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23.対峙

23-1

 
翌朝、翼は目覚めた。

ジャケットすらまだ羽織り、壁に寄り掛かり座ったまま寝ていたことに薄々と気付き始めていた彼には、真っ白な一枚の毛布がかけられていた。


『そうか、俺はあのまんまここで……』


泣き付く美空をあやしてる内にいつの間にか寝ていたことをようやく意識した翼は、今いる部屋に美空の姿がないことに気が付く。

「美空ちゃん、どこに?」
翼はまだ眠気の残る目を擦り、重く感じる身体をゆっくりと立ち上がらせた。
周りを見渡すとが人の気配は無く、カーテンの隙間から零れる日の光だけが部屋の中をわずかに照らしている。

「ん?」

その時、彼の嗅覚を温かみのある香ばしさがふんわりと刺激する。

「一階の方からか」
翼はそのほのかな匂いを辿るように、ゆっくりと一階への階段をおりていった。



「あっ」
階段をおりきると、翼はハッとした。
そこには、昨日とは違う私服に着替え、その上にエプロンを纏っていた美空の姿があった。
彼女は、キッチンを目の前にテキパキと調理をしていたのだった。


「美空ちゃん」
翼が声をかけると、美空は彼の姿に気付きペコリと頭を下げる。

『オハヨウゴザイマス、翼サン。狭イ所デスガ、眠レマシタカ?』
美空が手話でそう言うと、翼はコクリとうなずく。

「気付いたらすっかり寝ちゃってたよ。毛布、かけてくれたんだね、ありがとう」
『イイエ』
「こんな朝早く、料理作ってるのかい?」
『朝ゴハンデス。タイシタモノハナイデスケド、ヨカッタラ翼サンニ食ベテ欲シクテ』
「朝ごはん、俺に?」

美空は顔をほんのり赤らめながらうなずくと、それ以上は何も言わなかった。

「じゃあ…いただいちゃおうかな。よく考えたら、昨夜何も食べてないからお腹減ったし!」
翼が笑いながらそう言うと、美空はそのつぶらな瞳を大きくしながらペコペコと頭を下げる。

『ゴメンナサイ!私ノセイデ翼サンニマデ迷惑カケチャッテ』
「いいってそんな、俺だって昨夜はそれどこじゃなかったし……美空ちゃんが今元気なら、それでいいよ」
『翼サン……』
「さっ、美空ちゃんも一緒に食べよ。二階まで味噌汁のいい匂いがしてきたから楽しみだよ」

翼がそう言うと、美空は泣きそうな顔を柔らかい笑顔へと変える。
そんな彼女の表情が、今の翼にどこか懐かしい感覚を与えていた。


「いただきますっ」
翼は手を合わせながらそう言うと、早速お椀の中の味噌汁を口に運んだ。

「はぁ~……」
翼のため息に近い声に、テーブルの向かいにいる美空は緊張の面持ちを示す。

『ドウカ、シマシタカ?』
「あーいや…すっごい落ち着くなぁと思って、美空ちゃんが作った味噌汁」
『……??』
「すっごい美味しいよ」
翼がそう言うと、美空は満面の笑みを零した。

『嬉シイ、翼サンニソウ言ッテモラッテ』
「いや、美空ちゃんホントに上手だよ料理」
熱々の豆腐の味噌汁に、焼鮭・おひたしなどのオーソドックスな和朝食を、翼は美味しそうに頬張っていった。
そんな彼の姿が、美空には嬉しくてたまらなかった。

『!』
その時美空は、突然店のキッチンへと向かっていった。
すると、彼女は何かの料理を乗せた一皿を持ってすぐに戻ってきた。

「美空ちゃん、どうした?」
『コレ、ヨカッタラ味見シテミテ下サイ』
美空が持ってきた小皿には、一つの小さなロールキャベツの姿があった。

「ロールキャベツ……これも、美空ちゃんが?」
『オ母サン程上手クナイケド…ゼヒ翼サンニ食ベテ欲シクテ』
美空の手話を一通り見終わると、翼は小皿にあるそれをじっと見つめた。


『ロールキャベツ……。オフクロも得意げによく作ってたっけな』


翼は箸を止めながら、神妙な顔つきでそれをただ見続けていた。

『翼サン……?』
「あっ……」
『ロールキャベツ、嫌イデシタカ?』
「あ、うぅん。いただきます」
翼は気を取り直して、ロールキャベツに箸をつけた。
箸で摘んで簡単にふわりと割れたそれからは、優しいコンソメの香りがふんわりと舞う。
翼は箸でかけらをひと摘みすると、それを口へと運んだ。


『オフクロのに……似てる』


翼は心の中でそうつぶやいた。

「美味しい。美味しいよ美空ちゃん」
翼が顔を上げ美空を見ながらそう言うと、彼女はニッコリとほほ笑んでいた。

 
 

30分後-

朝食を終えた翼と美空は、食後がてらの茶をたしなんでいた。


「ごちそうさまでした。ありがとう美空ちゃん」
『イイエ、コチラコソ。翼サン、昨日ハ……』
「んっ?」
『昨日ハ、ホントスイマセンデシタ。愛菜サンモ一緒ダッタノニ』
「いや、気にしないでいいよ。愛菜もそこんとこはわかってくれるさ」
『マタ来テクダサイネ。今度ハ羽月サンモ一緒ニ』
「あ、あぁ。じゃあ、俺はそろそろ行くね」


翼が腰を上げて立ち上がると、美空はスッと彼の腕をつかんだ。


「美空ちゃん?」
華奢な手で翼の腕をつかむ彼女の表情は、不安さに充ちていた。

『……』

何も言わず、ただキュッと自分の腕を両手で握る彼女を見て、翼は口を開いた。

「美空ちゃん、何かあったらすぐに俺のケータイに連絡するんだ。仕事で出れないかもしれないけど、何かあったらすぐに知らせてくれよ」
『ソンナ……。私、翼サンノタメニ指名モデキナイノニ』
「そんなこといいから。とにかく、何かあったらすぐに言うんだ。いいね」

美空がうなずいたことを確認すると、翼はどこか安心したように彼女のもとを離れていった。


『アリガトウ、翼サン』


美空は手を振りながら去っていく翼の姿を、切なそうな表情で見送っていた。
そんな彼女の姿を、すぐそばにいたチョコは不思議そうに見つめていた。


『美空ちゃん……か。ごはん、おいしかったなぁ』


翼は心の中でふと彼女のことをつぶやいていた。


朝になってすっかり明るくなった歌舞伎町を翼は歩いていく。


そんな彼の目の届かないところに一足のヒールが落ちていることなど、もちろん眠気もある彼自身気付くはずもなかった-。





数日後-

翼は、美空とメールで連絡を取り合いながらも、【Club Pegasus】での仕事の毎日を順調に続けていた。
美空自身も少しずつ立ち直っていることに、彼自身もどこか安堵感に胸を撫で下ろしていた。


『美空ちゃんは、もう大丈夫だな。後でまた、お店に食事でも行ってみよう』


翼は店に向かう途中、ケータイを見ながら安心のため息をつく。
しかし彼には気掛かりなことが一つあった。


「愛菜……一体どうしたんだろう?」
翼は不思議そうに思わずつぶやいた。
先日の美空の家での件で先に帰っていってから、愛菜にいくら連絡をとっても、彼女からの連絡はそれ以降パッタリと途絶えていた。
愛菜の性格上、彼女が子供じみた嫉妬などで連絡を絶っているとは、翼はどうしても思えなかった。


『こんなに長く連絡が無いのは初めてだ』


翼はどこか妙な胸騒ぎを覚え始めていた。
そう考えているときに、彼の目の前にはもうすでに【Pegasus】のビルがあった。
エレベーターの前には、ドアが開くのを待っている一人の長身で金髪のホストの姿があった。


「羽月?」
翼は後ろ姿のそのホストに声をかける。
ホストはわずかに肩をビクッとさせながら、離れた後方にいるを翼のことをゆっくりと振り返った。

「翼くん……」
「やっぱり羽月だったか、おはよう」
「お……おはよう」
翼の挨拶に対して、羽月は今日もどこかよそよそしく応じる。
昨日今日で始まったことでないにしろ、翼にとって彼の急な態度の変化はやっぱり気になるものだった。
二人はそんな噛み合わない状態でエレベーターの中へと入っていく。


ドアが閉じて、店のある4Fへとたどり着くまでが、今の翼と羽月には妙に長く感じられた。

「……」
「……」

二人とも特に言葉を発しようとはしなかった。
羽月はもちろん、翼も相手が何らかの理由で今の自分をどこか拒否しているだろうことは、わかっていた。
気がつくとエレベーターのドアは開き、【Pegasus】の白を基調に彩られた綺麗なデザインのドアが姿を現す。


「羽月っ」
翼がとっとと店の中に入ろうとする羽月に声をかけた。
「……何や?」
羽月も振り向かずとも小声で反応する。

「君が最近俺に対して何でそんな感じなのか気になるけど、それが君の意思なら俺は何も言わない。ただ、一つ聞いてもいいか?」
翼がそう言うと、羽月はピタリと止まりながらもゆっくりとうなずく。

「どうしたんや、一体」
「こんなこと君に聞くこと自体違うんだろうが……愛菜のこと知らないか?」
「……」

翼がそう尋ねると、羽月は数秒ほど無言になった後に答えた。
「……知らんよ、俺は。てか何やねん、自分のお客ちゃうの?」
「あぁ。そうなんだけど、最近連絡が不自然なほどパッタリ途絶えてな。何かおかしいと思って。もしかしたら親しい羽月か社長なら知ってるんじゃないかって思ったんだけど」
「そんなん、水商売しとうたら珍しいことでも何でもないやん。何か愛菜さんに切られるようなことでもしてしまったんちゃうの!?」
羽月は、まるで言い捨てるかのようなきつい口調を翼にぶつけた。
そんな彼の態度に、翼は目をまるくして驚く。

「羽月……」
「自分がしでかしたミスを人のせいにするなんて、男として最低やで!てかな、こんなんがウチのNo.1やと思うと恥ずかしゅうてかなわんわ!お客の管理くらい、自分でちゃんとしいや!」
羽月はそう言い放つと、ドアを強引に開け店の中へとツカツカ入っていった。


『あいつ、一体どうしちゃったんだ……』


翼は店の奥に足速に消えていく羽月の後ろ姿を、ただ茫然と見つめていた。

「よう、No.1の翼クン」
「??」
立ちすくむ翼の後ろから、どこか謀ったように光星が姿を現した。

「光星さん」
「どうしたんだよ、こんな入り口の前でボーーーッとして?」
「別に、何でも」
「ふーんそうかぁ。何でもないならいいけど、No.1なんだからもっとしゃんとしてくださいよねぇ」
ニヤニヤしながら言い放つ光星に対し、翼はムッとするのを表情に出さないように努める。
しかし、翼もそれでは終わらなかった。

「そうですね……気をつけますよ。あ、でも光星さん」
「あっ??」
「人の心配したり後輩いびりに精を出すくらいなら、伸び悩んでるご自分の心配されたらどうですか?」
翼が冷静かつ鋭く言い放つと、光星は眉毛をピクリと吊り上げた。

「な、何だと……?」
「自分のこともままならない人に、余計なお世話はされたくないのでね。それじゃ」
翼は光星にそう言い放つと、プイッとその場から店の中へと入っていった。


『翼の野郎め……今に見てやがれ!』


光星は、彼の後ろ姿を目で追いながら、不敵な笑みを浮かべていた。

23-2

 
「今日も一日やるぞっ!!」
天馬のひと声で、今日も【Club Pegasus】の営業の狼煙は上がった。
ホスト達が各々散らばる中、翼は一人事務所へ向かう天馬のところへと足を運んだ。


「おう翼、どうした?」

「社長、変なことをお伺いしますが……」
「何だ、あらたまって?」
「社長のところに、愛菜から何か連絡はありませんか?」
「愛菜からの連絡?無いぞそんなのは。何かあったのか?」
「いえ、これといって。ただ、何日も応答がないのは珍しかったので」

翼が俯きながら答えると、天馬は彼の背中を軽く叩く。

「社長?」
「翼、お前は今うちのNo.1なんだ。ハッキリ言うが、それは自己管理の範囲だぞ?それはしっかりとやらないと、他の奴に示しがつかないだろう」
「はい、すみません。……でもそうなんですが-」
「愛菜は人気キャバクラ店のカリスマって言われ続けてるキャバ嬢だ。いつもお前やうちのことに構ってるほど暇でもないんだぞ。しばらく、様子を見てみろ」
「……はい。失礼します」
翼は、そう言いながら一礼すると天馬のもとから去っていった。


『愛菜からの連絡がない……??』


あのように翼に言い返したものの、天馬の中でも不思議と巻き起こる妙な胸騒ぎは止まることはなかった。
そんな時だった。

「♪♪♪♪♪~」

天馬のすぐ手元にある固定電話が、ひとつの着信を知らせる。

「もしもし、【Club Pegasus】ですが-」



一方-

翼たちホストは、今日も来客した女性たちに楽しく接していた。


「ねぇ~、翼くんは彼女いるのぉ?」
「いや、いませんよ。どうしてですか?」
「だってぇ、そんな綺麗な顔してて、しかもNo.1だったら女の子が放っておかないでしょぉ?」
「いえいえ、これがモテないんですよねぇ」
「嘘ばっかー。でも、好きな子くらいいるんでしょぉ?」
「好きな子ねぇ……さぁどうでしょっ!」
「何それ~気になるぅ~。最近の翼くん何かいぢわるだよぉ」
「あれ、美優ちゃんまだ飲み足りないねぇ」
「もぉーう☆」


No.1としての自覚も少しずつ出てきたのもあるのか、翼の接客もいつの間にかしっとりとした落ち着きを持つようになっていた。


「翼、ちょっと」
「はい。ごめん美優ちゃん、ちょっと出てくるね」
「ぶぅ~」
翼は美優に「ゴメン」と目で合図しながら、佐伯の指示通り席を立った。

「翼、あちらだ」
「はいっ」
「こないだ新規でいらした人みたいだが、今日はお一人でのご来店だ」
指示されたテーブルにいそいそと向かうと、そこには先日と負けず劣らずに肌を露出した紗恵の姿があった。

「紗恵……!」
「一也……ゴメンね、あの-」
紗恵がそう言うと、翼は改まったようにペコリと頭を下げる。

「御指名下さってありがとうございます。お隣り失礼します」
翼は冷静にそう言うと、ソファに座る紗恵の隣に腰をおろした。

「お飲みものは?」
「ウーロン割りで……」
「わかりました」

翼は、至って冷静に紗恵のドリンクを作っていく。
そんな中、紗恵はただ切なそうにうつむくだけだった。


「乾杯っ!」

翼の合図で、二人はドリンクの入ったグラスを交わす。
お互い一度ずつ口にすると、すぐにテーブルにグラスを置く。

「一也、あのねっ」
「お煙草、失礼してもいいですか?」
「煙草って……あなた、一本も吸えないって……」
「失礼します」
そう言って翼は、自らくわえた煙草にそっと火を燈した。

「明菜さん、でしたよね?この間から僕にこだわっているみたいですが?」
「今は二人だけなんだから、それはやめて」
「……」
翼はもう一度煙草をくわえ煙をふくと、改まったように脚を組み替えた。


「どうしたんだよ。こんなところまで」
「あのね……私、あなたに謝りたくて-」
「もういいよ、すでに終わったことだし……」
「一也……」
「それより、あれからどうしてたんだ?今は風俗か何かで働いているみたいだが」
「気付いてたのね…」
「今の君と、こないだのお連れさんの様子や会話を見てればだいたいわかるさ。それに-」

翼は胸ポケットからあるものを取り出した。

「これ……前に俺の知り合いのとこで拾ったんだが」
翼は、一枚の社員IDらしきものを紗恵に見せた。
そこには"㈱アサカワカンパニー総務人事部・林"と書かれていた。

「……!」
「それとな」
社員IDケースからは、

"ソープランド・Pink-Princess明菜"

と書かれた一枚のピンク色の名刺が顔をのぞかせていた。

「それ……!」
紗恵は顔を真っ青にした。

「まさか今紗恵が風俗の仕事をして、その客がまさかあの会社の社員……とはな。あのオヤジ、どこかで見覚えがある顔だと思ったんだ」
「……」
「紗恵も……変わったんだな」
翼は、冷静ながらもどこか寂しそうにつぶやいた。

「そうよ、私も変わった。一也も変わった。みんな変わった。お金や権力が、色んなものを変えちゃったのよね」
「……」
切なそうにつぶやく紗恵に対し、翼は押し黙っていた。


「翼さん、そろそろ」
「あぁ、わかった。……じゃあ、俺行かなきゃ」
「うん……。私もすぐに帰るよ」
「悪いな、来てくれたのに」
「ううん。あ、一也」
「何だ?」
「ホスト、いつまで続けるの?」
「……さぁな」
翼は背中越しにそう言うと、すぐに紗恵の元から歩き去っていった。


『あたしがこんなになっちゃったように……あの時の素直で元気な一也は、もういないんだね』

紗恵の頬を伝う一筋の涙が、去っていく翼の背中を陽炎のように滲ませていた。
 
 


「お疲れ様っしたぁ!!!」

【Club Pegasus】は、盛況のまま今日の営業を終えた。
しかし、店中のホスト達の中心に立つ天馬の表情は、いつになく険しいものだった。


「社長、何かあったのか?」
「さぁ。でも、何かすげーキレてる感じだよな」

ホスト達がざわつく中、そこに佐伯もやってくる。


「みんな静かに。今から社長から大事な話がある。社長、ではお願いします」

佐伯に促され、天馬はひと呼吸おいた後、意を決したように口を開いた。


「こんなことは、俺の口からはみんなに言いたくないんだが……あえて言わせてもらう。知ってる奴もいるかもしれんが、今歌舞伎町の一部で、ある恐ろしい薬が流れている。それが原因で、俺や翔悟が前にいた【Unicornis】は摘発された」

天馬の言葉に、店のホストたちはざわめき始める。


『"St.Alice"のことだ……!』


翼がそう確信する中、天馬は続けた。

「何で今この話をみんなの前でするかと言うとな……」
天馬は一度ため息をつき先を続けた。

「今日……流輝のポケットから、ソレが見つかったからだ」
「なっ!?そういえば、流輝のやついねぇや」
「まさか流輝が……。そうなんですか社長!?」
「落ち着けっ!!流輝は今のところ謹慎をさせているが、薬物をやった形跡はない。以前一度噂に持ち上がったこともあることだが……」
天馬は抑えた怒りをその瞳に表してはさらに続けた。

「流輝の件でハッキリした。この店の人間の中に、薬を流している犯人がいるってことだ」

「何だって!?社長……それって」
翔悟が驚愕した表情で言葉を漏らした。

「マジかよ……!?」
「そんな……」
光星に由宇も、その事実に対して驚きを隠せずにいた。


「こんな風にみんなを疑うようなことは言いたくなかった。だが、流輝のロッカーにあった服にそれを出来るのは、俺達の中の誰かしかいない」
苦渋に充ちた天馬の表情に、事情を深く知る翼の胸の内は、こらえきれない想いで押し潰されそうだった。

しかし、その時だった。

「ようっ」

エントランスの方から、一人の聞き慣れない男の声がする。
全員がそこを振り返ると、そこには高級スーツを見事なまでに綺麗に着こなしている一人のホストの姿があった。


「聖!」
「聖さん……??」
天馬と翔悟、そして光星・由宇までもが、聖と呼ばれたその人物の姿を見て驚きの表情を見せる。

「取り込み中に悪いな、天馬」
「聖、お前何しに来た?」
「何しにって、そんな恐い顔すんなよ天馬。さて」
"聖"と呼ばれた男は、周りを見渡し、その視界の焦点をNo.1の席に座る翼にあてた。
そして、ゆっくりと翼のもとへと近づいていく。
翼も、そして違う角度から見ている羽月も、その彼がただ者ではないことは雰囲気で感じ取っていた。


「なぁ、あの人って誰だ?社長にタメ口だけど」
「バカ、知らないのか?あの人は【Unicornis】の"天城 聖<テンジョウ ヒジリ>"。【Unicornis】の不動のNo.1で、現役時代の天馬さんと唯一No.1を張り合ってた天才ホストだよ!」
「社長と張り合ってた!?そんな人がどうして……」

そんな中、聖はピタリと翼の前で足を止める。
すると、ニヤリと笑いながら口を開いた。

「君がNo.1の翼クンかい?」
「はい。あなたは?」
「俺は【Unicornis】の聖……天城 聖だ。よろしく」
そう言って、聖は翼に右手を差し出した。


「翼です、よろしくお願いします」
それに応えるように、翼も立ち上がって右手を差し出すと、二人は握手を交わしながら視線をぶつけ合った。










翼と聖……



No.1ホスト同士がついに対峙したこの瞬間が、



今から始まる激しい戦いの末のあの悲しい結末に続く入り口だとは、この時誰も思わなかった。





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