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ムーンライトチャイルド

 クリスマスイブが近付き、6才になる息子はずいぶん張り切っていた。息子には好きな女の子がいて、イブの日にはその子と一緒に遊ぶことになっていたのだ。女の子は病気のために保育園や幼稚園に通うことができず、小学校も今の段階では通えないだろうと判断されていた。そんな女の子と息子が知り合ったのは、私がその子の親と親しい友人関係にあったからだ。病気のために友達がいないその子のために、私は同じ年齢ということもあり、息子をよく連れて遊びに行っていた。息子は眠いのを我慢して、女の子と一緒に夜の公園で遊ぶ。私は友人と共にその様子を眺め、「こう見てる分には普通の無邪気な子供なの

にね」とよくつぶやく。

 

 ムーンライトチャイルド。

  

  アメリカの方ではこう呼ぶことがある。色素性乾皮症と、女の子は診断され ていた。この病気は紫外線を肌に受けると、破壊されたDNAを修復すること ができず、小さな水ぶくれや赤い斑点ができてしまう。太陽光に当たるだけで 火傷を負う、というのが分かりやすいだろうか。酷くなると皮膚に悪性の腫瘍

ができることもある。太陽の下に身をさらせない不幸な病気なのだ。女の子は 快復の見通しもたっていず、親である友人は、アメリカにあるこの病気の有志 団体に相談しようと考えている、と言っていた。

 

 息子はおもちゃ売り場で女の子へのプレゼントを一生懸命選んでいた。しかし目線がいくのは男の子向けのおもちゃ。仕方がないので私はぬいぐるみのコーナーに行き、その中から選ばせることにした。 結局息子が選んだのは恐竜のぬいぐるみだった。クマやネコはどうかと促したが、どうしてもこれだと利かなかった。息子には厳しく躾ているので、あまり私に反抗することもなく、普段は素直にいうことを利くのだけれど、今日は頑なな息子の視線に負けた。

 

 クリスマスイブの夜、私は妻と息子を連れて、友人の家へ行った。友人は温かく迎えてくれた。息子はプレゼントを抱き、私の足に寄り添うようにして立っている。表情が硬く緊張している。夜気にあたったせいもあるが、顔がりんごのように赤い。 応接間に通されると、テーブルにオードブルとシャンパンが用意されていた。私たちはそれを囲い座ると、女の子がとたとたと入ってきた。色白の、ほっそりとした子。6才なのに母親より色っぽく感じるのは、病弱なイメージによるものからかも知れない。 私たちは夕食を共にして、歓談を楽しんだ。息子のぬいぐるみのプレゼントも、女の子は喜んで貰ってくれた。料理を一通り食べ終わると、友人の奥さんはケーキを用意した。それをみんなで分けて食べる。こんな時間がずっと続くといいね、と私が言うと、続かないから貴重なんだよ、と友人が言った。

 

 ケーキを食べ終わると、私は息子たちを連れて近所の公園へ行った。妻が面倒を見るわよ、と言ってくれたが、私はどうしても二人を見守ってあげたかったので断った。 冬の空の下、子供たちは寒さを忘れたようにはしゃぎまわっている。私はベンチに腰を下ろし、白い息を吐いて綺麗な月を眺めていた。月の光は、太陽の光を反射させて光っている。その月明かりの下なら、女の子の体は紫外線に冒されることなく、普通の子供としてはしゃいでいられる。優し

い光。この子が普通の子でいられるように、私たちもそんな優しさで接してあげないといけないのだろうな。そうでないと、すぐに、簡単にこの子は傷ついてしまうだろう。息子にしてもそうだ。現実という厳しく冷たいものに、直接触れるとすぐに怪我をしてしまう。私はその厳しさに耐えれるようになるまで、現実を和らげる存在でないといけないのかもな。

 息子と女の子はブランコに乗って笑い声を上げている。無邪気な姿を見ていると、自分が考えていたことが、妙に恥ずかしく感じられた。何も難しくことを考えなくてもいい。あんなに楽しそうに遊んでいる。それで今は充分じゃないか。 息子と女の子の楽しい時間は、友人がいうようにずっと続かないだろう。だからこそ、そんな時間が貴重なんだろうな。

 ちらちらと、小さな雪がまばらに降ってきた。すっ、と音が消えたように感じる。ぶらんこに乗りながら、雪に興奮する息子たちの声が届いた。雪は数分でやんだ。「そろそろ帰ろうか」私は息子たちに声を掛けた。

「あと、もう少しだけ!」

 すべり台の上から大きな声で応える息子の声を聞き、私は「もう少しだけだよ!」と返した。

 もう少しだけ、貴重な時間を大切に過ごしなさいね。もう少しだけ、もう少しだけ。

 

 

                                  了


この本の内容は以上です。


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