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19.それぞれの想い、そして……

19-1

 
翼と愛菜が、ミカエル霊園を後にしたその日の夕方-
【Club Pegasus】は、いつものように"一部"の時間での営業を開始しようとしていた。

「社長、さっき翼から連絡がありまして、今日は愛菜さんと同伴だそうです」
「そうか。わかった、ありがとう」
事務所のデスクに座っていた天馬は、佐伯からの報告を受けると、くわえた一本の煙草に火をつけた。



『翼のやつ、愛菜を立ち直らせたのか……』
心の中でそう囁きながら、天馬はフーッと煙を吹いた。

「佐伯っ」
「はい?」
「いよいよ、うちの店もまた一つ変わるかもな」
「愛菜さんと翼のことですか?」
「あぁ。あいつは俺を除いて唯一愛菜からの指名を取ったホストだ。昔から店に来るのもたまにで気まぐれ
だった愛菜が、突然の同伴ってことの意味がわかるか?」
「……社長、もしかすると」

佐伯は笑みを浮かべる天馬を見つめた。

「近々、【Pegasus】に何かが起こるかもな」

 

 


そして、【Club Pegasus】は開店前のミーティングとなった。

「お疲れッス!!」
「お疲れ様ッス!!」
天馬とホスト達の声がいつにも勝るとも劣らない元気さでぶつかる。
その際に、天馬はその場にいるホスト達全員を見渡していた。

「よしっ。佐伯、今日の同伴は?」
「えぇ、今日の同伴組は……翔悟と早紀さん・由宇とアユミさん・翼と愛菜さん・流輝(リュウキ)とルミさん……ですね」
「同伴は4組か」

すると天馬は、ミーティング席に座っている光星に視線を向けた。

「光星」
「はい、何スか?」
「最近のお前、精彩を欠いてるぞ。今日指名の予定は入ってるのか?」
「……いいえ」
光星が、視線を逸らしながらポソリと呟くと、天馬は再び口を開く。

「まぁ今日じゃなきゃダメとは言わないが、どうにかしないとならないのはお前自身がよくわかってるはずだよな?このままだと翼や羽月にまで抜かれるぞ」

天馬がそう告げると、光星は黙ったまま俯いた。
そんな光星に、天馬はそれ以上何も言おうとせずミーティングの先を続けていった。



『くっ……』



その間、光星は歯を食いしばりながら床を睨んでいた。
そんな彼を、羽月は少し離れた席から複雑な気持ちで見つめていた。



「今日も一日やるぞ!!」
天馬のその一言で、【Club Pegasus】は今日の営業を開始した。

「おい、羽月!」
「?」
光星が羽月に強い口調で話し掛ける。
「な、何です光星さん」
「翼の奴もそうだけどよ…」
「??」
「売れてきたからって調子こいてやがったら、お前も承知しねぇからな」
「光星さん」
「新人ときから俺がお前を可愛がってきたこと、忘れてねぇよな?」
「も、もちろんや」
「だったらよぉ、あんまり翼の野郎なんかとつるんでんじゃねぇよ。俺ぁ知ってんだぞ?お前と翼がよくメシ食いに行ったりしてんのをよ?」
「そんな……」
「何だ羽月、お前俺に逆らう気か?だってお前は-」
 
光星は、何かを羽月に耳打った。
 

「……」
「わかったな?俺だってお前にんなこと言いたくねぇしよ。とにかく、翼の奴とは切るんだ。わかったな?」
光星は一方的に羽月にそう言うと、その場からスタスタと足速に去っていった。
羽月は突然の言い付けに、何も言うことができず、ただ目を震えるように泳がせていた。



「いらっしゃいませぇ!!」
営業を開始して1時間ほどが経過し、翔悟や由宇たち同伴組が次々と入店してきた。


「いらっしゃいませ、早紀さん」
「佐伯さんこんばんは。ちょっと今日はお祝い事なの、すぐにシャンパン持ってきてちょうだいね」
「わかりました、では御席の方にてお待ち下さいませ。いつもありがとうございます」
佐伯が深々と頭を下げると、早紀は嬉しそうに翔悟と腕を組みテーブル席へと向かっていった。

「やっぱり今日はご機嫌だね、早紀ちゃん」
「まぁね、仕事が順調だからこうゆう日はちょっと遊びたいし」
翔悟と早紀は、ソファに着いて見合っては笑っていた。

「いらっしゃいませぇ!!」
店内のホスト達が再び元気に迎える先のエントランスには、もう一件の同伴組の姿があった。
完璧なまでのきらびやかさを放つまでに身なりを整えられた、翼と愛菜の二人だった。

「おはようございます」
「こんばんは☆」
翼と愛菜がほぼ同時にそう言うと、彼らの目の前にいる佐伯は目を円くしながらキョトンとしていた。

「あ、いらっしゃいませ、愛菜さん。今日はまた一段と磨きがかかった美しさで」
「ありがとう佐伯さん!」

そう話している彼らの所に、天馬がやってきた。
「よう、愛菜」
「天馬!」
「珍しいな。愛菜が同伴で来るなんて」
「フフッ」
愛菜と天馬はニコリと笑い合った。

「愛菜、ちょっとだけ翼を借りていいか?佐伯に席まで案内させるから」
「うん、わかったわ」
天馬は佐伯に愛菜を席まで案内させたのを見送ると、そこに残った翼に目を向けた。
そして、彼の肩を強めにポンと叩く。

「翼、やったな。愛菜に同伴させるなんて、お前ホントにやるじゃないか!」
「いえ」
「俺の目に狂いはなかったのが証明されて嬉しいぜ」
天馬は嬉しそうに笑いながら言った。
そして、今度はまじめな表情で翼の肩に軽くポンと手をおく。

「社長」
「翼、愛菜のこと、ご苦労だったな」
「社長は、知っていたんですか?彼女のことを」
天馬はすぐにその質問に答えた。

「あぁ。まぁ、詳しいところまで全てを聞いたわけじゃないけどな。先日のおばあさんのことや、弟を探してるってのは聞いたぐらいか。お前も聞いたんだろ?」
「……えぇ」
「……?まぁ、愛菜はかなり辛い生い立ちをくぐり抜けてきたんだ。ホストクラブにいるときくらい楽しんでもらわないとな」
「はい」
「それが今できるのは、お前だ翼。行ってこい!」

天馬の言葉に頷くと、翼は颯爽と愛菜の待つテーブルへと向かっていった。

「愛菜、待たしてゴメン」
「うぅん、天馬と話してたんでしょ?」
「あぁ。社長もとても心配してたよ」
「そう」
愛菜はふと寂しげな笑顔を見せる。

「愛菜?」
「うぅん、何でもない。さぁ、今日は飲もうね翼!早速ドンペリいっちゃおっかな!」
「よし、今夜は飲もう!」
どこかまだ無理をしているように見えたのは気のせいだったのか……翼はそう思いながらも、今は仕事として愛菜と接することに専念した。
しかし翼には、ある意味それ以上に気にしていることがあった。


「あ~い!もちろん今日も飲もな!」
斜め向かいのテーブルで、いつもと変わらず元気に女性客に接している羽月の姿が翼の視界から中々離れることはなかった。



『羽月が、愛菜の弟……』

翼は心の中でそう呟く。

十年もの長い間を離ればなれになっていた姉と弟が、互いの正体に気付かずこんな近くに居合わせている事実に、翼はどこかいたたまれない感情を覚えていた。


「どうしたの、何か変よ翼?」
愛菜が尋ねてくると、翼は思わずハッとする。
「あっ、いや……何でもないよ」
「そう、それならいいんだけど。私が色々と連れ回したから疲れさせちゃったかと思ったの」
「いや、何でもないだホントに。さっ、もうすぐお酒来るだろうから、とことん飲もう」
翼は、羽月への視線を愛菜に悟られぬよう冷静さを保つことに努めた。



数十分後-

「愛菜さん、本日3本目ありがとうございまーす!!!」
ドンペリが入るたびに、店内のホストたちからの盛大なコールが沸き起こった。
短時間で次々と行われるシャンパンコールに、店内にいるホストや女性客全てが、翼と愛菜のテーブルに視線を注いでいた。

「すげぇ……。さっきピンク2本開けたばっかしだろ?それでもうかよ」
「今日のペース、いつもと違くねぇ?」
「あぁ。いつもはコールは断る愛菜さんが、今日はコールさせてるしな」
店内のホスト達は、次々と盛り上がりを見せる翼と愛菜のいるテーブルを見ては驚きの声を漏らしていた。
もちろんその光景は、トップホストである翔悟や由宇・その客達の目にも見事なまでに留まっていた。


「ねぇ翔悟、あの席のホストってさぁ、何ヶ月か前に私がダメ出しした新人くんよね?」
「あぁ。早紀、どうしたんだ急に?」
「いいえ。ただ、ちょっとうるさくて生意気だと思ってね」
翔悟の横にいる早紀の鋭い横目は、数ヶ月前とは見違えるように変貌した翼を捉えていた。

「……」
同じく翔悟も翼たちのテーブルを見つめていた。
今までと違う新鮮な形で盛り上がっているその光景に、彼は苛立ちを感じていた。

「翼!C3テーブルに梨麻さんがいらっしゃったぞ!」
「わかりました」
佐伯の指示により、翼はテーブルから立ち上がる。
「ゴメン愛菜、ちょっと行ってくる」
「いいわ、私はヘルプの子に相手してもらうから行ってきて」
「あぁ。じゃ頼むな」
翼はどこか申し訳なさげにヘルプに愛菜の相手を託してテーブルから離れていった。


「翼っ!」
「梨麻いらっしゃい!ゴメン、ちょっと待たせちゃって」
「いいよぉ別に。それにしても盛り上がってるねぇ!」
「うん、今日はナンバーの人けっこう同伴とかも多かったし」
「へ~!でも、この盛り上がりは翼のお客さんのおかげでしょ?たしか愛菜さんて。いいね、あたしなんかより太いお客さんもついてて」
「さぁ~どうなのかな」
意地悪な口調の梨麻に、翼は冷静にごまかしながら答えた。
すると、梨麻はクスッと笑う。

「ゴメンね意地悪言って。ちょっとだけヤキモチ妬いちゃったの。でも、今あたしといるときだけはあたしだけを見ててよね☆」
「わかってるって、そんなの当たり前だよ」
「それを聞いて安心したっ!でも気をつけてね。あたしはそうじゃないし、みんながみんなじゃないけど、女はヤキモチ妬く生き物だからさ。さっ、飲もう☆」
梨麻はそう言うと、笑顔で翼の腕にしがみつく。



『ヤキモチ……か。ホスト始めた頃は、そんなこと考えもしなかったな』



その際に、翼はそれが頭に残って離れなかった。
売れてきたと同時にホストが背負う宿命……彼はそれを実感し始めていた。



一方-

愛菜のいるテーブルには、二人のヘルプが必死で盛り上げようと相手をしていた。
「いや~、やっぱり愛菜さんのお相手できて光栄っすよ!」
「えぇ、なんか他のお客さんと違うっていうか!」
向かいに座る二人のホストの言葉を片耳に、愛菜は吸った煙草の煙を吹いた。

「フー……いいわよ、そんな無理に上げなくても」
愛菜は二人を窘めるように呟いた。

「いやっ、でもやっぱり盛り上がるのがホストクラブじゃないっすかぁ!それに-」
「?」
「愛菜さんは、どうして翼さんを指名してるんですかぁ?何で翔悟さんとかじゃないんですかぁ?」
ヘルプホストのその言葉を聞いたとき、愛菜はキッと目を鋭くさせた。
それを見てか、二人の顔にも緊張の色が走る。

「あのっ……愛菜さん?」
手に持った煙草を灰皿で揉み消すと、すぐに愛菜は口を開いた。

「私がこのお店でどう楽しもうと私の勝手でしょ!?他の人がどう盛り上がって楽しんでるかは知らないけど、何であなたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
愛菜はテーブルをドンと叩きながら、怒りを込めた口調で言い放った。
そのことで、ヘルプについていた二人はおろか、他のホストや女性客までもがその状況に目を向け始めていた。
愛菜は続けた。

「それにね、ここの店では"普通はこのホストを指名しなけりゃいけない"なんて決まりでもあるの!?ましてや、翼はあなたたちの先輩でしょ!?新人とはいえホストなんだから言葉を考えなさいよ!!」

愛菜の激昂に、そのテーブルを中心に周囲はシーンと沈黙が流れた。

19-2

 
「す、すみません愛菜さん……」
「すいませんっした……」
ヘルプのホストたちは、愛菜の態度に威圧されてか、すっかり萎縮してしまった。

「愛菜さん、どうされましたか?」
すかさずそこに内勤の佐伯が慌てて飛んでくる。

「佐伯さん、ちょっとこの人たちありえない!!」
愛菜は噴き出した怒りをおさめられないのか、佐伯に一部始終を話した。


「なるほど……わかりました。私どもの指導不足で不快な思いをさせてしまいまして、大変申し訳ありません。ほらっ、謝らないか!」
佐伯が頭を下げながらそう言うと、ヘルプの二人もそれにならう。
腰の低い佐伯の態度に、愛菜も少しずつ機嫌を取り戻していった。

「もうそんなかしこまらなくていいわよ佐伯さん。私も急にカッとなって悪かったし……あなたたちもこれから気をつけてね」
ヘルプの二人は無言のままで頭を下げると、その場から離れていった。
周囲の様子もそれに合わせて、先程までの楽しい雰囲気を取り戻していく。

「ありがとうございます愛菜さん。それでは、翼が戻るまで代わりのヘルプを付けさせますので」
佐伯がそう言うと、愛菜は何かを思い浮かんだように口を開いた。

「羽月くん、羽月くんはいるんでしょ?」
「えぇ。では、様子を見て羽月を連れて参り-」


「俺が今だけここのヘルプにつきますよ」

愛菜と佐伯は声のした方を見た。
そこには、威風堂々と立つ翔悟の姿があった。


「翔悟」
「佐伯さん、羽月は今の席を離れるまで僅かに時間があります」
「だが翔悟、お前早紀さんは?」
「大丈夫、ホントにそれまでのちょっとだけですから。それまで俺でよけりゃ一緒にいたいんですが、ダメですか?愛菜さん」

突然の翔悟の発言に、愛菜は一旦言葉を止めるものの、軽くニコリとしながら頷いた。

「どうぞ」
「ありがとうございます!翼や羽月来るまで俺がお相手させていただきますね」
そう言って、翔悟は愛菜の向かいのヘルプ席へとついた。


「失礼します!」
「久しぶりね、翔悟とこうやって向き合うなんて。【Unicornis(ユニコーン)】にいたとき以来かしら?」
「そうですね」
「あの時は現役の天馬のヘルプについてたのに、もう今や【Pegasus】の不動のNo.1だもんね」
「もうかなり前の話ですよね。いただきます!」
話しながら自分のドリンクを作っていた翔悟は、愛菜に乾杯を求めた。
愛菜もそれに応じる。

「しかし何よ、さっきの"俺でよけりゃ"って改まった台詞はさ?」
「いやね、以前偶然見かけた出張ホストのサイトでそうゆうのを見てまして、それにあったんですよ。"俺でよけりゃ一緒に楽しい時間を……"ってな感じで」
「相変わらず話のネタが多いのね。ちょっとは翼にも見習わせたいくらいだわ」
愛菜はため息をつきながら笑いを零した。
翔悟もそれにテンポ良く合わせるように笑う。


「先程はうちの新人たちのせいで、申し訳ないです」
「もういいってそのことは。No.1だからって翔悟が謝ることじゃないでしょ?それに-」
「?」
「あなたが私と話したいのはそんなことじゃないでしょ?」
「……。愛菜さんにごまかしはきかないからなぁ」
すると、翔悟は間髪入れることなく自らの本題を愛菜へと切り出した。

「最初に言っておきますけど、愛菜さんの気分を損なったらすみません」
「いいわよ。そこらへんのホストじゃないんだから、あなたなら怒らずに聞くわ。まぁ、何となくはわかってるけど」
「じゃあ単刀直入に聞きます。どうして愛菜さんは、翼を選んだんですか?別に翼がダメだと言うんじゃないですが、あいつはまだホストを始めて半年に満たないし……まして天馬さんとはタイプが似ても似つかないでしょう?」
翔悟がそう告げると、愛菜は一本の新しい煙草を手に取って口にくわえた。
翔悟はすかさずそれに火を燈す。

「ありがとう」
一旦フーッと煙りを吹き呼吸を落ち着けると、愛菜は再び口を開き始めた。

「だからよ」
「えっ?」
「天馬はあなたやみんなが知ってる通りすごいホストよ。容姿も人柄も知名度も。ホストの天性を極めたような男だと思うし、今でも親しみを持ってることには変わらないわ。でもね-」
「でも?」
「天馬とどこか似てるようで実は全く違うタイプを私は求めていた。それが翼だけだったってだけよ。簡単でしょう?」
「翼が……天馬さんとどこか似てる?」
「えぇ。まぁ、深いところは私と彼にしかわからないことだけどね」
「……」

愛菜は煙を吹きながら、翔悟への言葉を終えた。
翔悟もどこか気になるところはあったものの、それ以上は追求しまいとそこで話を終えることにした。

「すいません愛菜さん、大切なお時間いただいてしまって。翼はまだかもしれませんが、すぐ羽月が来ますので」
「えぇ、ありがとう」
翔悟は席をたち、ペコリと頭を下げる。


「翔悟っ」
愛菜が突然翔悟に声をかけた。
「何ですか?」
翔悟が背中越しに答えると、愛菜は言い放った。










「私が……翼をここのNo.1にするから」










そう静かに言い放った後の数秒間が、やたら長く重く二人の間を支配した。
翔悟が無言で、そこから去っていったのは、羽月の姿がちょうど見えた頃だった。

「お待たせですぅ」
羽月が入れ代わるようにやってきた。
「羽月くん!やっときたわね」
「いやぁ、翼くん他にもお客さん来とるからもうちょっとで戻ると思うさかい、それまでよろしゅう☆」
羽月はササッとグラスに酒を注ぎ、愛菜に乾杯を求めた。

「ほな、いただきますっ!」
「カンパイ!」
愛菜と羽月はグラスを合わせた。











『……??……』











その時、愛菜はある不思議な感覚を抱いた。


「カーッ、うまいわぁ!やっぱ愛菜さんと一緒だとうまいわぁ!何か今日はいつにも増して綺麗やしね!」
羽月が楽しげに笑っている一方で、愛菜はその表情を神妙にさせていた。
羽月も彼女の様子にすぐに気付く。

「愛菜さん?」
「へっ?」
「どないしたん?」
「あぁ……。そういえば、こうやって二人で話すの初めてよね、店だけど」
「そういえばそやなぁ。感激やぁ!翼くんがうらやましいわぁ☆」
しかし、そんな喜ぶ羽月を愛菜はさりげなく見つめた。












『何だろう、この不思議な気持ち。私、この子と昔どこかで会ったような……??』











その時だった。

「愛菜?愛菜??」
「愛菜さーん??」
自分を呼ぶ声にハッとしたのか、愛菜は我に返った。
すると、そこにはいつの間にか戻った翼の姿があった。

「翼ぁ……」
「ゴメン遅くなって。大丈夫か?ぼーっとしてたけど。ちょっと酔ったかな?」
「うぅん、羽月くんもいてくれたし大丈夫」
「そうか。羽月ありがとう」

翼がそう言うと、羽月はよそよそしく目を逸らした。
「あっ、いや気にせんといてや……」
「……?どうしたんだ?」
「いや、何でもあらへんよ。俺も酔ったんかなぁ」
「そうか」







"羽月にどこか懐かしいものを覚え始める愛菜"










"愛菜に恋し、親しい翼との接触を光星から禁じるよう脅された羽月"










"目の前にいる二人の正体と関係を唯一知る翼"










妙なよそよそしさや懐かしさが絡まり、










三種三様の複雑な思いが生まれていた。










「あっ、カンパイしなおそや!」
羽月がその雰囲気を破るように声を発した。
「そうだな、じゃあカンパイだ」
「そうねっ」

翼・愛菜・羽月はそれぞれグラスを持ち宙で構えた。
「それじゃあ!カンパ-」

しかし、その時だった。
「翼、ちょっといいか?」
佐伯が困った様子で翼に話し掛ける。
「佐伯さん、どうしたんですか?」
「お前にお客さんのようなんだが……ちょっとエントランスに来てくれないか?何か泣きそうになってる黒髪の女の子が一人いるんだ」
「えっ??」
「ただ、"翼"と書いた紙を見せるだけで、何故か何もしゃべらないんだ。変なジェスチャーみたいな手ぶりをするんだが……」



『しゃべれない…?手ぶり??まさか……』






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