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21.."St.Alice"

21-1


あれから天馬と別れ帰宅した翼は、ひとり煙草を片手に机の上のある一点を凝視していた。
その厳格な視線の先には、美空から渡された例の"手紙"が広げられた姿で置いてあった。



『……』



知ってしまった事実の重さに、翼はずっと口を開けないでいた。










約2時間前-

ショットバーにて、翼は隣にいる天馬の目の前で"手紙"を広げた。
ゆっくり、ゆっくりと、何か恐ろしいものが潜んでいるパンドラの箱でも開けるかのように、"手紙"の折り目を一つ一つ解いていった。


「ゴクッ……」


息を呑む音が聞こえるほど、翼と天馬の間はひどく静けさに覆われていた。
他に客もいないせいか、バーテンダーは不思議な様子で二人を見つつも、何か事情あると思い干渉してくることはなかった。
二人には、そんな気遣いがどこかありがたかった。


そして、3回にわたり折り込まれたそれは、ついにA4サイズほどの一枚の"手紙"となって姿を現した。
「何が書いてあるんだ」
翼と天馬は、それを手に取り、細かい文字でぎっしり記されたその内容を黙読し始めた。


『"霊薬"St.Aliceについての全貌』


◆199○年8月-


俺はついにつかんだ。
聖なる霊薬と言われ続けた"St.Alice(セント・アリス)"についての秘密。

世間の一部で蔓延していたこれは、何故"霊薬"と言われていたのか?
一体どこからきたのか?
一体誰が生み出したのか?一体誰が持ち込んだのか?
そして、一体どのようなものなのか?
俺はそれをついに突き止めた。

ふとどこからか涌いて出たかのように出現したこれが"霊薬"と言われてきた理由は-
これを作り出したのは、つい数ヶ月前に『消滅』と言われた、星母マザー・ミカエルをたたえる信教"星羽会"であることがわかった。

何故ここで星羽会なのか?
俺は疑問に思い、さらに星羽会をも調べ続けた。

わかったのは、St.Aliceの名前の由来が、元・星羽会代表【アリス・クレイアード】というどこかの国の女性の名前によること。

St.Aliceを作り出したのは、幹部信徒であり科学者・アリスの実弟【ルペス・クレイアード】博士。

この姉弟が何の目的でSt.Aliceを作り出したのか。
そして星羽会全体の狙いは何だったのか。
ここから書くことは、公にはなっていない恐るべき事実だ。










翼と天馬は、さらに先を読み進んだ。


◆星羽会は滅ぶ前に何をしようとしていたのか。
彼らは知っての通り、マザー・ミカエルの名のもとに暮らす平穏主義の教団だった。
しかしそれは表の顔に過ぎない。

一般信徒は、一般市民のそれと何も変わらないが、一部の一般信徒と幹部以上の者だけは違った。
その違いは、St.Aliceの製造から流通に携わっていた者達だ。

マザー・ミカエルという幻想の存在を盾に星羽会を創始したアリスとルペスの姉弟は、St.Aliceを使用したある恐ろしい計画をたてていた。



その名を、
"Mother-Project(マザー・プロジェクト)"。



"母の元に帰す"と定めたこの計画は、まずSt.Aliceのことを語らなければならない。

まずSt.Aliceとは、聖なる霊薬とは全く関係ないものということだけは確かだ。。
それどころか、その存在自体があまりにも恐ろしく危険であるのだ。
その効果は以下の通りだ。

・精神に大きな影響を及ぼす。
・身体の一部に障害をもたらす。
・体内の免疫を破壊し、疫病の悪化を著しく進行させる。

そして、ある意味もっとも恐ろしいのが

・体内の細胞分裂を異常に早める。


以上がSt.Aliceの効果だ。
これには、服用した量や年齢・性別・その他個人により症状や進行なども異なる。
しかし、遅かれ早かれ摂取した者に待っているのは、確実な「死」だけだ。

星羽会の連中は、こんな霊薬とは名ばかりの凶悪な殺人兵器を作り出し、世に蔓延させようとしていた。


このSt.Aliceで、日本を中心に行く行くは世界を死にいたらしめる-
アリス・クレイアードは、それを企んでいたのだろう。
その真っ先に標的にされたのが、金や薬物の蔓延がある新宿の歌舞伎町だった。
その中でうってつけのカモにされたのが、ホストクラブだった。
もちろん、経営していた俺の店も例外なくやられた。
店のホストの中に信徒の生き残りがいたんだ。
星羽会にとって、ホストクラブや風俗店というのは、自らのリスクを抑えて薬を広めるのにうってつけの媒体となっていたかもしれん。



俺は媒体にした奴を後日追い詰めた。
しかし、奴はさらなる別の手を打っていた。
俺の元常連客であることに目をつけたのか、恋人の楓の勤める店に行き、彼女にSt.Aliceをこっそり服用させたのだ。

何も知らないでそれを口にした楓は、今少しずつSt.Aliceによって蝕まれている。
俺は怒った。
そんな自分の怒りと止められなかった怒りに堪えられなかった。

俺はそいつをやっとの思いで探した。
しかし、そいつは何者かによって殺されていた。
恐らく、他の信徒の口封じか何かだろう。


俺は楓に付き添った。
今の所何もないが、明らかにSt.Aliceを服用した彼女に待つのは-


これ以上考えたくない。
しかし、俺がそれ以上に恐れているのは、St.Aliceが遺伝しないかということだ。
この時楓のお腹には、妊娠4ヶ月になる俺の子供が宿っていた。
楓でだけでなく、子供まで…そう考えただけで、俺は狂いそうだった。


このことを楓に言うべきか言わないべきか。
俺は散々迷った揚句、言わないことにした。
いや、言えなかった。
誰が好きこのんで、恋人や子供にあんな残酷な宣告ができるか。
しかし、いつかわかること-
それが俺には堪え難い苦痛だった。


きっと俺達の子供も、何かしらの"障害"を持ってしまうかもしれない。
しかし生まれてくる命に罪なんてない。
それを大切にしなければならない。

男の子なら『陸』、女の子なら『美空』
どちらが生まれてくるにしても、子供の未来は大切にしたい。
とにかく、無事に生まれてきてほしい……それだけだった。


俺はホストを、楓はホステスを引退し、いつか二人の夢だった小料理の店を開く。
それが、限られた命の中でも-




       -神代 麗王-












そこで手紙のメッセージは終わっていた。


「……」

「……」


翼と天馬は、しばらく何も言葉を発することはなかった。
ただ、手紙の主の意志をじっと考え続けていた。



「神代……麗王(レオ)」
天馬はポツリと呟いた。
「社長?この人」
「あぁ、
俺と苗字が同じってことな。神代麗王って人は、10年前に歌舞伎町にいたすごいカリスマホストの名前さ。俺はその人からあやかって、苗字に神代ってつけたんだ。まさか、その人がこんな手紙を残していたなんてな。しかも-」
「えぇ、あの美空ちゃんがその麗王さんの娘だったなんて……」
「きっと美空ちゃんは、母親から言われていたんだろうな。もしものときは、誰かにこれを渡せって」
「えぇ」
「しかし……この"St.Alice"ってのが、こんな恐ろしいものだったとはな」
天馬はそう言いながら手紙を手に取った。

「ん?」
天馬は何かに気がついた。

「社長、どうしたんですか?」
「翼、見ろ!まだ続きがあるぞ」

天馬が指さすところには、追伸と思われる文章が小さく書きなぐってあった。










追伸-

重大なことを二つ挙げておく。


今や星羽会の"使徒"とも言われる人間は、全てアリスとルペス姉弟はじめ、幹部以上の人間とその家族だ。
その目印となるものを書いておく。

これらの目印を持つ人間は、すべて"Mother-Element(マザー・エレメント)"と呼ばれる紋章のようなものを身体の一部に人工的に植え付けられている。
個人によりそれは異なるが、それらは鎖やロープのようなもので絡められた一本の羽根のような形をしている。

階級や性別によりその色や形は違うらしい。
これを身体に刻み込んでいる人間には注意せよ。



そしてもう一つ

下に挙げる大手企業が、St.Aliceの製造や流通に少なからず携わっている可能性がある。

①㈱アイル・コーポレーション
②㈱アサカワカンパニー
③㈱KK
④㈱ミュゼルバ
⑤㈱エレ・グローブ


これらの企業にも注意。
とにかく、St.Aliceは膨大な金が動くと同時に人一人を簡単に殺すことのできる恐ろしいものだ。

これを、早く伝えてくれ。









手紙の内容は一文字残すことにく、完全に終わった。


「とんでもない内容だったな。まるで映画か何かの世界みたいだ……」
天馬はため息をつきながら呟いた。
しかし、そのすぐ脇にいる翼は何かにとりつかれたかのように微動だにしなかった。

「あの美空って女の子がしゃべれないわけは、この"St.Alice"にあったんだな。麗王さんはこれを伝えたくて。なぁ、翼」
「……」
「おい、翼、どうした?」
「えっ?あっ……」
「どうした、顔が蒼いぞ?」
「いえっ、ちょっと現実離れした話だったのでつい……」
「そうか。そうだな、俺も驚いた。しかし、こんなもんが何故うちの店から。まさか、やっぱり店にいるのか?!"アリスの子"ってやつが…」
「アリスの子??」
「一部で噂になってる"St.Alice"を流してる人物の通称らしい。誰なんだ……そんなもんをうちで流してる奴は!」
「社長……」
翼には天馬の怒りに満ちた言葉は届いていたが、彼には答えることはできなかった。



『店に潜む星羽会の生き残り……"マザー・エレメント"……まさかあいつが……!』

翼は心の中で心あたりのあるその人物=羽月のことを、ハッとしながら思い浮かべていた。



『いや、羽月がそんなことをするはずが…でも…』

翼の心の中は、信じようとする気持ちと同時に羽月に対する疑心暗鬼に襲われていた。
それと同時に、明らかになった美空の秘密と、マザー・エレメントの謎。
そして、掲示されたアサカワカンパニーの名前。


謎とされてきたあらゆる事実が一つになろうとし始めている現実に、翼はただ茫然となるしかなかった。

 

 


2時間後-

翼は自宅のソファの上で悩むように考えていた。



『親父の会社、アサカワカンパニーがまさか"St.Alice"に関わっていたなんて…』

それが頭から離れなかった。
そして……


『㈱KK…』

翼の中でまた別の苦い思い出までが蘇り始めていた。
それを無理矢理揉み消すかのように、翼はおもむろに煙草を吸い始めた。


部屋に舞う煙のように、彼の頭の中はどんよりと曇っていった。










休日を挟んで二日後-

翼は出勤の少し前に"楓"の前にいた。
美空と楓のその後を知るためである。
しかし、何度かインターフォンを鳴らしたものの、誰かが中から出てくることはなかった。

「恐らく病院か」

ケータイの番号やメールアドレスは教えたのだから、何かあれば連絡をくれるはず-
翼はそう信じて、その時は【Pegasus】に向かうことに決めた。



数分後-

翼は【Pegasus】のビルに入ろうとしていた。
「ん?」

彼の斜め後ろから、近づいてくる人の気配に気付く。
すると、そこにはひょろっと長い身長・盛り込んだ金髪を目立たせている羽月の姿があった。
昨日のことがあって疑心暗鬼になっているものの、"St.Alice"の犯人がハッキリしないのもあり、翼は普段通り接することにした。

「羽月、おはよう」
「えっ?あ……おはようさん」
翼がそう声をかけると、羽月は元気なく答える。

21-2

 
「どうした?昨日ヘルプついてくれたときもだけど、何か元気なくないか?」
「そ、そんなことあらへんよ」
羽月はよそよそしい態度で翼に答える。
「そうか」
翼はそんないつもと雰囲気の違う彼に対し、違和感を感じていた。


それから一緒にエレベーターに乗り込むも、いつも自分からうるさいほど積極的に話し掛ける羽月は、無口を通していた。

「羽月」
「……なんや?」
「なんかおかしいぞ、お前。いつもの元気がないし、よそよそしいっていうか」
「何でもないで」
「何でもないって、お前なんか変だ-」
「何でもないってゆってるやん!」
翼の問い掛けに対し羽月がいらだちをぶつけるように返したのは、ちょうど【Club Pegasus】がある4Fへと到着した時だった。

「羽月……?」
「先行くで」

いつも明るく元気な羽月の突然の人の変わりように、翼は戸惑った。



『あいつ、一体どうしたんだ?』



翼は、ツカツカと店の中に一人歩いていく羽月の背中を、ただ見つめていた。

いつもと違う羽月……
それが彼の中では驚きと同時に、ある一つの疑心を一段と深めることとなった。

「今日も一日やるぞっ!!」
天馬は、いつもと変わらない凜とした態度で朝礼をしめた。
ホスト達が各自散らばっていく中、翼はひとり天馬のところへと近づいていった。

「社長」
「おぅ、この間はありがとうな」
「いえ。社長、あれから何か?」
「いや、特にはな」
「本当に、この店の中にいるんでしょうか?"St.Alice"を流してるやつが」
「信じたくないがな……。確信があるわけじゃあないが、俺はこの中にその星羽会の生き残りとやらがいるとは思えない。噂だけのデマだと思いたいぜ」
どこか切なそうな天馬の言葉に、翼はそれ以上何も言うことができなかった。


この溢れかえるような人数のホストの中に、"アリスの子"がいる-
【Club Pegasus】の名前を利用し、恐ろしい殺戮兵器のような薬を内部で隠れて売りさばくスパイのような人間がいる-
それは天馬はもちろん、翼にとっても信じがたいことだった。


「翼、とにかく何も確信できることがわからない今は事を荒立てない方がいい。犯人がいなければ一番それがいいが、中途半端に刺激したりしたら危ないかもしれない。至って俺達はいつも通りでいるんだ」
「はい、わかりました」

翼は天馬の言葉に頷くと、とにかく通常どおりの態度での仕事をするように努めた。

それからも、翼と天馬のさりげない店内での注意は続いた。


しかし、一日・三日・一週間と時間が刻々と過ぎても、店の中で何かが起きることはなく、


一部で起きていた【Pegasus】に対する悪い噂も、徐々に風化しようとしていた。



『俺の店を汚す奴は許さないが、何事もなければそれでいい』

厳しい眼で警戒する中でも、天馬の内心にはその気持ちが強くあった。










そして、一ヶ月近い時間が過ぎた。










6月-

【Club Pegasus】では、全体ミーティングでの新しいランキングの発表が行われようとしていた。

「それではランキングの発表を始める!」
ホスト達全員が緊張感溢れる面持ちで、佐伯からの発表に澄ました耳を傾けていた。


「No.5、羽月!」

「No.4、光星!」

「No.3、由宇!」



ベスト5の3位までが発表された。
発表のたび感嘆と拍手が飛び交ったが、No.3として発表されたのが由宇とわかると、その場はすぐに静寂へと包まれていった。


「では発表を続ける」
佐伯が手元のノートを一枚めくると、すぐにその次の一言は切り出された。



「それでは、No.2は……」



誰かの唾を飲み込む音がはっきりと聞こえる中、その結果は発表された。


「……翔悟……!」











「えっ……?」










誰かがそう呟いたのがはっきり聞こえた。










感嘆も拍手も起こることなく、ただ静かな驚きだけがその場を賑わせていた。


「な、何だと……?」
翔悟は目をまるくしながら、ポカンと口を開けていた。


「翔悟さんがNo.2??嘘だろ……??」

そんな驚きをよそに、ついに佐伯の口からその先の結果が発表されることになった。


「えー、今回のNo.1は……」

佐伯は、軽くほほ笑みながらあるホストの方を向いて、口を開いた。


「翼、おめでとう!」

「えっ?」

翼は戸惑った。



「翼がNo.1!?」
「まじで??」
「てか、あの翔悟さんが負けたのか……?」



ホスト達のざわめきが起こる中、天馬は翼のもとへと歩み寄った。
「翼、ついにやったな!」
「社長、僕は-」
「何お前寝ぼけた顔してんだ!?今日からお前が、この店のNo.1だ!!」
天馬は、そう言うと翼の背中をバシッと強く叩いた。

「俺が……No.1に……??」
「そうだ」
茫然自失の翼のもとに、佐伯が声をかける。

「佐伯さん………」
「最初見たときは、こいつホストできるのかって思ったけど……。翼、本当によくやったな!」
佐伯は今まで見せたことのないような笑顔で、翼に手を差し出した。

「あ、ありがとうございます、佐伯さん」
翼はそれに応えるように、彼と握手を交わした。

「翼さん、やりましたね!」
「やったな翼、おめでとう!!お前すげぇよ!」
周囲のホスト達も現実を徐々に理解し始めたのか、彼らは次々と翼に歩み寄り祝いの言葉を投げかけていった。

自分がNo.1になった-
実感はまだないものの、翼の中で何かが弾けたような気分が込み上げていった。


一方では-

「俺が……翼に負けた……?そんな、そんなバカな……!」
どこかのネジが緩んだかのように、翔悟は力無く細々とつぶやいていた。



また一方では-

「あの野郎が、俺より上だと……?しかも、翔悟さんまで抜いてNo.1に……!?嘘だ……あいつが、あんな野郎がそんなわけ!」
光星は、怒りと悔しさが雑じった感情をじわじわと声にしていた。



「ついにやっちゃったね、翼くん」
横にいる羽月の肩をポンと叩きながら、由宇がつぶやく。

「そう、ですね……」
「何だよ羽月くん、仲良い友達がNo.1になったってのに、嬉しくないのか?」
「いや、そんなんじゃないですぅ。翼くん、ホンマすごくなったわ……」
羽月は、穏やかな表情で祝われ喜んでいる翼を見つめた。
しかし、その瞳の奥にはどこか悲しげなものが潜んでいるなど、その時は誰も気付くことはなかった。



「とにかくNo.1はお前だ!翼、新No.1としてこれからの【Pegasus】頼むぞ!」
天馬に促され、翼はスタッフ全員が注目する中で一人立ち上がった。

そして、

「こんなまだまだ未熟な俺ですが、よろしくお願いします!」

今までにないようなハキハキした口調で、翼はスタッフ全員に言った。
すると間もなく、盛大な拍手が新No.1となった彼を、暖かく賑やかに包み込んでいった。



数日後-


新No.1となった翼は、その月初めて来店した愛菜への接客をしていた。

「あらためておめでとう翼☆」
「ありがとう。ホント愛菜のおかげだよ」
「うぅん、こっちこそ翼にはいろいろ助けてもらっちゃったしね!今日は飲もうね」
愛菜はとてもにこやかな笑顔を翼に見せる。
翼もNo.1になって精神的な余裕がでてきたのか、今まで見せなかったような笑顔を彼女に返した。

「やだぁ」
「なに?」
「翼ってそんなにいいスマイルするのね」
「どうしたんだよ急に?」
「……何でもない☆」
愛菜は顔を少し赤らめながら、翼から目をそらした。
そんな彼女を見て、翼はフッと笑う。

「なによ」
「いや、愛菜もそんな風になるんだな~と思って」
「うるさいわねぇ、愛菜"も"って何よ!」

翼と愛菜は、ドリンクを片手に楽しそうにその場を過ごしていた。



「翼っ!」
佐伯が駆け寄ってきた。
「新規のお客様からのご指名だ。ちょっと外せるか?」
「はい。愛菜、ちょっとゴメン」
「はーい。なるべく早く帰ってきてね」
翼は愛菜とウインクを交わすと、席を外し指定のテーブルへと向かっていった。

「C卓のあそこのOLっぽい3名様のとこな」
「はい」
翼は佐伯の指示通り、すぐにそこへと向かった。



「いらっしゃいませ、翼です!ご指名ありがとうございます」
3人の前で頭を下げながら挨拶をすると、真ん中の女性がはしゃぎながら喜びの声を上げる。
「うわぁ~!さっすがNo.1ホストさん、生の方がカッコイイ~!ねぇ、早くとなり来て」
「はい、では失礼します-」



その時、翼は向かって左側の女性からの異常なほどの強い視線に気がついた。



じっと自分を見つめ続ける彼女の視線が何なのかと気付いたとき



翼の心の中は一瞬で凍り付いた。










『紗……恵……?』













翼(=淺川一也)と紗恵










運命に引き裂かれた二人の









突然の再会だった。





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