く呼び捨てすんじゃねぇ!!」
光星は、涙で濡れる愛菜の頬を強く叩いた。
それに伴い、「バシッ」という強い音が部屋に響く。

「何で、何でこんなことするの……」
力無く言葉を漏らす全裸の愛菜を見て、光星はニヤリとしながら答える。

「愛菜さんよぉ……あんたがそんなことを聞く必要はないんだよォ!」
光星はそう叫びながら、露になっている愛菜の乳房を右手で強く掴んだ。
「痛いっ!やめてお願い……」
愛菜の言葉も虚しく、光星はその手を彼女の下半身の方へと移した。

「はっ……何だよこのアマ。やっぱり相手が翼の野郎じゃねぇとあんまし濡れねぇってかよ」
光星のまさぐる手の強さは、次第に強くなっていった。

「やめて……やめてぇ……」
「まぁしかしよぉ……性格はともかく、さすがカリスマキャバ嬢……いい身体だぜ」
光星は揺れる愛菜の乳房をベロリと舐め上げると、直ぐさま自らの下半身を彼女のそれへと沈めた。

「ヤッ……イヤぁぁぁ……!」
「いい声だな愛菜よぉ~!」
酒で酔ってままならない動きの光星が相手でも、腕を拘束され身動きがとれない愛菜は、なされるがまま貪りつくされていった。

そんな鬼畜のような残虐極まりない光景を、羽月はうつむきながら黙っていた。










数分後-

愛菜を相手に行為を終えた光星は、ベッドに座り込みながら煙草を吸っていた。
その脇で、光星の唾液などの液体にまみれた全裸の愛菜は、バンザイをしているかのような仰向け姿で虚ろな瞳を天井へと向けていた。

「……」

愛菜は、何も言うことなく微動だにすることもなかった。
ただ、弱々しく息を切らせ、無理矢理ほてらされた身体の熱を冷ませるのに努めていた。


「はぁ~今日もいい味だったぜ。オイ羽月!てめーちゃんといるのかよ!」
「……はい」
下品に言い散らすように声を上げる光星に、羽月は小さく返事をする。

「あー気持ちいいぜ。この女の身体は病み付きだなオイ」
「……」
「羽月聞いてんのか!?」
「聞いてます……」
「おい、お前もイケよ」
「……はっ?」

羽月は自分の耳を疑った。
しかし、光星はすぐに口を開いた。

「お前もそのアマでイケっつったんだよ」
「な、何やて……」
「お前、この女好きなんだろ?だったら今のうちにヤッとけよ」
「そっ、光星さん……!」

意識が朦朧としながらも二人の会話を耳にしていた愛菜は、チラリと羽月のことを見た。


『羽月くんが……あたしを……?』

愛菜のそんな思いをよそに、彼らの会話は続いた。


「これは俺からの絶対命令ってやつだ。やれ羽月」
「そ、そんな」
羽月はチラリとベッドの上の愛菜に視線を向けると、彼女と目が合った瞬間すぐ背けた。

「で……」
「あっ?何だ?」
「できへんそんなこと……」
「あぁ!?」
「光星さん、もうやめてやこんなこと」
羽月は、普段の明るさを全て押し殺したような声で光星に言った。
だが、起き上がった光星はその言葉を受け入れるどころか、恐ろしく歪んだ表情で羽月のもとに近づいた。
そして、羽月の襟首を掴み、ギロリと彼の顔を睨んだ。


「羽月よぉ……俺ぁ言ったよなぁ?逆らったらばらすってよ、お前の正体が-」
「光星さんっ!」
「星羽会の生き残りだってなぁ!!」
光星がそう言い放ったとき、愛菜は目を大きく見開いた。

「羽月くんが星羽会の……?…本当に……??」
愛菜がそうつぶやいた瞬間、光星はニヤリとしながら愛菜に言った。

「そうさ、こいつ……羽月は今"アリス"騒動で有名な星羽会ってあぶねー宗教の生き残りなんだよ!愛菜さん、あんたと同じでな!」

光星のその言葉を聞いた瞬間、羽月は目を円くして二人を見比べた。

「何やて?愛菜さんが……星羽会の……!?」
「そうさ羽月!あの女にもそうゆう生い立ちがあんのさ!」
「光星さん……何で、何でそのことを知ってるんや?」
「それはな……これよ」
光星は、透明な液体が入った一つの小ビンを取り出した。

「何やそれ?」
羽月が問いかけると、光星は狂ったような笑みを浮かべながら答えた。


「今流行りの……"St.Alice"ってやつさ!」
「なっ!」
「……!」
それを聞いた羽月と愛菜は、一瞬で表情を蒼白色へと変えた。

「光星さんそれは!」
「ちょっといただいたのさ……"アリスの子"て謎の人物に。おかげでいい気分だぜ」
「そ、そんな……」
羽月は、恐ろしい悪魔でも見るような目で光星を見た。
彼の口調や目付きが普段と比べて尋常ではないことは薄々と気付いていたものの、彼の心はありえないような恐怖に徐々に襲われ始めていた。


「羽月、あの女をヤれ!」
「い、嫌や……。やっぱりこんなの-」
その時、光星の拳は直ぐさま羽月の顔面を鈍い音とともに捉えていた。


「うがっ!」
声を上げると同時に、羽月は部屋の床にバタンと倒れ込む。

「羽月くんっ!やめて光星……!」
愛菜は小さい声で叫ぶも、もはや狂い始めた光星の耳には届いていなかった。


「羽月、ヤれ」
ドスを効かせた光星の声の前に、羽月はゆっくりと立ち上がった。

「嫌や……」
「あっ?」
「俺、自分のことばらされんのが怖くて怖くて、ずっと光星さんの言うこと聞いとったけど……それだけは嫌や」
「羽月」
「愛菜さんが目の前でこんなになっとるのに何もせんと見とった俺が今更言うことちゃうけど……俺、やっぱり愛菜さんも翼くんも大切やから、それは……」

羽月がそう言うと、うっすら目付きを細めた光星が彼にゆっくり……ゆっくり歩み寄る。

「うがぁっ!」
光星が羽月のみぞおちや顔を踏み蹴り始める。
その度に、羽月の痛みに充ちた悲鳴が部屋中に響き渡る。

「俺に逆らう気か羽月よぉ!星羽会の生き残りのくせによぉ!」
光星は止まることなく、倒れる羽月を蹴り続けた。

しかしその時だった。



「やめてっ!」



愛菜が最後の力を振り絞ったかのように、悲痛な叫びをぶつけた。

「お願い……やめて。私ならいいから……羽月くんともするから……お願い、彼をいたぶるのは、もうやめて……!」
愛菜は涙を流しながら光星に訴えかけた。
光星も蹴る足を止め、長い髪の毛を掻き分けながら細い目で彼女を見ている。

「ゲホッ……ゲホッ……」
口から少量の吐血をしながら、羽月はよろりと倒れた身体の上体のみを起こした。

「愛菜……さん」
「羽月くん、私を抱きなさい……」
「でも……」
「光星、言うこと聞くから……これ以上彼をいたぶるのはやめて……」
力無い愛菜の言葉に、光星はニヤリと笑った。
「じゃあわかったな、ヤれ羽月!」

 


10分後-

光星に服を剥ぎ取られた羽月は、涙を流しながらその裸の長身の正面をベッドの上の愛菜へと向けていた。


向かい合う裸の愛菜も、その瞳から涙を溢れさせながら彼のことを受け入れた。



ただ無言で互いの身体を絡め合う二人は、



互いが十年前に生き別れた肉親だとは知ることもなく



虚しく傷つけ合うだけの行為を、その身体で繰り返した。



その光景を、光星は酒を浴びながら、心行くまでの醜い笑いを上げながら観賞に浸り続けた。



そんなあまりにも狂いすぎた夜の宴は、



互いの涙で身体を濡らす、果てた裸の姉弟の倒れた姿で終焉を迎えた。










『愛菜サン、翼クン……ホンマニ……ゴメンナサイ……』





                                                  第25章へ