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「ねぇ、翼」
「なに?」
「いいの?さっきの女の子、なんか翼のこと言ってたみたいだけど。お店でちょっと見かけたけど、あの人今日お客さんで来てたよね?」
「さぁ。俺だって今日初めて会ったさ。かなり飲んでたし、きっと酔った上での人違いなんだろ」
「でも、さっき"一也"って-」
「さぁっ、行こうぜ!」
「ちょっと、翼ぁ」
翼はどこかごまかすかのように、愛菜の手を半ば強引に引いていった。





数分後-

翼と愛菜は、"楓"の前へと到着した。
すると、柴犬のチョコが尻尾を振りながら二人を迎える。

「ようチョコ。美空ちゃんはいるか?」
翼がチョコの頭を撫でていると、店の引き戸が突然強い音をたてて開いた。
翼と愛菜・チョコは、それにすぐに反応する。

「なんだ?」
すると、"楓"の店の中から一人の酔っ払ったサラリーマン風の男が出てきた。

「ったくよぉ~!こんなガキンチョがいたってよぉ、ママがいなきゃしょーがねーんだよぉ!ったく、こんなんでサラリーマンが飲めるかぁ!」
酔っ払っている男はフラフラになりながら、独り言のように喚いている。
そこに、慌てた顔をした美空がでてきた。
すると、彼女は"お会計してください"と書いた紙を男に必死で提示していた。
すると男は、その真っ赤になった顔を引き攣らせ、目の前にいる美空を突き飛ばした。
彼女が無言で地面に倒れたのを見ると、男はニヤニヤしながら近寄った。

「お嬢ちゃん、おじさんたちをなめちゃだめだよぉ~。ちゃんと声を出してハッキリ言わないと……ねぇ。じゃないとお金払ってあげないよ~んっと!」

「ちょっ、何よあいつ!翼……あれっ?」
愛菜が男に対し怒りを示していたとき、すでに彼女のそばにいるはずの翼はいなかった。
気付いたときには、翼は男の腕をねじ曲げて組み伏せていた。

「イテテテテっ!おい、何すんだこのホスト野郎!!」
「何してんだはこっちのセリフだ。お前、この女の子に何をしてた?」
翼が鋭い目付きで睨み据えると、男は一瞬にして萎縮した。

「いやっ、俺はそのよ……ちょっと酔っ払っちまったから……だいたい、この女しゃべらねぇし何のおもしろいサービスもしやがらねぇからよぉ」
「それで無銭飲食か?だったらそうゆうサービスの店に行けばいいだろう!それに、この子は言葉が話せないのに必死で一人で店やってんだ。お前みたいなむさ苦しいクソリーマンがふざけたこと言うな!」
翼は大声でそう言い放つと、男を強く突き飛ばした。

「うがっ!このホストごときが……」
「おぅ、なんなら店来るか?いつでも話し相手になってやるよ」
「うっ……くっ、くそっ!」
男は千円札3枚を地面に置き捨てると、フラフラな足取りでそこからいなくなった。
「ったく」
翼は男を睨みながら軽いため息をつく。

「美空ちゃん!大丈夫?」
愛菜が倒れているところを抱き起こすと、美空は震えながら何度もうなずいた。
「サイテーなオヤジね!言葉が話せないとかエロいサービスが無いからお会計しないなんて!」
「まったくだな。美空ちゃん、怪我はないか?」
翼が声をかけると、美空は二人に「ありがとう」と手話をした。

「ありがとう、かな」
愛菜はそうつぶやいた。
「愛菜、今の手話わかったの?」
「何となくね、一緒にいるうちにちょっと覚えたの」
それを聞いてか、美空は笑顔を取り戻して、ペコリと頭を下げる。

「さっ、何か食べよ。私お腹空いちゃって。って、翼どうしたの?」
「あ、さっきのオヤジ、慌ててたのか社員証みたいなの落としてったみたいでさ」
手にとった社員証をのぞいてみると、翼の目は再び鋭くなった。

「……こいつ……」
「翼、さっきからどうしたの?」
「いや、何でもない。後で警察にでも届けとくよ、コレ」
翼はそう言って、社員証を胸ポケットへとしまい込んだ。



翼と愛菜は、"楓"の店内に入りカウンター席へと腰をおろした。

「美空ちゃん、大丈夫?」
愛菜がカウンターごしにそうたずねると、美空はゆっくりとうなずいた。

「しかし、酔ってたとはいえ言葉が話せないことを罵るなんて、人としてサイテーよね!」
「あぁ。でも間一髪逃げられないでよかったよ」
愛菜と翼がそう言うと、美空はカウンターごしにおしぼりを手渡そうとしたその時だった。
翼たちの視界から、フッと美空の姿が消えるとともに「ガタン」という鈍い音が鳴り響く。

「……美空ちゃん?」
翼は不思議に思い、立ち上がってカウンターごしの厨房を覗き込んだ。
すると、そこには弱々しく息を切らせながら倒れている美空の姿があった。

「美空ちゃん!」
翼は慌てふためきながら、厨房に入っていった。





約2時間後-

布団の中で目を覚ました美空は、見慣れた部屋の天井を見上げていた。
「……?」
「美空ちゃん、気がついたか?」
彼女の目の前には翼と愛菜の姿があった。

「大丈夫?会ったときから何となく顔色優れないとは思ってたけど……。悪いと思ったけど、おうちに上がらせてもらったよ」
愛菜がそうたずねると、美空はゆっくりと手を宙に浮かべた。

『スミマセン。セッカク来テイタダイタノニ迷惑ヲカケテシマイマシテ……』
「翼、何て?」
「迷惑かけてすみませんって。そんなことないよ、美空ちゃんがそんな気を遣う必要なんてないよ。それに……」
翼は、横を振り返る。
そこには、美空の母・楓の優しい笑顔の遺影が飾ってあった。

「お母さん亡くなって、一人でずっとやってきたんだろ?疲れたんだよきっと」
『デモ、オ店ガ……』
「さっき俺が閉店の表示にしてきた。今日はもう心配せずに、ゆっくり休んで…。なっ?」
翼が美空の頭を撫でながらそう言うと、美空は瞳にいっぱいの涙を浮かべた。










張り詰めていたものがスッと切れたのか、










美空は起き上がり、翼の肩に抱き着いた。










「美空ちゃん……」

声にならない小さすぎる泣き声を漏らしながら、美空は翼の肩で泣き崩れた。

「ヒッ……ヒック」としか言わない彼女の口から漏れる僅かな泣き声と弱々しく握る手の力が、彼女が母を亡くしてからのこのしばらくの間どれほど気を張り詰めていたかが、翼には痛いほど伝わってきていた。

「美空ちゃん大丈夫、大丈夫だから……」
翼は、泣きじゃくる美空の頭をポンポンと優しく宥めた。



『翼……』

そんな翼と美空の姿を、横にいる愛菜はただじっと見つめていた。


「翼……私、先に行くね」
「えっ、どうしたんだ?」
「今は美空ちゃんとても辛いんだから、今だけは美空ちゃんのそばについていてあげて?」
「愛菜」
「No.1ホストでしょ?店じゃないけど本当に困ってる女の子は助けてあげて。私からのお願い」
意外なほどの愛菜の冷静な言葉に、翼はコクリとうなずいた。


「じゃあ私行くから。あっ、美空ちゃん」
『……?』
「元気になったら、また美味しい煮付けつくってね☆」
愛菜がウインクしながら言うと、美空はその泣いた顔をゆっくりと笑顔にしていった。
愛菜もそれを見ると、笑顔で「じゃあね」と言い残してその場を後にした。



『愛菜、ごめんな。それとありがとう』

翼は心の中でそう囁いた。










「しょうがない、しょうがないよね……」
帰りがけ、愛菜は一人何かを自分に言い聞かせるようにそうつぶやいていた。

「でも……」
愛菜はぷくっと頬を膨らませた。



「翼の、ばか……」
愛菜はそう言って、夜の更けた街中を歩いていこうとしていた。


「うんっ?」

その時、ひとり歩いていた愛菜は、誰もいないはずの周囲に自分をつけてきているような人の気配を不気味なほど感じていた。



『だれかが、私についてきてる……??』



「そこにいるのはだれっ!?」

愛菜は必死で声を上げた。









その夜に起こった出来事が、










狂イキッタ運命ノ結末ヘノ引キ金トナッタ。





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lost wing~傷ついた愛の羽根~(Ⅲ)

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奥付



lost wing~傷ついた愛の羽根~(Ⅱ)

 
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著者 : Kai
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